英文契約書を読んでいると、辞書に載っている意味では通じない言葉や、日本語に訳しても意味がつかみにくい言葉に出会います。shall と may の違い、indemnify と damages の違い、notwithstanding と subject to の違いなどは、契約上の義務や責任の範囲に直接関わります。
結論から言えば、英文契約書の言葉は、訳語だけでなく「契約の中でどう働くか」をあわせて押さえることが大切です。また、責任や救済に関わる言葉の中には、どのような法的な効果を持つかが準拠法によって異なるものがあります。本コラムでは、英文契約書によく出る用語を、一般的な訳と、契約での意味・注意点とともに、分野ごとに整理しました。
この記事でわかること
- 義務や権利を表す言葉(shall・will・may、best efforts など)
- 責任やリスクの配分に関わる言葉(indemnify、consequential damages など)
- 条項の優先関係や解釈に関わる言葉(notwithstanding、subject to など)
- 期間・終了と、一般条項でよく使われる言葉
この用語集の使い方
表の「一般的な訳」は、英文契約書で通常使われる意味です。同じ言葉でも、契約書の定義や文脈によって意味が変わることがあります。契約書の中で大文字で始まる言葉(Products、Services など)は、定義条項で意味が定められていますので、必ず定義を確認してください。
また、責任や救済に関わる言葉(best efforts、consequential damages、liquidated damages、represent and warrant など)が、実際にどのような法的な効果を持つかは、契約の準拠法によって異なることがあります。表の注意点で、その旨を示しています。準拠法の考え方は「英文契約の準拠法と紛争解決条項の選び方」で解説しています。
英文契約書の言葉が難しく感じられる理由
英文契約書の言葉が難しく感じられる理由の一つは、日常ではあまり使われないラテン語や、かつて英国の法廷で使われた法律フランス語(Law French)に由来する表現が残っていることです。たとえば、mutatis mutandis(必要な変更を加えて)、bona fide(誠実な)、pro rata(比例して)、inter alia(とりわけ)はラテン語、force majeure(不可抗力)はフランス語に由来します。また、null and void(無効)、terms and conditions(条件)のように、似た意味の言葉を重ねる表現も見られます。こうした表現は、英語とフランス語・ラテン語が併用されていた歴史の影響と説明されています。
平易な英語で書くこと(Plain English)を勧める考え方もあり、相手のひな形に分かりにくい表現が多い場合は、意味を確認したうえで、平易な表現への書き換えを求めることもできます。
義務・権利を表す言葉
誰が何をしなければならないのか、何をすることができるのかを表す言葉です。契約書を読むときは、自社が主語の shall(自社の義務)と、相手が主語の may(相手の権利)に印を付けておくと、全体を把握しやすくなります。
| 用語 | 一般的な訳 | 契約での意味・注意点 |
|---|---|---|
| shall | 〜しなければならない | 法的な義務を表します。自社が主語の shall は自社の義務です |
| shall not | 〜してはならない | 禁止を表します |
| will | 〜する | shall の代わりに義務を表すために使われることがあります。同じ契約書の中で shall と will が混在している場合は、使い分けの意図を確認します |
| may | 〜することができる | 権利や裁量を表します。相手が主語の may は相手の権利です |
| may not | 〜してはならない | 禁止を表します。「〜しないかもしれない」という意味ではありません |
| agree to / undertake to | 〜することに同意する/〜することを約束する | いずれも義務を負う表現です |
| best efforts / best endeavours | 最善の努力 | 努力義務の一種ですが、求められる努力の程度は準拠法や文脈によって異なります(下の解説を参照) |
| reasonable efforts / commercially reasonable efforts | 合理的な努力/商業上合理的な努力 | best efforts より軽い義務として使われることがあります。どこまでの行動が求められるかは明確でないため、具体的な行動を書くのが安全です |
| sole discretion | 単独の裁量 | 一方が自由に判断できることを意味します。相手の sole discretion とされている事項は、相手の判断次第になります |
