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法務部がない会社のための英文契約書チェックリスト
(中小企業のための英文契約入門)

海外の取引先から届いた英文契約書を、法務部がない中小企業の担当者が確認するための手順です。契約書の構造、まず読むべき10の条項(定義・範囲・支払・検収・保証・責任の制限・補償・知的財産・期間と解除・準拠法)、shall・will・mayの読み分け、一般条項の要点をチェックリストとともに解説します。

海外の取引先から、数十ページの英文契約書が送られてきた。法務部はなく、担当者が自分で目を通さなければならない。どこから読めばよいのか、全部読まなければならないのか。英文契約に関するご相談で、最初にいただくのはこのような声です。

結論から言えば、英文契約書は、すべての条項を同じ重さで読む必要はありません。中小企業の担当者の方が最初に確認すべきなのは、「何をいくらで」「責任はどこまで」「どうやって終わるか」「揉めたらどうするか」の4つに関わる条項です。本コラムでは、この4つを中心に、まず読むべき10の条項と、その読み方を解説します。

この記事でわかること

  • 英文契約書の基本的な構造と、どこに何が書いてあるか
  • まず読むべき10の条項と、受ける側として確認すべき点
  • shall・will・may の読み分けと、読み飛ばしてよい条項・いけない条項
  • 社内で使える確認の手順とチェックリスト

英文契約書の基本的な構造

英文契約書は、国や業種を問わず、おおむね次の順序で組み立てられています。構造を知っておくと、長い契約書でも目的の条項を探しやすくなります。

部分英語での呼び方書かれていること
表題・頭書Title / Preamble契約の名称、当事者の名称と所在地、契約日
前文Recitals / Whereas clauses契約に至った背景や目的。法的な義務は通常書かれていませんが、解釈の手がかりになります
定義Definitions契約書の中で大文字で始まる言葉(Products、Services、Territory など)の意味
本体Operative provisions取引の中身。目的物、対価、納期、保証、責任、知的財産、期間と解除など
一般条項Boilerplate / General provisions準拠法、紛争解決、通知、譲渡、完全合意、不可抗力など、どの契約にも共通する条項
署名欄Signature block署名者の氏名と役職
別紙Exhibit / Schedule / Annex価格表、仕様書、業務の範囲など、具体的な内容

見落とされがちなのが、定義と別紙です。本体の条項を読んでも、そこで使われている言葉の定義が広ければ意味が変わりますし、価格や仕様は別紙に書かれていることがほとんどです。本体と別紙は、必ずセットで読みます。

まず読むべき10の条項

以下では、自社が製品を売る側・業務を受ける側(相手のひな形を受け取る側)である場合を中心に、各条項で確認すべき点を説明します。

01定義(Definitions)

定義は、契約書の中で最も読み飛ばされやすく、最も影響の大きい条項です。たとえば、自社が「Products」を供給する契約で、Products の定義に「および将来開発されるその改良品」が含まれていれば、将来の新製品も自動的に契約の対象になります。

確認するのは、自社の義務の範囲を決める言葉(Products、Services、Deliverables、Territory、Affiliates など)の定義が、想定している取引より広くなっていないかです。

02業務・目的物の範囲(Scope of Work / Products)

何を納めるのか、何をするのかが、別紙の仕様書や業務記述書(Statement of Work)に具体的に書かれているかを確認します。範囲が曖昧なまま契約すると、追加の作業を無償で求められたときに断る根拠がなくなります。

範囲の変更について、書面による合意と追加費用の取決めを要する旨(Change Order)の条項があるかも、あわせて確認します。

03対価と支払(Price and Payment)

金額そのものだけでなく、次の点を確認します。

  • 通貨と、為替変動の負担(Currency)
  • 税金の扱い。源泉税や付加価値税が差し引かれる国もあります(Taxes)
  • 支払期限と、遅延した場合の利息(Payment Terms / Late Payment)
  • 相殺の可否。相手が自社への債権と相殺できる条項(Set-off)は、受ける側に不利です
  • 支払の条件。検収後払いか、納品後払いか

All payments shall be made in Japanese Yen, without any deduction or set-off, within thirty (30) days after the date of the invoice. Any taxes, duties or charges imposed outside Japan shall be borne by the Buyer.

