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NDA・秘密保持誓約書の勘所〜実効性を高める条項の作り方を弁護士が解説〜

本記事は令和8年(2026年)8月時点の法令(不正競争防止法ほか)に基づきます。

取引先との商談前、共同開発の開始時、従業員の入社・退職時——さまざまな場面で、秘密保持契約(NDA)や秘密保持誓約書を取り交わします。しかし、「ひな型を使い回しているが、いざというとき本当に効くのか」「退職者の誓約書に意味はあるのか」と不安に感じる担当者は少なくありません。

NDA・秘密保持誓約書は、不正競争防止法の営業秘密保護を補強し、営業秘密にあたらない情報まで守備範囲を広げる有効な手段です。ただし、実効性を持たせるには、「秘密情報」の範囲を適切に特定することが決定的に重要です。範囲が漠然としていると、かえって効力が限定的に解釈されてしまいます。

今回のコラムでは、NDA・誓約書の役割と、実効性を高める作り方を、条文・裁判例・経済産業省の指針にもとづいて解説いたします。

NDAを結べば、情報は守られますか?

NDAは、不正競争防止法による営業秘密の保護を補強し、それだけでは守りきれない情報にも秘密保持義務を及ぼす手段です。「法律」と「契約」の二段構えで守るのが基本で、NDAだけ、法律だけ、のどちらかで足りるものではありません。

不正競争防止法は、営業秘密を法律上保護しています。営業秘密の定義は次のとおりです。

6 この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

もっとも、法律による保護には限界もあります。営業秘密として認められるには秘密管理性など3要件を満たす必要があり、また、法律上の請求(たとえば2条1項7号)では「不正の利益を得る目的」などの主観的要件の立証が難しい場面もあります。

そこで役立つのが、契約(NDA・誓約書)です。秘密保持契約は、営業秘密の管理を支える手段として位置づけられています。NDAには、大きく2つの役割があります。

NDAの役割内容
営業秘密保護の補強秘密として扱う意思を明確にし、秘密管理性・非公知性の裏づけになる
守備範囲の拡大営業秘密の要件を満たさない情報まで、契約で秘密保持義務を及ぼせる

つまり、法律による保護(不正競争防止法)と契約による保護(NDA)を組み合わせることで、より広く・確実に情報を守れるのです。営業秘密そのものの要件は営業秘密の3要件とはをご覧ください。

不正競争防止法とNDAは、どう役割分担していますか?

不正競争防止法は、要件を満たす「営業秘密」を、契約がなくても保護します。NDAは、契約当事者どうしの間で、営業秘密にあたらない情報も含めて秘密保持義務を作り出します。両者は補い合う関係です。

両者の違いを整理すると、次のとおりです。

項目不正競争防止法NDA(秘密保持契約・誓約書)
適用の前提情報が営業秘密の3要件を満たすこと当事者が契約で合意すること
対象営業秘密契約で定めた「秘密情報」(営業秘密より広く定められる)
及ぶ相手不正取得者・悪意の転得者など第三者にも及ぶ原則として契約の当事者のみ
主な効果差止め・損害賠償・刑事罰契約違反にもとづく差止め・損害賠償

重要なのは、NDAは原則として契約の当事者しか拘束しないという点です。秘密情報が契約相手を通じて第三者に流出した場合、その第三者に契約違反を問うことは基本的にできません。この点、不正競争防止法は、要件を満たせば不正取得者や悪意の転得者といった第三者にも及ぶため、両者を組み合わせておくことに意味があります。従業員が会社から示された営業秘密を図利加害目的で使用・開示する行為は、法律上、次のように規制されています。

七 営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

この2条1項7号のような法律上の請求と、NDA・誓約書にもとづく契約上の請求は、両方を主張できる場合があります。契約と法律の二本立てで備えるのが実務の基本です。

退職後の秘密保持義務は、どこまで有効ですか?

