はじめに
自社や自社の役職員が発信したブログ記事が、匿名掲示板で内容を一部改変したうえで投稿され、揶揄・批判されるという事例は少なくありません。
今回のコラムでは、風水コンサルタントのブログ記事を一部改変して「2ちゃんねる」のスレッドに投稿した発信者について、経由プロバイダに対する発信者情報開示請求を認めた東京地裁平成28年1月29日判決を取り上げます。
本判決は、短文のブログ記事の著作物性、改変投稿の翻案権侵害、「引用」や「やむを得ない改変」の抗弁、氏名を明示しない投稿による名誉権・名誉感情侵害といった、インターネット上の権利侵害に関する実務上の論点を広くカバーしており、風評被害対応や情報発信の管理を担当される企業担当者の方にとって参考となる事例です。
事案の概要
原告は、「風水」に関するコンサルタント及び執筆活動を行う個人であり、自身の管理するブログ上で2本の記事(本件記事1及び本件記事2)を公表していました。
氏名不詳の発信者は、「2ちゃんねる」内の「風水甲」と題するスレッドに、本件記事1を一部改変した投稿13点(本件情報1~13)、本件記事2を一部改変した投稿4点(本件情報14~17)、及び原告の廃業等を装う投稿1点(本件情報18)の計18件の情報を発信しました。
具体的には、本件記事1が「風水」を「自然科学」と位置付けていたのに対し、本件情報1~13ではこれを「妖怪学」と置き換え、本件記事2が台湾における「五術」の「学術発表」に言及していたのに対し、本件情報14~17ではこれを「詐欺発表」に置き換えるなど、原告の記事を揶揄する趣旨と思われる改変がなされていました。また、本件情報18では、原告の氏名は明示されないものの、原告が「風水」業を廃業する旨が一人称で記載され、原告のブログ名「風水甲」に酷似した「風水山師」との記載も含まれていました。
原告は、経由プロバイダである被告(ニフティ株式会社)に対し、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)4条1項に基づき、本件発信者の氏名等及び住所の開示を求めました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件各記事の著作権者 |
| 争点② | 著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)侵害の成否 |
| 争点③ | 「引用による利用」(著作権法32条1項)該当性 |
| 争点④ | 本件各記事の著作者 |
| 争点⑤ | 著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権、名誉・声望権)侵害の成否 |
| 争点⑥ | 「やむを得ない改変」(著作権法20条2項4号)該当性 |
| 争点⑦ | 名誉権侵害の成否 |
| 争点⑧ | 名誉感情侵害の成否 |
| 争点⑨ | 発信者情報開示請求についての正当理由の有無 |
裁判所の判断
争点① 本件各記事の著作権者について
裁判所は、本件各記事はいずれも原告が管理するブログ上の記事であり、原告が自らの知見に基づいて作成したものであると認め、本件各記事の著作権者は原告であると判断しました。
争点② 著作権(翻案権、公衆送信権)侵害の成否について
裁判所は、まず、最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決(江差追分事件)を参照し、翻案の意義を次のとおり示しました。
著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
そのうえで、翻案該当性の前提となる「創作性」について、次のとおり判示しました。
「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、筆者の個性が何らかの形で表れていれば足りるというべきである。
裁判所は、「個性の表れ」が認められるか否かは、以下の諸事情を総合して判断すべきであるとしました。
| # | 考慮要素 |
|---|---|
| ① | 当該著作物における用語の選択 |
| ② | 全体の構成の工夫 |
| ③ | 特徴的な言い回しの有無等の表現形式 |
| ④ | 当該著作物が表現しようとする内容・目的に照らした表現上の制約の有無や程度 |
| ⑤ | 当該表現方法が、同様の内容・目的を記述するため一般的に又は日常的に用いられる表現であるか否か |
