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信用調査会社の誤った調査報告書と文書提出命令の可否(大阪高裁令和5年12月21日決定)

企業間取引において、取引先の信用情報を把握することは重要です。多くの企業が信用調査会社を利用していますが、信用調査会社が作成した調査報告書に誤った情報が記載されていた場合、調査対象企業は大きな損害を被ることがあります。

今回のコラムでは、信用調査会社が作成した調査報告書に重大な誤りがあったケースにおいて、調査対象企業が損害賠償請求訴訟で損害を立証するために、調査報告書の開示先企業の名称等が記載された文書の提出を求めたところ、信用調査会社が「職業の秘密」等に該当するとして提出を拒否した事案について、大阪高等裁判所が文書提出命令を認めた決定(大阪高裁令和5年12月21日決定・令和5年(ラ)第1162号)をご紹介します。

信用調査報告書の正確性や、誤った情報が流通した場合に企業がとるべき対応を検討するうえで、参考になる裁判例です。

事案の概要

当事者

当事者概要
X社(抗告人・原告)印刷紙器紙製品の製造加工販売を営む企業
Y社(相手方・被告)信用調査会社

事実の経緯

Y社は、顧客から依頼を受けてX社の信用調査を行い、調査報告書(本件報告書)を作成しました。X社については、少なくとも平成25年以降、毎年1回ないし2回の頻度で新規調査依頼がなされ、そのたびにY社の調査員がX社の代表者に面談や電話で取材を行っていました。

令和3年12月頃、Y社は、顧客から再びX社についての新規調査依頼を受けましたが、X社の代表者から取材を断られたため、過去の聴取事項や決算数値から業績を推定し、本件報告書を作成しました。

本件報告書には、X社の令和3年8月期の業績について、以下の内容が記載されていました。

項目本件報告書の記載(推定値)訂正後の数値
営業利益▲2,500万円500万円
経常利益▲3,500万円500万円
当期純利益(税後利益)▲3,500万円300万円
推定資産負債状況4,500万円の債務超過―(訂正なし)
信用程度の評価100点満点中37(D評価)―(訂正なし)

Y社は、令和4年1月頃、本件報告書またはその写しを、新規調査を依頼した企業1社とコピーサービスを利用した企業5社の合計6社(本件開示先企業)に交付しました。

その後、X社は、複数の取引先から資金繰りに関する懸念を表明されて取引条件の変更を求められるなどしたため、Y社に対し、本件報告書の内容の確認と訂正を申し入れました。Y社は、令和4年5月、本件開示先企業6社に対し、上記のとおり業績の数値を訂正する旨の文書を送付しました。

X社は、Y社に対し、誤った調査報告書の交付によりX社の名誉・信用が毀損されたとして、不法行為に基づく損害賠償(1,100万円)を求める訴訟を提起しました。この訴訟において損害を立証するためには、本件開示先企業が特定される必要があるとして、開示先企業の名称等特定情報を一覧にした文書(本件対象文書)の文書提出命令を申し立てました。

原審(大阪地方裁判所)は、証拠調べの必要性は認めたものの、本件対象文書は民事訴訟法220条4号ハ(職業の秘密)またはニ(自己利用文書)に該当するとして、申立てを却下しました。

X社は、これを不服として即時抗告を申し立てました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①本件対象文書は、民事訴訟法220条4号ハ所定の文書(職業の秘密に関する文書)に該当するか
争点②本件対象文書は、民事訴訟法220条4号ニ所定の文書(専ら文書の所持者の利用に供するための文書)に該当するか

裁判所の判断

大阪高裁は、本件対象文書はいずれの除外事由にも該当しないとして、原決定を取り消し、Y社に文書の提出を命じました。

争点①について(民事訴訟法220条4号ハ該当性)

判断枠組み

裁判所は、まず、職業の秘密の意義について、最高裁判例を引用し、以下のとおり述べました。

「『職業の秘密』(民訴法220条4号ハ、197条1項3号)とは、その事項が公開されると、当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいう」(最高裁平成12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参照)

そのうえで、職業の秘密に当たる情報が記載されていても、それが「保護に値する秘密」に当たる場合に限り文書の提出を拒絶できるとし、保護に値する秘密であるかどうかは、以下の諸事情を比較衡量して判断すべきであるとしました。

