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iPhoneで撮影した書類写真の著作物性とSNS上の引用の成否(知財高裁令和5年12月13日判決)

SNSに投稿した写真が第三者に無断で利用された場合、著作権侵害を主張できるのでしょうか。特に、iPhoneで書類を撮影しただけの写真には、著作権法上の保護が及ぶのでしょうか。

今回のコラムでは、Twitter(現X)に投稿された裁判所への申立書類の写真が第三者に利用された事案について、写真の著作物性と適法引用の成否が争われた知財高裁令和5年12月13日判決(原審:東京地裁令和5年7月6日判決)を紹介いたします。

上記知財高裁判決は、SNS上の写真の利用をめぐる著作権法上の論点を多角的に判断したものであり、クリエイターはもちろん、企業のSNS運用や知的財産管理に関わる方にとって、実務上の示唆に富む裁判例です。

事案の概要

司法書士である控訴人(原告)は、自らが申し立てた発信者情報開示仮処分命令申立事件に係る申立書類一式をiPhoneで撮影し、その写真(以下「本件写真」といいます。)とともに、発信者情報開示仮処分命令の申立てを行った旨の文章をTwitterに投稿しました。

翌日、氏名不詳の発信者は、本件写真とともに「申立を行ったというツイートで掲載している画像。申し立てをしたというなら、受付印を受けた控えの画像が出てくるのかと思ったのだが。」との文章をTwitterに投稿しました(以下「本件投稿」といいます。)。

控訴人は、本件投稿により著作権、著作者人格権及び名誉権が侵害されたとして、プロバイダ責任法に基づく発信者情報開示命令を申し立てました。しかし、東京地裁は申立てを却下する決定をし、控訴人がこれに対する異議の訴えを提起したのが本件です。

原審(東京地裁令和5年7月6日判決)は、本件写真の著作物性を否定した上で、仮に著作物性が認められるとしても適法引用に該当するとして、控訴人の請求を棄却しました。控訴人がこれを不服として控訴したのが、本件控訴審(知財高裁令和5年12月13日判決)です。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①本件写真の著作物性
争点②引用(著作権法32条1項)の成否
争点③氏名表示権(著作権法19条)侵害の成否
争点④名誉声望保持権(著作権法113条11項)侵害の成否
争点⑤名誉権侵害の成否

裁判所の判断

争点① 本件写真の著作物性について

原審の東京地裁は、本件写真の著作物性を否定しました。その理由として、以下の事情を挙げています。

考慮事実内容
構図書面等をその大体の部分が写真の枠内に収まるようにほぼ真上から撮影するというごくありふれたもの
撮影技術光量、シャッタースピード、ズーム倍率等について格別の工夫がされたものと認められない
被写体の配置「管轄上申書」と題する書面等を重ねた上、若干斜めに「発信者情報開示仮処分命令申立書」と題する書面を重ねたもの

原審は、これらを踏まえ、本件写真は「ありふれた表現にとどまるもの」であり、著作物に該当しないと判断しました。

これに対し、知財高裁は、著作物性について直接判断せず、次のように述べました。

「仮に本件写真が著作物であると認められたとしても、本件投稿における本件写真の引用が著作権法32条1項の要件を満たす適法な引用であるといえること、及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害が認められないこと」

すなわち、知財高裁は、本件写真が著作物であるか否かについて判断するまでもなく、適法引用等の要件を満たすことから、結論として控訴人の請求は認められないとしました。

争点② 引用(著作権法32条1項)の成否について

裁判所は、引用の要件該当性について、以下の事情を総合考慮して判断しました。

「その要件該当性を判断するには、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者に及ぼす影響の程度等の諸般の事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当である。」

具体的には、以下の事情を考慮し、適法引用に該当すると判断しました。

考慮事実裁判所の評価
引用の目的控訴人が仮処分申立てをした旨投稿しているのに本件写真に「受付印」がないことを批評する目的であり、正当な目的と認められる
引用の必要性本件写真を示すことは、批評の対象となった投稿の内容を理解するに資する
引用の態様本件写真が改変されておらず、発信者が大幅に拡大して引用したとは認められない
出所の明示本件投稿の文章の内容と本件写真から、閲覧者は本件写真が控訴人のTwitter投稿であると理解可能であった
著作権者への影響本件写真の引用によって控訴人の財産権侵害が生じたと認めるに足りる証拠はない

