はじめに
企業は、商品名、キャッチコピー、スローガン、定型文、学習教材の暗記フレーズなど、短い表現を数多く作成し、利用しています。こうした短い表現を他社に模倣されたとき、著作権侵害として責任を追及できるのか。逆に、他社の似た短い表現を利用したとき、著作権侵害になるのか。これらは、短い表現を扱うすべての企業にとって身近な問題です。
今回のコラムでは、英単語の語呂合わせをめぐって著作権侵害が争われた東京地裁平成27年11月30日判決を取り上げ、短い表現の創作性を裁判所がどのような手法で判断したのかを、企業のご担当者向けにわかりやすく解説いたします。
本判決は、表現が短く、かつアイデアを表現するうえで制約がある場合に、創作性がどのように判断されるかを具体的に示すとともに、他者の作品を参照(依拠)して作成された場合でも、共通する部分に創作性がなければ著作権侵害は成立しないことを示したものです。短い表現を扱う企業にとって、自社の表現が保護される範囲と、他社の表現を利用する際のリスクの双方を見極める指針として参考になります。
事案の概要
原告は、英語塾の講師であり、英単語集(以下「原告書籍」といいます。)の著者です。原告書籍は、2201語の英単語について、日本語訳のほか、語源や語呂合わせなど、英単語を記憶するための情報を併せて記載した書籍で、100個の語呂合わせ(以下「原告語呂合わせ」といいます。)が掲載されています。ここでいう語呂合わせとは、特定の英単語の発音に類似した日本語と、その英単語の日本語訳とを組み合わせて、意味のある語句又は文章としたものです。
被告は、図書等の開発・制作・販売を業とする出版社です。被告は、別の執筆者(以下「執筆者」といいます。)が執筆した英単語集(以下「被告書籍」といいます。)を発行・販売しており、被告書籍にも100個の語呂合わせ(以下「被告語呂合わせ」といいます。)が掲載されています。執筆者は、原告が講師を務めたセミナーを受講し、原告書籍の配布を受けていました。
原告は、被告語呂合わせがいずれも原告語呂合わせを複製又は翻案したものであると主張し、被告書籍の複製・譲渡の差止め、被告書籍の廃棄、及び損害賠償金129万円(著作権侵害による損害39万円、著作者人格権侵害による慰謝料50万円、弁護士費用40万円)等の支払を求めました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 複製権又は翻案権の侵害は成立するか |
| 争点② | 氏名表示権及び同一性保持権の侵害は成立するか |
| 争点③ | 被告に過失があるか |
| 争点④ | 損害額 |
なお、裁判所は、争点①及び争点②について判断し、争点③及び争点④については判断するまでもないとしました。
裁判所の判断
裁判所は、原告の請求をいずれも棄却しました。
争点① 複製権又は翻案権の侵害の成否について
裁判所は、まず、判断の枠組みとして、複製及び翻案の意義を示しました。複製については最高裁昭和53年9月7日判決を、翻案については最高裁平成13年6月28日判決(いわゆる江差追分事件)を、それぞれ引用しています。
著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。ここで、再製とは、既存の著作物と同一のものを作成することをいうと解すべきであるが、同一性の程度については、完全に同一である場合のみではなく、多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない、すなわち実質的に同一である場合も含むと解すべきである。
著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいい、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
そのうえで裁判所は、創作性の意義について、厳密な独創性までは必要なく、作者の何らかの個性が表現されていれば足りるとしつつ、文章が短い場合や表現上の制約がある場合、表現が平凡でありふれている場合には、創作的な表現とはいえないとしました。
「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、作者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、作者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。
