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生命共済契約の暴排条項に基づく解除と共済金支払拒否(広島高裁令和6年10月4日判決)

はじめに

企業や団体が、暴力団・暴力団員等の反社会的勢力との関係を遮断する取組みは、社会全体の要請として広く定着しています。保険会社や共済事業者も、約款に「暴力団排除条項(暴排条項)」を設けることで、反社会的勢力との関係遮断を図るようになりました。

しかし、こうした暴排条項は、導入以前から長期にわたって継続されてきた契約に対しても適用されるのでしょうか。また、暴排条項に基づく解除・共済金支払拒否は、信義則違反や権利濫用とならないのでしょうか。

広島高裁令和6年10月4日判決(以下「本判決」という。)は、これらの問題に対し明確な判断を示しました。保険・共済契約の管理や反社会的勢力排除対応に携わる企業の担当者の方にとって、実務上の参考となる判決です。

事案の概要

本件は、全国生活協同組合連合会(被控訴人)が生命共済事業を行っており、訴外Wが加入者として生命共済契約(以下「本件共済契約」という。)を締結していたケースです。

本件共済契約の概要は以下のとおりです。

項目内容
保障開始日平成17年5月1日
共済期間初年度は保障開始日から最初の3月31日まで。以後は毎年4月1日から翌年3月31日までの1年ごとに更新
共済掛金月額2,000円
死亡共済金病気による死亡の場合、保障期間に応じて400万円または230万円
死亡共済金受取人加入者の配偶者(第1順位)、子(第2順位)等

被控訴人は、平成26年に約款を改訂し、「共済契約者、被共済者または共済金受取人が、暴力団員等の反社会的勢力に該当する場合、被控訴人は共済契約の更新を拒むことができ、将来に向かって共済契約を解除することができる。また、解除した場合、当該事由が生じた時から解除した時までの支払事由については共済金を支払わない」旨の暴排条項(以下「本件暴排条項」という。)を導入しました。

なお、本件暴排条項における「暴力団員」には、暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者も含まれています。

令和4年6月、Wが死亡しました。Wの配偶者であり死亡共済金の第1順位受取人であるX(控訴人)は、指定暴力団の構成員でした。

被控訴人は、同年7月に死亡共済金の支払請求を受け、Xが暴力団員であることを確認した後、本件暴排条項に基づき本件共済契約を解除し(以下「本件解除」という。)、死亡共済金400万円の支払を拒絶しました。

Xは、本件解除は無効であるとして、死亡共済金400万円の支払を求めて提訴しました。原審(第一審)は、被控訴人による本件解除を有効と認め、Xの請求を棄却しました。Xは、これを不服として控訴したのが本件です。

本件の争点

本件の争点は以下のとおりです。

争点争点の内容控訴人(X)の主張被控訴人の主張
争点①本件暴排条項は本件共済契約に適用されるか・本件共済契約は暴排条項が設けられる以前から継続しており、不利益条項の遡及適用は許されない
・保険法65条2号により無効となる
・民法548条の4第1項2号の約款変更法理に照らしても許されない
・1年ごとの更新時には暴排条項の適用を前提としており、遡及適用の問題はない
・保険法57条3号を具現化したものであり無効ではない
・民法548条の4第1項2号との関係でも問題はない
争点②本件解除および共済金支払拒否は信義則違反または権利濫用となるか・長期継続契約への信頼を損なう
・共済金を受給できないという重大な不利益を受ける
・不正請求等がなく、属性のみを理由とする拒絶は正当な利益がない
・掛金を受け取り続けながら共済金を支払わないのは掛金の取り得であり不当
・平成26年10月の情報誌で暴排条項の導入を通知しており、契約を離脱する機会があった
・暴力団排除の社会的背景からして、受取人が暴力団員である場合の契約者の期待は法的保護に値しない

民法548条の4第1項2号(定型約款の変更)について

争点①のうち、特に「民法548条の4第1項2号の約款変更法理」については、両当事者の主張が詳細に展開されました。同条は、定型約款の変更が有効となるための要件として、①変更が契約の目的に反しないこと、②変更の必要性があること、③変更後の内容が変更前と比べて合理性・相当性を備えていること、を求めています。本件における両当事者の主張の対立点は、以下のとおりです。