そのうえで、本件記事1(2文・87文字)について、用語の選択や全体の構成はごく簡潔ではあるものの、風水を「自然科学」と説明する表現として他に表現の選択の幅がないとはいえないとして、個性の表れを肯定しました。また、本件記事2(1文・143文字)についても、用語の選択、全体の構成の工夫、特徴的な言い回しにおいて作者の個性が表れていると認定しました。
そして、本件情報1~13は本件記事1と表現がほぼ一致し、相違部分はわずか6~8文字にとどまること、本件情報14~17も本件記事2と用語・構成・特徴的な言い回しにおいて酷似していることを踏まえ、いずれも本件各記事の本質的な特徴を直接感得することができるものとして、翻案権侵害が明らかであると判断しました。さらに、これを本件ウェブサイトに発信する行為は公衆送信権侵害にも当たるとしました。
争点③ 「引用による利用」該当性について
裁判所は、著作権法32条1項の「引用」該当性は、以下の諸事情を総合考慮して判断すべきであるとしました。
| # | 考慮要素 |
|---|---|
| ① | 他人の著作物を利用する側の利用の目的 |
| ② | その方法や態様 |
| ③ | 利用される著作物の種類や性質 |
| ④ | 当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度 |
そのうえで、本件について、次のとおり判示し、引用の抗弁を排斥しました。
しかし、本件情報1ないし17は、本件各記事に依拠したうえで、同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して、本件記事1の「自然科学」を「妖怪学」に変更したり、本件記事2の「学術発表」を「詐欺発表」に変更したりしたものであり、引用元等を明示することもなく引用元の表現を直接改変した上、それをそのまま本件ウェブサイトに匿名で投稿したものであって、これが議論を目的としたものであるとはにわかにうかがわれないばかりか、公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用であるともおよそうかがわれない。
争点④ 本件各記事の著作者について
裁判所は、争点①と同様の理由により、本件各記事の著作者は原告であると認めました。
争点⑤ 著作者人格権侵害の成否について
裁判所は、本件情報1~17について翻案権侵害が認められることを前提に、これらの表現は原告の意に反する改変がされており、かつ、原告の氏名が表示され(本件情報1)又は表示されていない(本件情報2~17)ことから、同一性保持権及び氏名表示権を侵害することが明らかであると判断しました。
争点⑥ 「やむを得ない改変」該当性について
裁判所は、争点③の判断を踏まえ、本件情報1~17について、本件各記事の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし、やむを得ないと認められる改変が行われたものということはできないとして、被告の抗弁を排斥しました。
争点⑦・⑧ 本件情報18による名誉権・名誉感情侵害の成否について
本件情報18には原告の氏名が明示されていませんでしたが、裁判所は、以下の事情を踏まえ、本件スレッドが原告についての投稿を主たる目的とした掲示板であると認定しました。
| # | 認定の根拠となる事情 |
|---|---|
| ① | 本件スレッドの表題が「風水甲3」であり、原告の職業である「風水」及び氏である「甲」と符合すること |
| ② | 本件スレッドの投稿番号1番の投稿に原告のブログのURLが貼り付けられていること |
| ③ | 本件スレッドへの投稿の中に原告の氏名やこれに酷似した氏名が繰り返し出てくること |
そのうえで、一般読者基準の観点から、次のとおり判示しました。
一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合、本件スレッドは原告についての投稿を主たる目的とした掲示板であって、本件スレッドに投稿された情報は、第三者の氏名が明記されているなどの特段の事情のない限り、原告に関するものであるとの印象を与えるというべきである。
