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ゲーム開発の業務委託契約と戦闘アニメーション動画等の著作権の帰属(知財高裁令和5年11月28日判決)

ゲーム開発をはじめとするソフトウェア開発の現場では、外部のクリエイターやエンジニアに業務を委託することが一般的に行われています。このとき、開発の過程で生まれる著作物の著作権が誰に帰属するのかは、委託者・受託者の双方にとって重要な問題です。

今回のコラムでは、戦闘ゲームの開発業務を受託した個人クリエイターが、自らが制作した戦闘アニメーション動画等の著作権の帰属等を争った知財高裁令和5年11月28日判決(令和5年(ネ)第10064号)を取り上げ、その概要と実務上のポイントを解説します。

上記知財高裁判決は、業務委託契約における著作権移転条項の「成果物」の範囲(未完成の成果物も含まれるか)、成果物の「引渡し」の認定方法(貸与PCの返却やデータ共有サーバへのアップロードが引渡しに該当するか)、包括的な基本契約の下で行われた業務が契約の対象に含まれるかといった点について判断を示したものであり、ソフトウェア開発やコンテンツ制作の業務委託契約を締結・運用する企業の実務担当者にとって参考になる裁判例です。

事案の概要

本件は、以下のような経緯で紛争に至った事案です。

原告(控訴人)は、テレビゲームの開発業務を行う個人事業者です。原告は、もともと被告(被控訴人)であるゲームソフト開発会社(以下「被告トーセ」といいます。)に契約社員として在籍していましたが、平成21年5月31日に退職し、同年6月1日、被告トーセとの間で業務委託契約(以下「本件業務委託契約」といいます。)を締結しました。

本件業務委託契約には、以下のような条項が含まれていました。

条項内容
第1条(目的)被告トーセは、コンピューターソフトの開発業務を原告に委託する
第2条(製作)原告は、被告トーセからそのつど個別に発行される発注書の仕様、日程等に従って業務を行う
第5条(納入)原告は、発注書に定める納期に成果物を被告トーセの指定する場所に納入する
第7条第1項(著作権の移転)成果物及びその関連資料等の著作権は、第5条に規定する成果物の引渡完了をもって原告から被告トーセに移転する
第7条第3項(著作者人格権の不行使)原告は、成果物の著作者人格権を被告トーセ及び被告トーセが指定する第三者に対する関係で放棄する
第8条(対価)被告トーセは、発注書に定める作業委託料を支払う

原告は、本件業務委託契約に基づき、被告トーセが被告バンダイナムコエンターテインメント(以下「被告バンダイナムコ」といいます。)のグループ会社から受注した戦闘ゲームソフトの開発に参加し、戦闘アニメーション動画(以下「本件各動画」といいます。)を制作しました。その後、平成22年12月末頃に本件業務委託契約は合意により終了しました。

被告トーセは、本件ゲームソフト及びその派生ソフトを完成させ、被告バンダイナムコがこれらを販売しました。

原告は、本件各動画に係る著作権は本件業務委託契約の対象外の追加業務として制作したものであるから原告に帰属するなどと主張し、被告らに対して、著作権侵害に基づく損害賠償、仕様書等の無断利用に係る不当利得返還、著作者人格権侵害に基づく損害賠償を求めて提訴しました。

原審(東京地裁令和5年5月31日判決)は、原告の請求を全部棄却し、原告がこれを不服として控訴したのが本件です。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点の内容
争点①本件各動画の著作物性
争点②本件各動画に係る原告の著作者性
争点③本件業務委託契約に基づく本件各動画に係る著作権の移転
争点④本件各動画の無断使用に係る損害又は利得の額
争点⑤本件成果物の無断利用に係る不当利得の成否
争点⑥本件成果物の無断利用に係る利得の額
争点⑦本件ソフトに係る原告の著作者性
争点⑧被告トーセによる本件ソフトの公衆への提供又は提示
争点⑨著作者人格権の不行使の合意
争点⑩氏名表示の省略
争点⑪著作者人格権の侵害に係る損害の額

