本記事は令和8年(2026年)8月時点の法令(不正競争防止法ほか)に基づきます(更新)。
不正競争防止法は、デジタル化・国際化の進展に対応するため、令和5年に改正されました(改正法は令和6年4月1日施行が中心)。ネット上の模倣品への対応や、損害賠償額の算定の強化など、企業の実務に関わる重要な見直しが行われています。
令和5年改正の柱は、①デジタル空間の形態模倣への対応、②限定提供データの保護拡大、③損害賠償額の算定強化、④コンセント制度に伴う適用除外、⑤外国公務員贈賄の厳罰化、⑥国際裁判管轄の整備、の6点です。この記事は、各テーマの詳しい解説へのハブとして、改正の全体像を整理します。
今回のコラムでは、令和5年改正の6つのポイントを、分かりやすく解説いたします。
令和5年改正で、何が変わったのですか?
令和5年改正では、デジタル化・国際化に対応するため、大きく6つの見直しが行われました。ネット上の模倣品規制、限定提供データの保護拡大、損害賠償の算定強化などが柱です。
令和5年改正の主な内容は、次のとおりです。
| No | 改正項目 | 概要 |
|---|---|---|
| ① | デジタル空間の形態模倣 | 商品形態の模倣品を「電気通信回線を通じて提供」する行為も対象に |
| ② | 限定提供データの保護拡大 | 秘密として管理されているビッグデータも限定提供データとして保護 |
| ③ | 損害賠償額の算定強化 | 5条の算定対象を拡充し、使用許諾料相当額の考慮を明確化 |
| ④ | コンセント制度に伴う適用除外 | 同意(コンセント)制度で登録された商標に関する適用除外を追加 |
| ⑤ | 外国公務員贈賄の厳罰化 | 法定刑を引き上げ(法人は最大10億円の罰金へ) |
| ⑥ | 国際裁判管轄の整備 | 国内で管理する営業秘密の国外侵害も日本の裁判所に提訴できるように |
以下、企業の実務に関わりの深いものを中心に見ていきます。
デジタル空間の模倣品も、対象になったのですか?
商品形態の模倣品を「電気通信回線を通じて提供」する行為が、形態模倣行為(2条1項3号)の対象として明確化されました。ネット上・メタバース上の模倣品提供にも対応できます。
従来の形態模倣行為(2条1項3号)は、物理的な商品の譲渡などを主に想定していました。令和5年改正では、この規制対象に「電気通信回線を通じて提供」する行為が加えられ、デジタル空間上の商品形態の模倣品の提供も対象とされました。
これにより、たとえば、オンライン上やメタバース上で流通する3Dデータの模倣品などについても、形態模倣として差止め等を求める余地が明確になっています。デジタル化が進む中で、実務上重要な改正です。形態模倣の詳細は商品デザインの模倣への対応をご覧ください。
損害賠償の算定は、どう強化されたのですか?
5条の損害額算定の対象が拡充され、権利者の販売能力を超える分などについても使用許諾料相当額を上乗せして請求できるようになりました。また、使用許諾料相当額を認定する際に、不正競争を前提とした対価を考慮できることが明確化されました。
令和5年改正では、損害賠償額の算定規定(5条)が整備・強化されました。とくに、使用許諾料相当額の考慮を明確化する規定(5条4項)が設けられています。
4 裁判所は、第一項第二号イからホまで及び前項各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額を認定するに当たっては、営業上の利益を侵害された者が、当該行為の対価について、不正競争があったことを前提として当該不正競争をした者との間で合意をするとしたならば、当該営業上の利益を侵害された者が得ることとなるその対価を考慮することができる。
これは、使用許諾料相当額を認定する際に、「不正競争があったことを前提として当事者が合意するとしたら得られたであろう対価」を考慮できるという趣旨です。正規のライセンス料をそのまま当てはめると侵害した方が得になりかねないため、侵害の事案にふさわしい水準を考慮できるようにするものです。あわせて、5条1項に2号が加わり、権利者の販売能力を超える分などについても使用許諾料相当額を上乗せして請求できるようになりました。損害賠償の全体像は損害賠償の計算で解説しています。
限定提供データや、その他の見直しは?
限定提供データについては、秘密管理されたビッグデータも保護対象に加わりました。そのほか、コンセント制度に伴う適用除外、外国公務員贈賄の厳罰化、国際裁判管轄の整備が行われています。
残りの改正点を整理すると、次のとおりです。
| 改正項目 | 内容 |
|---|---|
| 限定提供データの拡大 | 秘密として管理されているビッグデータも限定提供データとして保護対象に |
| コンセント制度に伴う適用除外 | 商標法の同意(コンセント)制度で登録された類似商標について、不正競争防止法の適用除外を追加 |
| 外国公務員贈賄の厳罰化 | 自然人・法人の法定刑を引き上げ(法人は最大10億円の罰金)、日本企業の外国人従業員による海外での単独の贈賄も処罰対象に |
| 国際裁判管轄の整備 | 国内で事業を行い国内で管理する営業秘密の国外侵害についても、日本の裁判所に提訴でき、日本の不正競争防止法が適用されるように |
限定提供データの拡大は、データビジネスに関わる企業にとって重要です。詳しくは限定提供データとはをご覧ください。外国公務員贈賄の厳罰化は、海外展開する企業のコンプライアンスに関わります。国際裁判管轄の整備は、営業秘密の海外流出への対応を後押しするものです。ただし、対象は日本国内で管理する営業秘密の一定の類型に限られ、専ら日本国外で事業の用に供される営業秘密は除かれます。
実務では、どんな備えが必要ですか?
