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医療系アニメーション制作における著作権の帰属と著作者人格権侵害(知財高裁令和6年3月28日判決)

企業が外部のクリエイターに映像制作を委託する場面は、近年ますます増加しています。医療分野においても、疾患の啓発や患者教育のためにアニメーション映像が活用されるケースが広がっています。

しかし、映像制作の委託にあたっては、完成した映像の著作権が誰に帰属するのか、クリエイターの氏名表示をどのように扱うべきかといった著作権上の問題が生じ得ます。これらの点について適切な取決めをしておかなければ、後に深刻な紛争に発展する可能性があります。

今回のコラムでは、医療系アニメーション映像の制作委託をめぐり、著作権の帰属や著作者人格権(氏名表示権)の侵害が争われた知財高裁令和6年3月28日判決(令和5年(ネ)第10045号)を取り上げ、その判断内容と企業実務への示唆を解説します。

上記知財高裁判決は、著作者や映画制作者の認定について、原審と異なる判示をしており、実務上参考となります。

事案の概要

本件は、てんかん発作を一般の方に正しく理解してもらうことを目的として制作された医療系アニメーション映像をめぐる著作権紛争です。

控訴人(映像クリエイター)は、被控訴人(出版社)との業務委託契約に基づき、てんかん発作の13症例に関するアニメーション映像(本件映像)を制作しました。本件映像は、書籍の付属DVDに収録される形で出版されました。

その後、被控訴人は、控訴人の氏名や屋号を著作者として表示することなく、本件映像の一部をYouTube上で公開しました。この公開は約3年4か月にわたり、再生回数は160万回以上に達しました。

控訴人は、被控訴人の行為が著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害するものであると主張し、損害賠償を請求しました。

原審(第一審)は、著作権侵害に基づく請求を棄却した上で、氏名表示権侵害に基づく慰謝料等として55万円の支払を命じました。控訴人がこれを不服として控訴したのが本件です。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点の内容
争点①本件映像の著作物性及び「映画の著作物」該当性
争点②本件映像の著作者は誰か
争点③本件映像の著作権者は誰か(著作権法29条1項の適用)
争点④著作権法29条1項の適用の可否(※裁判所は判断せず)
争点⑤著作者名の表示の省略の可否(氏名表示権侵害の成否)
争点⑥故意又は過失の有無
争点⑦損害の有無及びその額

裁判所の判断

争点① 本件映像の著作物性及び「映画の著作物」該当性について

裁判所は、本件映像が著作物であり、かつ「映画の著作物」(著作権法10条1項7号)に該当すると判断しました。

裁判所は、本件映像の制作にあたって、登場人物の体格、人相、着衣、発作前後の動作、所在する場所、背景となる造作や家具、人物を捉える方向や画角等について表現の選択がなされていることを認定し、以下のとおり判示しました。

「このような本件映像は、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で作成されたものであり、かつ、思想又は感情を創作的に表現したものであると認められる。」

被控訴人は、本件映像を構成する各要素(発作を起こすキャラクター、キャラクターのデザイン、背景等、ナレーション)がいずれも創作性を有さないと主張しましたが、裁判所は、本件映像を全体として見れば創作的表現であると認められるとして、この主張を退けました。

争点② 本件映像の著作者について

裁判所は、本件映像の著作者は控訴人(映像クリエイター)であると判断しました。

著作権法16条は、映画の著作物の著作者について、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」と規定しています。

まず、控訴人の関与について、裁判所は以下のとおり判示しました。

「控訴人は、本件映像の制作に当たり、絵コンテ、レイアウト、背景、原画及び動画の各作成並びに彩色、撮影、音響及び編集の各作業を自ら行い、又はその一部を他の業者に委託した上で、これらの業者に対する指示を行っている。そして、本件映像に描写されている人物の体格、人相、着衣、発作前後の動作、所在する場所、背景となる造作や家具、人物を捉える方向や画角については、視聴者がてんかん発作として見られる特徴的な動きに集中できるように選択がされているものと認められ、これらの創作的な表現は、控訴人の上記各作業によって作出されたものといえる。」

次に、A医師の関与について、裁判所は以下のとおり判示しました。

「A医師の関与は、全体として見れば、控訴人に対するてんかんに関する情報提供や、本件映像を医学的に誤りのない内容にするための確認がほとんどであり、それらは本件映像の制作を監修する立場からの助言若しくはアイデアの提供というべきものであって、本件映像の具体的表現を創作したものとは認められず、A医師が本件映像の制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与したとはいえない。」

また、被控訴人(出版社)の関与について、裁判所は以下のとおり判示しました。

「被控訴人代表者であるB'は、控訴人が作成したナレーション原稿の草案及び字幕の修正や、本件書籍の内容との整合性の確認、本件映像に用いられているフォントやメニュー画面の指示を行っているが、本件映像の制作について上記以外の関与をしたとは認められない。」

