はじめに
ウェブサイトやSNSで自社のイベント・サービスを紹介する際、外部のカメラマンに撮影を依頼することは多くの企業で行われています。しかし、価格交渉が折り合わずに契約が成立しなかったにもかかわらず、撮影者から提供を受けた「サンプル画像」をそのまま使用してしまうと、著作権侵害として損害賠償責任を問われる可能性があります。
今回のコラムで紹介する東京地裁平成27年12月7日判決(TOKYO PHOTO事件)は、写真展の主催会社が、契約交渉決裂後に写真家の撮影したサンプル画像から「SAMPLE」表示を消去したうえで自社ウェブサイト等に掲載した行為について、複製権・公衆送信権・公表権・氏名表示権の侵害を認めた事案です。
サンプル画像の取扱いに関する実務的な留意点を理解するうえで、企業のウェブ担当者・広報担当者・法務担当者にとって参考となる裁判例です。
事案の概要
原告は、フリーランスの写真家です。被告会社は、写真展イベント等の企画・運営を行う株式会社であり、被告Aⅱは、被告会社の代表取締役です。
被告会社は、平成25年9月に開催する写真展「TOKYO PHOTO 2013」の会場設営を、デザイン事務所を経営するAⅲに依頼し、Aⅲは、原告に対して同写真展会場の写真撮影を依頼しました。原告は、同写真展会場を撮影した22枚の写真について、右下に「SAMPLE」と表示し、ファイル名にも「sample」と付したうえで、Aⅲを通じて被告会社に提示しました。
その後、原告と被告会社との間で代金額の折り合いが付かず、写真の売買契約は成立しませんでした。原告は、Aⅲを通じて被告会社に対し、サンプルデータの破棄を求めるとともに、無断使用が発覚した場合は使用料等を請求する旨を伝えました。
しかし、被告Aⅱは、平成26年、写真展「TOKYO PHOTO 2014」に関する被告会社のウェブサイト及びフェイスブックのデザイン外注先等に、原告の撮影した写真の画像データを送信・交付し、その結果、写真2枚について「SAMPLE」表示を消去するなど若干の修正が施された画像が、被告会社のウェブサイト及びフェイスブックのカバー写真として掲載されました。これらの掲載に際し、撮影者として原告の氏名は表示されていませんでした。
原告は、これらの掲載が著作権及び著作者人格権を侵害するものであるとして、被告らに対し、損害賠償231万円及び遅延損害金の連帯支払を求めて訴えを提起しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件各写真の著作物性及び原告の著作権者性 |
| 争点② | 被告らによる複製権・公衆送信権及び公表権・氏名表示権の侵害の成否 |
| 争点③ | 被告らの故意・過失及び損害賠償責任の根拠 |
| 争点④ | 原告に生じた損害の額 |
裁判所の判断
争点①:本件各写真の著作物性及び原告の著作権者性について
裁判所は、本件各写真について、構図や光量その他のカメラワークに撮影者の個性が顕れているとして、創作性を認め、写真の著作物に当たると判断しました。また、その著作者及び著作権者は原告であると認定しました。
判決は、以下のとおり判示しています。
「本件各写真は、その構図や光量その他のカメラワークに撮影者の個性が顕れていることから創作性が認められ、写真の著作物に当たること、並びに、その著作者及び著作権者が原告であることが認められる。」
争点②:複製権・公衆送信権及び公表権・氏名表示権の侵害の成否について
裁判所は、被告Aⅱが、外注先ないし被告会社関係者をして、被告会社のウェブサイト及びフェイスブックに、本件各写真に若干の修正を施した画像を掲載するに至らせたものであり、その修正部分に創作性は見いだせないとして、複製権及び公衆送信権の侵害を認めました。
また、被告Aⅱは、原告から本件各写真を使用しないことを求められていたにもかかわらず、未公表であった本件各写真を公衆に提示するに至らせ、その際、著作者名(原告の氏名)を表示しなかったとして、公表権及び氏名表示権の侵害も認めました。
判決は、以下のとおり判示しています。
「被告Aⅱは、外注先ないし被告会社関係者をして、被告会社のウェブサイト及びフェイスブックに、本件各写真に若干の修正を施した画像を掲載するに至らせたものであり、その修正部分に創作性は見いだせないから、本件各写真につき原告の有する著作権である複製権(著作権法21条)及び公衆送信権(送信可能可権を含む。同法23条1項。)を侵害したものというべきである。また、被告Aⅱは、原告から本件各写真を使用しないことを求められていたにもかかわらず、未公表であった本件各写真を公衆に提示するに至らせ、その際、その著作者名(原告の氏名)を表示しなかったものであるから、本件各写真につき原告の有する公表権(同法18条1項)及び氏名表示権(同法19条1項)を侵害したものというべきである。」
争点③:被告らの故意・過失及び損害賠償責任の根拠について
裁判所は、被告Aⅱは、本件各写真についてデータの破棄を求められていたにもかかわらず、外注先ないし被告会社関係者にこれを送信ないし交付したものであるから、上記各侵害行為について故意又は過失が認められ、民法709条に基づく損害賠償責任を負うとしました。
また、被告会社についても、その代表取締役である被告Aⅱが職務を行うについて上記各侵害行為をしたものであるから、会社法350条に基づく損害賠償責任を負うとしました。
