本記事は令和8年(2026年)8月時点の法令(不正競争防止法ほか)に基づきます(更新)。
長年かけて育ててきた自社のブランド。ところが、よく似た社名・ロゴ・商品名を使う会社が現れ、「あの会社と関係があるのか」と顧客に誤解されている——こうした事態は、築いてきた信用へのただ乗りであり、放置すればブランド価値が損なわれます。
広く知られた自社の社名・ロゴ・商品名に似た表示を使われて顧客に混同が生じている場合は「混同惹起行為」(2条1項1号)として、全国的に著名なブランドにただ乗りされている場合は「著名表示冒用行為」(2条1項2号)として、商標登録がなくても差止め・損害賠償を求めることができます。
今回のコラムでは、ブランド保護を扱う弁護士が、2つの類型の要件と反論の可能性を、条文と裁判例にもとづいて解説いたします。
似た表示を使われたら、やめさせられますか?
自社の表示が需要者に「広く知られている」(周知)場合は混同惹起行為(2条1項1号)として、全国的に「著名」な場合は著名表示冒用行為(2条1項2号)として、差止め・損害賠償を求めることができます。商標登録は必要ありません。
2つの類型の条文は、次のとおりです。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
いずれも、「商品等表示」(社名・商号・商標・ロゴ・商品名・容器包装など、商品や営業を表示するもの)が保護の対象です。商標登録の有無にかかわらず、実際に信用を築いた表示が守られる点が特徴です。2つの類型の違いは、次の見出しで詳しく説明します。
混同惹起(1号)と著名表示冒用(2号)は、どう違いますか?
1号(混同惹起)は「周知」な表示について「混同のおそれ」があることが必要です。これに対し2号(著名表示冒用)は、より広く知られた「著名」な表示が対象で、混同のおそれがなくても、ただ乗り自体を規制できます。
2つの類型を比較すると、次のとおりです。
| 項目 | 1号 混同惹起行為 | 2号 著名表示冒用行為 |
|---|---|---|
| 表示の知名度 | 周知(需要者の間に広く知られている) | 著名(全国的に広く知られている) |
| 混同のおそれ | 必要 | 不要 |
| 守るもの | 出所の混同の防止 | ただ乗り(フリーライド)・希釈化(ダイリューション)の防止 |
1号は、周知な表示に似た表示が使われ、「同じ会社の商品だ」と需要者が誤解する(混同する)おそれがある場合に成立します。ここで前提となる「周知性」(需要者の間に広く認識されていること)は、具体的な販売・宣伝の実績にもとづいて慎重に判断されます。エマックス事件(最三小判平成29年2月28日・民集71巻2号221頁)は、電気瞬間湯沸器の商品表示について、広告宣伝の規模や販売状況の総体が明らかでないことなどから、これが周知にあたるとした原審の判断を是認できないとして、さらに審理を尽くさせるため原審に差し戻しました。周知性は簡単には認められず、その立証が重要であることを示す判断です。
実際に混同が生じた場合について、マクドナルド事件(最三小判昭和56年10月13日・民集35巻7号1129頁)では、商品の混同が認められる場合には、特段の事情がない限り営業上の利益を害されるおそれがあると理解されています。また、マリカー事件(知財高判令和2年1月29日)は、レンタルカート事業者が「マリカー」等の周知な表示に類似する標章を営業に使用した行為などを1号の不正競争と認め、その使用の差止め等を命じました(もっとも、日本語を解しない者の間では周知といえないとして、外国語のみで記載されたウェブサイト等での使用は対象外とされています)。
2号は、より知名度の高い「著名」な表示について、混同のおそれがなくても成立します。2号は、著名な表示の顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)を防ぐとともに、著名表示が薄められること(希釈化・ダイリューション)を防ぐ趣旨の規定です。裁判例(モデルガンベレッタ事件・東京地判平成12年6月29日など)でも、同様の趣旨が示されています。有名ブランドと無関係の商品に勝手にそのブランド名を使うような場合が典型です。
「周知」と「著名」は程度の違いで、著名のほうがより広く知られていることを要します。どちらで争えるかは、自社表示の知名度によります。
「混同のおそれ」は、どのように判断されますか?
