はじめに
家庭用製品の安全対策が不十分として製造業者の製造物責任(PL責任)が認められた裁判例として、大阪高等裁判所令和6年3月14日判決が注目されています。
本判決は、ループを形成する操作コードが付属した上げ下げロール網戸(以下「本件製品」といいます。)について、設計上の欠陥は否定しつつも、製造物責任法2条2項・3条の定める「指示・警告上の欠陥」を認定し、製造業者の損害賠償責任を肯定しました。さらに、本件製品を設置したリフォーム業者の従業員に対しても、使用方法等の説明を怠ったとして不法行為上の注意義務違反を認め、製造業者・リフォーム業者双方の連帯責任を認めています(なお、リフォーム工事の請負契約に関するクーリングオフを認めた点も本判決の特徴の一つです。)。
本判決は、製品の安全対策が十分か否かの判断基準や、製造業者・施工業者それぞれに求められる対応を考える上でj実務上示唆に富む内容となっています。
今回のコラムでは、上記大阪高裁判決について、わかりやすく解説します。
事案の概要
当事者
| 当事者 | 立場 | 概要 |
|---|---|---|
| X1(夫) | 原告 | リフォーム契約の名義人。クーリングオフを実施。 |
| X2(妻) | 原告 | X1の妻。実質的な契約当事者。 |
| X3(長男) | 原告 | X1・X2の長男(当時9歳)。 |
| Y1 | 被告(製造業者) | 上げ下げロール網戸(商品名「上げ下げロール網戸XMW」)を製造・販売した建材メーカー(YKK AP)。製造物責任法3条に基づく責任を追及された。 |
| Y2 | 被告(施工業者) | 本件製品を本件建物に設置したリフォーム工事業者(土屋ホーム)。民法715条・709条に基づく責任を追及された。 |
事故の経緯
X1夫妻は、居住予定の建物(以下「本件建物」といいます。)のリフォーム工事を計画し、Y2との間でリフォーム工事に関する一連の契約を締結しました。Y2は、本件リフォーム工事において、Y1が製造したループを形成する操作コード(以下「本件コード」といいます。)が付属した本件製品を、本件建物2階の腰高窓に設置しました。
X1ら家族が本件建物での生活を開始してから間もない令和元年11月18日、X1ら夫妻の娘D(当時6歳)は、両親・兄の外出・登校中に、本件コードが首に絡まって縊死しました(以下「本件事故」といいます。)。なお、本件事故当時、本件コードには、安全器具であるクリップ(以下「本件クリップ」といいます。)が正しく装着されておらず、また、X1ら夫妻は本件事故に至るまで本件クリップの存在すら知らされていませんでした。
訴訟の経緯
X1ら3名は、Y1に対しては製造物責任法3条に基づき、Y2に対しては民法715条または709条に基づき、損害賠償金等の連帯支払を求めました(本訴)。また、X1は、Y2から交付された契約書等が特定商取引に関する法律(以下「特商法」といいます。)の定める「法定書面」に該当しないことを理由に、本件各契約についてクーリングオフを行い、申込金の返還を求めました。Y2は、X1に対し、残代金の支払を求める反訴を提起しました。
原審(大阪地判令和4年11月17日、判タ1512号189頁)は、本件製品に欠陥があったとも、Y2の従業員らに注意義務違反があったとも認められないとして、Y1・Y2の損害賠償責任をいずれも否定しました。しかし、クーリングオフについては有効と判断しました。
これに対し、X1らが損害賠償請求の棄却部分を不服として控訴し、Y2がクーリングオフ関連の敗訴部分を不服として控訴しました。大阪高裁は、原判決を一部変更し、Y1・Y2の連帯損害賠償責任(X1に約2874万円・X2に約2853万円・X3に110万円)を認め、Y2の控訴は棄却しました。
本件の争点
本件の争点は以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 製造業者Y1の製造物責任の有無(本件製品の欠陥の有無) |
| 争点② | リフォーム業者Y2の使用者責任・不法行為責任の有無(注意義務違反の有無) |
| 争点③ | 過失相殺の可否 |
| 争点④ | 因果関係及び損害の範囲 |
| 争点⑤ | クーリングオフの有効性(本訴・反訴) |
| 争点⑥ | 本件各契約に基づく代金額及び支払期日の到来の有無(反訴) |
裁判所の判断
1 製品の欠陥について(争点①)
(1)設計上の欠陥
