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写真の著作物性と翻案権侵害・無断使用(祇園祭写真事件:東京地裁平成20年3月13日判決)

写真は著作権が認められるのは、どのような場合か。認められるとして、その写真を基に水彩画を制作した場合、翻案権の侵害となるのか。また、他人の写真を利用する際に、どのような注意義務が求められるのか。

今回のコラムでは、祇園祭の写真の無断使用をめぐって争われた東京地裁平成20年3月13日判決を取り上げ、写真の著作物性や翻案権侵害の判断基準、著作物を利用する際の注意義務について解説します。

上記東京地裁判決は、少し古い裁判例ではありますが、上記各論点を考える上で、実務上参考になるものです。

事案の概要

原告は、趣味として京都の祇園祭を中心に写真撮影をするアマチュア写真家です。原告は、平成14年7月17日に祇園祭の神幸祭における神官のお祓いの場面を撮影し(以下「本件写真」といいます。)、翌年にはこの写真を表紙に掲載した写真集を発行して関係者に無料で配布しました。

被告らは、印刷・デザイン会社、その代表取締役、出版社、その代表取締役、及び宗教法人(八坂神社)です。被告らは、原告の許諾を得ないまま、本件写真を以下のとおり利用しました。

時期利用態様
平成15年・16年の各7月17日京都新聞の全面広告に本件写真を掲載
平成17年7月17日本件写真を基に水彩画を制作し、京都新聞の全面広告に掲載
平成15年・16年本件写真を八坂神社の祇園祭用ポスターに掲載
平成17年本件写真を基にした水彩画を祇園祭用ポスターに掲載
平成15年7月号本件写真を月刊京都の特集記事に掲載

原告は、これらの行為が本件写真に係る複製権、翻案権、氏名表示権及び同一性保持権を侵害するとして、被告らに対し合計300万円の損害賠償を請求しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①本件写真を基にした水彩画の制作は、翻案権を侵害するか
争点②原告は、被告ら(八坂神社を含む。)に対し、本件写真の使用を許諾したか
争点③原告の請求は権利の濫用か
争点④八坂神社は、共同して侵害行為を行った者に当たるか
争点⑤八坂神社には、故意又は過失があるか
争点⑥出版社の代表取締役は、共同して侵害行為を行った者に当たるか
争点⑦出版社及びその代表取締役には、故意又は過失があるか
争点⑧損害額はいくらか

裁判所の判断

争点① 写真の著作物性と創作的表現

裁判所は、まず、写真の著作物の翻案について、最高裁平成13年6月28日判決(江差追分事件)の判断枠組みに依拠した上で、写真の著作物の創作性について以下のとおり判示しました。

「本件写真の被写体が客観的に存在する被告八坂神社の西楼門と、同じく客観的に存在しながらも時間の経過により移動していく神輿と輿丁及び見物人であり、これを写真という表現形式により映像として再現するものであること、及び、写真という表現形式の特性に照らせば、本件写真の表現上の創作性がある部分とは、構図、シャッターチャンス、撮影ポジション・アングルの選択、撮影時刻、露光時間、レンズ及びフィルムの選択等において工夫したことにより表現された映像をいうと解すべきである。」

その上で、裁判所は、本件写真の創作的表現を以下のとおり認定しました。

項目本件写真における工夫・表現
撮影ポジション・アングル西楼門の正面よりやや斜めの位置で、アーケードの上にポジションを置き、子供神輿と神官の姿を明確にとらえた
レンズの選択広角レンズを用いて被写体を広角域で捉え、遠近感を強調した
ピント・絞り西楼門から4基の神輿までの全体にピントが合うように奥行きを広げた
フィルム・シャッタースピード夕方6時以降の時刻を考慮し、ASA400のフィルムにより1/15秒のシャッタースピードで撮影した
創作的表現の内容神官と4基の黄金色の神輿を純白の法被を身に纏った担ぎ手の中で鮮明に写し出し、神輿の差し上げの直前の厳粛な雰囲気を感得させるもの