控訴人は、本件投稿の目的が控訴人に悪印象を与えることにあったと主張しました。しかし、裁判所は、次のように述べてこの主張を退けました。

「発信者が、控訴人が本当に仮処分申立てをしたのか疑問に思い、発信者のツイッターの閲覧者に問題提起する意図をもって本件投稿を行ったものであることは認められるが、このことをもって、控訴人は虚偽の事実を投稿する人物であるとの印象を本件投稿の閲覧者に与える意図を発信者が有していたと認められることにはならない。」

また、本件投稿全体に占める本件写真の割合が大きいという控訴人の主張に対しても、裁判所は次のように判断しました。

「本件写真を小さくして引用すると、本件写真に写されている仮処分命令申立書の文字の判読が困難になり、同申立書に記載された債権者が控訴人であると閲覧者が理解できなくなるおそれがあったといえる。」

争点③ 氏名表示権侵害の成否について

控訴人は、本件投稿からは控訴人が本件写真の著作者であると理解できないとして、氏名表示権の侵害を主張しました。

裁判所は、この点について、以下のとおり判断しました。

まず、本件写真の撮影者が控訴人であると直ちに推認できるわけではないとしつつも、本件投稿の内容から閲覧者は本件写真が控訴人のTwitter投稿であると理解可能であったとして、著作権法19条3項により著作者名の表示を省略できると判断しました。

「控訴人は本件写真を添付した投稿において本件写真の撮影者を明示しなかったのであるから、上記投稿からは本件写真の撮影者は明らかではないといえる。その上で、本件投稿の内容から、本件写真は控訴人がツイッターに投稿したものであると本件投稿の閲覧者が理解可能であったといえるから、仮に本件写真について著作物性が認められるとしても、著作権法19条3項により本件写真の著作者名の表示を省略することができると解される。」

争点④ 名誉声望保持権侵害の成否について

控訴人は、本件写真が控訴人の意に反して「虚偽の事実の証拠写真」として利用されているとして、著作権法113条11項による著作者人格権の侵害を主張しました。

しかし、裁判所は、次のように述べてこの主張を退けました。

「本件投稿が、本件写真を添付した上で、控訴人が仮処分申立てをしたのかについて疑問を呈する内容であるとは認められるものの、これをもって、本件投稿が控訴人の名誉又は声望を害する方法によってされたものであるとはいえない。」

争点⑤ 名誉権侵害の成否について

控訴人は、本件投稿が控訴人の社会的評価を低下させると主張しました。

しかし、裁判所は、原審の判断を引用し、次のように述べて名誉権侵害を否定しました。

「本件投稿の内容は、(中略)原告が民事保全手続の申立てをした旨を投稿しているのに、同投稿に添付された本件写真には受付印が押されていないという事実を摘示するものにすぎず、これを超えて、原告が虚偽の事実を投稿する人物であることを摘示するものと認めることはできない。」

コメント

1. 本判決の意義

本判決は、SNS上の写真の無断利用と著作権法上の引用の関係について、実務上の指針を示した裁判例です。

原審(東京地裁)は、iPhoneで書類を撮影した写真について、構図がありふれたものであり、撮影技術にも格別の工夫がないとして著作物性を否定しました。写真は一般に著作物性が広く認められる傾向にありますが、著作物性を否定した裁判例は多くありません。

その中でも、平面的な対象物を忠実に再現する目的で撮影された写真について著作物性を否定したものとして、美術全集に掲載するために絵画等を撮影した写真の事案(東京地判平10.11.30知的裁集30巻4号956頁、判タ994号258頁)があります。同判決は、平面的な作品を正面から撮影する場合には撮影位置の選択の余地がなく、技術的な配慮も原画を忠実に再現するためのものにすぎないとして、創作性を否定しました。