さらに、C医師及びD医師の関与について、裁判所は以下のとおり判示しました。

「C医師及びD医師は、本件映像の制作過程において、一部の症例について、控訴人の作成した絵コンテやラフ原画を見て、てんかん発作の動きが医学的に正確に表現されているかを確認し、A医師を介して修正指示をしたにとどまる。」

以上を踏まえ、裁判所は、本件映像の全体的形成に創作的に寄与した者は控訴人であり、A医師、被控訴人、C医師及びD医師はこれに当たらないと結論づけました。

争点③ 本件映像の著作権者について

裁判所は、本件映像の著作権は、映画製作者である被控訴人(出版社)に帰属すると判断しました。控訴人は著作者ではあるものの、著作権者ではないと認定されました。

著作権法29条1項は、「映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する」と規定しています。また、「映画製作者」とは、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(同法2条1項10号)です。

裁判所は、「映画製作者」の意義について以下のとおり判示しました。

「『映画製作者』とは、映画の著作物を製作する意思を有し、同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解するのが相当である。」

その上で、裁判所は以下の事実を考慮し、被控訴人が映画製作者であると認定しました。

考慮事実内容
委託契約の当事者控訴人との間で映像制作に関する委託契約を締結したのは被控訴人である
対価支払義務の帰属控訴人に対して委託契約の対価を支払う義務を負っていたのは被控訴人である
書籍の出版主体DVDを付属物とした書籍を出版したのは被控訴人である
費用負担のリスク購入先を確保できない事態が生じた場合に最終的に不足分の費用を負担すべき立場にあったのは被控訴人である

一方で、裁判所は、控訴人が映画製作者に該当する余地はないと明確に判示しました。

「控訴人が本件映像の制作に係る業務を中心的に行ったこと、A医師や被控訴人が上記業務に関与した程度が低いことをもって、『映画の著作物を製作する意思を有し、同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者』が控訴人であると認められることにはならない。」

争点⑤ 著作者名の表示の省略の可否について

裁判所は、被控訴人が本件映像に係る控訴人の氏名表示権を侵害したと判断しました。著作者である控訴人の氏名の表示を省略することが可能であったと解すべき根拠となる事実はないと認定しました。

争点⑥ 故意又は過失の有無について

裁判所は、氏名表示権の侵害について、少なくとも被控訴人に過失があったと認定しました。

争点⑦ 損害の有無及びその額について

裁判所は、損害額を以下のとおり認定しました。

損害項目金額備考
著作権侵害による損害認められず著作権は被控訴人に帰属するため
氏名表示権侵害による慰謝料80万円原審の50万円から増額
弁護士費用8万円
合計88万円遅延損害金の起算日は令和2年12月22日(公開停止日)

慰謝料の増額にあたっては、以下の事情が考慮されました。

考慮事情内容
公開期間約3年4か月の長期にわたるYouTubeでの公開
再生回数160万回以上
訴訟対応出版社として著作権者の表示をしていたにもかかわらず著作物性を争った対応

コメント

1. 本判決の意義

本判決は、医療系アニメーション映像という比較的新しい類型の映像コンテンツについて、「映画の著作物」該当性、著作者の認定、著作権法29条1項に基づく著作権の帰属を体系的に判断した裁判例です。

(1) 著作者と著作権者の区別

映像の全体的形成に創作的に寄与した者(著作者)と、製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体(映画製作者=著作権者)とは、別の概念です。制作業務を中心的に担ったクリエイターであっても、業務委託契約の構造上、著作権法29条1項の適用により著作権は映画製作者である発注者側に帰属し得ます。

(2) 監修者の著作者該当性に関する原審と控訴審の判断の相違

医学的な監修や助言を行った専門家(本件ではA医師)の関与について、著作者該当性の判断が原審と控訴審で分かれました。

原審(東京地裁令和5年8月30日判決)は、A医師について、症例の選択・順序の決定、人物の性別・年齢・着衣・角度等の指示、完成判断を行ったことを重視し、「少なくとも本件映像の制作を担当して、その全体的形成に創作的に寄与した者」と認定しました。その結果、原審は、本件映像をクリエイターとA医師の共同著作物と判断しました。

これに対し、本判決(控訴審)は、A医師の関与を「監修する立場からの助言若しくはアイデアの提供」と位置づけ、A医師は著作者に該当しないと判断しました。控訴審は、A医師が多数の症例について個別具体的な指示を控訴人に伝えたとは認められないこと、A医師の確認は医学的見地からの正確性の確認が中心であったことを指摘しています。

知財高裁が認定した各関係者の関与と著作者該当性を整理すると、以下のとおりです。

関係者関与の内容著作者該当性
控訴人(クリエイター)絵コンテ、レイアウト、背景、原画、動画の作成、彩色、撮影、音響、編集の各作業を自ら行い、又は一部を他の業者に委託し指示を行った該当する
A医師てんかんに関する情報提供、13症例の選択・順序の決定、医学的正確性の確認・修正意見該当しない
被控訴人(出版社)ナレーション原稿・字幕の修正、書籍との整合性確認、フォント・メニュー画面の指示該当しない
C医師・D医師一部の症例について絵コンテ等の医学的正確性の確認該当しない