(和訳)すべての支払は、控除または相殺をすることなく、請求書の日付から30日以内に、日本円で行うものとする。日本国外で課される税金、関税その他の賦課金は、買主が負担する。

04納期・検収(Delivery and Acceptance)

物の売買では、どの時点で引渡しが完了し、危険(輸送中の滅失・損傷の負担)が移るかを、インコタームズ(FOB、CIF、DAP など)で定めるのが通常です。どの条件になっているかで、輸送費と保険の負担が変わります。

検収については、相手がいつまでに検査を行い、不合格の場合にいつまでに通知するか(Inspection Period)、期間内に通知がなければ合格とみなす旨(Deemed Acceptance)があるかを確認します。この定めがないと、納品からかなり経った後に不合格を主張されるおそれがあります。

05保証(Warranties)

英文契約では、保証の範囲が明確に書かれます。売る側・受ける側としては、次の点を確認します。

  • 何を保証するか(仕様への適合、第三者の権利を侵害しないこと、など)
  • 保証の期間
  • 保証違反があった場合の救済が、修補・交換・代金の返還に限られているか(Exclusive Remedy)
  • 明示した保証以外の保証を排除する旨(Disclaimer of Implied Warranties)があるか。大文字で書かれていることが多い部分です

明示した保証以外の保証を排除する条項が置かれるのは、準拠法によっては、契約書に書かれていなくても法律上の保証(米国の統一商事法典における商品性の黙示の保証など)が生じるためです。売る側としては、保証する内容を明記し、それ以外の保証が排除されているかを確認します。

06責任の制限(Limitation of Liability)

自社が損害賠償責任を負う場合に、その範囲と上限を定める条項です。売る側・受ける側にとって、最も重要な条項の一つです。確認するのは、次の2点です。

  • 間接損害・逸失利益の免責(Exclusion of Consequential Damages)があるか
  • 賠償額の上限(Cap)が、契約金額などに設定されているか

IN NO EVENT SHALL EITHER PARTY BE LIABLE FOR ANY INDIRECT, INCIDENTAL, SPECIAL OR CONSEQUENTIAL DAMAGES, INCLUDING LOSS OF PROFITS. EACH PARTY’S TOTAL LIABILITY UNDER THIS AGREEMENT SHALL NOT EXCEED THE TOTAL AMOUNT PAID BY THE BUYER HEREUNDER DURING THE TWELVE (12) MONTHS PRECEDING THE CLAIM.

(和訳)いずれの当事者も、逸失利益を含む間接損害、付随的損害、特別損害または結果的損害について、一切責任を負わない。各当事者の本契約に基づく責任の総額は、請求に先立つ12か月間に買主が本契約に基づいて支払った金額の総額を超えないものとする。

相手のひな形では、この条項が相手だけを守る形(相手の責任だけを制限し、自社の責任は無制限)になっていることがあります。「either party(いずれの当事者も)」のように、双方に適用される形になっているかを確認します。

07補償(Indemnification)

第三者から請求を受けた場合に、一方が他方の損害や費用(弁護士費用を含む)を負担する条項です。たとえば、自社の製品が第三者の特許を侵害しているとして相手が訴えられた場合に、自社がその費用を負担する、といった内容です。

補償の対象となる事由が、自社がコントロールできる範囲(自社の製品、自社の過失)に限られているか、上限があるか、06の責任の制限が補償にも及ぶか、を確認します。相手のひな形では、補償が上限の例外とされていることが多く、注意が必要です。

08知的財産(Intellectual Property)

受託開発や制作の契約では、成果物の権利が誰に帰属するかが最も重要です。相手のひな形では、成果物の権利がすべて相手に移転する(Work Made for Hire / Assignment)形になっていることが多く、その場合、自社が従来から持っていた技術やノウハウまで含まれていないかを確認します。

自社が従来から持つ権利(Background IP)は自社に留保し、相手には契約の目的に必要な範囲でライセンスする、という整理が、受ける側の基本的な修正方針です。

