本記事は令和8年(2026年)8月時点の法令(不正競争防止法ほか)に基づきます(更新)。
「退職者に顧客名簿を持ち出された」「そっくりな模倣品を売られた」——こうしたトラブルの対抗手段の中心になるのが不正競争防止法です。
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争をゆがめる10類型の行為を「不正競争」として禁止し、被害を受けた企業に差止め・損害賠償などの手段を与える法律です。商標や特許と違い、「登録」がなくても保護されうる点が大きな特徴です。
今回のコラムでは、不正競争防止法の実務に携わる弁護士が、禁止される行為の全体像と、企業が取れる対抗手段を整理して解説いたします。
不正競争防止法とは、どんな法律ですか?
不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争を確保するために、他人の成果や信用にただ乗りする行為などを「不正競争」として禁止し、被害者に民事上の救済(差止め・損害賠償など)と一定の刑事罰を用意している法律です。
法律の目的は、第1条に定められています。
(目的)
第一条 この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
ここで押さえておきたいのは、この法律が守ろうとしているのが「事業者間の公正な競争」という秩序だという点です。個々の被害企業を救済する仕組みであると同時に、模倣やただ乗りが横行して健全な競争が壊れることを防ぐという公益的な目的をもっています。
特許法・商標法などの産業財産権法が「権利を設定して(権利を創設して)」知的財産を保護するのに対し、不正競争防止法は「不正競争という行為を規制する」という方法で知的財産の保護を図る法律です。そのため、登録をしていない商品の表示やデザイン、営業秘密であっても、要件を満たせば保護の対象になります。
「不正競争」として禁止されているのは、どんな行為ですか?
不正競争防止法2条1項は、禁止される「不正競争」を1号から22号まで列挙しています。実務では、これを大きく次の10類型に整理して理解します。
| No | 類型 | 概要 | 根拠(2条1項) |
|---|---|---|---|
| ① | 周知表示混同惹起行為 | 広く知られた他社の商品名・社名・ロゴ等と紛らわしい表示を使い、混同を生じさせる | 1号 |
| ② | 著名表示冒用行為 | 著名な他社の表示にただ乗りする(混同がなくても対象) | 2号 |
| ③ | 商品形態模倣行為 | 他社商品の形態をそっくり模倣(デッドコピー)した商品を提供する | 3号 |
| ④ | 営業秘密の侵害 | 営業秘密を不正に取得・使用・開示する | 4号〜10号 |
| ⑤ | 限定提供データの不正利用 | 他社に提供されるデータを不正に取得・使用・開示する | 11号〜16号 |
| ⑥ | 技術的制限手段の無効化 | コピーガード等を無効化する装置・プログラムを提供する | 17号・18号 |
| ⑦ | ドメイン名の不正取得等 | 他人の表示と同一・類似のドメインを不正の目的で取得・使用する | 19号 |
| ⑧ | 誤認惹起行為 | 商品の原産地・品質・内容等について誤認させる表示をする | 20号 |
| ⑨ | 信用毀損行為(営業誹謗) | 競争関係にある他人の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する | 21号 |
| ⑩ | 代理人等の商標冒用行為 | 商標に関する権利者の代理人等が無断でその商標を使用する | 22号 |
たとえば①③④⑨は、それぞれ次のように条文化されています(抜粋)。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、〔…〕他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、〔…〕又は電気通信回線を通じて提供する行為
二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
自社のトラブルがどの類型に当たるのかを見きわめることが、対応の出発点になります。営業秘密の侵害(④)については退職者による情報持ち出しへの対応と営業秘密の3要件とはで、形態模倣(③)は商品デザインの模倣への対応、混同惹起・著名表示冒用(①②)は類似の社名・ロゴ・商品名への対応で詳しく解説いたします。誤認惹起(⑧)は産地・品質偽装表示への対応、信用毀損(⑨)は虚偽の悪評への対応で扱います。限定提供データ(⑤)・技術的制限手段の無効化(⑥)・ドメイン名の不正取得(⑦)も、それぞれ個別の記事(末尾の関連記事一覧を参照)で解説しています。
被害を受けたとき、企業はどんな対抗手段を取れますか?
