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英文契約の不可抗力(Force Majeure)条項の読み方
(中小企業のための英文契約入門)

英文契約書の不可抗力条項(Force Majeure Clause)の読み方と修正のポイントを解説します。条項がない場合の日本法・英国法・米国法・CISG・フランス法による違い、不可抗力の定義(感染症・政府の命令・サイバー攻撃・武力衝突・制裁など)、効果、通知、金銭の支払義務、解除、ハードシップ条項との違いを、条項例と修正案とともに紹介します。

地震や台風、感染症の流行、戦争、輸出入の規制などによって、契約どおりに製品を納めたり、サービスを提供したりできなくなることがあります。英文契約書の一般条項の一つに、こうした場合に責任を免れるための不可抗力条項(Force Majeure Clause)がありますが、読み飛ばされがちな条項でもあります。

結論から言えば、不可抗力条項で特に確認しておきたいのは、何が不可抗力に当たるか、不可抗力に当たった場合にどのような効果があるか(責任の免除、履行の停止、期限の延長など)、相手への通知が必要か、金銭の支払義務も対象になるか、長引いた場合に契約を解除できるか、といった点です。また、契約に不可抗力条項がない場合や、条項に書かれていない事態が起きた場合の扱いは、準拠法によって大きく異なります。英米法のもとでは、契約に定めがなければ責任を免れにくい一方、日本法のもとでは、民法の一般的なルールによって責任を免れる場合があります。

本コラムでは、不可抗力条項の読み方と修正のポイントを、英文の条項例・和訳とともに解説します。

この記事でわかること

  • 不可抗力条項がない場合の扱いと、準拠法による違い
  • 不可抗力条項で確認すべき点(定義、効果、通知、金銭の支払、解除)
  • 受ける側としての修正案
  • サイバー攻撃や、近隣の国での武力衝突・制裁への備え
  • 事情の変化に対応するハードシップ条項との違い

不可抗力条項がない場合は、どうなりますか

不可抗力条項がない場合や、起きた事態が条項に当てはまらない場合は、準拠法の一般的なルールで判断されます。そのルールは、国によって大きく異なります。

準拠法契約に定めがない場合の主な扱い
日本法債務者の責めに帰することができない事由による不履行であれば、損害賠償の責任を負いません(民法415条1項ただし書)。双方の責めに帰することができない事由で履行できなくなった場合は、相手は代金などの支払を拒むことができ(536条1項)、契約の解除も、債務者の帰責事由を要件としていません(541条・542条)。ただし、金銭の支払の遅れについては、不可抗力を理由に責任を免れることはできません(419条3項)
英国(イングランド)法不可抗力についての一般的な法理はなく、契約に定めがなければ、契約の基礎が失われた場合に契約を終了させる「フラストレーション(frustration)」という狭い法理によることになります
米国の州法物品の売買では、統一商事法典が、契約の前提とされた事態が生じなかったことによって履行が商業上実行困難になった場合の免責を定めています(2-615条)。その他の契約では、判例上の履行不能などの法理によります
国際物品売買条約(CISG)自分の支配を超える障害によって履行できなかったことなどを証明すれば、損害賠償の責任を免れます(79条)。ただし、免れるのは損害賠償の責任だけで、相手のその他の権利(解除など)には影響しません(79条5項)
フランス法民法典が、不可抗力の定義とその効果(一時的な障害なら履行の停止、確定的な障害なら契約の当然の終了)を定めています(1218条)

このように、英米法を準拠法とする契約では、不可抗力条項に何が書かれているかが、責任を免れられるかどうかを大きく左右します。日本法を準拠法とする契約でも、何が「責めに帰することができない事由」に当たるかを巡って争いになるのを避けるため、不可抗力条項で具体的に定めておくことが大切です。準拠法の考え方は「英文契約の準拠法と紛争解決条項の選び方」をご覧ください。

不可抗力条項で確認すること

不可抗力条項は、たとえば次のように書かれます。

Neither party shall be liable for any failure or delay in performing its obligations under this Agreement to the extent that such failure or delay is caused by events beyond its reasonable control, including acts of God, fire, flood, earthquake, war, terrorism, riot, embargo, or acts of any governmental authority (“Force Majeure”).

