2024年11月1日より、フリーランス保護法(正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)が施行されます。
フリーランス保護法は、フリーランスと取引するすべての事業者が守らなければならない法律です。
フリーランス保護法は、取引の適正化と就業環境の整備の2つの観点から、発注事業者が守るべき義務と禁止行為を定めています。
フリーランス保護法を理解するコツは、発注事業者が満たす要件(従業員使用の有無や業務委託の期間)に応じて、異なる内容の義務が課される点を抑えることにあります。
内閣官房ほかフリーランス保護法のリーフレットより引用
今回のコラムでは、
・解釈ガイドライン
・指針
・Q&A
・パブコメ回答(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」)
を踏まえ、フリーランス保護法の概要について、解説をしていきます。
フリーランス保護法の適用対象(対象となる事業者)
フリーランス保護法は、フリーランス(同法の「特定受託事業者」)と、発注事業者(同法の「業務委託事業者」)との間の「業務委託」に係る取引に適用されます。すなわち、「B to B」(事業者間)の「業務委託」に係る取引が対象です。
「特定受託事業者」とは?
「特定受託事業者」(フリーランス)とは、業務委託の相手方である事業者で従業員を使用しないものをいいます(同法2条1項)。ざっくりいうと、「法人か個人かを問わず、一人で仕事を受けて業務を行っているような方」というイメージです。
このため、フリーランス保護法の適用対象となるかを判断する際には、業務委託の相手方が「従業員を使用」しているかの確認が必要となります。
「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労働基準法9条に規定する労働者)を雇用することをいいます。
ただし、労働者派遣法2条4号に規定する派遣先として、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上労働者派遣の役務の提供を受けることが見込まれる派遣労働者を受け入れる場合には、当該派遣労働者を雇用していないものの、「従業員を使用」に該当するとされています。
これに対し、事業に同居親族(居住と生計が同一の親族)のみを使用している場合には、「従業員を使用」に該当しないとされています(Q&A問16)。
発注の時点で、受注事業者が「特定受託事業者」に該当しない場合、その業務の委託にはフリーランス保護法の規定は適用されません。発注後に受注事業者が「特定受託事業者」の要件を満たすようになった場合も同様です(パブコメ回答1-2-10から1-2-14)。
業務の委託に係る契約が更新される場合(自動更新の場合を含む)は、更新の時点で改めて業務委託があったものと考えられます。このため、更新後の業務の委託が「業務委託」に該当する場合であって、受注事業者が「特定受託事業者」に該当するときは、当該更新後の業務委託にはフリーランス保護法が適用されることになります。
「従業員」の有無の確認は、口頭によることも可能ですが、発注事業者や受注事業者にとって過度な負担とならず、かつ、トラブル防止の観点から、記録が残る方法で確認することが望ましいとされています。例えば、電子メール(クラウドメールサービスを含みます)やSNSのメッセージ機能等を用いて受注事業者に確認する方法などが考えられます。
実務的には、作業負担等の観点から、すべての業務委託の相手方に対し確認を行うことは現実的ではない(難しい)場合も想定されます。
そのような場合、「従業員を使用」していない可能性のある業務委託の相手方については、安全サイドに立ち、保守的にすべてフリーランス保護法の適用対象とみなしてしまう(割り切る)という対応も考えられます。
「業務委託事業者」とは?
フリーランス保護法の適用対象となる「業務委託事業者」(発注事業者)とは、「特定受託事業者」(フリーランス)に業務委託をする事業者をいいます(同法2条5項)。
下請法上の「親事業者」(同法 2 条 7 項)概念と異なり、フリーランス保護法上の「業務委託事業者」の定義には、資本金に関する要件は含まれません。このため、資本金の額を問わず、特定受託事業者に対し業務委託をする全ての発注事業者が新法の適用対象となり得ます。
そして、業務委託事業者のうち従業員を使用するものは「特定業務委託事業者」と定義され(同法2条6項)、「業務委託事業者」よりも多くの義務が課されます。
なお、形式的には業務委託の発注事業者ではない事業者であっても、実質的に「業務委託事業者」に該当すると判断される場合があることに注意する必要があります。たとえば、「業務委託事業者」と「特定受託事業者」を仲介している事業者については、委託の内容(物品、情報成果物又は役務の内容、相手方事業者の選定、報酬の額の決定等)への関与の状況のほか、必要に応じて反対給付たる金銭債権の内容及び性格、債務不履行時の責任主体等を、契約及び取引実態から総合的に考慮した結果、「業務委託事業者」に該当すると判断され、フリーランス保護法の適用対象となる場合があるとされています(パブコメ回答1-2-44)。
ここで注意が必要なのは、「業務委託事業者」には、フリーランスも含まれる点です。すなわち、フリーランスがフリーランスに対し業務委託をする場合(フリーランス同士の取引の場合)、発注するフリーランスには、業務委託事業者を対象とする義務(書面等による取引条件の明示)が課されます。
フリーランス保護法の適用対象となる「業務委託」とは?