この原審と控訴審の判断の相違は、監修者の関与がどの程度であれば「創作的寄与」と評価されるかの境界線を考える上で、実務上の参考となります。控訴審の判断に従えば、専門的な知見に基づく情報提供や医学的正確性の確認は、それ自体が映像の具体的表現を創作する行為とは評価されず、「監修」の範疇にとどまるものと整理されます。

(3) 映画製作者の認定に関する原審と控訴審の判断の相違

映画製作者(著作権者)の認定についても、原審と控訴審で判断が分かれました。

原審は、A医師が製薬会社等への営業活動を通じて制作費を調達し、書籍が期待どおりに販売できるか否かのリスクを専ら負担していたことを重視し、A医師を映画製作者と認定しました。原審は、被控訴人(出版社)についても映画製作者には該当しないと判断しています。

これに対し、本判決(控訴審)は、A医師と被控訴人との間で不足分の費用をA医師が負担するとの合意が成立したとは認められないと指摘した上で、控訴人との間で制作委託契約を締結し、対価の支払義務を負っていた被控訴人こそが、製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であると判断しました。

この判断の相違は、映画製作者の認定において、事実上の経済的リスク負担よりも、法律上の権利義務の帰属構造が重視されることを示唆しています。企業が映像制作を委託する際に、契約上の権利義務関係をどのように設計するかが、著作権の帰属を左右し得ることを意味します。

(4) 著作権と著作者人格権の区別

著作権の帰属が発注者側に認められた場合であっても、著作者人格権(氏名表示権)はクリエイター個人に帰属し続けるため、クリエイターの氏名を表示せずに映像を公開する行為は、氏名表示権の侵害を構成します。著作権と著作者人格権は別個の権利であり、著作権を有していることが著作者人格権の侵害を正当化するものではありません。

2. 企業等に求められる対応

本判決を踏まえ、映像コンテンツの制作を外部に委託する企業は、以下の対応を検討する必要があります。

(1) 契約書面による権利関係の明確化

映像制作の委託にあたっては、著作権及び著作者人格権の取扱いについて、契約書面で明確に取り決めておくことが必要です。特に、著作権の帰属、二次利用の範囲、著作者の氏名表示の方法について、具体的な条項を設けることが重要です。

本判決が示すとおり、映画製作者の認定においては、事実上の経済的リスク負担よりも、契約上の法律上の権利義務の帰属構造が重視されます。制作費の支払義務を誰が負うのか、制作委託契約の当事者は誰か、といった契約上の権利義務関係を明確にしておくことが、著作権の帰属をめぐる紛争を予防する上で有効です。

(2) 著作者人格権への配慮

著作権法上、著作者人格権は著作者の一身に専属する権利であり、譲渡することができません(著作権法59条)。本判決が示すとおり、著作権が発注者側に帰属する場合であっても、著作者の氏名表示権は依然としてクリエイターに帰属します。

したがって、映像コンテンツを公開・利用する際には、クリエイターの氏名表示の要否及び方法について、事前に合意しておくことが必要です。著作者人格権の不行使特約を契約に含める場合であっても、その範囲や条件を明確に定めることが望ましいといえます。

(3) フリーランス・事業者間取引適正化等法への対応

個人のクリエイターに映像制作を委託する場合、令和6年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の適用を受ける可能性があります。同法は、業務委託の際に取引条件を書面等で明示することを発注事業者に義務づけています。

また、経済産業省(中小企業庁)が策定した「アニメーション制作業界における取引適正化のガイドライン」では、著作権の帰属や二次利用に対する対価について、発注書面等に明示し、協議して決定する必要があることが規定されています。著作権等の知的財産権を無償で譲渡するよう要請した場合には、取適法(旧下請法)上の「不当な経済上の利益提供要請」に該当するおそれがあるとされています。

(4) 監修者の役割と権利関係の整理

本判決は、医学的な監修者の関与について、著作者には該当しないと判断しました。しかし、原審では同じ事実関係の下で監修者を共同著作者と認定しており、監修者の関与が「創作的寄与」に当たるか否かの境界は必ずしも明確ではありません。

監修者の関与の態様や程度によっては、共同著作者と認定される可能性も否定できず、その場合には、著作者人格権の行使に共同著作者全員の合意が必要となる(著作権法64条1項)など、権利関係がさらに複雑化します。監修者との間でも、その役割の範囲、権利関係及び氏名表示の取扱いについて、書面で明確に取り決めておくことが望ましいといえます。

おわりに

当事務所は、著作権をはじめとした知的財産権に関するご相談・ご依頼に幅広く対応しております。また、クリエイターの方に向けた伴奏型の顧問契約サービスについても承っております。

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本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。