次に裁判所は、創作性や類似性を検討する対象となる「具体的表現」を確定しました。原告語呂合わせは、英単語の日本語訳に当たる部分が括弧付きの空欄(「( )」)となっており、原告は、その空欄に日本語訳を読み込んだものを検討対象とすべきと主張しました。しかし、裁判所は、原告自身が空欄を含む表現として特定している以上、検討対象は空欄を含むものであるとしました。
被告語呂合わせと対照して共通部分を認定すべき原告語呂合わせの具体的表現は、括弧付きの空欄部分を含むものというほかなく、当該括弧付きの空欄部分に、対象となった英単語の日本語訳を読み込んだものを具体的表現とすべきではない。
裁判所は、原告語呂合わせと被告語呂合わせとの共通部分を認定したうえで、その共通部分が創作的な表現といえるかを、100個について個別に検討しました。例えば、前提となる事実に挙げられている英単語「beard」の語呂合わせは、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 英単語 | beard(あごひげ) |
| 原告語呂合わせ1 | 「ビヤーッ、どっとはえる( )。」 |
| 被告語呂合わせ1 | 「びぃビあア~・・・・,ドど・っとあごひげ伸びる」 |
| 共通部分 | 「びあー」様の記述に続けて「、どっと」と記述する点 |
裁判所は、この共通部分について、特定の英単語を語呂合わせにすること自体はアイデアであって著作権法上の保護を受けられないとしたうえで、そのアイデアを表現するうえで不可欠となる要素(表現上の制約)を、次のとおり示しました。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| ① | 当該英単語とよく似た発音を有する日本語の語句を選択すること |
| ② | その語句が、当該英単語の日本語訳と意味が通じるものであること |
| ③ | その語句と、当該英単語の日本語訳とをつなげること |
特定の英単語を語呂合わせにしようとすること自体はアイデアであって著作権法上の保護を受け得ないところ、同アイデアを表現する上では、当該英単語とよく似た発音を有し、かつ、当該英単語の日本語訳と意味が通じる日本語の語句を選択した上、この語句と、当該英単語の日本語訳とをつなげることが不可欠な要素となり、これらの要素は、特定の英単語を語呂合わせにしようというアイデアを表現する上で不可欠な表現上の制約であるというべきである。……上記表現上の制約により相当程度限定された選択肢の中でされた表現の域を出るものではなく、かかる意味においてありふれた表現と言わざるを得ないから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることは困難である。
裁判所は、100個の語呂合わせのいずれについても、共通部分はごく短いうえ、上記の表現上の制約により限定された選択肢の中でされた表現の域を出ず、ありふれた表現であるとしました。また、多くの語呂合わせについて、他の英単語集(類書)に類似した語呂合わせが収録されていることが、表現の選択肢が限られていることをうかがわせる事情として指摘されました。例えば、次のような対比が挙げられています。
| 英単語 | 共通部分 | 他の英単語集(類書)にみられた類似の語呂合わせ |
|---|---|---|
| bury(埋める) | 「ベリーを」 | 「ベリーの種を埋める」 |
| evil(悪) | 「いーびる(いびる)のは」 | 「いびるのは悪い」「人をいーびるのは悪い」など |
| recommend(勧める) | 「離婚めんどう(面倒)」 | 「離婚めんどう、復縁を勧める」など |
| obey(従う) | 「欧米に」 | 「欧米に従う」など |
以上の検討の結果、裁判所は、次のとおり結論づけました。
以上によれば、被告語呂合わせは、いずれも、原告語呂合わせを複製又は翻案したものに当たらないから、被告が、被告語呂合わせの掲載された被告書籍を発行し、販売することは、原告の著作権(複製権又は翻案権)を侵害するものではない。
争点② 氏名表示権及び同一性保持権の侵害の成否について
裁判所は、被告語呂合わせはいずれも原告語呂合わせを複製又は翻案したものではないことから、同一性保持権の侵害も、氏名表示権の侵害も認められないとしました。
前記1のとおり、被告語呂合わせは、いずれも、原告語呂合わせを複製又は翻案したものではなく、したがって、原告が、その意に反して原告語呂合わせの変更、切除その他の改変を受けたとはいえないから、原告語呂合わせについての同一性保持権の侵害は認められないし、被告が、被告語呂合わせの掲載された被告書籍を販売するに際して、原告の氏名を表示しなかったとしても、原告の氏名表示権を侵害するものではない。
