海外との取引で、見積書や契約書に「FOB Yokohama」「CIF Rotterdam」「EXW」といった三文字の記号が出てきます。これがインコタームズ(Incoterms)です。英文契約のご相談の中でも、「FOBとCIFは何が違うのか」「輸送中に事故があったら、どちらの責任になるのか」「どれを選べばよいのか」といったご質問をよくいただきます。
結論から言えば、インコタームズは、売主と買主の間で、(1)どこで物品を引き渡し、輸送中の滅失や損傷の危険がいつ買主に移るか、(2)運賃、保険料、通関などの費用をどちらが負担するか、(3)輸送、保険、通関の手配を誰が行うか、を三文字の記号で決めるための国際的なルールです。国際商業会議所(ICC)が定めたもので、法律でも条約でもないため、使う場合は契約書に「Incoterms® 2020」のように明記する必要があります。一方、代金や支払方法、所有権がいつ移るかは、インコタームズでは決まりません。
本コラムでは、インコタームズの基本から、11の規則の違い、よく誤解される点、契約書への書き方までを、公的な機関の資料とともに、できるだけ分かりやすく解説します。
この記事でわかること
- インコタームズとは何か、何が決まり、何が決まらないか
- 11の規則の全体像と、それぞれの違い
- よく誤解される点(CIFの危険の移転、コンテナ輸送とFOB、保険、EXW・DDP)
- 輸入の関税との関係と、契約書への書き方
インコタームズとは、何ですか
インコタームズは、国際商業会議所(ICC)が定めた、貿易取引の条件とその解釈についての国際的なルールです。国によって取引条件の解釈が異なり、トラブルの原因になっていたことから、1936年に作られ、その後、改訂が重ねられてきました。最新版は、2020年1月1日に発効した「インコタームズ2020」です(ジェトロ「インコタームズ2020」、ICC「Incoterms® 2020」)。
大切なのは、インコタームズは法律でも条約でもないという点です。契約書で「インコタームズに従う」と明記して、はじめて契約の内容になります。どの版を使うのか(たとえば2020年版)も、あわせて書いておきます。ICCの日本の窓口である国際商業会議所日本委員会は、規則の日本語版も発行しています。
インコタームズで決まること、決まらないこと
インコタームズで決まることと、決まらないことは、次のとおりです(ジェトロ「インコタームズ2020」の解説)。決まらない事項は、売買契約書で別に定めておく必要があります。
| インコタームズで決まること | インコタームズでは決まらないこと |
|---|---|
| 物品をどこで引き渡すか、輸送中の滅失・損傷の危険がいつ売主から買主に移るか | 代金の額と支払方法 |
| 運賃、保険料、通関、関税などの費用を、どちらが負担するか | 物品の所有権がいつ買主に移るか |
| 輸送、保険、輸出入の通関の手配を、誰が行うか | 契約に違反した場合の効果(損害賠償、解除など) |
11の規則の全体像
インコタームズ2020には、11の規則があります。大きく分けると、どの輸送手段にも使える7つの規則と、海上・内陸水路の輸送にだけ使う4つの規則に分類されます。また、頭文字によって、売主の負担が少ないものから多いものへ、E、F、C、Dの4つのグループに分けて理解すると分かりやすくなります。
| 規則 | 日本語の名称 | 引渡し(危険が買主に移る)場所 | 主な運賃を負担する側 | 輸送手段 |
|---|---|---|---|---|
| EXW | 工場渡し | 売主の工場・倉庫などで、物品を買主の処分に委ねた時 | 買主 | すべて |
| FCA | 運送人渡し | 指定された場所で、買主が指定した運送人に引き渡した時 | 買主 | すべて |
| FAS | 船側渡し | 船積港で、本船の船側に置いた時 | 買主 | 海上・内陸水路 |
| FOB | 本船渡し | 船積港で、本船の船上に置いた時 | 買主 | 海上・内陸水路 |
| CFR | 運賃込み | 船積港で、本船の船上に置いた時 | 売主(仕向港まで) | 海上・内陸水路 |
| CIF | 運賃保険料込み | 船積港で、本船の船上に置いた時 | 売主(仕向港まで。保険も売主) | 海上・内陸水路 |
| CPT | 輸送費込み | 売主が手配した運送人に引き渡した時 | 売主(指定仕向地まで) | すべて |
| CIP | 輸送費保険料込み | 売主が手配した運送人に引き渡した時 | 売主(指定仕向地まで。保険も売主) | すべて |
| DAP | 仕向地持込渡し | 指定仕向地で、到着した輸送手段の上で荷卸しの準備ができた状態で買主の処分に委ねた時 | 売主 | すべて |
| DPU | 荷卸込持込渡し | 指定仕向地で、荷卸しをして買主の処分に委ねた時 | 売主 | すべて |
| DDP | 関税込持込渡し | 指定仕向地で、輸入通関を済ませ、荷卸しの準備ができた状態で買主の処分に委ねた時 | 売主(輸入の関税なども売主) | すべて |
- Eグループ(EXW):売主は自社の施設で引き渡すだけで、輸出の通関も含め、その後はすべて買主が行います
- Fグループ(FCA、FAS、FOB):売主は輸出の通関をして、買主が手配した運送人や本船に引き渡します。主な運賃は買主が負担します
