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外国人向け英文版の雇用契約書や労働条件通知書の作り方
(中小企業のための英文契約入門)

外国人の方を雇用するときの雇用契約書・労働条件通知書の作り方を解説します。国籍にかかわらず適用される日本の労働法と準拠法の関係、書面で示すべき事項(2024年4月の改正を含む)、英語版を作るときの注意点(優先する言語、訳語、海外のひな形のat-willや試用期間)、在留資格との関係を紹介します。

外国人の方の採用が決まると、「雇用契約書は英語で作らなければならないのか」「海外のひな形を使ってよいのか」「日本人の社員と同じ書式でよいのか」といった疑問が出てきます。

結論から言えば、日本国内で働く外国人の方にも、国籍にかかわらず日本の労働法が適用されます。労働条件通知書には、日本人の社員と同じく法律で定められた事項を書く必要があり、2024年4月からは、就業場所・業務の「変更の範囲」なども加わっています。英語版の作成は法律上の義務ではありませんが、本人が理解できる方法で労働条件を示すよう努めることが国の指針で求められており、厚生労働省は英語などのモデル様式を公表しています。あわせて、在留資格で認められた仕事の範囲と、通知書の内容が合っているかの確認が欠かせません。

本コラムでは、外国人の方を雇うときの雇用契約書・労働条件通知書の作り方と、英語版を作るときの注意点を解説します。

この記事でわかること

  • 外国人を雇う場合に適用される法律と、契約の準拠法との関係
  • 労働条件通知書と雇用契約書の違いと、書面で示すべき事項(2024年4月の改正を含む)
  • 英語版を作るときの注意点(優先する言語、訳語、海外のひな形の使い方)
  • 在留資格との関係と、採用時に確認すべきこと

外国人を雇う場合も、日本の労働法が適用されますか

適用されます。日本国内で働く場合、労働基準法、労働契約法、最低賃金法などは、国籍にかかわらず適用されます。労働基準法は、国籍を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的な取扱いをすることを禁止しています(労働基準法3条)。

雇用契約書で外国の法律を準拠法と定めた場合でも、日本の法律の適用を免れられるとは限りません。労働契約については、当事者が外国の法律を選んでいても、労働者が、その契約に最も密接な関係がある地の法律のうち特定の強行規定を適用すべきことを使用者に示したときは、その強行規定も適用されます(法の適用に関する通則法12条1項)。最も密接な関係がある地は、労務を提供すべき地の法律と推定されます(同条2項)。日本で働く場合は、通常、日本の法律がこれに当たります。また、罰則や行政の監督を伴う労働基準法などは、契約の準拠法にかかわらず適用されると考えられています。

日本の会社が日本国内で外国人の方を雇う場合は、日本法を準拠法とし、日本の労働法に沿った内容で作るのが基本です。準拠法の一般的な考え方は「英文契約の準拠法と紛争解決条項の選び方」をご覧ください。

労働条件通知書と雇用契約書は、どう違いますか

書面性質法律上の作成義務
労働条件通知書使用者が労働者に労働条件を明示する書面あり(労働基準法15条1項)
雇用契約書使用者と労働者が労働条件に合意したことを示す書面なし(ただし、合意の内容を明確にするために作成が望まれます)
労働条件通知書兼雇用契約書上の二つを一つにまとめ、双方が署名する書面明示すべき事項が書かれていれば、労働条件通知書の役割も果たします

外国人の方の場合、母国の慣行と日本の慣行が異なることも多いため、労働条件通知書の内容に本人が同意したことを示す署名をもらっておく、つまり兼用の書式にしておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。

書面で示さなければならない事項は何ですか

労働契約を結ぶときに、書面で明示しなければならない事項は、労働基準法施行規則5条で定められています。2024年4月1日からは、就業場所・業務の変更の範囲などが加わりました。

事項内容
契約期間期間の定めの有無。有期の場合はその期間
更新の基準(有期の場合)更新の有無と、更新するかどうかの判断の基準
更新上限(有期の場合)通算契約期間または更新回数の上限の有無と内容(2024年4月から)
就業場所・業務雇入れ直後の就業場所と業務の内容に加え、その「変更の範囲」(2024年4月から)
労働時間・休日など始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換
賃金賃金の決定・計算・支払の方法、締切日・支払日
退職退職に関する事項(解雇の事由を含む)
無期転換(該当する場合)無期転換を申し込める機会と、無期転換後の労働条件(無期転換申込権が生じる更新の際。2024年4月から)

明示は書面の交付によるのが原則ですが、労働者が希望した場合は、ファクシミリや電子メールなどで送る方法も認められています(労働基準法施行規則5条4項)。電子メールなどで送る場合は、労働者がその記録を出力して書面を作成できるものに限られます。昇給に関する事項なども明示が必要ですが、書面でなく口頭でも足りるとされています。退職手当や賞与などの定めがある場合も、明示が必要です。