「業務委託」は、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいいます(同法2条3項)。
業種や業界の限定はなく、発注事業者から特定受託事業者(フリーランス)へ委託するすべての業務が対象となります。
役務の提供委託については、下請法と異なり、発注事業者が他者に提供する役務の提供委託に限らず、発注事業者が自ら用いる役務の提供委託も含まれるほか、建設工事も含まれます。
「業務委託」への該当性は、業務に従事する者の働き方の実態に即して判断されます。
このため、契約名称が「業務委託」であっても、指揮命令・監督を受けるなど働き方の実態が労働者である場合は、同法は適用されず、労働基準法等の労働関係法令が適用されることになります。
フリーランス保護法は、業務委託をすることについて、施行日である2024年11月1日以降に合意をした業務委託に適用されます。同法施行前に合意をした業務委託については、同法施行後に給付を受領し、又は役務の提供を受ける場合であっても、同法の適用はありません。
ただし、同法施行前に合意をした業務委託について、同法施行後に契約の更新を行う場合には、新たな業務委託があったものとして、更新後の業務委託に同法が適用されます(パブコメ回答4-14)。
義務と禁止行為(取引適正化規制と就業環境整備規制)
フリーランス保護法は、取引の適正化と就業環境の整備の2つの観点から、発注事業者が守るべき義務と禁止行為が定められており、発注事業者が満たす要件に応じて、異なる内容の義務が課されます。
内閣官房ほかフリーランス保護法のリーフレットより引用
取引の適正化に関する規制としては、①書面等による取引条件の明示(法3条)、②報酬支払期日の設定・期日内の支払(同法4条)、③特定業務委託事業者の遵守事項(同法5条)が規定されています。
これらの規定は、基本的には下請法に準じる規制となっているため、下請法遵守体制が既に整っている発注事業者においては、基本的には既存の下請法遵守体制を活用することで足りますが、下請法の規制との違いには留意する必要があります。
就業環境の整備に関する規制としては、④募集情報の的確表示義務(同法12条)、⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(同法13条)、⑥ハラスメント対策に係る体制整備義務(同法14条)、⑦中途解除等の事前予告・理由開示義務(同法16条)が規定されています。
①書面等による取引条件の明示(法3条)
業務委託事業者は、特定受託事業者(フリーランス)に対し業務委託をした場合は、原則として直ちに、以下の事項を、書面又は電磁的方法により明示する必要があります(法3条1項本文)。
① 業務委託事業者及び特定受託事業者の名称
② 業務委託をした日
③ 特定受託事業者の給付の内容
④ 給付を受領又は役務の提供を受ける期日
⑤ 給付を受領又は役務の提供を受ける場所
⑥ 給付の内容について検査する場合は、検査を完了する期日
⑦ 報酬の額及び支払期日
⑧ 現金以外の方法で報酬を支払う場合は、支払方法に関すること
明示事項は、下請法上の取引条件の明示事項(3条書面の記載事項)と基本的に同様ですが、フリーランス保護法では、下請法と異なり、報酬のデジタル払い(資金移動業者の口座への支払)をする場合の明示事項が定められています(上記⑧)。
③の給付の内容には、品目、品種、数量(回数) 、規格、仕様などを明確に記載する必要があります。また、フリーランスの知的財産権が発生する場合で、業務委託の目的である使用の範囲を超えて知的財産権を譲渡・許諾させる際には、譲渡・許諾の範囲も明確に記載する必要があります。
上記の各事項を明示する方法については、書面か電磁的方法のみが認められ、電話など口頭で伝えることは認められません。どちらの方法とするかは、発注事業者が自ら選択できます。下請法と異なり、業務委託の相手方の承諾なく、電子メール等の電磁的方法で明示することができます。
ただし、電磁的方法で明示した場合であっても、フリーランスから書面の交付を求められたときは、遅滞なく、書面を交付する必要があります。もっとも、フリーランスの保護に支障を生ずることがない場合には、必ずしも書面を交付する必要はありません。
書面等による取引条件の明示義務は、「業務委託事業者」に課される義務であるため、フリーランス同士の取引も対象となります。このため、発注者がフリーランスである場合、当該フリーランスに対し取引条件の明示義務が課されます。
②報酬支払期日の設定・期日内の支払(同法4条)
特定業務委託事業者(発注事業者)は、発注した物品等の内容の検査をするかどうかを問わず、原則として、当該物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定め、その支払期日までに報酬を支払わなければなりません(同法4条1項及び5項)。
支払期日(=支払日)は、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で具体的な日を特定できるように定める必要があります。
たとえば、「〇月〇日まで」や「〇〇日以内」という記載は、いつが支払期日なのか具体的な日を特定できないため、支払期日を定めているとは認められない点に注意する必要があります。
