本記事は令和8年(2026年)8月時点の法令(不正競争防止法ほか)に基づきます(更新)。
自社の権利を侵害する模倣品が出回ったとき、「その模倣品を仕入れている販売店や取引先に、これは侵害品だと警告したい」と考えるのは自然なことです。しかし、この警告のしかたを誤ると、警告した側が、逆に相手の信用を害したとして責任を問われることがあります。
競争相手の取引先に「あの会社の商品は権利侵害だ」と警告する行為は、その内容が結果的に虚偽だった場合、営業誹謗(信用毀損行為・2条1項21号)にあたるおそれがあります。ただし、正当な権利行使の一環と認められる警告であれば、違法性が否定される場合もあります。境界は微妙で、慎重な対応が必要です。
今回のコラムでは、取引先への警告に潜むリスクと、安全な進め方を、条文・裁判例にもとづいて解説いたします。
取引先への警告は、してよいのですか?
してよい場合もありますが、やり方次第では、警告した側が営業誹謗(信用毀損行為)の加害者になるリスクがあります。とくに、競争相手の取引先に対して「侵害品だ」と告知し、それが結果的に虚偽だった場合には、慎重な検討が必要です。
自社の権利(特許権・商標権や、不正競争防止法上の利益など)が侵害されていると考えたとき、侵害者本人に警告することは通常問題ありません。しかし、侵害者の取引先(販売店・仕入先など第三者)に警告する場合は、注意が必要です。
なぜなら、取引先は紛争を避けたいと考えるのが通常で、「侵害品だ」と告げられると、その商品の取扱いを控えたり返品したりしがちです。その結果、競争相手は取引の機会を失います。もし後になって「実は侵害ではなかった」と判明した場合、警告は競争相手の信用を害する虚偽の事実の告知だった、ということになりかねません。これが、次に述べる営業誹謗のリスクです。
営業誹謗行為(2条1項21号)とは、何ですか?
営業誹謗行為とは、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を、告知したり広めたりする行為です。これも不正競争防止法が禁止する「不正競争」の一つで、差止め・損害賠償の対象になります。
条文は次のとおりです。
二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為
この規定のポイントを整理すると、次のとおりです。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 競争関係 | 告知する側とされる側が競争関係にあること |
| 信用を害する | 相手の営業上の信用を害する内容であること |
| 虚偽の事実 | 客観的な事実に反すること(意見・論評は別扱い) |
| 告知・流布 | 特定の人に告げる、または広める行為 |
「取引先に、競争相手の商品が権利侵害だと告知する」行為は、その侵害の主張が結果的に事実に反していれば、この「虚偽の事実の告知」にあたり得ます。しかも、営業誹謗は、差止めについては故意・過失がなくても認められる点に注意が必要です。営業誹謗そのものは虚偽の悪評への対応でも詳しく解説しています。
「正当な権利行使」なら、違法にならないのですか?
取引先への警告が、その取引先自身に対する正当な権利行使の一環と認められる場合には、違法性が否定されることがあります。しかし、外形は権利行使でも、実質が競争相手の信用を害することを目的としている場合には、違法とされます。
裁判例は、取引先への権利侵害の告知について、単純に「結果的に非侵害なら常に違法」とはせず、正当な権利行使といえるかを見て判断してきました。
参考になるのが、磁気信号記録用金属粉末事件(東京地判平成13年9月20日・東京高判平成14年8月29日)です。この事件の控訴審は、競争相手の取引先への権利侵害の告知について、次のように述べています。
競業者が特許権侵害を疑わせる製品を製造販売している場合において、特許権者が競業者の取引先に対して、競業者が製造し販売する当該製品が自己の特許権を侵害する旨を告知する行為は、後日、特許権の無効が審決等により確定し、あるいは、当該製品が侵害ではないことが判決により判断されたときには、競業者との関係で、その取引先に対する虚偽事実の告知に一応該当するものとなるものの、この場合においても、特許権者によるその告知行為が、その取引先自身に対する特許権等の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認められる場合には、違法性が阻却されると解するのが相当である。
つまり、取引先への権利侵害の告知は、後に権利が無効とされたり非侵害と判断されたりすれば営業誹謗にあたり得るものの、その取引先自身に対する正当な権利行使の一環としてなされたと認められる場合には、違法性が阻却されるという考え方です。
一方、無洗米事件(東京地判平成15年2月20日)は、外形的には権利行使の形をとっていても、その実質が、競争相手の信用を害して市場で優位に立つことを目的としてなされた場合には、告知の内容が結果的に虚偽であれば不正競争にあたる、という趣旨を示しています。
さらに、雄ねじ事件(知財高判平成23年2月24日)では、告知の時点で権利の無効理由が明白とはいえず、注意義務違反も認められないなどとして、損害賠償責任が否定されました。損害賠償には故意・過失が必要なため、権利者の権利行使を不必要に萎縮させないよう、過失の有無が慎重に判断されています。
違法とされやすい警告と、されにくい警告の違いは?
警告の相手・内容・態様が、正当な権利行使の範囲にとどまるかどうかが分かれ目です。断定的な表現で広く取引先にばらまく警告はリスクが高く、事実にもとづき必要な範囲で慎重に行う警告はリスクが低くなります。
裁判例の考え方をふまえ、リスクの高い警告・低い警告を整理すると、次のとおりです。
| リスクが高い警告 | リスクが低い警告 |
|---|---|
| 侵害の裏づけが不十分なまま告知する | 侵害の有無を十分に調査・検討したうえで行う |
| 「侵害品だ」と断定的に決めつける | 事実と自社の主張を、断定を避けて正確に伝える |
| 多数の取引先に広くばらまく | 必要な範囲・相手に限って行う |
| 実質が競争相手の信用毀損・市場排除を狙う | 純粋に自社の権利を守る目的で行う |
つまり、まず侵害の裏づけを固め、直接の侵害者への対応を優先し、取引先へ告知する場合も相手・範囲・表現に配慮することが、営業誹謗のリスクを下げます。安易に「侵害品だ」と広く触れ回ることは、避けるべきです。
警告書を出す前に、何を準備すべきですか?