本判決は、製造物責任法2条2項の欠陥の定義に即して、本件コードの危険性の内容・程度、使用者の認識、安全対策の実行可能性、JIS規格の内容、諸外国の規制状況、同業他社の対応状況など多様な要素を総合的に考慮して欠陥の有無を判断しました。
抜本的な安全対策の可否
本判決は、まず、本件製品の引渡時点(令和元年9月)において取り得た抜本的な安全対策として、①ループレス化(一本ひも化)、②コードの短縮、③解除装置(セーフティジョイント)の装着、④コード以外の方法による操作への切替えの4つを挙げた上で、それぞれ以下のとおり技術的・機能的な課題があると判断しました。
東京都報告書、本件実施基準、本件JIS規格、諸外国の規制及び各企業による安全対策等(認定事実(6)イ、ウ、オ、(7)、(9))に照らすと、本件製品が引き渡された令和元年9月の時点において、本件コードによる子供の縊頸事故を防止するための抜本的な安全対策として、①コードがループを形成しないよう、一本ひも仕様等のループレスとすること、②ループを形成するとしても、子供の頭が通らないようコードの周長を40cm程度以下とすること、③ループを形成するとしても、ループに子供の体重が加わった場合にループが解消する解除装置(セーフティジョイント)を備えること、④コード以外の方法で網戸を操作することが選択肢となり得たものと認められる。
その上で、本判決は、①については製品引渡時点においてループレス化した製品を販売することが技術的に可能であったとまでは認められない、②についてはコードの短縮により昇降操作に支障が生じる可能性があり技術的に解消できていなかった、③については縊頸事故の多くを占める3歳以下の子供の安全を確保できる解除装置は存在しなかった、④についてはアコーディオン式網戸等は設置可能な窓の形状や防虫効果において本件製品と異なり、代替品に置き換えるべきとまではいえなかったとして、これらの抜本的な安全対策はいずれも引渡時点で有効な手段であったとは認め難いと判断しました。
本件クリップによる安全対策の評価
本判決は、本件クリップを使用してコードをまとめる安全対策(以下「本件クリップによる安全対策」といいます。)について、以下のとおり判示しました。
本件クリップの使用による安全対策は、これが確実に実行されれば、本件コードによる子供の縊頸事故を防止する効果を有しており、本件製品の引渡時点では社会的にも許容されていたものといえる。
しかし、本判決は、本件クリップによる安全対策には「使用者の作業に依存することに伴う脆弱性」があることを指摘しました。
本件製品のような上げ下げロール網戸やブラインド等に付属するコードの危険性は、刃物やストーブのような製品の危険性とは異なり、一般の使用者が容易に認識できるようなものではないものと考えられる。
本件クリップの使用による安全対策については、これが確実に実行されれば子供の縊頸事故を防止することができるものであったものの、必ずしも本件コードの危険性や本件クリップの使用の重要性を認識しているとは限らない使用者にその実行を依存せざるを得ないという脆弱性を有していただけでなく、本件製品は日常的かつ長期間にわたり使用されるから、その間に使用者がその実行を怠った場合には子供の生命・身体に対する高度の危険性が現実化するおそれがあったものと認められる。
その結果、本判決は、設計上の欠陥を否定するにあたり、以下の点を前提としています。
本件製品については、このような高度の危険性が現実化することのないよう、本件クリップの使用による安全対策が本件製品の使用者によって日常的かつ継続的に確実に実行されるために十分といえるだけの指示・警告がされる必要があったといえるし、また、そのような指示・警告がされれば、通常有すべき安全性を欠くものであったとはいえない。
すなわち、本件クリップによる安全対策が「十分な指示・警告」を前提として初めて成立するという構造を明示した上で、次に指示・警告上の欠陥の有無を検討しました。
(2)指示・警告上の欠陥
本判決は、以下の3点を総合考慮して、本件製品に指示・警告上の欠陥があると認定しました。
令和元年9月の引渡時点において、本件製品については、①本件コードに本件クリップ及び本件タグが装着された状態で出荷されていなかったこと、②使用者向けの取扱説明書が同梱されていなかったこと、③本件タグ及び本件取扱説明書に警告表示がされていなかったことを総合すると、本件クリップの使用による安全対策が本件製品の使用者によって日常的かつ継続的に確実に実行されるために十分といえるだけの指示・警告がされていたとはいえず、他方で第1審被告YKKがこれらの対策をとることも十分に可能であったから、本件製品は通常有すべき安全性を欠いていたものとして欠陥(指示・警告上の欠陥)があったというべきである。