要件控訴人(X)の主張被控訴人の主張
①契約目的への適合性保障を提供するという生命共済契約の基本的な目的が損なわれており、目的に反する本件暴排条項は、反社会的勢力を排除するためのものであり、共済契約の目的に反しない
②変更の必要性既に締結済みで何ら問題のない契約まで変更する必要性はない社会全体で反社会的勢力の排除が求められており、変更の必要性は認められる
③内容の相当性共済金を受領できないという重大な不利益について告知・意思確認がなく、離脱の判断機会もなかった。同業他社と同水準というだけでは合理性の根拠にならない不利益を受ける対象は限定的であり、不利益を回避する方法も存在する。遅くとも平成26年10月の情報誌で通知し、契約離脱の機会もあった

裁判所の判断

裁判所は、被控訴人による本件解除を有効と認め、控訴人の請求を棄却しました。

争点①(本件暴排条項の適用)について

参照条文:保険法57条3号(重大な事由による解除)・65条2号(片面的強行規定)、民法548条の4第1項2号(定型約款の変更要件)

裁判所は、まず、本件共済契約の共済期間が基本的に1年であり毎年4月1日に更新されるものであることから、本件解除は令和4年4月1日に更新された本件共済契約を対象とするものであると確認しました。そのうえで、次のとおり判示しました。

「本件共済契約は前記のとおり1年ごとに更新されるものであり、平成26年約款で付加された本件暴排条項の適用を前提に更新されたものであるから、遡及的適用は問題とならず、主張自体失当である。」

この判断は、預金契約のような期間の定めのない継続的契約とは区別し、年次更新型の契約については更新のたびに最新の約款が適用されるという考え方を明示したものです。

次に、控訴人が、本件暴排条項は保険法57条3号に反するから保険法65条2号により無効となる旨主張したのに対し、裁判所は、次のとおり判示しました。

「同法57条3号は、生命保険契約の解除事由として、『保険者の保険契約者、被保険者又は保険金受取人に対する信頼を損ない、当該生命保険契約の存続を困難とする重大な事由』を生命保険契約の解除事由として定めているところ、死亡共済金の受取人が反社会的勢力に属するという事実は、正に被控訴人のWあるいは控訴人に対する信頼を損ない、生命共済契約の存続を困難とさせる重大な事由ということができる。そうすると、本件暴排条項が保険法57条3号に反する特約に当たるものと認めることはできない。」

なお、控訴人は、原審(第一審)が保険法57条3号の問題を取り上げたことについて弁論主義に反すると主張しました。しかし、控訴審において、控訴人自身が保険法57条3号に関する主張を展開したため、裁判所は同条号の問題を正面から判断しました。結果として、弁論主義違反の主張は実質的な意味を失っています。

さらに、控訴人が主張した民法548条の4第1項2号の約款変更法理その他の各論点についても、裁判所は次のとおり述べています。

「その他、控訴人は、るる主張するが、いずれにしても本件暴排条項の適用に係る前記の結論を左右しない。」

この判示からは、裁判所が、年次更新型の契約への暴排条項の適用という中心的な問題について既に結論を導いた以上、民法548条の4の約款変更要件(変更の必要性・目的適合性・内容の相当性)を個別に検討するまでもないと判断したことが読み取れます。

争点②(信義則違反・権利濫用)について

裁判所は、次のとおり判示し、信義則違反・権利濫用の主張を退けました。

「本件暴排条項は前記2のとおり本件共済契約に適用されるべきところ、被控訴人は、本件暴排条項に基づいて、本件共済契約を解除し、共済金の支払を拒絶したものであって、本件記録を子細に検討しても、被控訴人による前記の行為が、信義則に違反し、又は権利濫用に当たると評価すべき事情は認めるに足りない。」

コメント

1 本判決の意義

本判決は、以下の2点において実務上重要な意義を持ちます。

(1)年次更新型の保険・共済契約における暴排条項の適用

本判決は、1年ごとに更新される保険・共済契約については、更新のたびに最新の約款が適用されるという考え方を明確にしました。したがって、暴排条項が導入された後に更新された契約には、導入前から継続している契約であっても暴排条項が適用されます。