- Cグループ(CFR、CIF、CPT、CIP):売主が主な運賃を負担しますが、危険は出荷の時点で買主に移ります(次の節で詳しく説明します)
- Dグループ(DAP、DPU、DDP):売主が仕向地まで物品を届け、そこまでの危険も負担します。輸入の通関と関税は、DDPでは売主、DAP・DPUでは買主が行います
2020年版では、2010年版の「DAT(ターミナル持込渡し)」がなくなり、「DPU(荷卸込持込渡し)」が新たに設けられました。DPUでは、荷卸しをする場所はターミナルに限られません。
分かりにくい点1:Cグループは「費用」と「危険」の分かれ目が違います
最も誤解されやすいのが、CIFやCFRなどのCグループです。たとえば「CIF Rotterdam」では、売主がロッテルダム港までの運賃と保険料を支払います。そのため、ロッテルダムに着くまで売主が責任を負うように思えますが、そうではありません。
Cグループでは、運賃を負担する区間(仕向港・仕向地まで)と、危険を負担する区間(出荷の時点まで)が一致しません。CIFでは、船積港で物品が本船に積み込まれた時点で、危険は買主に移ります。航海中に物品が損傷した場合、その危険を負うのは買主で、買主は、売主が手配した保険で補償を求めることになります。「運賃を払う側が、到着まで責任を負う」わけではない点に注意してください。
分かりにくい点2:FOB・CIFは、海上輸送のための規則です
FAS、FOB、CFR、CIFの4つは、海上・内陸水路の輸送のための規則です。ICCの研修機関であるICC Academyの解説も、FOBは海上・内陸水路の港から港への輸送にだけ使うべきものとし、コンテナやパレットで輸送する場合にはFCAが適した規則であるとしています(ICC Academy「FCA & FOB Incoterms® 2020 explained」)。
コンテナ輸送では、売主は通常、港のコンテナターミナルなどで物品を運送人に引き渡し、その後に本船に積み込まれます。FOBやCIFでは、危険が移るのは本船の船上に置かれた時点なので、物品が売主の手を離れた後も、積み込まれるまでは売主が危険を負い続けることになります。コンテナ輸送や航空輸送、陸上輸送では、FOBの代わりにFCA、CFR・CIFの代わりにCPT・CIPを使うことが考えられます。
分かりにくい点3:保険を付ける義務があるのは、CIFとCIPだけです
インコタームズで、売主に保険を付ける義務があるのは、CIFとCIPの2つだけです。2020年版では、CIFとCIPで保険の補償の範囲が異なる形になりました。CIPでは、補償の範囲が広い条件(協会貨物約款のA条件)が原則とされ、CIFでは、補償の範囲が限られた条件(同C条件)が原則のまま残りました。いずれも、当事者の合意で異なる条件にすることができます。
その他の規則では、売主にも買主にも保険を付ける義務はありません。ただし、輸送中の危険を負う側は、その区間について自ら保険を手配しておくことを検討してください。どの区間の危険を自社が負うのかは、上の表の「引渡し」の場所で確認できます。
分かりにくい点4:EXWとDDPは、相手の国での手続に注意が必要です
- EXW(工場渡し):売主の負担が最も少ない規則ですが、輸出の通関も買主が行うことになります。海外の買主が日本で輸出の通関手続を行うことが難しい場合は、売主が輸出の通関を行うFCAを使うことが考えられます
- DDP(関税込持込渡し):売主の負担が最も大きい規則で、相手の国での輸入通関と関税・税金の支払も売主が行います。売主が相手の国で輸入者として手続を行えない場合もあるため、その場合は、輸入の通関を買主が行うDAPやDPUを使うことが考えられます
このほか、場所の指定にも注意が必要です。「FCA Osaka」のように都市名だけを書くと、どこで引き渡すのかがはっきりしません。工場、倉庫、ターミナルなど、引渡しの場所をできるだけ具体的に書いておきます。
輸入の関税とは、どう関係しますか
日本に物品を輸入する場合、関税の計算の基礎となる課税価格は、実際に支払う価格に、輸入港に到着するまでの運送に要する運賃、保険料その他の運送に関する費用を加えて計算するのが原則です(税関「原則的な課税価格の決定方法」)。
そのため、FOBやFCAで輸入する場合は、買主が別に支払う輸入港までの運賃や保険料を、仕入価格に加えて課税価格を計算することになります。CIFやCIPであれば、輸入港までの運賃と保険料は通常、価格に含まれています。どの規則を選ぶかによって、輸入の際の手続や計算も変わる点を知っておくと、見積りの比較がしやすくなります。
契約書には、どう書けばよいですか
契約書では、規則の三文字、具体的な場所、版の3つをそろえて書きます。インコタームズでは決まらない所有権の移転なども、あわせて定めておきます。
The Products shall be delivered FCA Seller’s warehouse, [address], Osaka, Japan (Incoterms® 2020). Title to the Products shall pass to Buyer upon Seller’s receipt of full payment of the purchase price.