英語版の通知書を作るときの注意点

英語版の作成は、法律上の義務ですか

労働基準法には、労働条件通知書の言語についての定めはありません。ただし、厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」は、モデル労働条件通知書を活用する、母国語などを用いて説明するなど、外国人労働者が理解できる方法で労働条件を明示するよう努めることを求めています。

厚生労働省は、外国人労働者向けのモデル労働条件通知書を、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語、インドネシア語、ベトナム語で公表しています。作成の際の参考になります。ただし、2024年4月の改正で加わった事項(就業場所・業務の変更の範囲など)が入っている版かを確認し、入っていない場合は書き加えて使います。

日本語版と英語版の、どちらを優先しますか

日本語版と英語版の両方を作る場合は、内容が食い違ったときにどちらを優先するかを書いておきます。

This Notice is prepared in both Japanese and English. In the event of any discrepancy between the two versions, the Japanese version shall prevail.

(和訳)本通知書は、日本語および英語で作成する。両者の間に相違がある場合は、日本語版が優先する。

もっとも、この一文があっても、本人が理解できない内容で労働条件を示したことにはならないよう、両方の版の内容を一致させ、重要な点は口頭でも説明しておくことが大切です。翻訳を外部に頼む場合も、最後は社内で日本語版と照らし合わせて確認します。

訳語で注意したい言葉

日本の雇用慣行に特有の言葉は、英語にすると意味が伝わりにくいことがあります。厚生労働省のモデル様式なども参考にしつつ、必要に応じて説明を加えます。

日本語英語の例注意点
所定労働時間scheduled working hours法定労働時間(1日8時間・週40時間)との違いを説明します
時間外労働overtime work割増賃金の率もあわせて示します
年次有給休暇annual paid leave付与の時期と日数の決まり方を説明します
試用期間probationary period下の「海外のひな形」の注意点を参照
就業規則work rules通知書に「詳細は就業規則による」と書く場合は、就業規則の内容も確認できるようにしておきます
賞与・退職金bonus / retirement allowance支給の有無と条件を明確にします
雇止めnon-renewal of a fixed-term contract更新の基準と更新上限をあわせて示します

文化や法制度の違いを踏まえて説明する

誤解をなくすためには、言葉を訳すだけでなく、文化や法制度の違いを踏まえて、分かりやすく説明することが重要です。たとえば、残業の考え方や有給休暇の取り方、試用期間の意味、解雇や雇止めのルールなどは、母国の慣行や法律と異なることがあります。通知書を渡すときに、こうした点を具体例とともに説明し、質問を受ける機会を設けておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。

指針も、外国人労働者が日本の生活習慣、文化、風習、雇用慣行等について理解を深めるための支援を行うことや、日本人労働者と外国人労働者とが、文化、慣習等の多様性を理解しつつ共に就労できるようにすることに努めるよう求めています。

海外のひな形をそのまま使ってよいですか

英語の雇用契約書のひな形には、日本では効力が認められない定めや、日本の法律で必要な事項が欠けているものがあります。特に注意したいのは、次の点です。

  • at-will(随意雇用)の定め:米国のひな形には、いつでも理由なく雇用を終了できる旨の定めがあることがあります。日本では、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効とされます(労働契約法16条)
  • 試用期間:日本では、試用期間中であっても、本採用を拒否するには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められることが必要とされています(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決)
  • 明示すべき事項の欠落:海外のひな形には、就業場所・業務の変更の範囲、更新上限など、日本の法律で書面による明示が必要な事項が入っていないことがあります
  • 準拠法・裁判管轄:外国の法律や裁判所を指定する定めは、日本で働く従業員との契約にはなじみません

在留資格との関係で確認すべきことは何ですか

外国人の方は、在留資格によって、日本で行うことができる仕事の範囲が決まっています。雇用契約書・労働条件通知書を作るときは、次の点を確認します。

  • 在留カードの確認:採用の際は、在留カードの原本で、在留資格、在留期間、就労制限の有無を確認します。厚生労働省は、コピーでは改ざんのおそれがあるため、原本で確認するよう呼びかけています
  • 業務の内容と変更の範囲:通知書に書く業務の内容と、その変更の範囲が、在留資格で認められた仕事の範囲に収まっているかを確認します。変更の範囲を広く書きすぎると、在留資格で認められない業務まで含まれてしまうことがあります
  • 契約期間と在留期間:在留期間の更新が必要な場合の手続と、更新が認められなかった場合の扱いを確認しておきます
  • 外国人雇用状況の届出:外国人の方を雇い入れたときと、離職したときは、ハローワークへの届出が必要です(労働施策総合推進法28条。特別永住者の方は対象外)

在留資格で認められていない仕事をさせると、本人だけでなく、事業主も入管法の罰則(不法就労助長罪)の対象となることがあります。特定技能の在留資格で雇用する場合は、雇用契約の内容について別の基準も定められています。在留資格の手続や判断に迷う場合は、出入国在留管理庁の窓口や専門家に確認してください。