支払期日を定めなかったとき場合は物品等を実際に受領した日が、 給付を受領した日から起算して60日を超えて定めた場合は 受領した日から起算して60日を経過する日が、それぞれ支払期日となります。
なお、特定業務委託事業者(発注事業者)が、他の事業者(元委託者)から業務委託を受けて、その業務(元委託業務)を特定受託事業者(フリーランス)に再委託した場合は、通常明示すべき事項に加え、①再委託である旨、②元委託者の氏名又は名称、③元委託業務の対価の支払期日を明示した場合に限り、例外的に、再委託の報酬の支払期日については、元委託の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定めることができます(同法4条3項及び5項)。
この例外規定の趣旨は、再委託の場合にも一律に原則ルールを適用することで特定業務委託事業者の資金繰り悪化や特定受託事業者への発注控えが生ずることを防止する目的で、原則ルールに比べて支払期日の延期を可能とすることにあります(解釈ガイドライン第2部第2の1(2)イ(ア))。このため、この例外規定は、必ず適用を受けなければならないものではありません。営業秘密の観点等から、特定業務委託事業者が、元委託者の情報を特定受託事業者に示すことを望まない場合には、再委託の場合の例外の規定の適用を受けないことは可能です。
再委託の例外は、実際に元委託者から支払われた日ではなく、元委託者と発注事業者との間で定められた支払の予定期日を起算日として考えるため、元委託者から元委託支払期日よりも早く報酬を支払われたとしても、フリーランスとの間で定めた支払期日までに支払を行えば問題にはなりません。
③発注事業者の禁止行為(同法5条)
特定業務委託事業者(発注事業者)は、1か月以上継続する業務委託をした場合は、以下の7つの行為を行ってはならないものと定められています(同法5条)。
遵守事項 | 概要 |
①受領拒否の禁止(法5条1項1号) | ・フリーランスに責任がないのに、委託した物品や情報成果物の受取を拒むこと ・発注事業者の一方的な都合による発注取消しや納期を延期することで、あらかじめ定めた納期に受け取らないことも受領拒否に当たる |
②報酬の減額の禁止(法5条1項2号) | ・フリーランスに責任がないのに、業務委託時に定めた報酬の額を、後から減らして支払うこと ・協賛金の徴収、原材料価格の下落など、名目や方法、金額にかかわらず、あらゆる減額行為が禁止されています。 |
③返品の禁止(法5条1項3号) | ・フリーランスに責任がないのに、フリーランスに委託した物品や情報成果物を受領後に引き取らせること ・不良品などがあった場合には、受領後6か月以内に限って、返品することが認められます。 |
④買いたたきの禁止(法5条1項4号) | ・フリーランスに委託する物品等に対して、通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬の額を定めること ・買いたたきは、発注事業者がフリーランスに業務委託し、報酬を決定する際に規制されるものです。報酬の額は、フリーランスとしっかり協議して定めることが重要です。 |
⑤購入・利用強制の禁止(法5条1項5号) | ・フリーランスに委託した物品等の品質を維持、改善するためなどの正当な理由がないのに、発注事業者が指定する物や役務を強制して購入、利用させること |
⑥不当な経済上の利益の提供要請(法5条2項1号) | ・発注事業者が自己のために、フリーランスに金銭、役務、その他の経済上の利益を提供させることによってフリーランスの利益を不当に害すること。 ・名目を問わず、報酬の支払とは独立して行われる金銭の提供や、作業への労務の提供をすることが、フリーランスの直接の利益とならない場合が対象となります。 |
⑦不当な給付内容の変更、やり直し(法5条2項2号) | ・フリーランスに責任がないのに、費用を負担せずに、フリーランスの給付の内容を変更させたり、フリーランスの給付を受領した後に給付をやり直させたりして、フリーランスの利益を不当に害すること。 ・発注側の都合で、発注を取り消したり、やり直しをさせる場合には、フリーランスが作業に要した費用を負担する必要があります。 |
これらの禁止行為については、たとえフリーランスの了解を得たり、合意していたとしても、また、発注事業者に違法性の意識がなくても、フリーランス保護法に違反することになるので注意する必要があります。
上記の7つの禁止行為は、下請法上、親事業者の遵守事項(下請法4条)として列挙されている行為に準じる内容となっていますが、下請法においては禁止されている有償支給原材料等の早期決済の禁止(同条2項1号)及び割引困難手形の交付の禁止(同条2項2号)に相当する規定はありません。
なお、上記④の買いたたきについては、独占禁止法上の優越的地位の濫用及び下請法上の買いたたきと同様に、政府の価格転嫁円滑化の取組の一環として、厳しい取締りの対象となることが想定されることに注意が必要です。
例えば、下請法上の買いたたきについては、2024年5月27日に下請法運用基準が改正され、価格の据え置きも下請法上の買いたたきに該当し得ることが明確化されました。