「当該情報が保護に値する秘密であるかどうかは、その情報の内容、性質、その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである」(最高裁平成18年10月3日第三小法廷決定・民集60巻8号2647頁参照)

本件特定情報が職業の秘密に当たるか

裁判所は、本件特定情報(開示先企業の名称等)がY社の職業の秘密に当たることを認めました。

「一般に、信用調査会社は、調査依頼者が誰であるかについて、調査依頼者に対し、商慣習上又は契約上の守秘義務を負っているものと認められ、調査依頼者の名称等を特定できる情報は、これが開示されると、信用調査を依頼した事実を知られること自体によって調査依頼者のその後の取引等に支障が生じる可能性があるほか、上記守秘義務に反したとみられる事態が生じることにより顧客の信用調査会社への信頼が大きく損なわれるなど信用調査会社の業務に深刻な影響を与え、以後その遂行が困難になるものといえるから、信用調査会社の職業の秘密に当たると解される。」

保護に値する秘密に当たるか ― 比較衡量

裁判所は、以下の事情を比較衡量し、本件特定情報は「保護に値する秘密」には当たらないと判断しました。

(a) 開示によるY社側の不利益(限定的と評価)

考慮事情裁判所の評価
本件特定情報はあくまで開示先企業を特定する名称等にすぎず、調査依頼の目的や事業戦略等が直ちに明らかになるものではないこと不利益は限定的
X社については平成25年以降毎年新規調査依頼がされており、X社にとっては新規調査依頼がされることはむしろ通常ともいい得る状況であったこと不利益は限定的
Y社のホームページにおいても、信用調査は取引拡大や新規取引先選定のためなどポジティブな依頼が多い旨記載されていること不利益は限定的
開示先企業のうち1社は本件報告書の写しを任意にX社に提供していること不利益は限定的
X社はY社に対し開示先企業の意向を聴取するよう促していたが、Y社はこれを行おうとしなかったこと不利益は限定的

Y社は、調査依頼者が調査対象企業に明らかにされること自体が「信用調査会社の根幹を揺るがす全般的な問題」であると主張しましたが、裁判所は、以下のとおり述べてこれを退けました。

「本件で裁判所によって文書提出命令が発出されたとしても、そのことで本件のような事案以外においても調査対象企業に対し調査依頼者が誰であるかが明らかになることが一般的にあり得ることを意味することにはならない。」

「相手方は、調査依頼者が誰であるかを調査対象企業に明かさないことについて、調査依頼者との委託契約書において明記するなどしているものでもなく、あくまでホームページの「よくあるご質問」の項目にその旨の記載があるにとどまっており、その記載が裁判所の文書提出命令によっても開示されないという意味まで含むものと理解されるとは考え難い。」

(b) X社側の証拠としての必要性(高いと評価)

考慮事情裁判所の評価
基本事件は軽微な事件ではないこと証拠の必要性は高い
損害立証のためには開示先企業の数のみならず名称等の特定が必要であり、本件対象文書の証拠価値は高いこと証拠の必要性は高い
訂正までの間の開示行為がX社の取引に与えた影響は、開示先企業を特定できなければ即断できないこと証拠の必要性は高い
訂正文書では信用程度の評価自体は訂正されておらず、その影響も検討が必要であること証拠の必要性は高い
信用調査は新規取引先選定のために依頼されることもあり、X社において開示先企業を特定することは困難であること証拠の必要性は高い
開示先企業は報告書の取扱規定により内容を第三者に漏らすことを禁じられており、X社が問い合わせても肯定する回答が得られるとは考え難いこと自力での立証に限界

小括

以上の比較衡量の結果、裁判所は、本件特定情報はY社の職業の秘密には当たるものの、保護に値する秘密には当たらないと結論付け、民事訴訟法220条4号ハに基づく提出拒絶を認めませんでした。

争点②について(民事訴訟法220条4号ニ該当性)

裁判所は、本件対象文書がY社の内部文書であることは認めましたが、以下のとおり判断し、民事訴訟法220条4号ニ該当性も否定しました。

「本件対象文書に記載された内容はあくまで本件開示先企業を特定し得る本件特定情報にとどまり、個人のプライバシーが記載されているわけでも、内部での検討方針等が記載されているものではないから、これが開示されることによって、個人のプライバシーが侵害されたり、相手方における自由な意思形成が阻害されるおそれがあったりするわけではない。」