よくある失敗の例

例えば、次のようなケースが挙げられます。

  • 海外のひな形の英文雇用契約書をそのまま使い、「at-will」の定めを根拠に解雇したところ、日本の法律のもとで解雇の効力を争われた
  • 2024年4月の改正に対応していない古い書式を使い、就業場所・業務の変更の範囲を明示していなかった
  • 業務の変更の範囲を「会社の定める業務」と広く書いたため、在留資格で認められない業務まで含まれる形になっていた
  • 日本語版と英語版で残業代の計算方法の書き方が異なり、どちらが正しいかをめぐって行き違いが生じた

このような失敗をしないように、内容をよく確認してから労働条件を示す必要があります。

確認のチェックリスト

確認すること確認のポイント
書式2024年4月の改正に対応した書式か(モデル様式を使う場合も、改正後の事項が入っているか)
明示すべき事項契約期間、更新の基準・上限、就業場所・業務と変更の範囲、労働時間、賃金、退職などが書かれているか
言語本人が理解できる言語か。日本語版と英語版の内容が一致しているか、どちらが優先するかを書いたか
海外のひな形at-will、試用期間、準拠法など、日本で効力が認められない定めや、なじまない定めがないか
在留資格在留カードの原本を確認したか。業務の内容と変更の範囲が在留資格の範囲に収まっているか
届出雇入れ・離職の際に、ハローワークへの外国人雇用状況の届出をしたか
署名本人が内容を理解し、同意したことを示す署名をもらったか

よくある質問

Q

英語版だけを作り、日本語版を作らなくてもよいですか。

A

法律上、労働条件通知書の言語についての定めはありません。ただし、社内での管理や、労働基準監督署などへの説明の場面を考えると、日本語版もあわせて作り、どちらが優先するかを書いておくのが安全です。

Q

就業規則も英語に翻訳する必要がありますか。

A

法律上、就業規則を翻訳する義務はありません。ただし、就業規則は労働者に周知する必要があり(労働基準法106条)、外国人雇用管理の指針も、モデル就業規則の活用や母国語などでの説明を例に挙げて、外国人労働者が理解できる方法で労働条件を明示するよう努めることを求めています。少なくとも、労働時間、賃金、休暇、服務規律、懲戒など重要な部分は、理解できる形で説明しておくことをお勧めします。当事務所では、就業規則の英文版の作成も、別途お引き受けしております。

Q

採用した後に、労働条件を変更することはできますか。

A

労働条件の変更は、原則として労働者との合意によって行います(労働契約法8条)。外国人の方の場合も同じで、変更の内容を理解できる方法で説明し、変更後の条件を書面で示しておくことが大切です。

Q

母国の会社から日本に出向してくる外国人の場合も、同じですか。

A

日本の会社と雇用契約を結ぶのか、母国の会社との雇用契約のまま日本で働くのかによって、必要な書面や適用される法律の扱いが変わることがあります。出向の形をとる場合は、契約の当事者と準拠法、日本で働く間の労働条件の定め方を、個別に確認する必要があります。

外国人の雇用に関する契約書の作成は、当事務所にご相談ください

当事務所では、外資系企業(保険会社など)や専門商社の顧問として、英文契約に日常的に対応しています。米国はもちろん、中国や欧州の企業を相手とするライセンス契約や販売代理店契約などの経験を踏まえ、条項のリスクの説明だけでなく、相手に送る修正案や伝え方まで、ご一緒に検討します。

  • 外国人の方を採用するにあたり、英語の雇用契約書・労働条件通知書を整えたい
  • 海外のひな形や、以前から使っている書式が、日本の法律や2024年4月の改正に対応しているかを確認したい
  • 外国人の社員との労働条件をめぐる行き違いについて相談したい

雇用契約書・労働条件通知書のほか、就業規則の英文版の作成も、別途お引き受けしております。

英文契約書の確認・修正の費用は、打ち合わせ、確認および修正案の作成を含めて、110,000円(消費税込み)からお引き受けしております(工数によって変わります)。ご相談はオンライン(Google Meet等)でも承っており、東京以外の地域の中小企業のお客様からも多数ご依頼を頂いております。ご関心のある方は、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。

当事務所では、これまでに「英文修正契約書を作成する際の注意点」「海外企業から英文NDAが届いたときに確認したい7つの条項」「法務部がない会社のための英文契約書チェックリスト」「英文契約の準拠法と紛争解決条項の選び方」「英文契約書の署名欄・日付・印紙税・電子署名Q&A」「英文契約の責任制限条項と補償(Indemnity)条項の読み方」「英文契約書によく出る用語集」を取り上げています。よろしければ、併せてご参照ください。

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本コラムは2024年5月時点の法令・判例に基づいています(更新)。本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。

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