改正を踏まえ、デジタル空間での模倣への監視、データの管理・契約の見直し、海外展開時の贈賄防止体制の点検などが求められます。自社に関わる改正点を確認し、体制を整えておくことが重要です。
改正を踏まえた備えを整理すると、次のとおりです。
| 改正点 | 実務上の備え |
|---|---|
| デジタル空間の形態模倣 | オンライン上の模倣品の監視、発見時の迅速な対応 |
| 損害賠償の算定強化 | いざというときの損害立証に備えた記録・管理 |
| 限定提供データの拡大 | データの電磁的管理と提供契約の見直し |
| 外国公務員贈賄の厳罰化 | 海外展開時の贈賄防止(コンプライアンス)体制の点検 |
改正は、被害を受けたときの武器を強化する面と、自社が違反しないための注意が必要な面の両方を持ちます。自社の事業に関わる改正点を確認し、体制を整えておくことが重要です。不正競争防止法の全体像は不正競争防止法とは?10類型と企業が取れる対抗手段をご覧ください。
弁護士に相談するタイミング
改正を踏まえて自社の体制を見直したいとき、そして改正後の制度を使って被害に対応したいときの両方で、弁護士のサポートが役立ちます。
弁護士が支援できる場面を整理すると、次のとおりです。
| 場面 | 弁護士ができること |
|---|---|
| 体制の見直し | 改正を踏まえた社内体制・契約・コンプライアンスの点検 |
| 被害への対応 | 強化された規定を活用した差止め・損害賠償の検討 |
| 海外展開 | 外国公務員贈賄防止など、国際的なリスク管理 |
法改正は、一度確認して終わりではなく、その後の運用や、さらなる改正への対応が必要です。自社に関わる改正点を継続的に把握し、体制に反映していくには、日常的に相談できる顧問契約が有効です。
顧問契約については顧問契約のご案内もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 不正競争防止法の令和5年改正で、何が変わりましたか?
大きく6つの見直しが行われました。①デジタル空間の形態模倣への対応、②限定提供データの保護拡大(秘密管理されたビッグデータも対象)、③損害賠償額の算定強化、④コンセント制度に伴う適用除外、⑤外国公務員贈賄の厳罰化、⑥国際裁判管轄の整備です。改正法は令和6年4月1日施行が中心です。
Q2. ネット上の模倣品も、規制の対象になったのですか?
なりました。商品形態の模倣品を「電気通信回線を通じて提供」する行為が、形態模倣行為(不正競争防止法2条1項3号)の対象として明確化されました。これにより、オンライン上やメタバース上で流通する模倣品の提供についても、差止め等を求める余地が明確になっています。
Q3. 損害賠償は、どのように強化されましたか?
5条の損害額算定の対象が拡充され、権利者の販売能力を超える分などについても使用許諾料相当額を上乗せして請求できるようになりました。また、使用許諾料相当額を認定する際に、不正競争があったことを前提とした対価を考慮できることが明確化されました(不正競争防止法5条4項)。
Q4. 限定提供データの保護は、どう広がりましたか?
令和5年改正により、秘密として管理されているビッグデータも、限定提供データとして保護を受けられるようになりました。これにより、社内で秘密管理しつつ特定の相手に提供するようなデータについても、限定提供データによる保護の余地が広がっています。
Q5. 海外展開している企業が注意すべき改正点はありますか?
外国公務員贈賄の厳罰化と、国際裁判管轄の整備が関わります。外国公務員贈賄については法定刑が引き上げられ(法人は最大10億円の罰金)、日本企業の外国人従業員による海外での単独の贈賄も処罰対象になりました。また、国内で管理する営業秘密の国外侵害について、日本の裁判所に提訴できるようになりました。海外展開時のコンプライアンス体制の点検が重要です。
自社に関わる改正点を確認し、体制を整える
令和5年改正は、①デジタル空間の形態模倣、②限定提供データの保護拡大、③損害賠償の算定強化、④コンセント制度に伴う適用除外、⑤外国公務員贈賄の厳罰化、⑥国際裁判管轄の整備、の6点が柱です。被害を受けたときの武器を強化する面と、自社が違反しないための注意が必要な面の両方があります。自社の事業に関わる改正点を確認し、体制を整えておくことが重要です。
当事務所では、令和5年改正を踏まえた社内体制・契約・コンプライアンスの点検、デジタル空間の模倣や強化された損害賠償規定を活用した被害への対応、海外展開時の贈賄防止など、不正競争防止法に関するご相談・ご依頼を多数承っております。令和5年改正を踏まえた体制の見直しや、改正後の制度を使った対応をお考えの方は、まずは本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。
関連記事
- 不正競争防止法とは?10類型と企業が取れる対抗手段
- 商品デザインを真似されたら?形態模倣(デッドコピー)への対応
- 不正競争で損害賠償はいくら請求できる?5条の損害額推定
- 限定提供データとは?営業秘密との違いとデータビジネスの保護