退職後の秘密保持義務も、対象となる秘密の範囲や価値、従業員の地位などに照らして合理的であれば有効です。ただし、「秘密」の範囲が無限定だと、有効性が限定的に解釈されることがあります。

退職後の秘密保持義務の有効性について、リーディングケースとされるダイオーズサービシーズ事件(東京地判平成14年8月30日・労判838号32頁)は、次のような判断枠組みを示しました。

労働契約関係にある当事者において,労働契約終了後も一定の範囲で秘密保持義務を負担させる旨の合意は,その秘密の性質・範囲,価値,当事者(労働者)の退職前の地位に照らし,合理性が認められるときは,公序良俗に反せず無効とはいえないと解するのが相当である。

そのうえで同判決は、誓約書の「秘密」が重要な機密事項に限られ、例示によって内容が無限定でないことや、退職者が顧客情報を熟知する立場にあったことなどから、その秘密保持義務を有効と認めました。なお、同じ判決は、誓約書の競業避止義務についても、期間・区域を限定し営業の種類を特定していること等を理由に有効としています(最三小判昭和44年10月7日の枠組みに依拠)。また、競業避止に近い秘密保持条項について、その目的・従業員の地位・制限の範囲・代償措置などを総合的に考慮して、職業選択の自由を不当に害しないかを判断した裁判例(プロジェクトマネジメント事件・東京地判平成18年5月24日)もあります。

ポイントを整理すると、次のとおりです。

ポイント内容
対象秘密の合理性守るべき秘密の性質・範囲・価値が明確で、合理的か
従業員の地位その従業員が、対象の秘密に接する立場にあったか
範囲の限定秘密保持の対象・期間が、必要な範囲にとどまっているか

そして、退職の場面では、この有効性を前提に、誓約書に具体的に何を盛り込むかが実務上の鍵になります。

退職時の誓約書には、何を盛り込むべきですか?

退職時の秘密保持誓約書には、秘密情報の返還・削除と「一切保持していない」ことの確約を中心に、私物端末・クラウド・SNSへ複製していないことの申告、削除完了の報告、退職後にデータが見つかった場合の対応、調査への協力までを盛り込むことが実務のポイントです。

退職の場面では、「持ち出していないか」「手元に残っていないか」を確実に片づけることが重要です。誓約書に盛り込むべき主な項目を整理すると、次のとおりです。

盛り込む項目内容
①持ち出しの申告会社の秘密情報を私物のパソコン・スマートフォン・クラウド・私用メール・SNSなどに複製・送信していないことを確約し、過去に持ち出したものがあれば申告してもらう
②返還・完全削除・不保持すべての書類・電子データ・記録媒体を返還または復元できない方法で完全に削除し、複製物・抜粋・派生データ・バックアップ・同期データまで一切保持していないことを確約してもらう。クラウドや第三者名義のアカウント上のデータも対象に含める
③削除の報告・協力返還・削除の完了を書面(削除完了報告書など)で報告し、実施状況を確認するための証明資料の提出や端末・アカウントの確認に協力してもらう
④退職後に判明した場合退職後に秘密情報が自分や第三者の手元に残っていると判明した場合は、直ちに報告し、会社の指示に従って返還・削除する
⑤調査への協力違反やその疑いがある場合に、会社が行う端末・アカウント・記録媒体の確認などの調査に協力する

ポイントは、「返してください」だけでなく、複製物や派生データ・バックアップ、クラウドや私物端末に残ったデータまで含めて「一切保持していない」ことを確約させ、その確認に協力させるところまで踏み込むことです。とくにクラウドやスマートフォンが業務に使われる現在は、有体物の返還だけでは足りません。

これは、退職者による情報持ち出しへの対応で解説したアクセスログの確認(万一のときの「証拠面」の手当て)と対になる、「契約面」の手当てです。両方を備えておくことで、持ち出しの抑止と、起きてしまったときの立証の双方に効いてきます。

なお、こうした退職時の誓約書は、従業員だけでなく、取締役・執行役員が退任する場面でも重要です。役員は在任中に経営情報など重要な秘密に広く接するため、退任時に同様の返還・削除・不保持の確約を取っておく意義は大きいといえます。役員の場合には、違反があったときや調査に応じないときに、役員退職慰労金の不支給・返還や、調査中の支給保留と連動させる設計も考えられます(役員退職慰労金規程や役員任用契約との整合が前提です)。ただし、役員は労働者とは規律が異なるため、競業避止などとあわせて設計する際は個別の検討が必要です(退職後の競業避止義務は有効?もご覧ください)。

「秘密情報」の範囲は、どこまで書くべきですか?