09期間と解除(Term and Termination)

契約がいつ始まり、いつ終わるか、自動更新されるか、どのような場合に解除できるかを確認します。特に注意したいのは、次の2つです。

  • 相手が理由なく解除できる条項(Termination for Convenience)。あれば、自社にも同じ権利があるか、解除の予告期間は十分か、解除された場合に着手済みの作業の費用は支払われるか
  • 契約終了後の措置(Effect of Termination)。在庫の扱い、秘密情報の返還、終了後も存続する条項(Survival)

10準拠法と紛争解決(Governing Law and Dispute Resolution)

契約の解釈にどの国の法律を適用するか、争いになったときにどこで解決するか(裁判か仲裁か、どこの国か)を定める条項です。相手の本拠地の法律と裁判所が指定されていると、万一のときに現地で争うことになり、中小企業には現実的でないことがあります。

日本法・日本の裁判所に変更する、仲裁にする、被告の本拠地で争うことにする、といった選択肢があります。この条項の考え方は、「英文契約の準拠法と紛争解決条項の選び方」で詳しく解説しています。

shall・will・may の読み分け

英文契約では、助動詞によって義務の強さが変わります。読むときは、次の3つを区別してください。

  • shall:「〜しなければならない」。法的な義務を表します。自社が主語の shall は、自社の義務です
  • may:「〜することができる」。権利や裁量を表します。相手が主語の may は、相手の権利です
  • will:将来の事実や、shall より弱い約束に使われます。shall の代わりに will を使うひな形もあり、その場合は義務として読みます

読み方としては、自社が主語になっている shall(自社の義務)と、相手が主語になっている may(相手の権利)を拾い出すと、契約書のリスクを把握する手がかりになります。

一般条項は読み飛ばしてよいか

契約書の後半にまとめられている一般条項(Boilerplate)は、「どの契約にも同じことが書いてある」と読み飛ばされがちです。多くは定型的な内容ですが、次の条項は必ず目を通してください。

  • 完全合意(Entire Agreement):契約書に書かれていない合意は効力を持たない、という条項です。商談で口頭やメールで約束してもらったことは、契約書に書かれていなければ、この条項によって無効になります。約束は本文か別紙に書き込みます
  • 言語(Language):英語版と日本語版の両方を作る場合に、どちらが優先するかを定めます。相手が翻訳を用意した場合でも、英語版が優先すると定められていることがありますので、どちらが優先するかを確認します
  • 譲渡(Assignment):相手が契約上の地位を第三者に譲渡できる条項があると、知らない会社が取引先になることがあります
  • 不可抗力(Force Majeure):災害や感染症などで履行できない場合の免責です。何が不可抗力に当たるか、通知の義務、長期化した場合の解除について確認します
  • 秘密保持(Confidentiality):本契約の中に秘密保持の条項がある場合、すでに結んだNDAとの関係(どちらが優先するか)を確認します。NDAの読み方は「海外企業から英文NDAが届いたときに確認したい7つの条項」をご覧ください

一方、通知(Notices)、可分性(Severability)、見出し(Headings)、副本(Counterparts)などは、定型どおりであれば、通知先の住所と担当者が正しいかを確認する程度で足ります。

社内で確認するときの手順

法務部がない会社で、担当者が最初に目を通すときの手順をまとめると、次のようになります。

  1. 当事者と、別紙を含めた目的物・業務の範囲を確認する(01・02)
  2. お金の流れを確認する。金額、通貨、支払時期、税金、相殺(03)
  3. 自社の責任の範囲を確認する。保証、責任の制限、補償(05・06・07)
  4. 終わり方を確認する。期間、自動更新、解除、終了後の措置(09)
  5. 揉めたときの場所を確認する。準拠法、裁判管轄・仲裁(10)
  6. 自社が主語の shall と、相手が主語の may に印を付ける
  7. 気になった条項と、商談で約束してもらったのに書かれていない事項を一覧にして、弁護士に相談する