各点について、本判決の判断は以下のとおりです。
① クリップ・タグの未装着出荷について
本判決は、日本ブラインド工業会の実施基準が平成27年6月末までにクリップをコードに装着した状態で出荷することを定め、同業他社(立川ブラインド)が平成26年4月からその対応をしていた事実等を踏まえ、Y1がクリップ等を装着しないまま出荷したことに合理的な理由はなく、かつ本件事故後には実際に装着状態での出荷に移行したことを指摘し、この点を欠陥の一要素として認定しました。
一般住宅の建築工事には規模・質の様々な業者が関与するため、施工業者への指示が確実に遵守されるとは限らず、現に本件でも下請業者がクリップ等を正しく装着しなかったことが欠陥認定の根拠の一つとなっています。
② 取扱説明書の未同梱について
本判決は、危険性の記載を含む取扱説明書が本件製品に同梱されていなかった点について、以下のとおり判示しました。
第1審被告YKKは、本件コードの危険性及び本件クリップの使用方法等が使用者に確実に伝わるよう、本件取扱説明書又はその一部である本件製品に関する部分を本件製品に同梱すべきであったというべきである。
Y1は、約300頁に及ぶ窓・ドア関連製品の総合取扱説明書の表紙に施工業者等から施主への交付を求める記載をしていましたが、本判決は、建築工事の施工業者が必ずしもこれを遵守するとは限らない(実際に本件でも交付されなかった)こと、また、競合他社(LIXIL)が本件製品と同種の製品について製品固有の取扱説明書を2〜3頁程度の分量で作成・同梱していたことを指摘し、製造業者として使用者に確実に届く対応が必要であったと判断しました。
③ 「注意」表示(「警告」表示の欠如)について
本判決は、Y1が本件タグ及び取扱説明書において、「警告」(死亡・重傷レベルの危険を示す表示)ではなく「注意」(通院加療が必要な傷害レベルの危険を示す、一段低い表示)を用いていた点について、以下のとおり判示しました。
第1審被告YKKは、ブラインド等のコードによる子供の死亡事故が発生していることを認識していた(認定事実(8)ア)にもかかわらず、「警告」ではなく、「注意」としたことについて、何ら合理的な説明をしていない。
本判決は、本件JIS規格の例示や日本ブラインド工業会の基準が「警告」の文言を使用していたこと、引渡時点でLIXILも同種製品において「警告」表示を用いていたことも認定した上で、「注意」表示にとどめたことは安全対策を実効的にするための対応として不十分であったと結論づけました。
2 リフォーム業者Y2の責任について(争点②)
本判決は、Y2の従業員(営業担当者E及び施工担当者F)についても、以下の2点の注意義務違反を認定し、Y2の使用者責任(民法715条)を肯定しました。
第1審被告土屋ホームの従業員であるEらには、本件製品を設置して第1審原告Aに引き渡す際、本件コードに本件クリップ及び本件タグを正しく装着しなかったという注意義務違反、及び同夫妻に対して本件取扱説明書を交付せず、本件コードの危険性及び本件クリップの使用方法等について説明しなかったという注意義務違反があったものと認められるから、その余の点について判断するまでもなく、第1審被告土屋ホームは使用者責任を負う。
注意義務違反として認定された具体的事実は以下のとおりです。
- 下請業者が施工説明書の指示に従わずクリップ等を正しく装着しなかったにもかかわらず、担当者Eがこれを写真撮影等で認識し得ながら是正しないまま引き渡したこと
- X1ら夫妻に幼稚園児の娘がいることを認識していながら、コードの危険性やクリップの使用方法等を説明せず、取扱説明書も交付しなかったこと
本判決は、Y2がリフォーム工事の請負人として、施主及びその家族の生命・身体の安全に危険が生じないよう配慮すべき注意義務(信義則上の義務及び不法行為上の注意義務)を負っていたことを前提として、この義務違反を認定しています。
3 過失相殺について(争点③)
Y1・Y2は、X1ら家族側にも過失があるとして過失相殺を主張しましたが、本判決は過失相殺を否定しました。