「秘密情報」は、広く書けば安心というものではありません。範囲が漠然としていたり、あまりに広すぎたりすると、実際には限定して解釈され、公知情報などは対象外とされることがあります。対象を具体的に特定することが、実効性の鍵です。

「秘密情報」を「業務上知り得たいっさいの情報」などと漠然と定めると、かえって効力が弱まるおそれがあります。裁判例でも、契約上の秘密情報の定義に形式的には含まれる情報であっても、公知の情報や、調べればすぐ分かる情報などは、秘密保持義務の対象外と解釈されることがあります。

実効性を高めるための工夫を整理すると、次のとおりです。

工夫内容
対象の具体化「顧客名簿」「製造プロセスに関する情報」など、対象を例示・特定する
公知情報の除外すでに公知の情報などを対象から除く旨を明記する
マル秘表示との連動秘密として指定・表示した情報を対象とするなど、運用と連動させる
期間・目的の明確化秘密保持の期間や、情報を使ってよい目的(目的外使用の禁止)を定める

とくに「対象の具体化」については、自社が守りたい情報を類型で洗い出しておくと、抜け漏れを防げます。実務でよく秘密情報として定める類型は、次のとおりです。

情報の類型具体例
技術情報設計書・仕様書、ソースコード、製造方法、研究開発データ・開発ノウハウ
システム・IT情報ID・パスワードなどの認証情報、サーバ構成やセキュリティに関する情報
営業・取引情報顧客名簿、取引価格・取引条件、取引履歴、仕入先情報
経営情報事業計画、未公表の財務・決算情報、M&Aや投資に関する情報
個人情報顧客・従業員などの個人情報
第三者から預かった情報取引先などから秘密保持義務を負って受領した情報

あわせて、これらの情報について、電子データか書面かといった形態を問わず、また「マル秘」などの秘密表示の有無を問わず、契約上の秘密情報として扱う旨を明記しておくと、「表示がなかったから対象外だ」といった反論を避けやすくなります(ただし、無限定にならないよう、上記のような類型や重要性で対象を画しておくことが前提です。契約で広く定義しても、不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるには別途、秘密管理性などの要件が必要です)。

取引先に秘密情報を提供する場合には、営業秘密を特定した秘密保持契約を締結することがポイントになります。「何が秘密か」を具体的に特定することが、NDAを実効的にし、同時に不正競争防止法上の秘密管理性の裏づけにもなるのです。NDAと営業秘密管理の関係は営業秘密の管理体制はどう作る?もご覧ください。

NDAは、営業秘密の裏づけにもなりますか?

NDAを結んで秘密として扱う意思を明確にしておくことは、不正競争防止法上の「秘密管理性」や「非公知性」を裏づける有力な事情になります。契約と法律の保護がつながります。

営業秘密として保護されるには、秘密管理性(秘密として管理していると分かる状態)が必要です。NDAを締結し、対象を特定して秘密として扱う意思を明示しておくことは、この秘密管理性を裏づける事情になります。とくに、取引先や共同開発先といった社外に情報を渡す場面では、営業秘密を特定したNDAの締結が、秘密管理意思を相手に示す典型的な方法とされています。

つまり、NDAは「契約上の武器」であると同時に、「営業秘密として法律の保護を受けるための備え」にもなります。両者は切り離せない関係にあります。

弁護士に相談するタイミング

NDA・誓約書のひな型を作る段階、重要な取引・共同開発の開始時、そして情報漏えいが疑われた段階で、弁護士のサポートが役立ちます。契約整備は、顧問契約による継続サポートが有効です。

弁護士が支援できる場面を整理すると、次のとおりです。

場面弁護士ができること
ひな型を整えるとき秘密情報の特定、目的外使用禁止・期間・存続条項などの設計
取引・共同開発の開始時案件に応じたNDAの作成・レビュー、リスクの洗い出し
入社・退職時秘密保持誓約書の整備、退職時の情報返還・確認の手続
漏えいが疑われるとき契約違反・不正競争防止法違反での請求可否の検討

NDA・誓約書は、「ひな型を使い回す」だけでは実効性が確保できません。取引や情報の性質に応じて、秘密情報の範囲や条項を調整する必要があります。こうした契約整備と運用には、日常的に相談できる顧問契約が有効です。適切に設計されたNDAは、契約上の保護と、不正競争防止法上の営業秘密保護の、両方を強化します。

顧問契約については顧問契約のご案内もご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 秘密保持契約(NDA)を結べば、営業秘密は守られますか?