混同のおそれとは、需要者が「同じ会社の商品・営業だ」または「関連会社などの商品・営業だ」と誤解するおそれをいいます。表示の似ている度合い、商品・営業の関連性、取引の実情などを総合して判断されます。
1号で必要な「混同のおそれ」には、次の2つが含まれると理解されています。
| 混同の種類 | 内容 |
|---|---|
| 狭義の混同 | 「同じ会社の商品・営業だ」と誤解する |
| 広義の混同 | 「資本関係・提携関係のある会社(グループ会社など)の商品・営業だ」と誤解する |
実際の判断は、①表示の類似の程度(外観・呼び方・意味)、②商品・営業の関連性、③自社表示の知名度、④取引の実情などを総合して行われます。まったく異なる業種・市場であれば混同は生じにくく、近い商品・サービスであれば混同が生じやすくなります。自社表示がどの範囲で知られているか、相手の表示とどこが似ているかを具体的に示すことが、主張の要になります。
相手は、どのような反論をしてきますか?
相手からは、普通名称の使用、自分の氏名の使用、先に使っていた(先使用)、といった適用除外の反論が出ることがあります。これらは条文で定められた例外です。
不正競争防止法は、1号・2号について、いくつかの適用除外を定めています。主なものは次のとおりです。
| 適用除外 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 普通名称等の使用 | 商品・営業の普通名称や慣用表示を普通に使う行為 | 19条1項1号 |
| 自己の氏名の使用 | 不正の目的でなく自分の氏名を使う行為 | 19条1項2号 |
| コンセント制度による登録商標の使用 | 商標法の同意(コンセント)制度で登録された類似商標を不正の目的でなく使う行為 | 19条1項3号 |
| 周知になる前からの先使用 | 相手の表示が周知になる前から使っていた(1号関係) | 19条1項4号 |
| 著名になる前からの先使用 | 相手の表示が著名になる前から使っていた(2号関係) | 19条1項5号 |
たとえば、先に使っていた側を保護する適用除外(19条1項4号)は、自社表示が周知になる前から相手が同じ・似た表示を不正の目的なく使っていた場合に問題になります。こうした反論が想定されるため、自社表示をいつから使い、いつ周知・著名になったのかを示せるようにしておくことが重要です。相手からこれらの反論が出た場合の検討は、警告書が届いた場合の対応もご参照ください。
似た表示を見つけたら、どのような手段を取れますか?
表示使用の差止め・抹消、損害賠償を求めることができ、緊急の場合は仮処分も可能です。不正の目的がある混同惹起・著名表示冒用は刑事罰の対象にもなり得ます。
取り得る手段を整理すると、次のとおりです。
| 手段 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 差止め・抹消 | 表示の使用停止、看板・商品・広告からの表示の抹消、在庫の廃棄 | 3条 |
| 仮処分 | 裁判の結論を待たずに使用を止める(緊急時) | 民事保全 |
| 損害賠償 | 故意・過失による損害の賠償。5条の推定規定を利用 | 4条・5条 |
| 信用回復措置 | 信用を害された場合の謝罪広告など | 14条 |
| 刑事罰 | 不正の目的での混同惹起・著名表示冒用 | 21条 |
似た表示の使用は、時間がたつほど相手の表示も定着し、混同が広がってしまいます。見つけたら早めに、証拠(相手の表示の使用状況・自社表示の知名度を示す資料)を確保して動くことが重要です。
弁護士に相談するタイミング
似た表示を見つけたら早めに、そして新しい社名・ブランドを立ち上げる前の事前チェックにも、弁護士のサポートが役立ちます。
弁護士が支援できる場面を整理すると、次のとおりです。
| 場面 | 弁護士ができること |
|---|---|
| 似た表示を見つけたとき | 1号・2号の成否の検証、証拠(知名度・使用状況)の確保、差止めの準備 |
| 交渉・訴訟 | 警告書の作成、交渉、差止め・損害賠償請求の訴訟対応 |
| ブランド立ち上げ時 | 新しい社名・商品名が他社の表示と衝突しないかの事前チェック |
ブランドは、育てるのに時間がかかる一方、似た表示を放置すると価値が薄れていきます。また、新規事業で名前を決める際に他社の表示と衝突すると、逆に警告を受ける側になりかねません。こうした攻守両面の管理には、日常的に相談できる顧問契約が有効です。自社表示の使用実績・知名度を示す資料を平時から整理しておくことは、いざというときの立証を支えます。
顧問契約については顧問契約のご案内もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 商標登録をしていなくても、似た社名・ロゴの使用をやめさせられますか?
