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YouTube動画のテロップの著作物性と無断転載による著作権侵害(東京地裁令和5年6月12日判決)

はじめに

YouTube等の動画配信プラットフォーム上の動画には、映像や音楽だけでなく、テロップ(字幕)が付されていることが一般的です。このテロップの文章を無断でウェブサイトの記事に転載する行為は、著作権侵害に該当するのでしょうか。

今回のコラムでは、YouTube動画のテロップの文章を無断でウェブサイト記事に転載した行為が、著作権(複製権・翻案権・公衆送信権)の侵害に当たるとされた東京地裁令和5年6月12日判決を紹介いたします。

上記東京地裁判決は、動画のテロップが独立した言語の著作物として保護されるか、既に公開されているエピソードを題材とした文章にも著作物性が認められるか、動画の収益減少と記事投稿との因果関係の認定、著作権法114条3項に基づく損害額(使用料相当額)の算定方法、発信者情報開示手続に要した費用の損害性など、動画コンテンツの制作や記事の作成に関わる企業にとって実務上参考になる論点を含んでいます。

事案の概要

原告は、YouTubeにおいて「感動アニマルズ」との名称の動画配信チャンネルを運営し、動画の配信を業として行う者です。原告は、令和2年6月5日、動物等のイメージ画像等を繋ぎ合わせたスライドショー、BGM、テロップ(以下「本件テロップ」といいます。)およびこれを朗読したナレーションによって構成される動画(以下「本件動画」といいます。)を投稿しました。

本件テロップの内容は、男性2名が野生のライオンを保護して育て上げた後、野生動物の保護地区に放し、1年後に再会した際にライオンが男性を覚えていて抱きついた、というエピソードに関し、推察される各主体の心情等を交えて叙述したものです。

被告は、令和2年7月27日、自らが運営するウェブサイトに、本件テロップの文章とほぼ同一の内容の記事(以下「本件記事」といいます。)を投稿しました。本件記事は令和2年11月に削除されましたが、その間の閲覧回数は154回でした。

原告は、被告の本件記事の投稿が本件テロップに係る著作権(複製権・翻案権・公衆送信権)を侵害するとして、190万2,113円の損害賠償を求めました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点の内容
争点①本件テロップの著作物性および原告の著作権の有無
争点②複製権、翻案権および公衆送信権侵害の有無
争点③原告が本件テロップの著作権を主張することの信義則違反の有無
争点④原告の損害

裁判所の判断

争点① 本件テロップの著作物性について

(1)テロップの著作物性の肯定

裁判所は、本件テロップが言語の著作物に当たると判断しました。裁判所は、以下の点を考慮しています。

考慮事実内容
動画における役割スライドショーおよびBGMのみではストーリー性が乏しく、本件テロップおよびナレーションは、本件動画の中で重要な役割を担う
内容一連の出来事に関し、推察される各主体の心情等を交えて叙述したものである
表現方法動画視聴者の興味を引くことを意図してエピソード自体や表現の手法等を選択するとともに、構成や分量等を工夫して作成されたものである

(2)既存のエピソードとの関係

被告は、本件テロップと同様の文章構成により同じエピソードを紹介するインターネット上の記事が本件テロップの公開前から存在するとして、著作物性を争いました。

裁判所は、本件テロップの公開前から共通性を有する少なくとも4つの記事がインターネット上で公開されていたことを認めつつも、以下のように判示して、本件テロップの著作物性を肯定しました。

「本件テロップとその公開前から存在する記事とでは、アイデアないし事実を共通にする部分があると認められる。しかし、その具体的な表現を比較したとき、各主体の心情その他の表現の内容及び方法においてこれらは表現を異にし、本件テロップにおいては、上記既存の記事には見られない創作性が発揮されているといってよい。」

争点② 複製権、翻案権および公衆送信権侵害の成否について

裁判所は、本件記事が本件テロップに係る複製権または翻案権および公衆送信権を侵害すると判断しました。

裁判所は、本件テロップと本件記事を比較し、以下の事実を認定しています。

比較の視点内容
一致する部分本件記事には、本件テロップと完全に一致する表現が多数含まれる
相違する部分句読点の有無や助詞の違い、文言の一部省略等の僅かな相違や、表現の僅かな修正、要約、前後の入れ替え等にとどまる
全体としての評価実質的にほぼ同一の内容を表現したものである

裁判所は、以下のように判示しています。

「本件記事は、記事中に本件動画が埋め込まれていること(中略)や、(中略)本件テロップと完全に一致する表現を多数含み、相違する部分も、句読点の有無等の僅かな形式的な相違や本件テロップの表現の僅かな修正、要約、前後の入れ替え等にとどまり、実質的にほぼ同一の内容を表現したものであることに鑑みると、本件テロップに依拠したものと認められると共に、著作物である本件テロップの表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者がその特徴を直接感得できるものと認められる。」

争点③ 信義則違反の有無について

被告は、原告が第三者の著作権を侵害して本件動画を作成しており、本件テロップのみを対象として著作権侵害を主張することは信義則に反すると主張しました。

裁判所は、この主張を退けました。裁判所は、以下のように判示しています。

「そもそも、本件動画につき第三者の著作権を侵害して作成されたものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。その点を措くとしても、本件テロップは独立した表現物として把握し得るものであること、本件記事もそのような本件テロップに依拠して作成されたものとみられることに鑑みると、原告が本件テロップの著作権侵害を主張することをもって信義則に反するということはできない。」