さらに、本件情報18の内容について、裁判所は、①「風水」業を廃業する旨の記載は、現に「風水」に関するコンサルタント及び執筆活動を行っている原告の社会的評価を低下させるものであること、②廃業の理由として「痛風の為」「断酒、療養に専念のため」と記載されていることは、原告の健康状態が良好でなく、不摂生な生活を送っている旨を印象付けるものであり、その社会的評価を低下させるものであること、③「風水山師」との記載は、「山師」に「他人をあざむいて利得をはかる人」(広辞苑第6版)との意味があることから、原告が他人を欺く人物であるとの印象を与え、その社会的評価を低下させるものであることを指摘しました。
そして、これらの記載は、社会通念上受忍すべき限度を超えて原告の名誉感情を不当に侵害するものでもあるとして、本件情報18が原告の名誉権及び名誉感情を侵害することが明らかであるとしました。
争点⑨ 正当理由の有無について
裁判所は、本件情報1~17により原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害され、本件情報18により原告の名誉権及び名誉感情が侵害されたことが明らかである以上、原告が本件発信者に対して損害賠償等を請求するためには、その氏名等及び住所の開示が必要であるとして、正当理由を認めました。
コメント
本判決は、インターネット上の権利侵害と発信者情報開示請求の場面において、以下の点で実務上参考となる判断を示したものと考えられます。
(1)短文ブログ記事の著作物性
本判決は、ブログ上の短い記事(87文字・143文字)についても、用語の選択、全体の構成の工夫、特徴的な言い回し等に筆者の個性が何らかの形で表れていれば、著作物として保護されることを確認しました。
SNSや企業ブログなど、短文によるコンテンツ発信が一般化している現在、自社が発信した短文であっても著作権法上の保護対象となり得る点を踏まえた対応が求められます。
(2)揶揄・批判目的の改変投稿と著作権・著作者人格権侵害
本判決は、他人のブログ記事の一部表現を書き換え、揶揄・批判する趣旨で匿名掲示板に投稿する行為について、原記事と同一性を有する表現が一定以上の分量にわたり、その表現上の本質的な特徴を直接感得できる場合には、翻案権・公衆送信権・同一性保持権・氏名表示権の侵害に当たると判断しました。
改変後の投稿が批判的な内容であったとしても、それだけで「引用」や「やむを得ない改変」として正当化されるものではないことが示されています。企業として自社コンテンツが無断改変された場合の対応を検討するにあたり、侵害の有無を判断するうえでの視点を提供するものといえます。
(3)氏名を明示しない投稿と名誉権・名誉感情侵害
本判決は、投稿それ自体に対象者の氏名が明示されていなくとも、スレッドの表題、冒頭投稿、前後の投稿の文脈等を踏まえ、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、当該投稿が特定の者に関するものであるとの印象を与えると認められる場合には、名誉権及び名誉感情侵害が成立し得ることを示しました。
匿名掲示板における「なりすまし」的投稿や、氏名を伏せた形での中傷的投稿に対する対応を検討するうえで、参考となる判断です。
(4)企業実務への示唆
企業としては、自社または自社の役職員に関するブログ記事の無断改変や、氏名を明示しない形での中傷的投稿に直面した場合、投稿の削除依頼のみならず、発信者情報開示請求を通じて発信者を特定し、損害賠償請求や再発防止を図るという選択肢があります。
本判決は、こうした場面において、侵害の明白性をどのような事情の積み重ねによって立証していくか、その実務的な道筋を示すものとして参照価値があります。
おわりに
インターネット上の匿名投稿への対応は、投稿内容の法的評価、著作権侵害や名誉毀損の成否、発信者情報開示請求の要件充足性、経由プロバイダとの手続対応など、多岐にわたる専門的な判断を要する場面が少なくなく、早い段階で弁護士にご相談いただくことが有益です。
当事務所は、著作権侵害、発信者情報開示請求、インターネット上の風評被害への対応等の分野について、企業の皆様からのご相談・ご依頼を受けております。過去、ご相談・ご依頼をいただいたケースでは、ブログ・SNS上の記事を無断改変した形での掲載や、匿名掲示板上でのなりすまし投稿・中傷投稿について、サイト管理者への削除請求や経由プロバイダに対する発信者情報開示請求を行い、解決に導いてまいりました。
同種の事案でお悩みの企業担当者の方は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