このように、裁判所は、被写体自体ではなく、撮影者が様々な技術的工夫を凝らして表現した映像に創作性を認めました。

争点① 水彩画による翻案権侵害の成否

裁判所は、本件写真を基に制作された水彩画が翻案に該当するか否かについて、以下のとおり判示しました。

「本件水彩画においては、写真とは表現形式は異なるものの、本件写真の全体の構図とその構成において同一であり、また、本件写真において鮮明に写し出された部分、すなわち、祭りの象徴である神官及びこれを中心として正面左右に配置された4基の神輿が濃い画線と鮮明な色彩で強調して描き出されているのであって、これによれば、祇園祭における神官の差し上げの直前の厳粛な雰囲気を感得させるのに十分であり、この意味で、本件水彩画の創作的表現から本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得することができるというべきである。」

被告らは、水彩画では神官の動作や持ち物が異なる点等を主張しましたが、裁判所は、以下のとおり述べて、この主張を退けました。

「本件水彩画では、神官の動作を紙垂が付された棒を高く掲げる動作に修正して、神官のお祓いの動作をより強調するものであって、この意味で、厳粛な雰囲気をより増長させるものと認められる。したがって、上記の表現の相違は、本件水彩画から本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得できるという上記認定を左右する程のものではない。」

このように、裁判所は、写真を基にした水彩画であっても、写真の本質的特徴を直接感得できる場合には翻案権侵害が成立すると判断しました。

争点② 使用許諾の有無

裁判所は、原告が被告らに対し写真の使用を許諾していたかについて検討し、以下の事実を認定しました。

認定事実
被告の代表取締役自身が、原告の承諾を得ずに写真を利用したことを認めて謝罪する手紙や通知書を送付していた
原告が出版社に抗議した内容は、職業安定所との関係で収入を得たとの誤解を解くためであり、写真の使用を事後的に許諾したとはいえない
八坂神社の再度の撮影許可には、写真の無償提供に関する条項が削除されており、原告に写真を無償提供する義務はなかった
原告は「神輿の写真だから、『神輿会』が使うなら協力するが、八坂神社のポスターには貸さない。」と明言しており、被告らもこれを認めていた

以上から、裁判所は、原告が写真の使用を許諾していたとは認められないと結論付けました。

争点③ 権利濫用の成否

裁判所は、原告が写真の使用を許諾したとは認められない以上、被告らの権利濫用の主張はその前提を欠くとして、これを退けました。

争点④ 八坂神社の共同不法行為の成否

裁判所は、祇園祭のポスターの重要性に照らせば、注文者である八坂神社が大量印刷前にポスターの内容を最終確認するのが通常であるから、本件写真の使用を最終的に了解したのは八坂神社であったとして、八坂神社を共同不法行為者と認定しました。

争点⑤・⑦ 注意義務と過失

裁判所は、八坂神社及び出版社の注意義務について、以下のとおり判示しました。

八坂神社について:

「被告八坂神社は、重要文化財、著作物その他文化的所産を取り扱う立場にある者であって、もとより著作権に関する知識を有するものであるから、著作物を使用するに際しては、当該著作物を制作した者などから著作権の使用許諾の有無を確認するなどして、著作権を侵害しないようにすべき注意義務があるというべきである。」

さらに、八坂神社は、原告から本件写真ポスターについて抗議を受けた後に、写真ではなく水彩画であれば問題がないと考えて水彩画ポスターの制作を容認しましたが、裁判所は、この判断についても過失を認めました。

出版社について:

裁判所は、出版社は業として雑誌を出版する者であるから、著作物を使用する際には著作権者に使用許諾の有無を確認すべき注意義務があるとした上で、原告と面識があり著作権者が原告であることを認識していたにもかかわらず確認を怠ったとして、過失を認めました。

争点⑧ 損害額

裁判所は、原告がアマチュア写真家であること、写真集を全て無料配布していたこと等の事情を考慮しつつ、以下の損害額を認定しました。

被告認容額内訳
被告B(個人)30万円京都新聞掲載(複製権・氏名表示権・同一性保持権)+弁護士費用
被告会社22万円ポスター掲載(複製権)+弁護士費用
被告会社・八坂神社(連帯)33万円ポスター掲載(氏名表示権・翻案権・同一性保持権)+弁護士費用
被告B・出版社・代表取締役C(連帯)6万円月刊京都掲載(複製権)+弁護士費用