争点③・争点④及び結論について
裁判所は、争点①及び争点②の判断により、その余の争点について判断するまでもなく本件請求は理由がないとしました。あわせて裁判所は、判決のなお書きにおいて、執筆者が原告語呂合わせに依拠して被告語呂合わせを作成したことは認められること、及び当事者間の経緯に触れつつ、それでも著作権法に基づく請求を認めることは困難であるとしました。
本件では、被告書籍を執筆したBが原告語呂合わせに依拠して被告語呂合わせを作成したことは、優に認められる……が、著作権法に基づく原告の請求を認めることが困難であることは、上述したとおりである。
コメント
本判決は、短い表現の「創作性」について、実務に応用できる考え方を示しています。企業のご担当者の視点から、本判決の意義と、そこから導かれる実務上の対応を整理します。
(1)短く、制約のある表現は創作性が認められにくい
本判決は、表現が短く、かつ、特定の目的のために不可欠な要素に縛られる表現は、選択肢が限られ、ありふれた表現となりやすく、創作性が認められにくいことを示しました。語呂合わせのように、機能(英単語を覚える)を果たすために必要な要素に従わざるを得ない表現がこれに当たります。商品名、キャッチコピー、スローガン、定型文、暗記フレーズなど、短く、かつ目的や形式の制約を受ける表現を著作権で保護することには限界があると考えられます。
(2)依拠(模倣)があっても創作性のない共通部分では侵害は成立しない
本判決は、他者の作品を参照(依拠)して作成された場合でも、共通する部分が創作性のない部分にとどまる場合には、著作権侵害は成立しないことを示しました。本件では、執筆者が原告書籍を参照したことは認められましたが、共通部分に創作的な表現が認められないとして、請求は認められませんでした。「真似された」ということと、「著作権侵害が成立する」ということは、別の問題です。
(3)同種の他社作品との対比による判断
本判決は、同種の他社作品(類書)に類似した表現があることを、表現の選択肢が限られていること(ありふれていること)をうかがわせる事情として扱いました。模倣を主張する場面でも、模倣を主張された場面でも、同種資料を収集・対比することが、有効な検討材料になり得ます。
(4)保護を求める表現の特定が結論を左右する
本判決は、保護を求める表現をどのように特定するかが、判断に影響することを示しました。本件では、原告が空欄を含む形で表現を特定したため、その特定に沿って創作性が判断されました。紛争においては、どの表現を保護対象として特定するかが、結論を左右し得ます。
(5)法的に侵害でなくても残る紛争・信用上のリスク
本判決は、なお書きにおいて、依拠の事実や当事者間の経緯に触れています。法的に著作権侵害が成立しない場合でも、紛争や信用上のリスクが残ることはあります。他者の成果物を参照する際には、契約やクレジット表示、社内チェックといった運用上の配慮を併せて検討することが望まれます。
これらをふまえると、企業に求められる対応として、短い表現については、著作権による保護に過度に依拠せず、必要に応じて商標その他の手段も含めて保護のあり方を検討しておくことが参考になります。他者の短い表現を参照する際には、アイデアや機能上不可欠な要素と、創作的な表現とを区別して取り扱うことが、リスクの低減につながります。もっとも、創作性の有無や類似性は、対象となる表現を特定し、同種資料と対比して個別具体的に判断されるものであり、評価には専門的な検討を要します。自社の表現が保護されるか、他社の表現の利用が問題となり得るかについては、早い段階で弁護士に相談し、対応の方針を整理しておくことが有益です。
おわりに
本判決が示した考え方は、短い表現の保護範囲や模倣への対応、参照・引用のルールづくりなど、企業の実務に幅広く関わります。自社の表現が著作権で保護されるかどうかの見極め、他社の表現を参照する際のリスク評価、模倣を受けた場合や模倣を主張された場合の対応方針の検討は、いずれも個別の事情に応じた専門的な判断を要するため、弁護士に相談することが有益です。
当事務所は、著作権をはじめとする知的財産分野に関するご相談・ご依頼をお受けしています。コンテンツの保護・利用、紛争対応についてお悩みの企業のご担当者は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

