はじめに
金融機関が融資先に対して期限の利益を喪失させ、会社更生手続開始の申立てや破産手続開始の申立てを行った場合、それが不法行為を構成することはあるのでしょうか。
今回のコラムでは、船舶融資において融資先企業グループが傭船契約書を偽造して金融機関に提出していた事案において、金融機関が期限の利益を喪失させた上で会社更生手続開始の申立て等を行ったことの適法性が争われた東京地裁令和元年5月31日判決(東京地方裁判所平成28年(ワ)第10271号)及びその控訴審である東京高裁令和2年1月23日判決(東京高等裁判所令和元年(ネ)第2852号)をご紹介いたします。
本件は、金融機関による倒産手続の申立てが不法行為を構成するか否かについて正面から判断した裁判例であり、企業の担当者にとって実務上の参考になる裁判例です。
事案の概要
本件は、原告が経営する企業グループ(以下「本件企業グループ」といいます。)の船舶を保有する各特別目的会社(SPC)との間で船舶建造代金に係る融資契約を締結していた被告銀行が、各融資契約につき期限の利益喪失事由が発生したとして期限の利益を喪失させた上、各SPCを更生会社とする会社更生手続開始の申立て(以下「申立て(1)」といいます。)を行い、また、一部の融資契約について連帯保証債務を負う原告を破産者とする破産手続開始の申立て(以下「申立て(2)」といいます。)を行ったところ、原告が、各融資契約には期限の利益喪失事由はなく、あるいは被告による上記各申立ては信義則に反し違法である等として、被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償(慰謝料10億円)を求めた事案です。
上記各申立てに至るまでの経緯は、以下のとおりです。
| 時期 | 経緯 |
|---|---|
| 平成17年〜平成26年 | 本件企業グループは、傘下の13のSPCにおいて被告銀行から融資を受けて船舶を建造し、これを運行業者に対して傭船した(以下、被告銀行から融資を受けたSPC合計13社を「本件各SPC」、被告銀行と本件各SPCとの間の融資契約を「本件各融資契約」という。)。 |
| 融資契約の内容 | 本件各融資契約においては、船舶建造後に締結される傭船契約における傭船料及び傭船期間について一定の条件を満たすことが誓約されており(以下「本件誓約」という。)、このうち被告銀行が重要と考える事項に関する誓約に違反した場合には、期限の利益を喪失する旨が定められていた(以下「本件期限の利益喪失条項」という。)。また、傭船契約書の写しの提出が融資実行の停止条件とされていた。 |
| 傭船契約の実態 | 本件各SPCが運行業者との間で実際に締結した傭船契約の傭船条件(以下「真正傭船条件」という。)は、いずれも本件各融資契約において誓約された傭船条件を満たさないものであった。他方、本件各SPCが被告銀行に提出していた傭船契約書(以下「偽造傭船契約書」という。)は、いずれも誓約された傭船条件を満たす内容となっていた。 |
| 平成27年11月10日〜11日 | 被告銀行は、本件各SPC及び連帯保証人である原告に対して期限の利益喪失の通知を発した上で、申立て(1)及び申立て(2)を行った。各申立てについては、会社更生手続開始決定及び破産手続開始決定がされた。 |
本件の争点
本件の争点は以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点(1) | 原告による本件訴訟提起が訴権の濫用に当たるか |
| 争点(2) | 申立て(1)(会社更生手続開始の申立て)が不法行為を構成するか |
| 争点(3) | 申立て(2)(破産手続開始の申立て)が不法行為を構成するか |
| 争点(4) | 被告が本件各申立てを取り下げないまま維持したこと等が不法行為を構成するか |
| 争点(5) | 被告の融資契約上の義務違反の有無 |
| 争点(6) | 損害の有無及び額 |
本コラムでは、本件における主要な争点である争点(2)を中心にご紹介します。争点(2)においては、(a)更生手続開始の原因となる事実の有無(期限の利益喪失条項の有効性、誓約違反の有無、権利放棄の有無等)及び(b)権利濫用・信義則違反の有無が問題となりました。
裁判所の判断
1. 第一審(東京地裁令和元年5月31日判決)の判断
第一審は、以下のとおり判断し、原告の請求をいずれも棄却しました。