本件における原審の判断も、書類という平面的な対象物をほぼ真上から撮影するという場面では構図の選択の余地が限られるという点で、同様の考え方に立つものといえます。

一方、知財高裁は、著作物性の判断に立ち入らず、仮に著作物であったとしても適法引用の要件を満たすと判断しました。この判断構造は、著作物性が争われる事案においても、引用の成否が結論を左右する場合があることを示しています。

2. iPhoneで撮影した写真の著作物性

本判決は、iPhoneで撮影した書類写真について著作物性が争われた事案であり、スマートフォンで日常的に撮影される写真の著作権法上の保護範囲を考える上で参考になります。

写真の創作性がどのような要素によって基礎付けられるかについては、祇園祭の神幸祭を撮影した写真の事案(東京地判平20.3.13判タ1283号262頁)が参考になります。同判決は、写真という表現形式の特性を踏まえ、構図、シャッターチャンス、撮影ポジション・アングルの選択、撮影時刻、露光時間、レンズ及びフィルムの選択等の工夫によって表現された映像に創作性が認められるとの考慮要素を示しました。

この判断枠組みに照らすと、iPhoneによる撮影の場合、露光時間やレンズの選択等の技術的要素はカメラ機能によって自動的に設定されるため、撮影者の創作的関与を認め得る要素は、主として構図やアングルの選択に限られることになります。本件では、書類をほぼ真上から撮影するという目的上、構図の選択の幅も狭いものでした。

この点は、著作権法の基本原則である「アイデアと表現の二分論」からも説明できます。最高裁(最一小判平13.6.28民集55巻4号837頁〔江差追分事件〕)は、表現それ自体でない部分や表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、著作権法上の保護は及ばないとしています。著作権法が保護するのは、あくまで撮影者の創作的な表現であり、被写体である事実や情報そのものではありません。撮影者の個性が表れていない写真にまで著作権法上の保護を及ぼすことは、本来何人も自由に利用できるはずの事実や情報に対して排他的な権利を生じさせることになりかねないため、慎重な判断が求められます。

もっとも、本判決は書類をほぼ真上から撮影するという場面での判断(事例判決)です。構図やアングルの選択に撮影者の個性が表れている写真についてまで著作物性が否定されるわけではない点に留意が必要です。

3. SNS上の引用と出所表示の在り方

本判決では、引用に際して求められる出所表示の程度についても判断がなされています。知財高裁は、出所が合理的と認められる方法及び程度により明示されているか否かは、実際に行われた出所表示の内容や態様に加え、元の著作物にたどり着くことが可能な程度に出所が特定されているかを考慮して判断すべきであるとの基準を示しました。

本件で注目されるのは、控訴人自身が元のTwitter投稿において本件写真の撮影者を明示していなかったという事情です。知財高裁は、この点を認定した上で、他方、本件投稿の文章と本件写真に記載された情報を併せれば、閲覧者は本件写真が控訴人のTwitter投稿に由来するものと理解できたと判断しました。

この判断は、SNS上での写真の引用において実務的な示唆を含んでいます。

4. 企業・個人のSNS運用における留意点

本判決から導かれる実務上の留意点は、以下の点が指摘できます。

写真を投稿する側の留意点:

  • ・SNSに投稿した写真は、批評目的等で第三者に引用される可能性があります。特に、書類や商品を単に撮影した写真は、著作物性が否定されるリスクがあることを認識しておく必要があります。
  • ・自らの著作物として保護を求める場合には、撮影者名を明示しておくことが、権利行使の場面で有利に働く場合があります。

写真を引用する側の留意点:

  • ・他者のSNS投稿に掲載された写真を利用する場合、批評等の正当な目的があること、出所が明示されていること、写真を改変しないこと等の要件を満たす必要があります。
  • ・引用の成否は、個別の事案ごとに諸般の事情を総合考慮して判断されます。要件を満たすか否かの判断は必ずしも容易ではないため、判断に迷う場合には、事前に著作権法に精通した弁護士に相談されることをお勧めします。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。