本判決は、X1ら夫妻が本件事故当時クリップ及びタグの存在すら認識していなかったと認定しました。また、ダイニングテーブル・椅子の配置やDへの監督状況についても、本件事故前に危険な行動があったとうかがわれる事情はなく、過失相殺を基礎付ける事情は認められないと判断しました。
4 因果関係・損害について(争点④)
本判決は、本件製品の欠陥及びY2の従業員らの注意義務違反がなければ、X1らが本件クリップにより本件コードを確実にまとめるなどすることによって本件事故は発生しなかった高度の蓋然性があるとして、両者と幼児の死亡との間にいずれも相当因果関係を肯定しました。Y1・Y2の損害賠償責任は不真正連帯債務の関係にあると判断しています。
5 クーリングオフについて(争点⑤)
本判決は、Y2からX1に交付された契約書等について、クーリングオフに関する記載がないか、記載があっても法定記載事項(特商法5条1項)に複数の不備があるとして、いずれも法定書面には該当しないと認定しました。その結果、クーリングオフ行使期間(特商法9条1項ただし書)は進行しておらず、本件クーリングオフは有効と判断しました。
また、本判決は、X1がY2の従業員の訪問を請求した事実は認められないとして、特商法26条6項1号(請求訪問販売)によるクーリングオフ除外規定の適用及び類推適用を否定し、権利濫用にも当たらないと判断しました。
コメント
1 本判決の意義
本判決は、「使用者によるクリップ使用」を安全対策として採用した製品について、その安全対策が実効的に機能するための指示・警告が十分でなければ製造物責任法上の「指示・警告上の欠陥」が認められることを示した点に意義があります。
製造物責任法における欠陥の有無は、製品の引渡時点を基準として、①製品の特性、②通常予見される使用形態、③引渡時期その他の事情を考慮して判断されます(製造物責任法2条2項)。学説上、欠陥は、①製造上の欠陥、②設計上の欠陥、③指示・警告上の欠陥の3類型に分けて論じられており、本判決もこの枠組みに沿って判断しています。
本判決が着目したのは、「使用者による安全対策の実行に依存する」という安全対策の構造的な脆弱性です。本件コードのような製品の危険性は、刃物やストーブと異なり、一般の消費者が日常生活の中で容易に認識できるものではありません。
本判決は、上げ下げロール網戸のような製品は、どの家庭にも設置されているわけではないため、そのコードが子供を死亡に至らせる危険性を有するとは一般の使用者が感じられなかったとしても不自然ではないと認定しました。そのような認識の前提のもとで、製造業者は、使用者が安全対策を日常的かつ継続的に確実に実行できるだけの指示・警告を行う責任を負うと判断されました。
また、本判決は、製造業者と施工・設置業者の双方に責任を認め、不真正連帯債務の関係に立つとした点も実務上の参考になります。施工業者による欠陥製品の設置という介在行為がある場合でも、製造業者の欠陥と因果関係が否定されないことが明確にされています。
さらに、本判決は、原審と控訴審で製造物責任・施工業者責任の双方について判断が逆転している点に留意が必要です。一審では責任なしとされた事案が高裁で責任ありと判断された背景には、安全対策の実効性を「製品単体」ではなく「使用環境・使用者の現実の行動」まで含めて評価するという考え方があると見ることができます。
2 製造業者が求められる対応
本判決を踏まえると、製造業者には少なくとも以下の点が求められると考えられます。
(1)安全付属品は製品に装着した状態で出荷すること
施工業者への施工説明書に装着方法を記載するだけでは不十分であり、安全クリップ等の安全付属品は製品出荷時点でコードに装着した状態とすることが求められます。建築工事には規模・質の様々な業者が関与し、施工業者への指示が確実に遵守されるとは限らないからです。安全部品の装着は、施工業者任せにするのではなく、製品出荷段階で完結させておく必要があります。
(2)製品固有の取扱説明書を同梱すること
多品目をまとめた大部な取扱説明書を別途用意するだけでは不十分であり、本件製品に関する危険性・安全対策の記載部分を製品に同梱すべきとされました。施工業者が必ずしも使用者に取扱説明書を交付するとは限らない実態を踏まえ、使用者に確実に届く手段を製造業者として講じる必要があります。本判決は、競合他社が製品固有の取扱説明書(2〜3頁程度)を同梱していた事実も欠陥判断の考慮要素としており、同業他社の対応状況も評価基準の一つとなることに注意が必要です。