(1) 更生手続開始の原因となる事実の有無
ア 期限の利益喪失条項の有効性
原告は、融資契約の内容を十分に理解しないまま契約を締結させられたため、期限の利益喪失条項は無効であると主張しました。
しかし、裁判所は、各契約書に原告が署名していること、署名前にスタッフが契約書(英文)のチェックを行っていたこと、原告が企業グループ全体の経営者として契約書の重要性を十分理解していたと考えられることを指摘し、以下のとおり判示して原告の主張を退けました。
「原告は、各契約書の記載内容が契約内容となることを十分認識し理解した上でこれらに署名したものというべきであるから、原告の上記主張は採用することができない。」
イ 本件誓約違反の有無
原告は、本件誓約は融資契約締結当時の見込みとしての傭船条件を誓約するものにすぎず、当該時点における見込みとして不合理でなければ、実際の傭船条件と合致しなくとも誓約違反とはならないと主張しました。
しかし、裁判所は、以下のとおり判示し、原告の主張を退けました。
「本件誓約は、本件各SPCが日本郵船との間で別紙本件各融資契約一覧表記載の傭船条件を満たす合意をすることを約束するものであり、これを、単に予定されている傭船契約の内容の申告あるいは当該条件の合意を成立させるよう努力する旨の規定と見ることは困難である。」
また、原告は、被告銀行による一部の融資が融資契約書の調印前に実行されたことを理由に本件誓約の効力を争いましたが、裁判所は、本件誓約は融資実行後も返済完了時まで傭船条件を満たすことを誓約するものであるから、本件誓約時に一部の融資が既に実行されていたとしても、その効力に影響を与えないと判断しました。
ウ 誓約を保全する権利の放棄の有無
原告は、被告銀行が融資実行通知や傭船契約書の写しを受領する前に融資を実行したことをもって、本件誓約を保全する権利を放棄したと主張しました。
しかし、裁判所は、以下のとおり判示し、原告の主張を退けました。
「被告が融資実行通知や傭船契約書の写しを受領する前に融資を実行したことが、当然に本件誓約を保全する権利を喪失させるものではないというべきであり、その他、被告が同権利を放棄したことをうかがわせる事情は見当たらない。」
エ 重要な点における誓約違反の該当性
原告は、被告銀行の融資態度やモニタリングの状況等からすれば、傭船条件は被告銀行にとって重要ではなかったと主張しました。
裁判所は、まず、本件期限の利益喪失条項の「誓約について被告が重要と考える点が不正確であることが証明された場合」の意味について、以下のとおり判示しました。
「傭船料を返済原資とする融資という本件各融資契約の性質に照らし、客観的に見て期限の利益を付与するかどうかの判断に重大な影響を与える事項が不正確であることが証明された場合を意味するものと解すべきであり、その要件該当性は客観的に判断することが可能であるから、当該規定は有効であると認められる。」
そして、裁判所は、融資態度やモニタリングの状況について検討した上で、原告が指摘する事実を考慮しても、傭船条件に関する誓約違反が重要な点に係る誓約違反に当たらないとはいえないと判断しました。裁判所が考慮した事実は以下のとおりです。
原告が主張した被告銀行の融資態度に関する事実
| 番号 | 事実 |
|---|---|
| (1) | 被告銀行は、融資契約の大部分について、停止条件とされている傭船契約書の写しの提出を受けずに融資を実行していた |
| (2) | 本来は「未完」扱いとして例外的に短期間許されていた取扱いが、長期未完となっていた事例があった |
| (3) | 被告銀行は、各SPCの傭船料入金口座について、毎月入金される傭船料の金額を厳密にモニタリングしていなかった |
| (4) | 被告銀行は、平成18年、自動車船5隻の建造及び傭船がいまだ計画段階であったにもかかわらず、総額150億円の融資を先行して実行した |
裁判所が認定した被告銀行側の事情
| 番号 | 事実 |
|---|---|
| (5) | 被告銀行は、融資実行額・返済条件等について、傭船条件の内容に従ったシミュレーションを行って決定していた |
| (6) | 傭船契約書の写しの提出前に融資を実行したのは、原告から傭船条件については合意済みだが細部の交渉中で調印が遅れているとの説明を受けていたためであった |
| (7) | 被告銀行は、傭船契約書の写しの提出を受けずに融資を実行した場合、その写しの速やかな提出を求めていた |
