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会計帳簿閲覧謄写請求における競業者拒絶事由(会社法433条2項3号)と子会社との一体性(東京地裁令和3年12月16日判決)

会社法433条1項は、発行済株式の100分の3以上を保有する少数株主に対し、会計帳簿またはこれに関する資料(以下「会計帳簿等」という。)の閲覧・謄写を請求する権利を認めています。この権利は、株主が会社の経営を監督・是正するための手段として機能するものです。

他方、会社法433条2項は、会社が閲覧謄写請求を拒絶できる事由を定めており、その一つが同項3号の「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき」です。競業する事業者に会計帳簿を閲覧させると、会社の経営情報が競業に利用されるおそれがあるため、会社はこれを拒絶できます。

東京地裁令和3年12月16日判決は、閲覧謄写請求をした株主(原告)自身は直接の競業者に当たらないものの、原告が株式の3分の2以上を保有する子会社の事業を通じて被告との競業関係を認定し、拒絶事由を肯定するとともに、閲覧謄写請求の理由の具体性についても詳細な判断が示されており、実務上参考になります。

今回のコラムでは、上記東京地裁判決について、概要を紹介いたします。

 

事案の概要

当事者

 会社名事業内容主な関係者
原告フジファンド株式会社不動産の売買・賃貸・仲介・管理業務等A(代表取締役兼一人株主)。被告の発行済株式の100分の3以上を保有する株主。
被告ユニデンホールディングス株式会社情報通信機器・音響機器等の製造・販売等(上場会社)C(代表取締役)、B(令和3年6月29日就任の代表取締役)

Aは、かつて被告の設立者として昭和41年10月から代表取締役を長年務めてきましたが、令和2年10月30日に退任しています。また、原告は、ユニデン不動産株式会社(以下「ユニデン不動産」という。)の発行済株式の66.7%(3分の2超)を保有しており、Aがユニデン不動産の代表取締役を務めています。

紛争に至る経緯

令和元年から令和2年にかけて、被告の海外子会社(Uniden America Corporation、Uniden Australia Proprietary Limited)において、販売目標を達成するための不適切な売上計上等(以下「UAC社等問題」という。)が発覚しました。被告は、第三者機関による調査を経て訂正報告書を提出しましたが、令和2年・令和3年の内部統制報告書では内部統制が有効でない旨が記載されており、内部統制の不備への対応が継続的な課題となっていました。

また、令和3年6月29日に開催された被告の第56回定時株主総会(以下「本件定時総会」という。)では、被告の取締役CおよびBの再任が議題となりました。Aは、被告の全株主に対してCおよびBの再任議案への反対を呼び掛けており、AとCおよびBとの間で深刻な対立が生じていました。被告は、新型コロナウイルス感染拡大防止を理由として、役員以外の株主の来場を一律禁止する措置を採りました。

なお、被告は、令和3年5月17日、「新ユニデン宣言」と題する文書を公表し、新規不動産事業部の設立や不動産開発事業等に取り組む方針を明らかにしました。そして、被告は、令和3年7月30日、東京都台東区浅草橋の11階建て共同住宅(15室)を取得し、不動産賃貸事業を開始しました(15室中5室稼働中)。

原告の閲覧謄写請求

原告は、令和3年7月9日、被告に対し、会社法433条1項に基づき、以下の2種類の会計書類の閲覧謄写を求める訴訟を提起しました。

閲覧対象閲覧の目的
本件会計書類1(総勘定元帳、現金預金出納帳、契約書・発注書・請求書等)UAC社等問題に係る内部統制の改善・再構築に関して被告が国内外の法律事務所・会計事務所・コンサルティング会社等に支出した費用の状況を確認し、取締役CおよびBの善管注意義務違反の有無を判断するため(本件請求理由1)
本件会計書類2(総勘定元帳、現金預金出納帳、契約書・発注書・請求書等)本件定時総会における会社提案議案の可決を目的とした活動に係り被告が外部専門家等に支出した費用の状況を確認し、取締役CおよびBが自己保身的な再任目的で費用を浪費した善管注意義務違反の有無を判断するため(本件請求理由2)

 