判決は、以下のとおり判示しています。
「被告Aⅱは、本件各写真についてデータの破棄を求められていたにもかかわらず外注先ないし被告会社関係者にこれを送信ないし交付したものであるから、上記各侵害行為について故意又は過失が認められ、民法709条に基づく損害賠償責任を負うというべきである。また、被告会社は、その代表取締役である被告Aⅱが職務を行うについて上記各侵害行為をしたものであるから、これについて会社法350条に基づく損害賠償責任を負うというべきである。」
争点④:原告に生じた損害の額について
裁判所は、原告に生じた損害として、以下のとおり認定しました。
| 項目 | 金額 | 認定の根拠 |
|---|---|---|
| 複製権・公衆送信権侵害による損害(著作権法114条3項) | 5万円 | 原告が交渉過程で「5枚であれば10万円(消費税別)でなければ売ることには応じられない」としていたところ、本件で著作権が侵害された写真は2枚であったこと |
| 公表権・氏名表示権侵害による慰謝料 | 10万円 | 侵害の対象となった写真の枚数、侵害の態様、侵害に至る経緯など本件の記録に顕れた一切の事情を総合考慮 |
| 弁護士費用相当額 | 10万円 | 上記侵害行為と相当因果関係を有する額として |
| 合計 | 25万円 | — |
判決は、複製権・公衆送信権侵害による損害について、以下のとおり判示しています。
「原告は、被告会社に対し、Aⅲを通じた交渉過程において、「22枚の写真全購入で10万円(税別)、3枚までで5万円(税別)」という代金額を提示し、「5枚であれば10万円(消費税別)でなければ売ることには応じられない」としていたところ、本件で原告の著作権が侵害された写真は、2枚である。これらの事情に鑑みると、原告が本件各写真に係る複製権及び公衆送信権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、5万円と認められる。」
コメント
(1)本判決の意義
本判決は、契約交渉が不調に終わったサンプル画像について、撮影者から破棄を求められていたにもかかわらず、これを社外に送信して自社ウェブサイト等に掲載した行為が、著作権(複製権・公衆送信権)及び著作者人格権(公表権・氏名表示権)を侵害すると判断した事例として、実務上参考になります。
特に、以下の点に留意が必要です。
(2) サンプル画像の流用も著作権侵害となり得ること
サンプル画像であっても、「SAMPLE」表示を消去するなどの修正を加えて使用した場合、当該修正部分に創作性が認められない以上、複製権及び公衆送信権の侵害が成立するという点です。サンプル画像であることをもって自由に使用してよいわけではありません。
(3)著作者人格権(公表権・氏名表示権)侵害が併発し得ること
未公表の写真を公衆に提示する行為は、公表権の侵害となり得る点です。さらに、撮影者の氏名を表示せずに掲載する行為は、氏名表示権の侵害にもなります。著作権侵害だけでなく、著作者人格権侵害が併せて成立することにより、慰謝料も含む損害賠償責任を負う可能性があります。
(4) 代表取締役個人も連帯して責任を負い得ること
本件では、代表取締役個人について民法709条に基づく損害賠償責任が、会社について会社法350条に基づく損害賠償責任が、それぞれ認められた点です。代表取締役自らが侵害行為に関与した場合、会社のみならず代表取締役個人も連帯して損害賠償責任を負う可能性があります。
(5) 交渉過程の提示額が損害額算定の基礎となり得ること
本判決では、契約交渉過程で撮影者が提示していた代金額を基礎として、著作権法114条3項所定の損害額(使用料相当額)が認定されています。交渉過程における提示額が、後の損害賠償請求における損害額算定の基礎資料となり得る点は、企業側の交渉担当者にとっても押さえておくべき視点です。
(6) 企業に求められる対応
企業がウェブサイトやSNSで写真を使用する際は、契約が成立した範囲内での使用にとどめ、契約交渉が不調に終わった素材については確実に破棄するなど、社内管理体制の構築・徹底が求められます。また、外注先に画像データを送信する際にも、利用権限の有無を慎重に確認する必要があります。
おわりに
本判決のように、写真をはじめとする他者の著作物を企業のウェブサイトやSNSで使用する場面では、契約の有無・利用範囲・利用条件をめぐって紛争が生じやすく、損害賠償請求や差止請求に発展するケースも少なくありません。サンプル画像の取扱い、外注先との情報共有、社内における素材管理など、検討すべき実務上の論点は多岐にわたります。
著作権侵害は、企業の信用にも影響を及ぼす問題です。社内で「これは大丈夫だろうか」と感じる場面があれば、早期に弁護士にご相談いただくことが、紛争の予防・早期解決につながります。
当事務所では、著作権をはじめとする知的財産権分野について、企業からのご相談・ご依頼を多数お受けしております。ウェブサイト・SNS掲載素材の権利処理、外部クリエイターとの契約書チェック、著作権侵害を指摘された場合の対応、逆に自社の権利が侵害されている場合の対応など、幅広くサポートいたします。お気軽にご相談ください。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