裁判所は、これらの事実を踏まえ、被告銀行が傭船条件について関心を抱いていなかったとはいえないと判断しました。また、150億円の先行融資についても、当時の海運市況が良好であったことを背景に、有利な条件の融資案件を獲得したいとの営業上の理由によるところが大きかったものと認定し、このことが直ちに傭船条件を重要視していなかったことを示すものとはいえないとしました。
オ 催告の要否
原告は、本件誓約違反は非金銭債務の不履行に該当するため、期限の利益を喪失させるには3日前の催告が必要であると主張しました。
しかし、裁判所は、本件期限の利益喪失条項において、「借主のその他の不履行」と「不実表示または違反」は並列的に記載されており、誓約違反が「借主のその他の不履行」の一類型であると解釈することは困難であるとして、催告は不要であると判断しました。
(2) 権利濫用・信義則違反の有無
ア 被告銀行による傭船契約書の偽造への関与
原告は、被告銀行の担当者が、融資審査のために長期の傭船期間や高額な傭船料を申告するよう助言したり、真正傭船条件と異なる傭船条件を被告銀行に提示することを認めたりした旨主張しました。
しかし、裁判所は、これを認めるに足りる証拠はないと判断しました。むしろ、原告が本件訪問時に偽造傭船契約書の作成を否定しなかったことや、原告自身が傭船期間が1年であることを認識しながら被告銀行に対しては10年又は15年である旨話していたと供述していることを踏まえ、偽造傭船契約書は本件企業グループにおいて作成して被告銀行に提出したものと解するのが自然であると判示しました。
イ 被告銀行による真正傭船条件との齟齬の認識
原告は、被告銀行が真正傭船条件と誓約された傭船条件との齟齬(以下「本件齟齬」といいます。)を認識していたことを示す事情として、多数の事実を指摘しました。裁判所は、以下の各事実について個別に検討しましたが、いずれについても、被告銀行が本件齟齬を認識していたとは認められないと判断しました。
| 原告が指摘した事実 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| 傭船料支払明細書を入手しようとしなかった | 各SPCが返済を怠ったことがないことを考慮すれば、本件誓約どおりであることに疑いを抱かず明細書の提出を求めなかったとしても不自然ではない |
| 船舶の命名引渡式前夜祭で傭船期間15年との発言に異議を述べなかった | 食事の席での挨拶であり、15年も長期であることに変わりはないため、20年との差異を意識せず聞き流すこともあり得る |
| 傭船料の入金額を確認すれば齟齬を認識できた | 約定弁済がされていたため入金額と契約条件を逐一照合しなかったとしても不自然ではなく、傭船料の差額について指摘した際も合理的な説明を受けて信じていた |
| SPCの計算書類に傭船料収入額が明示されていた | 偽造傭船契約書における傭船料と真正傭船条件における傭船料との間に著しい差異はなく、齟齬について疑いを持って精査しない限り認識は困難である |
| 会計監査法人KPMGの監査報告を受領した | 受領した資料には各SPCと運行業者間の傭船条件について具体的な記載はなく、齟齬を認識できたとはいい難い |
| 偽造傭船契約書の体裁上の不備 | 一見して偽造とわかるような不自然な部分があるとはいえず、傭船条件も誓約に沿った内容が記載されていた |
ウ 会社更生手続開始の申立ての必要性
原告は、被告銀行は十分な担保を取得しており、倒産手続によらない債権回収は十分に可能であったから、申立て(1)を行う必要はなかったと主張しました。
裁判所は、以下のとおり判示し、申立て(1)が必要のないものであったとはいえないと判断しました。
「債務者である会社に契約上の期限の利益の喪失事由が生じ、債務超過のおそれが生じた場合に、どのような債権回収方法を採用するかは、基本的に債権者の選択に委ねられているのであり、特に、会社更生手続は、裁判所の監督の下で事業の再生を図るとともに、債権者に対する公平な弁済を実現する透明性の高い手続であるから、債権者にとって他の債権回収の手段があるからといって、会社更生手続開始の申立てが許されなくなるものではない。」
エ 積極的な融資態度と信義則違反の関係
裁判所は、被告銀行が企業グループに対して積極的な融資態度を取っていたことや、モニタリングが不十分であったことを認定しつつも、以下のとおり判示し、これらの事情によっても信義則違反とはならないとしました。