「以前から契約しているから遡及適用は許されない」との主張は、年次更新型の契約には通用しないことが示された点で、実務上の意義は大きいと言えます。

(2)暴排条項と保険法との整合性

本判決は、共済金受取人が反社会的勢力に属するという事実が、保険法57条3号の「保険者の信頼を損ない、契約の存続を困難とする重大な事由」に該当することを認めました。これにより、暴排条項は保険法の強行規定(65条2号)に反せず有効であるとの解釈が、裁判所によって支持されています。


2 企業に求められる対応

本判決の論理から導かれる、企業が反社会的勢力排除に取り組む際の実務上の対応として、以下の点が挙げられます。

(1)約款・契約書への暴排条項の明記

政府は、平成19年6月19日の犯罪対策閣僚会議幹事会申合せとして「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を策定しています。平成19年指針は、反社会的勢力への対応として「契約書や合意書に暴力団排除条項を導入する」ことを求めており、約款・契約書への暴排条項の明記を企業の基本姿勢として位置づけています。

本判決を踏まえると、特に保険・共済等の継続的契約においては、暴排条項を約款・契約書に明確に盛り込み、年次更新の際に最新の約款が適用される仕組みを整えることが重要です。

(2)「元暴力団員」への対応も視野に入れた条項設計

本件の暴排条項では、「暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者」も反社会的勢力の定義に含まれています。これは実務上の重要なポイントです。

過去に暴力団員であった者が「現在は脱退した」と主張する場合でも、脱退から5年が経過していなければ、暴排条項の適用対象となります。企業が反社確認を行う際には、「現在の暴力団員であるかどうか」だけでなく、「過去に暴力団員であった場合、いつ脱退したか」まで確認できる体制を整えておくことが求められます。継続的な契約関係においては、契約締結時だけでなく、保険金・共済金の支払請求時等の節目においても確認を実施することが望ましいと言えます。

(3)反社確認の仕組みの整備

本件では、被控訴人は死亡共済金の支払請求を受けた段階で受取人が暴力団員であることを確認しています。しかし、実務においては、契約締結時のみならず、継続期間中も定期的に取引先・関係者の反社会的勢力該当性を確認するモニタリング体制を整備しておくことが求められます。

暴排条項に基づく解除を適時に行うためにも、反社会的勢力への該当性を把握できる仕組みの構築が必要です。

(4)約款変更時の契約者への適切な通知・周知

本件において裁判所は、被控訴人が「平成26年10月の情報誌で、本件暴排条項の導入を契約者に知らせて」いたことを考慮しました。この点は、信義則違反・権利濫用が認められなかった背景事情の一つと読むことができます。

約款・契約書に暴排条項を導入・変更する際には、相手方に対して適切な方法で通知・周知を行うことが、後日の紛争予防という観点からも重要です。

(5)解除に向けた証拠の確保

本件では、控訴人が暴力団員であることが証拠によって認定されました。しかし、反社会的勢力への該当性は、実務上の立証が難しい場面も少なくありません。都道府県の暴力団排除センターや警察との連携、公的資料・調査機関の活用など、証拠を確保・保全するための平時からの準備が重要です。


3 本判決を踏まえた留意点

(1)本判決の射程と年次更新型以外の契約への注意

本判決のポイントは、「本件共済契約が1年ごとに更新される契約であるから、更新の際に最新の約款が適用され、遡及的適用の問題は生じない」という点にあります。この論理は、年次更新という契約内容に依存しているため、そのような更新条項を持たない長期継続型の契約には直接あてはまりません。

例えば、保険期間が複数年にわたる長期契約や、期間の定めのない継続的契約に後から暴排条項を追加・変更しようとする場合には、本判決の論理は及ばず、民法548条の4第1項2号の定型約款変更要件(変更の目的適合性・必要性・内容の相当性)を正面から検討する必要が生じます。この場合、本件では実質的な判断を示さなかった同要件の充足について、より丁寧な対応が求められます。

自社の契約が年次更新型かどうかを確認し、長期継続型の契約については個別の法的検討を行うことをお勧めします。

(2)受取人・契約者の属性による判断の相違

本件においては加入者(被共済者)本人ではなく、共済金受取人(加入者の配偶者)が暴力団員であるという事情がありました。受取人や契約者の属性によって法的評価が変わり得る点にも注意が必要です。

自社の約款・契約書における暴排条項の整備状況や運用について疑問や不安のある方、取引先・従業員の反社会的勢力該当性が疑われる場面に直面している方は、具体的な対応を検討するうえで弁護士への早期相談をお勧めします。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。