NDAは、不正競争防止法による営業秘密の保護を補強し、それだけでは守りきれない情報にも秘密保持義務を及ぼす手段です。ただし、NDAだけで万全というわけではなく、法律による保護と組み合わせる「二段構え」が基本です。また、NDAは原則として契約の当事者しか拘束しないため、第三者への流出には不正競争防止法による保護が重要になります。

Q2. 退職者の秘密保持誓約書に効力はありますか?

あります。退職後の秘密保持義務も、その秘密の性質・範囲、価値や、従業員の退職前の地位に照らして合理性が認められる場合には、公序良俗に反せず有効とされています(ダイオーズサービシーズ事件・東京地判平成14年8月30日)。ただし、「秘密」の範囲が無限定だと有効性が弱まるため、対象を具体的に特定しておくことが重要です。

Q3. 「秘密情報」はできるだけ広く定義したほうがよいですか?

広く定義すれば安心とは限りません。「業務上知り得たいっさいの情報」のように漠然と定めると、実際には限定して解釈され、公知情報などが対象外とされることがあります。対象を具体的に例示・特定し、公知情報を除外し、期間や目的(目的外使用の禁止)を明確にすることが、実効性を高めます。

Q4. NDAは、不正競争防止法の保護とどう違いますか?

不正競争防止法は、3要件を満たす「営業秘密」を、契約がなくても保護し、不正取得者や悪意の転得者など第三者にも及びます。一方、NDAは、契約当事者の合意により、営業秘密にあたらない情報まで含めて秘密保持義務を作り出しますが、原則として契約の当事者しか拘束しません。両者は補い合う関係にあり、組み合わせて備えるのが基本です。

Q5. NDAを結ぶと、営業秘密として認められやすくなりますか?

裏づけになります。NDAを締結し、対象を特定して秘密として扱う意思を明示しておくことは、不正競争防止法上の秘密管理性・非公知性を裏づける有力な事情になります。取引先・共同開発先に情報を渡す際は、営業秘密を特定したNDAの締結が、秘密管理意思を示す典型的な方法とされています。

Q6. 退職者から誓約書を取るとき、何を書けばよいですか?

秘密情報の返還・削除と「一切保持していない」ことの確約を中心に据えるのがポイントです。具体的には、私物のパソコン・スマートフォン・クラウド・私用メール・SNSなどへ複製・送信していないことの確約(過去の持ち出しの申告を含む)、複製物・派生データ・バックアップやクラウド上のデータまで含めた完全な削除・返還と、削除完了の報告・確認への協力、退職後にデータが残っていると判明した場合の報告・削除、違反が疑われる場合の端末・アカウント確認などの調査への協力、を盛り込むとよいでしょう。取締役・執行役員の退任時にも同様の誓約書が重要で、役員の場合は退職慰労金の不支給・返還・支給保留と連動させる設計も考えられます。

「秘密情報の特定」が実効性を決めます

NDA・秘密保持誓約書は、不正競争防止法による営業秘密の保護を補強し、営業秘密にあたらない情報まで守備範囲を広げる有効な手段です。法律による保護と契約による保護を組み合わせる「二段構え」が基本で、退職者の誓約書にも、合理的な範囲であれば効力があります。実効性を左右するのは、「秘密情報」の範囲を漠然とさせず、具体的に特定することです。適切に設計されたNDAは、契約上の保護と、営業秘密としての法律の保護の、両方を強化します。

当事務所では、秘密保持契約(NDA)・秘密保持誓約書の作成と見直し、「秘密情報」の範囲の特定、情報漏えいが疑われる場合の契約違反・不正競争防止法違反での対応など、不正競争防止法に関するご相談・ご依頼を多数承っております。NDA・誓約書の整備や見直しをお考えの方は、まずは本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。

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