「被告の上記融資態度については、裏を返せば、被告が○○グループの事業や経営内容に絶大な信頼を抱いていたことを示すものということができるのであって、そのような信頼関係に起因して融資条件の確認やモニタリングが不十分であったとしても、これにより期限の利益を喪失させることや、申立て①に及ぶことが、信義則上許されなくなるということはできない。特に、本件各融資契約において、本件各SPCは、被告に対し、真正傭船条件が本件誓約を満たさないものであることを秘して本件各融資契約を締結した上、偽造された傭船契約書を提出していたのであって、かかる行為は、被告との間の信頼関係を根本から破壊するものであるといわざるを得ず、仮に、被告が十分な注意を払っていなかったためかかる信頼関係の破壊行為を早期に発見することができなかったとしても、そのことにより、本件各融資契約における期限の利益を喪失させることや、申立て①に及ぶことが許されなくなるものではないことも明らかである。」
2. 控訴審(東京高裁令和2年1月23日判決)の判断
控訴審は、第一審の判断を引用した上で、控訴人(原告)の新たな主張についても検討しましたが、いずれも退け、控訴を棄却しました。
控訴審で追加された主な判断は以下のとおりです。
(1) 傭船期間の延長に関する実務慣行の主張
控訴人は、傭船契約書上の傭船期間が誓約された条件より短くても、運行業者において傭船し続けてくれるという実務慣行があり、現に傭船期間が延長され続けているから、誓約違反はないと主張しました。
裁判所は、以下のとおり判示し、この主張を退けました。
「本件誓約は、本件各SPCが日本郵船との間で原判決別紙本件各融資契約一覧表記載の傭船条件(傭船期間及び1日当たりの傭船料)を満たす合意をすることを約束するものであるから、控訴人が主張するような実務慣行があり、実際に傭船期間が延長され続ければ、本件誓約違反が生じないということにはならない。実質的に見ても、日本郵船から10年間傭船料の支払を受けられるかという点において、傭船期間を10年とする契約と延長されない可能性がある傭船期間を1年とする契約とでは、その傭船料受領の確実性が異なるものであることは明らかである。」
(2) 誓約は見込みとしての傭船条件にすぎないとの主張
控訴人は、本件各SPCは誓約時の見込みとしての傭船条件を誓約したにすぎず、虚偽ではなかったから、期限の利益喪失事由に該当しないと主張しました。
裁判所は、以下のとおり判示し、この主張を退けました。
「控訴人が、虚偽ではない見込みとしての傭船条件を誓約したというのであれば、日本郵船との間で傭船契約を締結した後速やかに被控訴人に対し真正傭船条件が記載された傭船契約書を提出すれば足りるはずであるにもかかわらず、本件各SPCがあえて本件誓約の条件を満たす偽造傭船契約書を作成して被控訴人に提出したことからすれば、本件各SPCは、本件誓約をした時点で、日本郵船との間でその傭船条件を満たす合意をする見込みさえ有していなかったと推認せざるを得ず、これを覆すに足りる証拠はない。」
(3) 債権保全の客観的必要性に関する主張
控訴人は、債権保全の客観的必要性が期限の利益を喪失させるための要件であるところ、被告銀行はこれを検討していなかったと主張しました。また、本件誓約は金銭返還債務に付随する担保提供義務であり、その形式的な違反があった場合に、金銭返還債務の不履行につき合理的な懸念をもたらすものか否かを判断することなく、直ちに金銭返還債務の不履行に直結させることはできないとも主張しました。
裁判所は、以下のとおり判示し、いずれの主張も退けました。
「いずれも本件各融資契約ないし法令に根拠があるものではなく、控訴人独自の見解というほかないから、これを採用することはできない。」
以上のとおり、控訴審は、第一審の判断は相当であるとして控訴を棄却し、本判決は控訴期間の満了により確定しました。
コメント
1. 本件各判決の意義
本件の第一審判決及び控訴審判決は、金融機関が融資先を債務者とする会社更生手続開始の申立てを行った場合に、当該申立てが不法行為を構成するか否かについて正面から判断を示した裁判例です。類似の裁判例は見当たらず、第一審における詳細な事実認定及びこれを支持した控訴審の判断過程は、融資契約における期限の利益喪失条項の運用実務を考える際に示唆を与えるものといえます。