本件の争点

争点① 閲覧謄写請求の理由の具体性

本件請求理由1・本件請求理由2は、会社法433条1項が求める「具体的な請求の理由」として十分な内容を備えているか。

被告は、本件請求理由1については善管注意義務の具体的内容や結果回避可能性を基礎付ける事実の記載がなく、本件請求理由2については自己保身的な再任目的で行った行為の存在またはこれを疑わせる根拠の記載がないとして、いずれも具体性を欠くと主張しました。

争点② 請求理由と閲覧対象書類との関連性

本件請求理由と、原告が閲覧謄写を求める各会計書類との間に、必要な関連性が認められるか。

被告は、CおよびBの善管注意義務違反を認める余地はなく、被告の対応状況は公開情報から既に明らかになっているなどとして、閲覧対象書類との関連性を否定しました。

争点③ 競業者拒絶事由の成否(会社法433条2項3号)

会社法433条2項3号は、「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するもの」であることを拒絶事由として規定しています。本件において、原告が同号の競業者に該当し、被告は閲覧謄写請求を拒絶できるか。

原告は、閲覧を求める会計書類を本件定時総会会日(令和3年6月29日)以前のものに限定した上で、被告はその時点では不動産業に着手していなかったから競業関係はないと主張しました。

 

裁判所の判断

争点①・②について(請求理由の具体性・関連性)

裁判所は、会計帳簿等の閲覧謄写制度の趣旨について、次のとおり示しました。

「会社法433条が規定する会計帳簿等の閲覧謄写の制度は,株主が,株式会社に対して有する当該株式会社の経営の監督,是正を目的とする権利を確保し,これを適切に行使することができるよう,当該株式会社の経理の状況に関する正確な情報を入手することができるようにする趣旨に出たものと解される。」

その上で、裁判所は、本件各請求理由には具体性に欠けるところはなく、各会計書類との関連性も認められると判断しました。被告主張のような事実まで原告が明らかにしなければならないとすることは、上記趣旨を損なうおそれがあり、会社法433条の予定するところではないとされました。

 

争点③について(競業者拒絶事由の成否)

裁判所は、争点③を決定的なものとして、以下のとおり判断し、原告の請求を棄却しました。

(1)判断基準

裁判所は、まず競業拒絶事由の判断基準について、次のとおり示しました。

「株式会社の会計帳簿等の閲覧謄写請求をした株主につき同号に規定する拒絶事由があるというためには,当該株主が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営む者であるなどの客観的事実が認められれば足りると解するのが相当である。」

すなわち、裁判所は、請求株主が競業情報を利用しようとする主観的意図の有無を問わず、競業関係という客観的事実が認められれば拒絶事由が成立するとの立場を明らかにしました。

(2)競業関係の認定

裁判所は、以下の事実を認定しました。

  • ・被告は、令和3年7月30日に浅草橋の共同住宅を取得し、不動産賃貸事業を現に営んでいる
  • ・原告は、不動産事業を目的とし、ユニデン不動産の発行済株式の66.7%(3分の2超)を保有している
  • ・ユニデン不動産の代表取締役は、原告の一人株主兼代表取締役であるAである

これらを踏まえ、裁判所は次のとおり判示しました。

「被告は,不動産事業を現に営んでいるものというべきであるところ,ユニデン不動産の株式の3分の2以上を保有する原告も,ユニデン不動産(その代表取締役は,原告の一人株主兼代表取締役であるAである。)と一体となって不動産事業を現に営んでいるものというべきである。そうすると,本件各会計書類の閲覧謄写請求をした原告については,被告の業務と実質的に競争関係にある事業を営む者であるということができるから,会社法433条2項3号の拒絶事由があるというべきである。」

原告が直接不動産事業を営んでいるかどうかにとどまらず、原告が支配するユニデン不動産の事業を含めて評価した上で、競業関係を肯定したものです。

(3)閲覧対象書類の期間限定による競業拒絶事由の回避という主張の排斥

原告は、閲覧対象書類を競業開始以前の期間に限定することで、競業拒絶事由の適用を否定しようとしました。しかし、裁判所は、次のとおり判示してこの主張を退けました。

「会計帳簿等に記載される情報の種類や内容等には様々なものがあり得,かつ,その利用の方法も多岐にわたり得ること,株主の閲覧謄写請求の対象となった会計帳簿等の作成時点において株式会社が当該株主の業務と実質的に競争関係にある事業を営んでいなかったとしても,現時点において当該株主と当該株式会社の間に会社法433条2項3号の規定が前提とする実質的な競争関係が存在する以上,会計帳簿等の閲覧謄写によって得られた情報が競業に利用される危険性は否定できないこと等に鑑みれば,原告主張の上記事情によって,上記(3)における判断が左右されるものとはいえない。」