原告の請求額は合計300万円でしたが、裁判所が認容した合計額は91万円となりました。裁判所は、原告がプロの写真家ではないため使用料相当額を認定し得る直接的な証拠がないことが損害額の認定に影響していると付言しています。

コメント

1. 本判決の意義

本判決は、写真の著作物性について、構図、シャッターチャンス、撮影ポジション・アングルの選択、露光時間、レンズ及びフィルムの選択等の工夫によって表現された映像に創作性が認められることを示しました。また、写真を基にした水彩画についても、写真の表現上の本質的特徴を直接感得できる場合には翻案権侵害が成立するとした点で、実務上、参考となる判断を示しています。

写真の著作物性を判断する際に、被写体をどのように位置づけるべきかについては、先行する裁判例においても見解が分かれていました(東京地判平11.12.15判タ1018号247頁、東京高判平13.6.21判タ1087号247頁参照〔いわゆるスイカ写真事件〕)。本件写真は、撮影者が意図的に配置・演出した被写体を撮影したものではなく、八坂神社の祇園祭という客観的に存在する風景を撮影したものです。

もっとも、本判決は、このような風景写真であっても、時間の経過とともに変化する神輿や人々の動きの中から、ある一瞬の情景を捉えたという点に創作的表現を見出すことができるとしました。この判断は、被写体それ自体に独自性がない風景写真においても、撮影者の技術的工夫を通じて表現された映像には著作物性が認められ得ることを示すものであり、写真の翻案権侵害の判断基準を考える上で参考になるものといえます。

加えて、本判決は、他者の著作物を利用する際の注意義務についても、著作物の利用者の属性に応じた具体的な判断を示しました。重要文化財等を取り扱う宗教法人や業として出版を行う事業者には、著作権者に使用許諾の有無を確認するという高い注意義務が課されることが明確にされたといえます。

2. 本判決から導かれる実務上の留意点

本判決の判断を踏まえると、著作物を利用する企業や団体には、以下のような対応が求められます。

(1) 著作権者からの明確な許諾の取得

写真を含む著作物の利用に際しては、著作権者から明確な許諾を取得する必要があります。本判決では、「著作者の許諾があると漠然と考えていた」という弁解は認められませんでした。口頭での了解や関係者を通じた間接的な許諾ではなく、著作権者本人から、利用目的・利用態様を特定した上で、書面等の客観的な記録によって許諾を得ることが望ましいといえます。

(2) 写真を基にした絵画・イラスト制作における翻案権侵害のリスク

写真を基に絵画やイラストを制作する場合であっても、翻案権侵害のリスクがあることに注意が必要です。本判決は、表現形式が写真から水彩画に変わったとしても、元の写真の本質的特徴を直接感得できる場合には翻案権侵害が成立し得ることを示しています。写真をトレースしたり、写真の構図や表現をそのまま絵画に反映したりする場合には、翻案権侵害のリスクを踏まえ、元の写真の著作権者から翻案に関する許諾を得ることが望ましいと言えます。

(3) 外部委託における委託者自身の責任

外部の制作会社等に著作物の制作を委託する場合であっても、委託者自身が著作権侵害の責任を負い得ることに留意が必要です。本判決では、八坂神社は、ポスターの制作を外部の会社に委託していましたが、最終的にポスターの内容を了解した注文者として、共同不法行為者と認定されました。制作を委託する場合でも、使用される素材の著作権処理が適切に行われているかを確認する義務があります。

(4) 著作権侵害の抗議を受けた場合の適切な対応

著作権侵害の抗議を受けた場合の対応にも注意が必要です。本判決では、八坂神社は、原告から写真の無断使用について抗議を受けた後、写真ではなく水彩画に切り替えることで問題を回避しようとしましたが、裁判所は、この対応にも過失を認めました。抗議を受けた場合には、問題の根本原因を正確に把握し、著作権者との間で適切に対処することが求められます。

以上のとおり、本判決は、著作物の利用に際して企業や団体が果たすべき注意義務の内容を具体的に示しており、著作権管理体制の構築にあたって参考となる裁判例です。著作権侵害のリスクを低減するためには、著作物の利用に関する社内ルールの整備、権利処理フローの確立、及び担当者への教育が有効です。自社の著作権管理体制について不安がある場合には、著作権法に精通した弁護士への相談をお勧めいたします。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。