不正競争によって被害を受けた企業は、主に①差止請求、②損害賠償請求、③信用回復措置請求という民事上の手段を取ることができ、営業秘密侵害など一定の類型では④刑事告訴も可能です。
4つの手段を整理すると、次のとおりです。
| 手段 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①差止請求 | 侵害行為の停止・予防に加え、侵害品の廃棄や設備の除却も請求できる | 3条 |
| ②損害賠償請求 | 故意・過失により生じた損害の賠償を請求できる。5条に損害額の推定規定がある | 4条・5条 |
| ③信用回復措置請求 | 信用を害された場合に、謝罪広告など信用回復に必要な措置を請求できる | 14条 |
| ④刑事告訴 | 営業秘密侵害罪など、刑事罰の対象となる類型で告訴できる | 21条・22条 |
このうち、不正競争防止法の最大の武器といえるのが差止請求権です。
(差止請求権)
第三条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。
一般の不法行為(民法709条)では、原則として事後的な損害賠償しか認められません。この点について、競争事業者間で行われる不法行為は事後的な損害賠償請求だけでは救済として不十分なため、本法は損害賠償請求権に加えて特に差止請求権を付与しています。侵害行為そのものを止めさせる差止請求権は、被害の拡大を食い止めるうえで大きな意味をもちます。緊急の場合には、裁判の結論を待たずに侵害を止める仮処分を用いることもできます。
損害賠償については、5条に損害額の推定規定が置かれ、立証の負担が軽減されています。他方で、刑事罰(④)の対象は、営業秘密侵害・不正目的の混同惹起・著名表示冒用・不正目的の形態模倣・技術的制限手段の無効化・誤認惹起などに限られます。限定提供データの不正利用・ドメイン名の不正取得・信用毀損(営業誹謗)・代理人等の商標冒用については、当事者間の民事的請求に委ね、刑事罰の対象としていません。
商標法・著作権法・景品表示法とは、どう違いますか?
不正競争防止法は「登録の有無を問わず、不正競争という行為を規制する」点、そして「事業者間の公正な競争の確保」を目的とする点で、他の法律と役割が異なります。
隣接する法律との違いを整理すると、次のとおりです。
| 法律 | 保護の仕組み | 主な目的 | 不正競争防止法との関係 |
|---|---|---|---|
| 商標法 | 登録した商標権を保護(権利の設定) | 商標に化体した信用の保護 | 未登録の周知・著名表示は不競法1号・2号で保護されうる |
| 著作権法 | 創作された著作物を保護 | 文化的所産の保護 | コピーガード規制など一部で守備範囲が重なる |
| 景品表示法 | 行政(消費者庁)が不当表示を規制 | 一般消費者の利益の保護 | 誤認惹起(不競法20号)は事業者間の救済という点で異なる |
たとえば、誤認させる表示は景品表示法でも規制されますが、景品表示法などが一般消費者の利益の保護を目的とし行政規制を中心とするのに対し、不正競争防止法は「不正競争」の防止を通じて事業者間の公正な競争を確保する点に特徴があり、消費者には原告適格がありません。誤認惹起行為(20号)も、事業者が競争相手に対して差止め・損害賠償を求めるための制度です。同じ事実について複数の法律を使える場合もあるため、どの法律を使うのが有効かは事案ごとの検討が必要です。
令和5年改正で何が変わりましたか?