 

コメント

判断基準について

本判決は、会社法433条2項3号の拒絶事由の成立には、請求株主が当該会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営んでいるという客観的事実が認められれば足り、主観的な情報利用の意図は不要であることを確認しました。

この考え方は、最高裁平成21年1月15日第一小法廷決定(民集63巻1号1頁,判タ1288号61頁)が、旧商法293条の7第2号(会社法433条2項3号に相当する規定)について示した判断枠組みと同じ方向性に立つものです。

子会社との「一体性」による競業関係の認定

本判決で注目される点は、請求株主(原告)自身ではなく、原告が株式の3分の2以上を保有する子会社(ユニデン不動産)の事業を通じて競業関係を認定したことです。裁判所が一体性を認めた背景には、原告がユニデン不動産の発行済株式の3分の2以上を保有しており、株主総会における特別決議を単独で成立させ得る立場にあったことが、一体性を裏付ける要素の一つとして位置付けられているものと考えられます。また、ユニデン不動産の代表取締役が、原告の代表取締役兼一人株主であるAと同一人物であることも、両者の一体性を示す事情として機能しています。

「実質的に競争関係にある事業」の判断手法

会社法433条2項3号にいう「実質的に競争関係にある事業」の認定において、本判決が着目した事実は多層的です。裁判所は、被告が浅草橋の共同住宅を現に取得して賃貸事業を開始しているという現時点の事業実態を認定するとともに、「新ユニデン宣言」における不動産事業部の設立方針や不動産開発事業への参入計画にも言及しています。

このように、本判決は、定款の目的欄に同種の事業が記載されているかという形式的な対比ではなく、実際の事業活動の有無、公表された経営方針、取得資産の具体的内容といった事実を積み上げて競業関係を認定しており、単なる事業目的の重複ではなく市場における現実の競合可能性を問う判断手法を採用したものと評価できます。

帳簿の作成時点を限定する主張の排斥

原告は、閲覧対象書類の期間を競業開始以前に限定することで、競業拒絶事由の適用を免れようとしました。しかし、裁判所は、帳簿の作成時点において競業関係がなかったとしても、請求時点において実質的な競争関係が存在する以上、閲覧謄写によって取得した情報が将来の競業に利用される危険性は否定できないとして、この主張を退けました。

この判断は、会計帳簿に記載された情報は過去の取引先・仕入先・価格体系・原価構造といった経営の中核に関わるものであり、帳簿の作成時期にかかわらず競業者に対して有用な情報足り得るという、帳簿情報の性質に根ざした考え方に基づくものです。請求対象の期間を限定するだけでは拒絶事由を回避できないという点は、閲覧謄写請求を行う株主にとって実務上重要な留意点です。

企業に求められる対応

会計帳簿等の閲覧謄写請求を受けた場合、競業拒絶事由の該当性を検討するにあたっては、請求株主自身の事業内容に加え、請求株主が株式を保有する関連会社の事業内容も確認することが必要です。請求株主自身が直接競業事業を営んでいない場合であっても、請求株主が実質的に支配する子会社等が競業事業を営んでいるときは、両者の一体性が認められて拒絶事由が肯定される可能性があります。拒絶事由の判断にあたっては、株式保有割合、役員の兼任関係、実際の事業内容等の具体的な事実を丁寧に確認することが求められます。

他方、閲覧謄写請求を検討する株主側の立場からは、自社または関連会社の事業が請求先会社の事業と重複する場合、競業拒絶事由が認められるリスクを十分に見極めた上で、請求の可否および方法を慎重に検討することが重要です。なお、請求対象書類の作成期間を限定しても、現時点において実質的な競争関係が存在する以上、これによって拒絶事由の適用を免れることはできない点にも留意が必要です。

 

本コラムは一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の法律問題についての法的助言ではありません。具体的な問題については、本ウェブサイト右上のお問い合わせフォームよりご連絡ください。