まず、侵害の事実を客観的な資料で裏づけ、自社の権利が有効であることを確認したうえで、誰に・どこまで・どう伝えるかを慎重に設計することが必要です。取引先への告知は、弁護士に相談してから行うのが安全です。
警告を出す前の準備を整理すると、次のとおりです。
| 準備事項 | 内容 |
|---|---|
| 侵害の裏づけ | 侵害を示す客観的な資料(商品の対比、権利の内容など)をそろえる |
| 権利の確認 | 自社の権利が有効で、相手の行為が本当に侵害にあたるかを確認する |
| 相手・範囲の設計 | 直接の侵害者を優先し、取引先への告知は必要な範囲に絞る |
| 表現の検討 | 断定を避け、事実と主張を正確に伝える文面にする |
取引先への警告は、自社の権利を守るための正当な手段になり得る一方、一歩間違えると自らが営業誹謗の責任を負うリスクと隣り合わせです。出す前に弁護士のチェックを受けることで、リスクを大きく減らせます。警告書対応の全体像は警告書が届いた場合の対応もご覧ください。
弁護士に相談するタイミング
模倣品・侵害品の取引先に警告を検討する段階で、必ず弁護士に相談してください。
弁護士が支援できる場面を整理すると、次のとおりです。
| 場面 | 弁護士ができること |
|---|---|
| 警告を検討するとき | 侵害の裏づけ・権利の有効性の確認、警告の相手・範囲・文面の設計 |
| 警告後の対応 | 相手の反応への対応、交渉、訴訟への発展の準備 |
| 逆に警告を受けたとき | 相手の警告が営業誹謗にあたらないかの検討 |
模倣品対策では、「早く止めたい」という思いから、つい取引先へ広く警告したくなります。しかし、その一歩がリスクになり得ます。日常的に相談できる顧問契約があれば、警告を出す前に方針を固め、安全に権利行使を進められます。
顧問契約については顧問契約のご案内もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 模倣品を売っている店の仕入先に「侵害品だ」と警告したいのですが、問題ありますか?
慎重な検討が必要です。競争相手の取引先に「侵害品だ」と告知する行為は、その主張が結果的に虚偽だった場合、営業誹謗(信用毀損行為・不正競争防止法2条1項21号)にあたるおそれがあります。まず侵害の裏づけを固め、相手・範囲・表現に配慮したうえで、弁護士に相談してから行うのが安全です。
Q2. 正当な権利行使なら、取引先に警告しても大丈夫ですか?
正当な権利行使の一環と認められる警告であれば、違法性が否定される場合があります(磁気信号記録用金属粉末事件・東京高判平成14年8月29日)。ただし、外形は権利行使でも、実質が競争相手の信用を害して市場で優位に立つことを目的としている場合には、違法とされます(無洗米事件・東京地判平成15年2月20日)。境界は微妙です。
Q3. 警告した後で「侵害ではなかった」と分かったら、必ず責任を負いますか?
必ずではありません。損害賠償には故意・過失が必要で、告知の時点で権利の無効理由が明白でなく、注意義務違反も認められない場合には、責任が否定されることもあります(雄ねじ事件・知財高判平成23年2月24日)。もっとも、差止めは故意・過失がなくても認められ得るため、リスクはあります。
Q4. 取引先への警告で、どんな点に気をつければリスクを下げられますか?
侵害の有無を十分に調査・検討したうえで、断定的な決めつけを避け、事実と自社の主張を正確に伝えること、告知の相手・範囲を必要な限度に絞ることが重要です。直接の侵害者への対応を優先し、多数の取引先に広くばらまくような警告は避けるべきです。
Q5. 逆に、競争相手からうちの取引先に「侵害品だ」と警告されました。どうすればよいですか?
その警告の内容が事実に反し、正当な権利行使の範囲を超えている場合には、相手が営業誹謗(不正競争防止法2条1項21号)の責任を負う可能性があります。差止めや損害賠償を検討できる場合がありますので、警告の内容と経緯を確認し、弁護士にご相談ください。虚偽の事実への対応は虚偽の悪評への対応もご覧ください。
「取引先への警告」は諸刃の剣
模倣品・侵害品の取引先への警告は、自社の権利を守る手段になり得る一方、内容が結果的に虚偽であれば、警告した側が営業誹謗(信用毀損行為・2条1項21号)の責任を負うリスクと隣り合わせです。正当な権利行使の一環と認められれば違法性が否定される場合もありますが、実質が競争相手の信用毀損を狙うものであれば違法とされます。まず侵害の裏づけを固め、相手・範囲・表現に配慮し、出す前に弁護士のチェックを受けることが、安全な権利行使の鍵です。
当事務所では、模倣品・侵害品の取引先への警告の可否と文面の設計、侵害の裏づけ・権利の有効性の確認、逆に競争相手から取引先へ警告された場合の営業誹謗としての対応など、不正競争防止法に関するご相談・ご依頼を多数承っております。模倣品への警告をお考えの方は、出す前に、まずは本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。
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