(和訳)本製品は、日本国大阪府[住所]所在の売主の倉庫において、FCA条件(インコタームズ2020)で引き渡されるものとする。本製品の所有権は、売主が代金の全額を受領した時に買主に移転する。
ウィーン売買条約が適用される取引では、条約にも引渡しや危険の移転についての規定がありますが、契約でインコタームズを指定すれば、その内容が当事者の合意として扱われます。ウィーン売買条約については「ウィーン売買条約(CISG)の適用と排除の考え方」をご覧ください。
よくある失敗の例
例えば、次のようなケースが挙げられます。
- CIFで輸出し、仕向港までの運賃を自社が払っているので到着まで責任を負うと考えていたが、航海中の損傷について、買主から代金の減額を求められ、危険の移転の時点をめぐって行き違いが生じた
- コンテナ輸送なのにFOBを使ったため、ターミナルで運送人に引き渡した後、本船に積み込まれる前に生じた損傷について、自社が危険を負うことになった
- 「FOB Japan」のように場所をあいまいに書いたため、どの港で引き渡すのかで認識が食い違った
- インコタームズで所有権の移転も決まると考え、契約書に所有権の定めを置かなかったため、代金の未払いがあったときに物品を取り戻せるかが問題になった
このような失敗をしないように、内容をよく確認してから締結する必要があります。
確認のチェックリスト
| 確認すること | 確認のポイント |
|---|---|
| 版 | 「Incoterms® 2020」など版を明記しているか |
| 規則の選択 | 輸送手段に合った規則か(コンテナ・航空ならFCA・CPT・CIPなど) |
| 場所 | 引渡しの場所(工場、倉庫、港、ターミナルなど)を具体的に書いているか |
| 危険の移転 | 自社が危険を負う区間を理解しているか(Cグループは出荷時に危険が移る) |
| 保険 | CIF・CIPの保険の条件。その他の規則で、自社が危険を負う区間に保険を付けているか |
| 通関 | 輸出入の通関を誰が行うか(EXWは買主が輸出通関、DDPは売主が輸入通関) |
| インコタームズ以外の事項 | 代金、支払方法、所有権の移転、契約違反の効果を契約で定めているか |
| 関税 | 輸入の場合、課税価格に加える運賃・保険料を把握しているか |
よくある質問
インコタームズ2010など、古い版を使ってもよいですか。
インコタームズは契約で採用するルールなので、どの版を使うかは当事者が決めることができます。ただし、版を明記しないと、どの版によるのかで争いになるおそれがあります。古い版を使う場合も、「Incoterms 2010」のように必ず版を書いてください。2020年版では、DATがDPUに変わるなど、内容が異なる点があることにも注意が必要です。
FOBとFCAは、どちらを使えばよいですか。
海上輸送で、物品を売主が本船に積み込む場合はFOBを使うことができます。コンテナ輸送や航空輸送のように、売主が港のターミナルや空港などで運送人に引き渡す場合は、FCAが適しています。FCAでは、運送人に引き渡した時点で危険が買主に移るため、売主の手を離れた後の危険を売主が負い続けることを避けられます。
インコタームズを指定すれば、所有権もその時点で移りますか。
移りません。インコタームズは所有権の移転については定めていません。所有権がいつ移るかは、契約で定めるか、契約の準拠法によって決まります。代金の回収に不安がある場合は、代金の全額を受け取るまで所有権を売主に留保する定めを置くことが考えられます。
インコタームズの規則の全文は、どこで確認できますか。
インコタームズの規則の全文は、国際商業会議所(ICC)が出版物として発行しており、日本語版は国際商業会議所日本委員会が発行しています。概要は、ジェトロの解説ページなどでも確認できます。
英文の売買契約書の確認は、当事務所にご相談ください
当事務所では、外資系企業(保険会社など)や専門商社の顧問として、英文契約に日常的に対応しています。米国はもちろん、中国や欧州の企業を相手とするライセンス契約や販売代理店契約などの経験を踏まえ、条項のリスクの説明だけでなく、相手に送る修正案や伝え方まで、ご一緒に検討します。
- 見積書や契約書のインコタームズが、自社にとって適切かを確認したい
- インコタームズでは決まらない代金の支払や所有権の定めを、契約書に整えたい
- 輸送中の事故や損傷をめぐって、海外の取引先と行き違いが生じている
英文契約書の確認・修正の費用は、打ち合わせ、確認および修正案の作成を含めて、110,000円(消費税込み)からお引き受けしております(工数によって変わります)。ご相談はオンライン(Google Meet等)でも承っており、東京以外の地域の中小企業のお客様からも多数ご依頼を頂いております。ご関心のある方は、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。
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本コラムは2024年9月時点の法令・判例に基づいています(更新)。本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。
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