そして、争点①で検討した不利益の程度に照らせば、開示によりY社に生ずるおそれのある不利益は「看過し難いもの」とまではいえないとし、自己利用文書としての提出拒絶も認めませんでした。

コメント

1. 本決定の意義

本決定は、信用調査会社が保有する調査依頼者の特定情報について、「職業の秘密」に該当することは認めつつも、信用調査報告書に重大な誤りがあり調査対象企業の信用が毀損された場合には、損害賠償請求訴訟における損害立証のために、調査依頼者(開示先企業)の名称等特定情報を記載した文書の提出を命じた事例です。

本決定は、最三小決平成18年10月3日(民集60巻8号2647頁)が示した比較衡量の枠組みに従い、秘密保護の必要性と証拠としての必要性を具体的に検討した結果、開示を認めたものです。

信用調査報告書の誤りが問題となる事案における文書提出命令の判断基準を示した裁判例として、参考になります。

2. 信用調査会社が被る不利益の分析視点

本決定を理解するうえでは、信用調査会社が被る不利益には二つの側面があることを意識する必要があります(中村心・最高裁判所判例解説民事篇平成20年度571頁参照)。

第一は、当該事案における個別的な信用の低下です。すなわち、本件開示先企業との間の信頼関係が損なわれたり、守秘義務違反を理由とする損害賠償請求を受けたりするおそれです。

第二は、信用調査業務全般に及ぶ一般的な信用の低下です。すなわち、本件開示先企業以外の調査依頼者やその候補者に対しても、「信用調査会社が調査依頼者の特定情報を調査対象企業に開示する可能性がある」との不安を与え、信用調査の依頼自体が控えられるおそれです。

Y社は、後者の一般的な信用の低下こそが信用調査業務の基盤を揺るがす問題であると強く主張しました。

しかし、裁判所は、文書提出命令による開示はあくまで本件のような限定的な場面にとどまり、それ以外の場面にまで調査依頼者の情報が開示されることを意味するものではないとして、この不利益を過大に評価することはできないとしました。

3. 開示先企業(訴訟外の第三者)の利益への配慮

本件では、開示先企業は訴訟の当事者ではなく、訴訟外の第三者です。そのため、開示先企業には、文書提出命令の申立てに対して自ら主張立証を行う手続上の機会が与えられていません。このことからすれば、開示先企業との関係では、秘密情報の要保護性は通常より高く評価されるべきともいえます。

しかし、裁判所は、文書提出命令がそもそも訴訟上の必要から第三者にも提出義務を課すことを許容した制度であることを踏まえ、第三者との関係でも比較衡量による判断を行い、本件の具体的事情のもとでは開示先企業の被る不利益が大きいとまではいえないと結論付けました。

もっとも、本決定は、X社について長年にわたり定期的に新規調査依頼がなされていたことや、Y社のホームページにおいて信用調査がポジティブな目的で利用されることが多い旨記載されていたことなど、本件に固有の事情を踏まえた判断である点には留意が必要です。

4. 企業が留意すべきポイント

(1) 信用調査会社を利用する企業(調査依頼者側)の留意点

本決定は、信用調査会社が調査依頼者の特定情報について守秘義務を負うことを前提としつつも、調査報告書に重大な誤りがある場合には、裁判所の文書提出命令により調査依頼者の名称等が開示される可能性があることを示しました。信用調査を依頼する企業は、このリスクを認識しておく必要があります。

(2) 調査対象企業側の留意点

本決定の事案では、X社は、取引先から資金繰りに関する懸念を表明されて初めて信用調査報告書の誤りに気付きました。自社の信用情報にどのような情報が記載されているかを定期的に確認し、誤りがあれば速やかに訂正を求めることが重要です。

また、損害賠償請求を行う場合には、開示先企業を特定できない限り損害の具体的な立証が困難となります。本決定は、文書提出命令という手段によって開示先企業の特定が可能となる場合があることを示していますが、訴訟提起に際しては、証拠収集の戦略を早期に検討する必要があります。


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