(3)危険表示の水準を適切に設定すること
死亡事故のリスクを伴う危険について、死亡・重傷レベルを示す「警告」表示を用いず、より低い危険水準を示す「注意」表示にとどめたことが欠陥認定の一要素とされました。死亡事故の発生を把握していた以上、危険水準に見合った表示を用いるべきとされたのです。JIS規格の例示や業界団体基準が「警告」の文言を使用している場合、これを下回る表示を選択することはリスクを伴います。
消費者庁は、ブラインド等のコードによる子供の縊頸事故について「ブラインド等のひもの事故に気を付けて!」(平成28年6月公表)と題する文書で注意喚起を行い、平成19年以降に0〜6歳の子供に合計10件の縊頸事故(うち3件は死亡)が発生していることを公表しています(消費者庁ウェブサイト https://www.caa.go.jp/)。また、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)は、製品安全に関する事故情報の収集・公表を行っており、同機構のウェブサイト(https://www.nite.go.jp/)においても関連情報を参照することができます。
製造業者は、これらの行政情報も参照しつつ、取扱説明書の記載水準・警告表示の内容を定期的に見直す体制を整備することが重要です。
3 リフォーム業者・施工業者が求められる対応
本判決は、製造業者だけでなく、製品を設置したリフォーム業者の従業員にも注意義務違反を認定しています。施工業者・設置業者においても以下の点に留意が必要です。
(1)施工説明書に従った施工を徹底すること
施工説明書に記載された安全部品の装着方法に従わなかった下請業者の行為について、元請業者の担当者がこれを認識し得ながら是正しなかったことが注意義務違反とされました。下請業者を使用する場合も含め、施工説明書の指示が確実に遵守されているかを確認する体制を整備する必要があります。
(2)製品の危険性を施主に説明し、取扱説明書を交付すること
施工業者は、施工した製品についての危険性を施主に説明し、取扱説明書を交付する義務を負い得ます。本判決は、施主の家庭に幼児がいることを認識していた担当者がコードの危険性や安全器具の使用方法を説明しなかったことを注意義務違反と認定しました。施主の家族構成に関する情報は、安全説明の必要性を判断する重要な要素となります。
4 特定商取引法(クーリングオフ)への対応
訪問販売に当たる取引(リフォーム工事等を含みます。)を行う事業者にとって、本判決のクーリングオフに関する判断も重要な示唆を与えています。
本判決は、契約書等における法定記載事項の不備(クーリングオフに関する記載の欠如・不備等)を理由に、クーリングオフ行使期間が進行していないと判断しました。消費者庁は、令和5年4月21日付け通達「特定商取引に関する法律等の施行について」において、書面に重要な事項が記載されていない場合はクーリングオフできる期間が継続するものと解するとの立場を示しています。
訪問販売を行う事業者は、特商法5条1項の定める法定書面の必要的記載事項を正確に確認し、書面の記載内容が漏れなく整備されているかを点検することが不可欠です。特定商取引法に関する解説や通達については、消費者庁ウェブサイト(https://www.caa.go.jp/)においても参照することができます。
5 自社製品・自社サービスの点検を
本判決は、①製品出荷時の安全付属品の装着状況、②使用者向け取扱説明書の同梱・交付体制、③警告表示の水準、④施工業者への指示の遵守状況、⑤施主への説明体制という複数の要素を組み合わせて欠陥・注意義務違反を認定しています。いずれか一点が問題であったというよりも、複数の不備が重なって安全対策が「実効的でない」と評価された点が本判決の特徴と評価できます。
製造業者にとっては自社製品に付属する安全部品の出荷・説明体制の点検が、施工・設置業者にとっては施工手順の遵守と施主への説明体制の整備が、それぞれ喫緊の課題といえます。
製造物責任法上の欠陥の有無や施工業者の注意義務の範囲は、製品の特性・事実関係によって判断が異なります。自社製品の安全対策や取扱説明書の記載内容が法的リスクを伴っていないか、あるいは施工業者として施主への説明・引渡し体制に問題がないかについて定期的に見直すことが大切です。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