(和訳)いずれの当事者も、本契約に基づく義務の不履行または履行遅滞が、天災、火災、洪水、地震、戦争、テロ行為、暴動、禁輸または政府機関の行為を含む、当該当事者の合理的な支配を超える事由(以下「不可抗力」という。)によって生じた限りにおいて、その責任を負わない。

01何が不可抗力に当たるか

不可抗力条項は、「合理的な支配を超える事由」という一般的な定義と、地震、戦争などの具体的な例の列挙を組み合わせて書かれることがあります。参考になるのが、国際商業会議所(ICC)が公表しているモデル条項(2020年版)です。この条項は、不可抗力を主張する側が、(a)その障害が合理的な支配を超えること、(b)契約を結んだ時点で合理的に予見できなかったこと、(c)その影響を合理的に回避または克服できなかったこと、の3つを証明した場合に、不可抗力に当たるとしています。確認したいのは、自社の取引で起こりうる事態が含まれているかです。

  • 感染症の流行(epidemic、pandemic)と、それに伴う政府の命令や移動の制限
  • 戦争(宣戦布告の有無を問わない)、敵対行為、侵攻、テロ行為
  • 輸出入の規制、経済制裁
  • サイバー攻撃、システムの障害
  • 港湾の閉鎖や物流の停止
  • 仕入先や下請先の不履行(それ自体が不可抗力によるものに限るか)

反対に、相手のひな形では、自社の従業員のストライキ、原材料の値上がり、為替の変動、資金不足などが、不可抗力から除かれていることがあります。値上がりや為替の変動は、取引に伴う商業上のリスクとして、不可抗力には当たらないと判断される可能性が高い事由です。ICC のモデル条項(2020年版)の一覧には「epidemic(疫病の流行)」は含まれていますが「pandemic」という言葉は含まれていないため、感染症の世界的な流行を明確に対象としたい場合は、その旨を書き加えることも考えられます。

02不可抗力に当たった場合の効果

不可抗力に当たった場合に、どのような効果があるかを確認します。条項によって、責任の免除だけを定めるもの、履行の停止や期限の延長を定めるもの、それらを組み合わせるものがあります。不可抗力が続いている間は、相手の側の義務(代金の支払など)も停止するのかも確認します。

03通知と、損害を抑える義務

不可抗力を主張する側に、一定の期間内に相手に通知することや、不可抗力の発生を証明する資料を示すことを求める条項があります。通知の期限を過ぎると不可抗力を主張できないとされていることもあるため、期限と方法を確認しておきます。あわせて、影響を最小限に抑えるための努力をする義務(mitigation)が定められていることもあります。

04金銭の支払義務も対象になるか

不可抗力条項では、金銭の支払義務は免責の対象から除かれることがあります。日本法でも、金銭の支払の遅れについては、不可抗力を理由に責任を免れることはできません(民法419条3項)。自社が代金を支払う立場の場合、銀行の業務の停止など、支払そのものが物理的にできない事態について、少なくとも期限の延長を認めてもらうかを検討します。

05長引いた場合に解除できるか

不可抗力が長く続くと、取引を続けることに意味がなくなる場合があります。一定期間を超えて続いた場合に、いずれの当事者も契約を解除できる定めがあるかを確認します。ICC のモデル条項(2020年版)は、障害の期間が120日を超えた場合に、いずれの当事者も契約を解除できるとしています。

06双方に適用されるか

相手のひな形では、不可抗力による免責が相手にだけ認められていたり、自社の側の事由が狭く定められていたりすることがあります。「Neither party(いずれの当事者も)」のように、双方に同じ条件で適用されるかを確認します。

以上を踏まえた修正案の例は、次のとおりです。

(修正案)Neither party shall be liable for any failure or delay in performing its obligations under this Agreement (other than obligations to pay money) to the extent caused by events beyond its reasonable control, including acts of God, earthquake, flood, fire, epidemic or pandemic, war (whether declared or not), hostilities, invasion, terrorism, riot, embargo, sanctions, acts or orders of any governmental authority, cyber-attacks, and failure of public utilities, telecommunications or transportation networks (“Force Majeure”). The affected party shall notify the other party in writing within fourteen (14) days after becoming aware of the Force Majeure, use reasonable efforts to mitigate its effects, and resume performance as soon as practicable. If the Force Majeure continues for more than ninety (90) days, either party may terminate this Agreement by written notice to the other party.