本判決は、事案の性質に鑑み、争点③及び⑨、争点⑤を中心に判断し、その他の争点(争点①②④⑥⑦⑧⑩⑪)については判断するまでもなく請求に理由がないとしました。

裁判所の判断

争点③ 業務委託契約に基づく著作権の移転について

裁判所は、本件業務委託契約第7条の「成果物」の範囲と引渡しの有無について、以下のとおり判断しました。

(1)「成果物」の範囲 ―未完成の成果物も含まれるか―

裁判所は、本件業務委託契約第7条の「成果物」には、完成の程度を問わず、業務の遂行の結果制作されたもの全てが含まれると判断しました。

「本件業務委託契約第7条の規定によりその著作権を移転し、又は著作者人格権を行使させない対象となる「成果物」には、原告による本件業務の遂行の結果製作され、被告トーセに納入されるべき物全てが、その完成の程度いかんにかかわらず含まれると解するのが相当である。」

裁判所がこのように判断した理由は、以下の点にあります。

考慮事実内容
著作権等の発生可能性成果物は、その完成の程度にかかわらず、著作権又は著作者人格権が生じる可能性がある
第7条の文言第7条の文言上、成果物の程度について限定は付されていない
除外の合理性の欠如被告トーセに納入されるべき成果物のうちから一定範囲の物を除外すべき合理的理由が見当たらない

(2)成果物の「引渡し」の有無

裁判所は、成果物の引渡しの方法と原告による引渡しの事実について、以下のとおり認定しました。

まず、引渡しの方法について、裁判所は、次のように判示しました。

「被告トーセにおいては、パソコン(被告トーセが業務受託者に貸与したもの)に成果物を格納したままの状態で当該パソコンを返却することをもって、当該成果物の納入とするとの扱いがされていた」

「本件業務委託契約第7条第1項にいう「第5条に規定する成果物の引渡」とは、被告トーセが管理する共有サーバに成果物をアップロードすること又は被告トーセから貸与を受けていたパソコンに成果物を格納したままの状態で当該パソコンを被告トーセに返却することのいずれかを指すものと解するのが相当である。」

次に、引渡しの事実について、裁判所は、以下のとおり判示し、遅くとも本件業務委託契約の終了時(平成22年12月末頃)には成果物の引渡しがされたと認定しました。

「原告は、「原告は、本件業務委託契約の終了の際、原告が作業をして製作したデータ等を原告が使用していたパソコンに格納した上、当該パソコンを被告トーセに返却し、また、当該データ等を開発スタッフの作業用のデータ共有サーバに保管した」旨主張する。原告が当該「原告が作業をして製作したデータ等」から特に本件各動画(未完成のものも含む。)を除いて引き渡したとの事情はうかがわれない。そうすると、原告は、本件各動画について、遅くとも本件業務委託契約の終了時(平成22年12月末頃)には、「第5条に規定する成果物の引渡」をしたものと認めるのが相当である。」

(3)原告の主張に対する判断

ア 「追加業務」の主張について

原告は、本件各動画は本件業務委託契約の対象外の追加業務として制作されたものであるから、第7条の適用はないと主張しました。

しかし、裁判所は、以下の理由からこの主張を退けました。

考慮事実内容
業務の形式的該当性本件各動画は、コンピューターソフトの開発過程で制作されたものであり、少なくとも形式的には本件業務委託契約第1条の「コンピューターソフトの開発業務」の成果物に該当する
追加業務合意の証拠の不存在本件業務委託契約とは別に追加業務に係る業務委託契約を締結する旨の合意があったことを認めるに足りる証拠がない
契約の包括的性質本件業務委託契約の各条項(第2条、第5条、第8条)の内容に照らすと、同契約はコンピューターソフトの開発業務に係る包括的な基本契約としての性質を有している

イ 成果物の引渡しがされていないとの主張について

原告は、(i) 引渡場所を聞かされていない、(ii) データを特定の場所に移す行為をしていない、(iii) 業務の引継ぎをしなかった、(iv) 「成果物」の意義が曖昧で何を納入すればよいかわからなかった、(v) 未完成の成果物を引き渡すことはあり得ないとして、引渡しの事実を争いました。