すべてを自社で判断する必要はありません。上の手順で疑問点を整理しておけば、弁護士への相談は短時間で済み、費用も抑えられます。

確認のチェックリスト

条項確認すること受ける側として望ましい形
01 定義義務の範囲を決める言葉の広さ想定する取引に限った定義
02 範囲別紙に具体的な仕様・業務があるか範囲の変更は書面合意と追加費用
03 対価・支払通貨、税金、期限、相殺控除・相殺なし、国外の税金は相手負担
04 納期・検収インコタームズ、検査期間期間内に通知がなければ合格
05 保証範囲、期間、救済の限定明示した保証に限る、救済は修補・交換
06 責任の制限間接損害の免責、上限、双方への適用双方に適用、上限は契約金額
07 補償対象事由、上限との関係自社の製品・過失に限る、上限あり
08 知的財産成果物と従来技術の帰属従来技術は自社に留保
09 期間・解除自動更新、理由のない解除、終了後の措置解除権は双方、着手分の費用は支払
10 準拠法・紛争解決どの国の法律・裁判所か日本法・日本の裁判所、または仲裁
一般条項完全合意、言語、譲渡、不可抗力、秘密保持口頭の約束は本文・別紙に書き込む

よくある失敗の例

例えば、次のようなケースが考えられます。

  • 本体だけを読んで契約し、別紙の価格表に「価格は相手が毎年改定できる」と書かれていたことに後から気付いた
  • 商談で「最低購入量はない」と言われていたが、契約書の完全合意条項により、別紙の最低購入量の定めが優先された
  • 責任の制限条項が相手だけを守る形になっており、自社の製品の不具合について、契約金額を大きく超える賠償を求められた
  • 相手がいつでも解除できる条項に気付かず、開発に着手した後に解除され、費用を回収できなかった

このような失敗をしないように、内容をよく確認してから締結する必要があります。

よくある質問

Q

英文契約書は、全文を読まなければなりませんか。

A

最終的には全文に目を通す必要がありますが、最初から順に読む必要はありません。本コラムの10の条項と一般条項の要点を先に確認し、そのうえで残りを読むと、効率よく、重要な点を見落とさずに読むことができます。

Q

翻訳ソフトで日本語にしてから読んでもよいですか。

A

内容を把握するための補助としては有用です。ただし、翻訳ソフトは、shall と may の違いや、二重否定、定義された言葉と一般的な言葉の区別を正確に訳せないことがあります。重要な条項は、必ず原文で確認してください。

Q

相手のひな形ではなく、自社のひな形を使うことはできますか。

A

できます。どちらのひな形を使うかは交渉次第ですが、自社のひな形を先に提示できれば、自社に有利な前提で交渉を始めることができます。継続的に海外取引を行う場合には、売買や業務委託など取引の種類ごとに、自社の英文ひな形を用意しておくことをお勧めします。

Q

契約書が長すぎて、確認の時間がありません。

A

相手に、締結までの期間を延ばしてもらうよう申し入れることは、国際取引では珍しいことではありません。時間が限られる場合には、本コラムの手順で疑問点を整理したうえで、弁護士にご相談ください。

英文契約書の確認は、当事務所にご相談ください

当事務所では、外資系企業(保険会社など)や専門商社の顧問として、英文契約に日常的に対応しています。米国はもちろん、中国や欧州の企業を相手とするライセンス契約や販売代理店契約などの経験を踏まえ、条項のリスクの説明だけでなく、相手に送る修正案や伝え方まで、ご一緒に検討します。

  • 海外の取引先から英文の契約書が届き、どこを確認すればよいか分からない
  • 自社のひな形を英文で用意したい
  • 相手に送る修正案や、英文での伝え方まで相談したい

英文契約書の確認・修正の費用は、打ち合わせ、確認および修正案の作成を含めて、110,000円(消費税込み)からお引き受けしております。ご相談はオンライン(Google Meet等)でも承っており、東京以外の地域の中小企業のお客様からも多数ご依頼を頂いております。ご関心のある方は、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。

本シリーズでは、これまでに「英文修正契約書を作成する際の注意点」「海外企業から英文NDAが届いたときに確認したい7つの条項」を取り上げています。

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本コラムは2026年11月時点の法令・判例に基づいています(更新)。本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。

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