(和訳)いずれの当事者も、本契約に基づく義務(金銭の支払義務を除く。)の不履行または履行遅滞が、天災、地震、洪水、火災、疫病の流行または世界的流行、戦争(宣戦布告の有無を問わない。)、敵対行為、侵攻、テロ行為、暴動、禁輸、制裁、政府機関の行為または命令、サイバー攻撃、ならびに公益事業、通信網または輸送網の停止を含む、当該当事者の合理的な支配を超える事由(以下「不可抗力」という。)によって生じた限りにおいて、その責任を負わない。影響を受けた当事者は、不可抗力を知った後14日以内に相手方に書面で通知し、その影響を抑えるよう合理的な努力をし、可能な限り速やかに履行を再開するものとする。不可抗力が90日を超えて継続した場合は、いずれの当事者も、相手方に書面で通知することにより本契約を解除することができる。

サイバー攻撃や武力衝突は、不可抗力に当たりますか

近年、取引に影響を与える事態として、サイバー攻撃と、近隣の国や輸送ルート上での武力衝突・それに伴う制裁が挙げられます。いずれも、契約の書き方と準拠法によって結論が変わりますので、次の点を確認しておきます。

サイバー攻撃

ICC のモデル条項の一覧には、「サイバー攻撃」という言葉はありませんが、「情報システムの長期の停止」や「妨害行為(sabotage)」が含まれています。サイバー攻撃を不可抗力として扱いたい場合は、cyber-attack、ランサムウェアなどと明記しておくと、争いを避けやすくなります。

もっとも、サイバー攻撃が不可抗力として認められるかは、攻撃の影響を合理的に回避できなかったかにも関わります。上で述べたICCの(c)の要件のように、合理的な対策で影響を回避・克服できたといえる場合は、不可抗力に当たらないと判断されるおそれがあります。相手から、「合理的なセキュリティ対策を怠ったことによる場合を除く」といった限定を求められることもあり、自社のセキュリティ対策の水準を確認しておくことが大切です。

また、不可抗力条項で相手に対する契約上の責任を免れても、法令上の義務がなくなるわけではありません。たとえば、日本では、一定の個人データの漏えいなどが生じた場合には、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です(個人情報保護法26条)。

近隣の国や輸送ルート上での武力衝突・制裁

自社や相手の国が直接の当事国でなくても、近隣の国や輸送ルート上での武力衝突は、取引に大きな影響を与えます。たとえば、ロシアのウクライナ侵攻以降、日本は外国為替及び外国貿易法に基づき、ロシア向けの輸出禁止の対象を段階的に広げています。また、2023年11月以降の紅海での商船への攻撃により、喜望峰を回る航路への迂回が広がり、輸送日数の増加や運賃の上昇が生じました。

ICC のモデル条項の一覧には、宣戦布告の有無を問わない戦争、敵対行為、侵攻、制裁などが含まれています。ただし、次の点に注意が必要です。

  • 履行が妨げられたこと:不可抗力は、履行が妨げられたことを前提とします。迂回によって費用が増えた、納期が延びたというだけでは、条項の書き方によっては、不可抗力に当たらないと判断されることがあります
  • 予見できたかどうか:ICC の(b)の要件のように、契約を結んだ時点で予見できなかったことが求められる場合、すでに衝突や制裁が始まった後に結んだ契約では、その影響は予見できたものとして、不可抗力を主張しにくくなります。こうした契約では、迂回による追加費用の負担や、納期の延長を、あらかじめ契約で定めておくことが考えられます
  • 制裁と、約定と異なる履行:英国の最高裁判所は、米国の制裁によって約定どおり米ドルで支払うことが難しくなった事案で、不可抗力条項の「合理的な努力」の定めは、明確な合意がない限り、約定と異なる履行(ユーロでの支払)を受け入れることまでは求めないと判断しました(RTI Ltd v MUR Shipping BV、2024年)。英国法のもとでも、条項の文言が結論を左右することを示す例です

制裁に関わる取引では、不可抗力条項とは別に、制裁法令に違反するおそれがある場合に履行を停止・解除できる条項(Sanctions Clause)を置くことも考えられます。

ハードシップ条項とは、何ですか

不可抗力は、主に「履行できない」場合を扱います。これに対し、履行はできるものの、原材料の高騰などで契約の前提が大きく変わり、そのまま履行させることが著しく不公平になった場合に、条件の再交渉などを定めるのがハードシップ条項(Hardship Clause)です。ICC も、不可抗力条項とあわせてハードシップ条項のモデルを公表しています。

日本法にも、契約締結後の事情の変化を理由に契約の内容の変更などを認める考え方(事情変更の原則)がありますが、適用される場面はきわめて限られていると考えられています。価格の大きな変動が予想される取引では、不可抗力条項とは別に、価格の見直しの条項や再交渉の条項を設けておくことが考えられます。

よくある失敗の例

例えば、次のようなケースが挙げられます。

  • 感染症の流行による工場の操業停止で納期に遅れたが、契約の不可抗力の例示に感染症や政府の命令が含まれておらず、免責を巡って争いになった
  • 不可抗力の発生を、契約で定められた期限内に書面で通知しなかったため、不可抗力を主張できないと反論された
  • 原材料の価格が大きく上がったが、不可抗力には当たらず、価格を見直す条項もなかったため、赤字でも契約どおりの価格で納め続けることになった
  • 英国法を準拠法とする契約で、不可抗力条項に当てはまらない事態が起き、契約に定めがなかったために責任を免れられなかった