best efforts と reasonable efforts の違い
努力の程度を表す言葉は、どこまでの行動が求められるかが明確でなく、争いになりやすい言葉です。英国(イングランド)の裁判例には、reasonable endeavours はとりうる合理的な方法の一つをとれば足りるのに対し、best endeavours はとりうる合理的な方法をすべてとることを求めると述べたものがあります(Rhodia International Holdings v Huntsman International、2007年)。他の国でも同じように解釈されるとは限りません。
日本法が準拠法の場合も、「最善の努力」が日本語の「努力義務」と同じ程度の意味なのか、それより重い義務なのかが争いになるおそれがあります。重要な義務については、努力の程度を表す言葉に頼らず、「〇日以内に申請を行う」「少なくとも〇回の販売促進活動を行う」のように、求める行動を具体的に書くのが安全です。
責任・リスクを配分する言葉
契約違反があった場合や、第三者から請求を受けた場合に、誰がどこまで負担するかを決める言葉です。中小企業にとって、最も大きな損失につながりうる部分です。これらの言葉の読み方は「英文契約の責任制限条項と補償(Indemnity)条項の読み方」で詳しく解説しています。
| 用語 | 一般的な訳 | 契約での意味・注意点 |
|---|---|---|
| liability | 責任 | 主に損害賠償などの法的な責任を指します |
| damages | 損害賠償(金) | 複数形の damages は損害賠償の意味です。単数形の damage(損傷)とは区別します |
| direct damages / general damages | 直接損害/通常損害 | 契約違反から直接・通常生じる損害 |
| consequential damages | 結果的損害 | 特別の事情によって生じる損害を指して使われます。逸失利益が含まれるかなど、範囲は準拠法と契約の内容によって判断が分かれることがあります |
| lost profits / loss of profits | 逸失利益 | 得られたはずの利益。免責したい場合は、consequential damages とは別に明記するのが安全です |
| liquidated damages | 損害賠償額の予定 | 違反があった場合の賠償額をあらかじめ定めるもの。過大な額は、準拠法によって違約罰として効力が否定されることがあります |
| penalty | 違約罰 | 英米法では、違約罰に当たる定めは効力が否定されるのが原則です |
| limitation of liability | 責任の制限 | 賠償する損害の種類や上限額を定める条項 |
| cap | 上限額 | 賠償額の上限 |
| indemnify | 補償する | 第三者からの請求などによる相手の損失や費用(弁護士費用を含む)を負担すること。通常の損害賠償より範囲が広くなることがあります |
| hold harmless | 免責する、損害を被らせない | indemnify と重ねて使われます |
| defend | 防御する | 相手が第三者から訴えられたときに、自社の費用で対応する義務 |
| represent and warrant | 表明し、保証する | 一定の事実が正しいことを約束する表現(表明保証)。英米法では、表明(representation)と保証(warranty)で、違反した場合の救済が異なることがあります。日本の民法には表明保証についての直接の定めはなく、契約の定めに従って解釈されます |
| warranty | 保証 | 品質や性能などについての約束。期間、範囲、違反した場合の救済を確認します |
| as is | 現状のまま | 品質について保証しないことを示します。米国の統一商事法典では、「as is」などの表現で黙示の保証を排除できるとされています(2-316条3項) |
| waive / waiver | 放棄する/権利の放棄 | 権利を行使しないこと。一度権利を行使しなかったことが、権利の放棄にならない旨の条項(No Waiver)が置かれることがあります |
条項の優先関係・解釈に関わる言葉
条項どうしの関係や、例外・条件を示す言葉です。読み違えると、条項の意味が逆になることがあります。
| 用語 | 一般的な訳 | 契約での意味・注意点 |
|---|---|---|
| notwithstanding | 〜にかかわらず | その条項が他の条項より優先することを示します |
| subject to | 〜に従って、〜を条件として | 他の条項が優先する、または条件があることを示します。notwithstanding と逆の働きです |
| provided, however, that | ただし | 直前の内容に例外や条件を付けます |
