はじめに
スマートフォンや小型カメラの普及に伴い、店舗や商業施設、公共交通機関など、不特定多数の人が利用する場所における盗撮や盗撮類似の行為による被害が後を絶ちません。こうした行為の多くは、東京都をはじめとする各都道府県の迷惑防止条例により処罰の対象とされていますが、具体的にどのような行為が条例違反に当たるのかは、事案ごとの個別的な判断を要する問題といえます。
今回のコラムでご紹介する最高裁判所令和4年12月5日決定(以下「本決定」といいます。)は、店舗内で、膝上丈のスカートを着用した女性客の左後方の至近距離から、前かがみになった同女の下半身に向けて小型カメラを構えるなどした行為について、東京都のいわゆる迷惑防止条例にいう「卑わいな言動」に当たるかが争われた事案で、最高裁がその該当性を肯定した判断です。第1審と原審とで結論が分かれた事案であり、また、カメラを対象者に「差し向ける」までには至らない行為であっても処罰の対象となり得ることを示した点で、実務上注目される判断といえます。
店舗、商業施設、交通機関等を運営される事業者の皆様にとって、どのような行為が条例違反に当たり得るかを把握しておくことは、被害者対応や従業員の安全管理に関するトラブルの予防や、発生時の初動対応の観点から有益です。また、同種事案で捜査対象とされている被疑者の方やそのご家族にとっても、処罰範囲や判断の枠組みを理解しておくことは、適切な対応方針を検討する上で参考になります。
事案の概要
被告人は、東京都内の開店中の店舗において、膝上丈のスカートを着用した女性客(以下「A」といいます。)の左後方の至近距離に近づき、前かがみになったAのスカートの裾と同程度の高さで、その下半身に向けて小型カメラを構えるなどしました。
原審は、この行為について、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和37年東京都条例第103号。以下「本条例」といいます。)5条1項3号にいう「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たるとして、有罪を認定しました。これに対し、弁護人は、上告しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 被告人の行為が、本条例5条1項3号にいう「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たるか |
| 争点② | 本条例5条1項2号にいう「差し向け」に至らない行為を、同項3号により処罰することが許されるか |
裁判所の判断
争点① 被告人の行為の「卑わいな言動」該当性について
最高裁は、原判決が認定した以下の事実を踏まえて判断を示しました。
| 考慮事実 |
|---|
| 東京都内の開店中の店舗における行為であったこと |
| 被告人が小型カメラを手に持っていたこと |
| 膝上丈のスカートを着用した女性客(A)の左後方の至近距離に近づいたこと |
| 前かがみになったAのスカートの裾と同程度の高さで、その下半身に向けてカメラを構えるなどしたこと |
その上で、最高裁は、次のとおり判示し、被告人の行為が本条例5条1項3号の「卑わいな言動」に当たるとしました。
このような被告人の行為は、Aの立場にある人を著しく羞恥させ、かつ、その人に不安を覚えさせるような行為であって、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作といえるから、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和37年東京都条例第103号)5条1項3号にいう「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たるというべきである。
争点② 本条例5条1項2号と同項3号との関係について
弁護人は、本条例5条1項2号にいう「差し向け」に至らない行為を同項3号に当たるとして処罰することは許されない旨を主張しました。しかし、最高裁は、次のとおり判示し、この主張を退けました。
所論は、同項2号にいう「差し向け」に至らない行為を同項3号に当たるとして処罰することは許されない旨主張するが、そのように解すべき根拠はない。
コメント
1 本判決の意義
本決定の意義は、主に次の点にあると考えられます。
(1)本条例5条1項の規定構造と2号・3号の関係