このような失敗をしないように、内容をよく確認してから締結する必要があります。

確認のチェックリスト

確認すること確認のポイント
準拠法契約に定めがない場合、準拠法のもとでどう扱われるか
不可抗力の定義自社の取引で起こりうる事態(感染症、政府の命令、制裁、物流の停止など)が含まれているか。除外されている事由は何か
サイバー攻撃・武力衝突・制裁明記されているか。予見可能性や回避可能性の要件との関係。制裁法令に違反するおそれがある場合の停止・解除の定め
効果責任の免除、履行の停止、期限の延長のどれか。相手の義務も停止するか
通知・証明通知の期限と方法。期限を過ぎた場合の扱い
損害を抑える義務合理的な努力の義務と、履行の再開
金銭の支払支払義務が除外されているか。支払が物理的にできない場合の扱い
解除不可抗力が一定期間を超えて続いた場合に、双方が解除できるか
双方への適用双方に同じ条件で適用されるか
ハードシップ価格の大きな変動などに備えた見直し・再交渉の条項があるか

よくある質問

Q

感染症の流行は、不可抗力に当たりますか。

A

契約の定め方と準拠法によります。条項の例示に感染症の流行や政府の命令が含まれていれば当たる可能性が高まりますが、含まれていない場合は、「合理的な支配を超える事由」に当たるかどうかが争いになることがあります。また、感染症の流行があったとしても、それによって履行できなくなったという因果関係が必要です。今後の契約では、epidemic や pandemic、政府の命令を明記しておくことが考えられます。

Q

原材料の値上がりは、不可抗力に当たりますか。

A

当たらないと判断される可能性が高いと考えられます。価格の変動は、取引に伴う商業上のリスクと考えられるためです。値上がりに備えるには、価格の見直しの条項や、ハードシップ条項を設けておくことが考えられます。

Q

仕入先が不可抗力で納品できなかった場合、自社も免責されますか。

A

契約の定め方によります。仕入先の不履行を不可抗力に含める条項もありますが、他の仕入先から調達できる場合は除く、仕入先の不履行そのものが不可抗力による場合に限る、といった限定が付くことがあります。ICC のモデル条項(2020年版)の詳細版も、第三者の不履行について別に定めています。

Q

不可抗力で納期に遅れた場合、遅延の違約金(損害賠償額の予定)も払わなくてよいですか。

A

不可抗力条項で、不可抗力による遅延について責任を負わないと定めていれば、違約金の支払も免れると考えられますが、違約金の条項の書き方によっては争いになることがあります。違約金の条項に、不可抗力による遅延を除く旨を明記しておくと確実です。損害賠償額の予定については「英文契約の責任制限条項と補償(Indemnity)条項の読み方」もご覧ください。

英文契約書の確認は、当事務所にご相談ください

当事務所では、外資系企業(保険会社など)や専門商社の顧問として、英文契約に日常的に対応しています。米国はもちろん、中国や欧州の企業を相手とするライセンス契約や販売代理店契約などの経験を踏まえ、条項のリスクの説明だけでなく、相手に送る修正案や伝え方まで、ご一緒に検討します。

  • 相手のひな形の不可抗力条項が、自社にとって十分かを確認したい
  • 災害や規制で納期に遅れそうで、不可抗力を主張できるかを相談したい
  • 価格の見直しやハードシップの条項を、契約に入れたい

英文契約書の確認・修正の費用は、打ち合わせ、確認および修正案の作成を含めて、110,000円(消費税込み)からお引き受けしております(工数によって変わります)。ご相談はオンライン(Google Meet等)でも承っており、東京以外の地域の中小企業のお客様からも多数ご依頼を頂いております。ご関心のある方は、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。

当事務所では、これまでに「英文修正契約書を作成する際の注意点」「海外企業から英文NDAが届いたときに確認したい7つの条項」「法務部がない会社のための英文契約書チェックリスト」「英文契約の準拠法と紛争解決条項の選び方」「英文契約書の署名欄・日付・印紙税・電子署名Q&A」「英文契約の責任制限条項と補償(Indemnity)条項の読み方」「英文契約書によく出る用語集」「外国人向け英文版の雇用契約書や労働条件通知書の作り方」「独占販売契約・販売代理店契約の英文条項と注意点」を取り上げています。よろしければ、併せてご参照ください。

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本コラムは2024年7月時点の法令・判例に基づいています(更新)。本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。

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