令和5年改正(令和6年4月1日施行が中心)では、デジタル空間での模倣品規制、限定提供データの保護拡大、損害賠償額の算定強化などが行われました。
令和5年改正の主な内容は、次のとおりです。
| 改正項目 | 内容 |
|---|---|
| デジタル空間の形態模倣 | 商品形態の模倣品を「電気通信回線を通じて提供」する行為も対象に。ネット上・メタバース上の模倣品提供に対応 |
| 限定提供データの拡大 | 秘密として管理されているビッグデータも、限定提供データとして保護対象に |
| 損害賠償額の算定強化 | 5条の損害額算定の対象を拡充し、権利者の生産能力を超える分も使用許諾料相当額として請求できるように |
| 使用推定規定の拡大 | 営業秘密の使用を推定する規定を、元従業員など元々アクセス権のある者等にも拡大 |
| 外国公務員贈賄の厳罰化 | 法定刑を引き上げ(法人は最大10億円の罰金へ) |
| 国際裁判管轄の整備 | 国内で管理する営業秘密の国外侵害についても日本の裁判所に提訴できるように |
このように、デジタル化・国際化に対応する形で保護が強化されています。詳しくは令和5年改正の実務ポイントで解説いたします。
弁護士に相談するタイミング
不正競争のトラブルは、証拠の保全や差止めのスピードが結果を左右します。「被害に気づいたとき」「警告書が届いたとき」はもちろん、トラブルが起きる前の予防の段階でこそ、弁護士のサポートが有効です。
場面ごとの相談の意義を整理すると、次のとおりです。
| 場面 | 弁護士に相談する意義 |
|---|---|
| 被害に気づいたとき | アクセスログ・証拠の保全、差止め・仮処分の要否判断、損害額の見積り |
| 警告書が届いたとき | 相手の主張する類型と要件の切り分け、反論・非侵害の主張、逆に営業誹謗を主張できる場面の検討 |
| 予防したいとき | 営業秘密の管理体制の構築、秘密保持契約(NDA)・誓約書の整備、従業員研修 |
とくに営業秘密の管理体制づくりや契約の整備といった予防法務は、一度きりの対応では足りず、社内規程の運用・見直し、人の出入りに応じた継続的なメンテナンスが欠かせません。こうした継続的なサポートには、顧問契約のご利用が有効です。日常的に相談できる体制を整えておくことで、いざトラブルが起きたときの初動も早くなります。
顧問契約については顧問契約のご案内もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 不正競争防止法では、どんな行為が禁止されていますか?
営業秘密の侵害、他社商品の形態模倣、紛らわしい表示による混同、著名表示へのただ乗り、限定提供データの不正利用、コピーガードの無効化、ドメイン名の不正取得、原産地・品質の誤認表示、信用を害する虚偽の告知(営業誹謗)、代理人等の商標冒用という、大きく10類型の行為が「不正競争」として禁止されています(不正競争防止法2条1項1号〜22号)。
Q2. 模倣品を売られたら、何ができますか?
差止請求(販売の停止や在庫の廃棄)、損害賠償請求、信用回復措置請求といった民事上の手段を取ることができます(不正競争防止法3条・4条・14条)。緊急の場合には、裁判の結論を待たずに販売を止めさせる仮処分を用いることもできます。不正の目的による形態模倣などは刑事罰の対象にもなり得ます。
Q3. 商標登録をしていなくても、不正競争防止法で守られますか?
守られる場合があります。不正競争防止法は登録された権利ではなく「不正競争という行為」を規制する仕組みのため、登録がなくても、需要者に広く知られた(周知・著名な)商品表示や、営業秘密、商品の形態などは、要件を満たせば保護の対象になります。
Q4. 営業秘密を持ち出した元社員を、刑事告訴できますか?
できる場合があります。図利加害目的で営業秘密を不正取得・使用・開示する行為などは営業秘密侵害罪にあたり、10年以下の拘禁刑もしくは2000万円以下の罰金、またはこれらの併科の対象です(不正競争防止法21条1項)。詳しくは営業秘密侵害罪と刑事告訴で解説いたします。
Q5. 不正競争防止法違反の警告書が届きました。どうすればよいですか?
まず、相手が主張する不正競争の類型と要件を確認し、事実関係と証拠を整理することが大切です。安易に認めたり、反対にログ・メール等の証拠を廃棄したりするのは避けてください。警告書への対応は反論の余地や、逆に相手が営業誹謗の責任を負う可能性も含めて検討が必要ですので、早めに弁護士にご相談ください。
まずは全体像をつかみ、早めの対応を
不正競争防止法は、営業秘密の侵害・商品の模倣・紛らわしい表示など、事業者間の公正な競争をゆがめる10類型の行為を禁止し、被害企業に差止め・損害賠償・信用回復措置・刑事告訴という手段を用意しています。登録がなくても保護されうる点、差止めという強力な武器がある点が特徴です。
被害に気づいたとき、警告書が届いたとき、そして予防したいとき——どの段階でも、早い対応がとり得る選択肢を広げます。当事務所では、営業秘密の漏えい・持ち出しへの対応、模倣品や類似表示に対する差止め・損害賠償請求、警告書が届いた場合の対応まで、不正競争防止法に関するご相談・ご依頼を多数承っております。まずはお気軽にお問い合わせください。
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