しかし、裁判所は、これらの主張をいずれも退けました。特に、裁判所は、原告の主張の矛盾を以下のように指摘しました。

「原告は、本件訴訟において、被告トーセが本件各動画を使用し本件ソフト等を完成させた旨主張しており、他方で、被告トーセが本件各動画を窃取するなどしてこれを不正に入手したなどの主張をしていないのであるから、原告が被告トーセに対し本件各動画の引渡しをしていない旨の原告の主張は、自己矛盾の主張であるといわざるを得ない。」

争点⑨ 著作者人格権の不行使の合意について

裁判所は、争点③と同様の理由から、本件各動画及び本件ソフトは本件業務委託契約に基づく成果物に該当し、本件業務委託契約第7条第3項の約定により、原告は、被告トーセとの間で、著作者人格権を行使しない旨の合意をしたものと認定しました。

争点⑤ 仕様書等の無断利用に係る不当利得の成否について

原告は、自らが作成した戦闘の仕様書、指示書等の成果物(本件成果物)を被告トーセが無断で利用したとして、不当利得返還を求めました。

裁判所は、以下のとおり判断し、この請求も退けました。

「仮に、原告が本件ソフトの開発業務又は製作業務に関与する過程で本件ソフトにおける戦闘の仕様、ゲームの仕組み等に関する仕様書、指示書等の本件成果物を作成し、これらを被告トーセに引き渡し、被告トーセにおいてこれらを利用したとしても、(中略)本件成果物はいずれも本件業務委託契約に基づく業務の一環として原告から被告トーセに対し提供されたものであることが推認されるというべきである。すなわち、被告トーセによる当該利用が法律上の原因なくされたものであるとはにわかに認めることはできず、これを認めるに足りる的確な証拠はない」

結論

裁判所は、原告の請求をいずれも理由がないとして、原審判決を維持し、控訴を棄却しました。

コメント

1. 本判決の意義

本判決は、ソフトウェア開発の業務委託契約における著作権の帰属について、以下の点を明確にしたものです。

第一に、業務委託契約上の「成果物」の著作権移転条項は、成果物の完成の程度を問わず適用されるということです。制作途中のデータや未完成の著作物であっても、業務の遂行の結果として制作され、委託者に納入されるべきものであれば、契約上の著作権移転の対象となります。

第二に、成果物の「引渡し」は、必ずしも明示的な納品行為を要しないということです。本判決では、貸与PCへのデータ格納やデータ共有サーバへのアップロードも引渡しに該当すると認定されました。ソフトウェア開発の実態に即した柔軟な解釈がされています。

第三に、包括的な基本契約の下で行われた業務の成果物は、受託者が「追加業務」であると認識していたとしても、別途の合意が立証されない限り、当該基本契約の適用を受けるということです。

2. 原審の判断から得られる示唆

本判決の原審(東京地裁令和5年5月31日判決)は、知財高裁が判断しなかった争点についても判断しており、実務上の示唆を含んでいます。

(1)多重委託構造における著作権法29条1項の「参加約束」

原審は、ゲームソフトが「映画の著作物」に該当する場合の著作権法29条1項の「参加約束」について判断しました。同条項は、映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属する旨を定めていますが、原審は、参加約束は映画製作者に対して直接される必要はなく、映画の製作に参加しているとの認識の下で実際に製作に参加していれば、黙示の参加約束が認められると判示しました。

本件では、原告は被告トーセとの間で業務委託契約を締結していたにすぎず、映画製作者である被告バンダイナムコとの間に直接の契約関係はありませんでした。しかし、原審は、原告が被告バンダイナムコを製作者とするゲームソフトの製作に携わるとの認識の下で製作に参加していたことをもって、被告バンダイナムコに対する黙示の参加約束を認定しました。