本条例5条1項は、1号で痴漢型の行為を、2号で盗撮型の行為をそれぞれ類型化して掲げた上で、3号において、1号・2号に該当しない卑わいな言動を広く処罰対象に取り込む構造を採っています。3号は、1号・2号を補完する受け皿的な規定(いわゆるバスケット条項)と位置付けることができます。
本決定は、こうした構造を前提に、2号にいう「差し向け」に至らない行為であっても、当然に3号の対象から外れるわけではなく、3号による処罰が妨げられないことを明らかにしました。2号と3号が別個の処罰規定として機能することが確認された点に意義があります。
(2)先例を踏まえた判断枠組み
「卑わいな言動」に関する先例としては、北海道の迷惑防止条例の「卑わいな言動」該当性が問題となった最三小決平20.11.10刑集62巻10号2853頁,判タ1302号110頁があり、同決定は、「卑わいな言動」とは社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいうとした上で、タイトなズボン越しに女性の臀部を繰り返し撮影した行為について該当性を肯定していました。
本決定は、この定義を踏襲しつつ、カメラを対象者に「差し向ける」までには至らない行為についても「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に該当し得ることを示した、本条例3号の『卑わいな言動』該当性についての2件目の最高裁決定と位置付けられます。
(3)判断の視点と考慮要素
本決定は、行為の場所、被害者との位置関係や距離、被告人がカメラを構えた高さといった外形的な事情を踏まえた上で、被害者の立場に置かれた一般人の感覚を前提に、著しく羞恥させ、かつ不安を覚えさせるような行為といえるかを判断したものと整理できます。加えて、原審(東京高裁令和4年1月12日判決)は、行為者の意図、行為の態様、被害者の服装・姿勢・行動の状況、撮影機器と被害者との位置関係等を総合し、被害者や周辺にいる者の目から見て、衣服に覆われた下着ないし身体を撮影しようとしているのではないかと受け取られる行為は「卑わいな言動」に当たる、との枠組みを示していました。本決定がこれを是認したことで、今後の同種事案において、どのような事情を、どのような視点から評価すべきかを検討する際の参考になります。
(4)下級審で結論が分かれた事案における本決定の位置付け
第1審(東京地裁立川支部令和3年1月15日判決)と原審との間で結論が分かれていた事案について、最高裁が原審の有罪判断を是認した点も実務上重要です。第1審は、撮影された動画に性的意味合いのある身体部位が写っていないこと、撮影回数が少なく被害者が動画に写っている時間も短いこと、被害者を付け狙うなどの執ような行動が見られないこと等を挙げて、本件行為は「人を著しく羞恥させ,人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に該当しないとして無罪を言い渡していました。
これに対し、原審は、衣服で隠されている下着や身体が実際に写っていなかったとしても、そのことだけで「卑わいな言動」への該当性が当然に否定されるわけではないことを示すとともに、撮影の回数や時間の短さ、さらには執ような行為が見られないことも、いずれも「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たらないとする理由にはならない旨を明示しました。
本決定がこの原審の判断を是認したことは、実際に性的部位が撮影されていない事案や、行為の回数・時間が限定的である事案であっても、「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」への該当性が肯定され得ることを示すものと評価することができます。
(5)他の道府県の迷惑防止条例への波及
本決定は東京都条例の解釈に関するものですが、全国の多くの迷惑防止条例も本条例と同様に、1号・2号で具体的な行為類型を例示した上で3号に相当する受け皿規定を置く構造を採っています。そのため、本決定の考え方は、東京都内の事案にとどまらず、他の道府県における類似条項を解釈・運用する上でも参考になると考えられます。複数の都道府県に店舗や事業拠点を展開されている事業者にとっても、留意すべき判断といえます。
2 本判決を踏まえた対応
(1)事業者の観点から
店舗、商業施設、駅構内、エスカレーター、エレベーター内などで同種の行為がなされた場合に備え、従業員への初動対応マニュアルの整備、防犯カメラ映像の取扱い、被害者への声かけや警察への通報の基準、従業員が被害者となった場合の安全配慮義務の履行など、事前の準備が求められます。