| including without limitation | …を含むが、これらに限られない | 挙げられたものは例示にすぎません |
| herein / hereunder / hereto | 本契約において/本契約に基づき/本契約の | 「here」は本契約を指します |
| whereas | 〜であるので | 前文(Recitals)で、契約に至った背景を述べるときに使われます |
| in witness whereof | 以上の証として | 署名欄の直前の締結文言です |
| mutatis mutandis | 必要な変更を加えて | 他の条項を、必要な読み替えをしたうえで準用することを示します |
| time is of the essence | 期限は契約の重要な要素である | 期限を守ることが重要な要素であることを示します。英米法では、期限に遅れた場合に相手が契約を解除できる根拠になります |
| material / material breach | 重要な/重大な違反 | 解除の要件として使われることがある言葉ですが、何が「重要」かは解釈によります。重大な違反に当たる場合を具体的に定めておくと、争いを避けやすくなります |
| without prejudice | 〜を害することなく | 権利を失わないことを示します。英国法では、和解交渉のやりとりを後の裁判の証拠にしないという意味で使われることもあります |
| and/or | および/または | 意味が曖昧になりやすいため、「A or B, or both」のように書き換えることもあります |
特に notwithstanding と subject to は、どちらの条項が優先するかを決める言葉です。たとえば「Notwithstanding Section 10」とあれば、その条項が第10条より優先し、「Subject to Section 10」とあれば、第10条が優先します。責任制限条項や解除の条項とあわせて読むときに、注意が必要です。
期間・終了に関わる言葉
契約がいつ始まり、どのように終わるかに関わる言葉です。
| 用語 | 一般的な訳 | 契約での意味・注意点 |
|---|---|---|
| effective date | 効力発生日 | 契約の効力が生じる日。署名日と異なることがあります |
| term | 期間 | 契約の有効期間。複数形の terms は「条件、条項」の意味になります |
| expire / expiration | 満了する/満了 | 期間の終わりによって契約が終わること |
| terminate / termination | 解除する、終了させる/解除 | 期間の途中で契約を終わらせること |
| termination for cause | 債務不履行等による解除 | 相手の違反などを理由とする解除 |
| termination for convenience | 任意解除 | 理由がなくても解除できること。自社にも同じ権利があるか、予告期間は十分かを確認します |
| cure period | 是正期間 | 違反を通知された後、解除される前に違反を是正できる期間 |
| automatic renewal | 自動更新 | 期間満了の一定期間前までに通知しなければ、自動的に更新されること |
| survival | 存続 | 契約の終了後も効力が続く条項(秘密保持、責任の制限など)を定めます |
| notice | 通知 | 通知の方法(書面、電子メールなど)と宛先を定めます。解除などの重要な通知は、定められた方法で行わないと効力が争われることがあります |
一般条項でよく使われる言葉
契約書の後半にまとめて置かれることが多い、一般条項(Boilerplate)で使われる言葉です。一般条項の読み方は「法務部がない会社のための英文契約書チェックリスト」で、署名や副本については「英文契約書の署名欄・日付・印紙税・電子署名Q&A」で解説しています。
| 用語 | 一般的な訳 | 契約での意味・注意点 |
|---|---|---|
| entire agreement | 完全合意 | 契約書に書かれていない合意は効力を持たないとする条項。商談で約束されたことは、契約書に書き込みます |
| severability | 可分性 | 一部の条項が無効でも、他の条項は有効とする条項 |
| assignment | 譲渡 | 契約上の地位や権利を第三者に移すこと。相手の同意を要するかを確認します |
| force majeure | 不可抗力 | 災害など当事者の支配を超える事由による不履行の免責。対象となる事由、通知の義務、長期化した場合の解除を確認します |
| governing law | 準拠法 | 契約の解釈に適用される法律 |