2. 期限の利益喪失条項における「重要性」の判断基準
第一審判決は、「誓約について被告が重要と考える点が不正確であることが証明された場合」という期限の利益喪失条項の要件について、当該融資契約の性質に照らし、客観的に見て期限の利益を付与するかどうかの判断に重大な影響を与える事項が不正確であることが証明された場合を意味すると判示しました。これは、「重要と考える点」という主観的な文言について、客観的な基準により判断すべきことを明らかにした点で、実務上、参考になります。
3. 金融機関の融資態度・モニタリングと信義則違反の関係
原告は、被告銀行が傭船契約書の提出を待たずに融資を実行していたことや、傭船料のモニタリングが不十分であったこと等を多数指摘し、このような融資態度を取りながら期限の利益を喪失させて倒産手続の申立てに及ぶことは信義則に反すると主張しました。
第一審判決は、被告銀行のモニタリング等が十分でなかったことを認めつつも、それは企業グループに対する信頼に起因するものであり、借主側が真正傭船条件を秘匿し偽造傭船契約書を提出するという信頼関係を根本から破壊する行為に及んでいた以上、金融機関が早期に発見できなかったとしても、期限の利益の喪失や倒産手続の申立てが信義則上許されなくなるものではないと判断し、控訴審もこの判断を維持しました。
この判断は、金融機関の融資管理体制が必ずしも万全でなかった場合であっても、借主側の背信的行為が認められる場合には、信義則違反の主張が排斥される可能性があることを示したものと読むこともできます。
4. 控訴審における誓約の性質に関する判断
控訴審判決は、控訴人が「本件誓約は見込みとしての傭船条件を誓約したにすぎない」と主張したのに対し、仮にそうであれば傭船契約締結後に速やかに真正傭船契約書を提出すれば足りるはずであるにもかかわらず、あえて偽造傭船契約書を提出したことからすれば、誓約時点で条件を満たす合意をする見込みさえなかったと推認しました。この判断は、借主の事後の行動から誓約時の主観を推認するという事実認定の手法として注目されます。
5. 企業に求められる対応
本件各判決を踏まえると、企業においては、以下の点に留意することが求められます。
(1)融資契約における誓約条項の正確な理解と遵守
融資契約に含まれる誓約条項は、その違反が期限の利益喪失事由に直結する場合があります。誓約条項の内容を正確に把握し、遵守することが不可欠です。本件のように傭船条件に関する誓約が含まれている場合には、実際の傭船条件が誓約内容を満たしているかを継続的に確認する必要があります。
(2)金融機関への正確な情報提供
第一審判決は、偽造傭船契約書の提出が信頼関係を根本から破壊する行為であると判示しています。金融機関に対する報告や書類の提出においては、正確な情報を提供することが求められます。不正確な情報提供は、期限の利益の喪失にとどまらず、倒産手続の申立てにつながるリスクがあります。
(3)融資条件の変更が必要な場合の対応
事業環境の変化等により、融資契約上の誓約条項を遵守することが困難となった場合には、金融機関に対して速やかに事情を説明し、融資条件の変更について協議することが適切です。本件各判決では、真正傭船条件が誓約された条件を満たしていないにもかかわらず、これを秘匿して取引を継続していたことが、信義則違反の主張を排斥する理由の一つとなっています。早期に金融機関との間で誠実な協議を行っていれば、結果が異なっていた可能性もあります。
(4)期限の利益喪失条項の確認
期限の利益喪失条項の要件(催告の要否、喪失事由の範囲等)について、契約締結時に十分に確認しておくことが重要です。本件では、誓約違反を理由に期限の利益を喪失させる場合に催告が必要か否かが争われましたが、裁判所は、契約条項の文言に基づき、催告は不要であると判断しました。
(5)金融機関による倒産手続申立てのリスクの認識
本件各判決は、会社更生手続が裁判所の監督の下で事業の再生と債権者への公平な弁済を実現する透明性の高い手続であることを理由に、他の債権回収手段があるからといって会社更生手続開始の申立てが許されなくなるものではないと判示しています。融資契約上の義務に違反した場合、金融機関が倒産手続の申立てという手段を選択する可能性もゼロではないことを認識しておく必要があります。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