特に本件では、被告人が、本体の大部分を黒色ビニールテープで覆うなどして一見して撮影機器とは分かりにくくした小型カメラを用いていた事実が認定されており、用途が容易に判別できない機器を携行している者の存在は、施設内での不審行為を察知する際の手掛かりになり得ます。また、被害者対応においては、二次被害の防止や個人情報の保護にも配慮する必要があります。これらの点は、実際の事案の場面では個別の判断が求められるため、事前に弁護士と相談の上で対応方針を整理しておくことが有益です。
(2)刑事弁護(被疑者・被告人の弁護)の観点から
刑事弁護の観点からは、次の点に留意する必要があります。
ア 処罰範囲の広さと早期の弁護人選任
本決定及び原審の判断は、「人を著しく羞恥させ,人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」の成立範囲が比較的広いことを示しています。実際に下着や身体が撮影されていない場合、撮影時間・回数が短い場合、被害者に対する執ような行動が見られない場合であっても、本要件に該当すると判断され得ることが明らかにされました。したがって、事案が軽微あるいは限定的であることのみを理由として「人を著しく羞恥させ,人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」該当性が当然に否定されるとの想定は採りにくく、身柄拘束や起訴を回避するためにも、被疑事実が判明した段階で早期に弁護人を選任し、対応方針を整理することが重要です。
イ 客観的・外形的事情を踏まえた主張・立証
本決定及び原審が、客観的・外形的事情を踏まえて、被害者や周辺にいる者の視点から評価する枠組みを採用していることに照らすと、弁護活動においては、単に内心面での撮影意図を否認するにとどまらず、行為時の状況(カメラの位置・向き・高さ、被害者との距離、店舗内での動線、被害者の服装・姿勢の状況等)に関する客観的事実を丁寧に整理し、それを踏まえた主張・立証を構築することが重要となります。
ウ 2号・3号の別個性と訴因への対応
本決定が2号と3号を別個の処罰規定と位置付けたことを踏まえると、2号該当性の立証が困難な事案についても、3号での起訴や訴因変更がなされる可能性があります。2号と3号では求められる立証事実や適用される法定刑が異なるため、訴因の選択・変更への対応や、それぞれの構成要件に即した弁護方針の検討が必要です。
エ 量刑面での留意点
量刑面においては、同種前科がある場合には累犯加重の対象となり、再犯防止のための処遇を受けた後に再度同種行為に及んだ事情があるときは、量刑上強く不利に働くおそれがあります(本件でも、原審は求刑10月に対して懲役8月の実刑を言い渡しています)。被害者との示談交渉や、医療機関・カウンセリングの受診など、再犯防止に向けた具体的な取組みを早期に開始することが、量刑上も重要な意味を持ちます。
オ 関連法令との関係
本件のような行為については、本条例違反のみならず、店舗や施設への立ち入り目的によっては建造物侵入罪の成否が問題となり得るほか、令和5年7月に施行された性的姿態等撮影罪(撮影罪)の適用が検討される場合もあります。適用法令の選択や、複数法令が競合的に適用され得る場合の弁護方針についても、事案に応じて検討する必要があります。
おわりに
盗撮や盗撮類似の行為については、事案の具体的内容によって、迷惑防止条例違反のほか、住居侵入罪、建造物侵入罪、令和5年7月に施行された性的姿態等撮影罪(いわゆる撮影罪)などの関係法令が適用の対象となり得ます。本決定及び原審の判断が示すとおり、撮影結果や行為の回数・時間等からみて限定的にみえる行為であっても、捜査や起訴の対象とされる可能性は否定できません。
被疑者として捜査を受ける立場にある方やそのご家族にとって、早期に弁護士にご相談いただくことは、その後の展開を大きく左右します。捜査段階では、身柄拘束からの解放に向けた対応、被害者との示談交渉、取調べへの対応方針の検討などが、起訴・不起訴の判断や処分の軽重に直結します。また、公判に移行する場合においても、客観的事実に即した主張・立証の整理や、再犯防止に向けた具体的な取組みの準備など、早期から着手することで取り得る選択肢が広がります。
当事務所では、迷惑防止条例違反や同種事案に関する被疑者・被告人の弁護をお受けしており、捜査段階から公判段階までの一貫した対応が可能です。ご本人やご家族で不安やお困りごとを抱えていらっしゃる方は、できる限り早い段階で、お気軽にご相談ください。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