やめさせられる場合があります。自社の社名・ロゴ・商品名が需要者に広く知られている(周知)場合は混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)、全国的に著名な場合は著名表示冒用行為(同項2号)として、商標登録がなくても差止め・損害賠償を求めることができます。ポイントは、自社表示がどの範囲で知られているかです。
Q2. 混同惹起(1号)と著名表示冒用(2号)は何が違いますか?
1号は、自社表示が「周知」であることと、需要者が同じ出所だと誤解する「混同のおそれ」があることが必要です。2号は、より広く知られた「著名」な表示が対象で、混同のおそれがなくても、ただ乗り(フリーライド)や希釈化(ダイリューション)を規制できます。2号のほうが高い知名度を要する一方、混同の立証は不要です。
Q3. 相手が「昔から使っている」と反論してきたら、どうなりますか?
先使用の適用除外が問題になります。自社表示が周知(1号)・著名(2号)になる前から、相手が同じ・似た表示を不正の目的なく使っていた場合には、適用除外により差止め等が認められないことがあります(不正競争防止法19条1項4号・5号)。自社表示をいつから使い、いつ周知・著名になったかを示せるようにしておくことが重要です。
Q4. 相手が自分の名字を社名に使っている場合も、やめさせられますか?
難しい場合があります。不正の目的でなく自己の氏名を使う行為は、適用除外とされています(不正競争防止法19条1項2号)。ただし、不正の目的(他人の信用へのただ乗りなど)がある場合は、この適用除外は認められません。個別の事情によるため、弁護士にご相談ください。
Q5. 別の業種で同じような名前を使われた場合はどうですか?
1号(混同惹起)では、業種・市場が大きく異なると「混同のおそれ」が認められにくくなります。一方、2号(著名表示冒用)は、混同のおそれがなくても著名表示へのただ乗りや希釈化を規制するため、自社表示が著名であれば、異業種での使用も対象になり得ます。自社表示の知名度によって、取り得る主張が変わります。
「知名度」を示せるかが分かれ目
似た社名・ロゴ・商品名を使われたとき、自社表示が周知なら混同惹起行為(2条1項1号)、著名なら著名表示冒用行為(2条1項2号)として、商標登録がなくても差止め・損害賠償を求めることができます。1号は混同のおそれが必要ですが、2号は混同がなくてもただ乗り自体を規制できます。相手からは普通名称・自己氏名・先使用といった反論も想定されるため、自社表示の使用実績と知名度を示せるようにしておくことが、対応の分かれ目になります。
当事務所では、似た社名・ロゴ・商品名の使用に対する差止め・損害賠償請求、周知性・著名性を示す資料の整理、新ブランド立ち上げ時の表示の事前チェックなど、不正競争防止法に関するご相談・ご依頼を多数承っております。似た表示にお困りの方、新しいブランドの立ち上げを控えている方は、まずは本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。
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