この判断は、ゲーム開発においてしばしば見られるパブリッシャー(映画製作者)→ 開発会社 → 外部クリエイターという多重委託構造において、外部クリエイターが制作した著作物の著作権が、契約条項によるだけでなく、著作権法29条1項の適用によっても映画製作者に帰属し得ることを示しています。

外部クリエイターとして業務を受託する際には、自らが制作する著作物がどのような作品の一部として利用されるのかを把握し、その著作権の帰属について理解しておくことが重要です。

(2)追加報酬の合意と著作権移転条項の効力は別問題であること

原審は、仮に追加業務について追加報酬を支払う旨の合意があったとしても、それは注文書に記載する業務内容と注文金額を定めて本件業務委託契約の内容を具体化するものにすぎず、成果物の著作権帰属について本件業務委託契約第7条の効力を排除する合意とはいえないと判断しました。

この判断は、報酬に関する追加の交渉や合意があったとしても、それだけでは著作権の帰属に関する契約条項の効力には影響しないことを意味します。受託者の立場からは、追加業務が発生した際に、報酬の交渉とあわせて、成果物の著作権帰属についても明示的に取り決めておくことの重要性を示す判断といえます。

3. 企業等に求められる対応

本判決及び原審の判断を踏まえ、業務委託を行う企業及び業務を受託するクリエイターの双方において、以下の対応が求められます。

(1)委託者(発注者)側の対応

対応事項内容
著作権の帰属に関する条項を明確に定める業務委託契約において、成果物の著作権が委託者に移転する旨の条項を設ける場合には、「成果物」の定義、著作権移転の時期、対象となる権利の範囲(著作権法第27条及び第28条の権利を含むか否か)を明確に規定することが重要です。なお、著作権法第61条第2項は、著作権の譲渡契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定する旨を規定しています。
成果物の納入方法を具体的に定める成果物の納入場所、納入方法を契約書に具体的に記載し、引渡しの有無をめぐる紛争を予防することが望まれます。
業務範囲の変更があった場合には書面で合意する当初の業務範囲を超える追加業務が発生した場合には、覚書等の書面により、その業務内容、報酬、成果物の権利帰属について明確に合意しておくことが重要です。

(2)受託者(クリエイター)側の対応

対応事項内容
契約締結前に著作権の帰属条項を十分に確認する業務委託契約を締結する前に、成果物の著作権が自動的に委託者に移転する条項が含まれていないかを確認し、必要に応じて条件交渉を行うことが重要です。
追加業務が発生した場合には報酬だけでなく権利帰属についても書面で合意する本判決及び原審では、追加業務に関する別途の合意の存在が立証できなかったことが原告にとって不利に作用しました。また、原審が示したとおり、追加報酬の合意があったとしても、それだけでは著作権移転条項の効力は排除されません。追加業務が発生した場合には、報酬の取決めとあわせて、成果物の権利帰属についても、口頭の約束にとどめず、書面(メールを含みます。)で合意内容を残しておくことが不可欠です。
著作者人格権の不行使条項についても注意する本判決では、著作者人格権を「不行使」する旨の条項の効力も認められています。このような条項に同意する場合には、その意味を十分に理解した上で判断する必要があります。
多重委託構造における著作権法29条1項の適用に留意するゲーム開発等において、パブリッシャーとの間に直接の契約関係がない場合であっても、著作権法29条1項の「参加約束」が認められ、著作権が映画製作者に帰属する可能性があります。自らの成果物がどのような作品に組み込まれるのかを把握し、著作権の帰属について事前に確認しておくことが望まれます。

4. おわりに

本判決は、業務委託契約における著作権帰属条項の解釈・適用が争われた事案として、実務上重要な先例です。特に、ゲーム開発やソフトウェア開発の分野では、多数のクリエイターやエンジニアが関与し、業務の範囲が流動的になりやすい傾向があります。こうした業界では、契約書の条項の作成や運用が、紛争の予防と権利の確保のために不可欠です。

業務委託契約の締結、著作権の帰属に関する条項の作成、追加業務が発生した場合の対応など、著作権をめぐる契約実務についてお困りの点がございましたら、お気軽にご相談ください。


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