| jurisdiction | 裁判管轄 | 紛争を扱う裁判所。exclusive(専属的)か non-exclusive(非専属的)かを確認します |
| arbitration | 仲裁 | 裁判所ではなく、当事者が選んだ仲裁人の判断で紛争を解決する手続 |
| amendment | 修正、変更 | 契約の内容を変更すること。書面で双方が署名した場合に限る、と定められることがあります |
| counterparts | 副本 | 複数の副本で締結でき、全体で一つの契約になるとする条項 |
| independent contractor | 独立の契約者 | 当事者が雇用関係や代理関係にないことを確認する条項で使われます |
よくある失敗の例
例えば、次のようなケースが考えられます。
- 「may not」を「〜しないかもしれない」と読み、禁止されている行為だと気付かなかった
- 「best efforts」を日本の努力義務と同じ程度の意味と考えて受け入れたが、相当の費用をかけてでも達成を目指すべき義務だと主張された
- 「subject to」と「notwithstanding」の関係を読み違え、責任の上限が補償にも及ぶと誤解していた
- 単数形の「term(期間)」と複数形の「terms(条件)」を取り違え、条項の意味を誤って理解した
このような失敗をしないように、言葉の意味を確認しながら読み、内容をよく確認してから締結する必要があります。
よくある質問
この用語集の訳語を、契約書の和訳にそのまま使ってもよいですか。
内容を理解するための参考としてお使いください。同じ言葉でも、契約書の定義や文脈によって意味が変わることがあります。また、和訳を作成した場合は、英文と和訳の内容が食い違ったときに英文が優先することを明確にしておくとよいでしょう。
shall と will は、どちらを使うべきですか。
どちらも義務を表すために使われますが、大切なのは、同じ契約書の中で使い分けを一貫させることです。義務の部分に shall と will が混在していると、義務の強さに違いがあるのかが争いになるおそれがあります。自社でひな形を作る場合は、どちらかに統一しておくことをお勧めします。
大文字で始まる言葉は、何を意味していますか。
契約書の定義条項(Definitions)や本文の中で、意味が定められた言葉です。たとえば「Products」と大文字で書かれていれば、定義条項で定められた範囲の製品を指します。定義が広いと、想定していない製品や業務まで契約の対象になることがありますので、必ず定義を確認してください。
AI翻訳で訳した契約書を読む場合、どの言葉に注意すればよいですか。
shall と may の違い、indemnify、consequential damages、best efforts、notwithstanding と subject to、time is of the essence などは、訳文では意味の違いが消えたり、不自然な直訳になったりしやすい言葉です。これらの言葉が出てくる条項は、原文で確認してください。
英文契約書の確認は、当事務所にご相談ください
当事務所では、外資系企業(保険会社など)や専門商社の顧問として、英文契約に日常的に対応しています。米国はもちろん、中国や欧州の企業を相手とするライセンス契約や販売代理店契約などの経験を踏まえ、条項のリスクの説明だけでなく、相手に送る修正案や伝え方まで、ご一緒に検討します。
- 英文契約書の言葉の意味が分からず、署名してよいか判断できない
- 相手のひな形の条項が、自社にとってどのような意味を持つのかを知りたい
- 自社の英文ひな形を、言葉の使い方を統一して作りたい
英文契約書の確認・修正の費用は、打ち合わせ、確認および修正案の作成を含めて、110,000円(消費税込み)からお引き受けしております(工数によって変わります)。ご相談はオンライン(Google Meet等)でも承っており、東京以外の地域の中小企業のお客様からも多数ご依頼を頂いております。ご関心のある方は、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。
本シリーズでは、これまでに「英文修正契約書を作成する際の注意点」「海外企業から英文NDAが届いたときに確認したい7つの条項」「法務部がない会社のための英文契約書チェックリスト」「英文契約の準拠法と紛争解決条項の選び方」「英文契約書の署名欄・日付・印紙税・電子署名Q&A」「英文契約の責任制限条項と補償(Indemnity)条項の読み方」を取り上げています。よろしければ、併せてご参照ください。
本コラムは2024年4月時点の法令・判例に基づいています(更新)。本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。
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