争点④ 損害額について

(1)逸失利益(主位的主張)の否定

原告は、本件記事の投稿により本件動画の再生回数・収益が減少したとして、127万5,000円の逸失利益を主張しました。

裁判所は、本件記事の閲覧回数が154回にとどまることや、本件動画の推定収益の推移の状況に鑑み、本件記事の投稿と本件動画の再生回数ないし収益の減少との間に因果関係を認めることはできないとして、この主張を退けました。

(2)使用料相当額(著作権法114条3項)

裁判所は、著作権法114条3項に基づく使用料相当額として12万円を認めました。裁判所が考慮した事情は、以下のとおりです。

考慮事情内容
本件動画の経済的価値本件動画の投稿日から本件記事の削除日までの収益額379万4,863円
使用料規程日本文藝家協会の著作物使用料規程(書籍として複製し公衆に譲渡する場合の使用料:本体価格の15%に発行部数を乗じた額を上限)
テロップの位置づけ本件動画の中で重要な役割を担うが、画像等と一体となって本件動画を構成するものである
使用料率の性質著作権侵害をした者との関係で事後的に定められるものである
仮想使用料率3%程度が相当

(3)発信者情報開示手続に要した費用

裁判所は、発信者情報開示手続に要した費用が不法行為と相当因果関係のある損害となり得ることを認めました。裁判所は、以下のように判示しています。

「ウェブサイトに匿名で投稿された記事が不法行為を構成し、被侵害者が損害賠償請求等の手段を取ろうとする場合、被侵害者は、侵害者である投稿者を特定する必要がある。(中略)これらの発信者情報開示手続に要した費用は、当該不法行為による損害賠償請求の遂行に必要な費用という意味で、不法行為との間で相当因果関係のある損害となり得るといってよい。」

原告が支出した弁護士費用44万円および実費1万4,194円の合計45万4,194円のうち、裁判所は、発信者情報開示手続の性質・内容等を考慮し、10万円をもって相当因果関係のある損害と認めました。

(4)損害額の合計

裁判所が認めた損害額の合計は、以下のとおりです。

項目金額
使用料相当額(著作権法114条3項)12万円
発信者情報開示手続費用10万円
本件訴訟に係る弁護士費用2万円
合計24万円

コメント

1 本判決の意義

(1)動画のテロップの著作物性

本判決は、YouTube動画のテロップ(字幕)が、動画の他の構成部分(スライドショー、BGM等)から独立した言語の著作物として保護され得ることを認めました。裁判所は、テロップが動画の中で重要な役割を担うこと、エピソードや表現手法の選択、構成や分量等の工夫がなされていることを考慮しています。

(2)既に公開されているエピソードを題材とした文章の著作物性

裁判所は、同じエピソードを紹介する記事が公開前から存在していたとしても、共通する部分がアイデアないし事実にとどまり、具体的な表現において創作性が発揮されている場合には、著作物性が認められると判断しました。既に知られているエピソードを題材としていること自体は、著作物性を否定する理由にはなりません。

(3)テロップの独立した表現物としての把握

裁判所は、本件テロップが動画の一部として作成されたものであっても、独立した表現物として把握し得るとして、テロップ単独での著作権侵害の主張を認めました。動画を構成する個々の要素(テロップ、映像、音楽等)が、それぞれ独立した著作物として保護される場合があることを示す判断です。

(4)逸失利益の因果関係と使用料相当額による損害算定

裁判所は、本件記事の閲覧回数が154回にとどまることから、記事の投稿と動画の収益減少との因果関係を否定しました。その上で、著作権法114条3項に基づく使用料相当額により損害額を算定しています。

動画コンテンツの著作権侵害において、逸失利益の立証が困難な場合に、使用料相当額による算定が一つの方法となります。

(5)発信者情報開示手続費用の損害性

裁判所は、発信者情報開示手続に要した費用が不法行為と相当因果関係のある損害となり得ることを認めました。ただし、原告が支出した45万4,194円のうち、相当因果関係のある損害として認められたのは10万円にとどまっています。発信者情報開示手続に要する費用の全額が損害として認められるわけではない点に留意が必要です。

2 企業等に求められる対応

本判決を踏まえると、動画コンテンツの制作やウェブサイトの運営に関わる企業は、以下の点に留意することが考えられます。

場面留意点
他者の動画のテロップを利用する場合動画のテロップは、動画の他の構成部分から独立した言語の著作物として保護される場合がある。テロップの文章をウェブサイトの記事等に転載する行為は、著作権侵害に該当する可能性がある
既に公開されているエピソードを記事にする場合同じエピソードを題材としていても、先行する著作物の具体的な表現をそのまま利用する行為は、著作権侵害に該当する可能性がある。独自の表現で記事を作成する必要がある

おわりに

本判決は、動画のテロップの著作物性、既に知られているエピソードを題材とした文章の著作権保護、動画コンテンツの著作権侵害における損害額の算定方法など、動画コンテンツの制作・配信に関わる実務上の論点について判断を示したものです。これらの問題は、個別の事案に応じた法的検討が必要です。

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