フリーランス保護法上の買いたたきにおいても、上記の下請法運用基準の改正内容と同内容の解釈が採用されており、価格の据え置きも買いたたきに該当し得るとされています(解釈ガイドライン第2部第2の2(2)エ(ア)及び同(ウ)の⑨⑩)。
上記7つの禁止規定が適用されるのは、「特定業務委託事業者」が「1か月以上継続する業務委託をした場合」に課される点に注意してください。
④募集情報の的確表示義務(同法12条)
特定業務委託事業者(発注事業者)は、広告等によりフリーランスを募集する際は、その情報について、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保つ必要があります。
広告等とは、①新聞、雑誌に掲載する広告、②文書の掲出・頒布、③書面、④ファックス、⑤電子メール・メッセージアプリ等(メッセージ機能があるSNSを含む。)、⑥放送、有線放送等(テレビ、ラジオ、オンデマンド放送、ホームページ、クラウドソーシングサービスのプラットフォーム等)をいいます。
意図して募集情報を実際の就業に関する条件とは異なる表示とした場合や、実際には存在しない業務に関する募集情報を提供した場合などには、「虚偽の表示」に該当します。ただし、事後的に当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなった場合は虚偽の表示には該当しないとされています。
【虚偽の表示の具体例】
・実際に業務委託を行う事業者とは別の事業者の名称で業務委託に係る募集を行う場合
・契約期間を記載しながら実際にはその期間とは大幅に異なる期間の契約期間を予定している場合
・報酬額を表示しながら実際にはその金額よりも低額の報酬を予定している場合
・実際には業務委託をする予定のない特定受託事業者(フリーランス)の募集を出す場合
また、一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示は、「誤解を生じさせる表示」に該当します。指針では、特定業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に誤解を生じさせることのないよう留意すべき事項として以下のものが挙げられています。
【特定受託事業者(フリーランス)に誤解を生じさせないよう留意すべき事項】
・関係会社を有する者が特定受託事業者の募集を行う場合、業務委託を行う予定の者を明確にし、当該関係会社と混同されることのないよう表示しなければならないこと
・特定受託事業者の募集と、労働者の募集が、混同されることのないよう表示しなければならないこと
・報酬額等について、実際の報酬額等よりも高額であるかのように表示してはならないこと
・職種又は業種について、実際の業務の内容と著しく乖離する名称を用いてはならないこと
特定業務委託事業者(発注事業者)は、広告等により特定受託事業者(フリーランス)の募集に関する情報を提供するに当たっては、以下の措置を講じるなど、募集情報を正確・最新の内容に保たなければなりません。
【募集情報を正確かつ最新の内容に保つための対応の例】
・特定受託事業者の募集を終了した場合又は募集の内容を変更した場合には、当該募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又は当該募集に関する情報を速やかに変更すること
・広告等により募集することを他の事業者に委託した場合には、当該事業者に対して当該情報の提供を終了するよう依頼し、又は当該情報の内容を変更するよう依頼するとともに、他の事業者が当該情報の提供を終了し、又は当該情報の内容を変更したかどうか確認を行わなければならないこと(なお、情報の変更等を繰り返し依頼したにもかかわらず他の事業者が変更等をしなかった場合には、募集情報の的確表示義務に違反することにはなりません)
・特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当該情報の時点を明らかにすること
このような的確表示義務の対象となる募集情報は、以下の①~⑤です。発注事業者は、フリーランスの募集内容のうち、①~⑤について表示する場合には、虚偽の表示・誤解を生じさせる表示となっていないか、正確かつ最新の内容となっているかを確認する必要があります。
募集情報の事項 | 具体的な内容の例 |
①業務の内容 | ・成果物または役務提供の内容 ・業務に必要な能力または資格 ・検収基準 ・不良品の取扱いに関する定め ・成果物の知的財産権の許諾・譲渡の範囲 ・違約金に関する定めなど |
②業務に従事する場所・期間・時間に関する事項 | ・業務を遂行する場所、納期、期間、時間など |
③報酬に関する事項 | ・報酬の額( 算定方法を含む) ・支払期日 ・支払方法 ・交通費や材料費等の諸経費( 報酬から控除されるものも含む) ・成果物の知的財産権の譲渡・許諾の対価など |
④契約の解除・不更新に関する事 | ・契約の解除事由 ・中途解除の際の費用・違約金に関する定めなど |
⑤フリーランスの募集を行う者に関する事 | ・フリーランスの募集を行う者の名称・業績など |
なお、指針では、特定業務委託事業者(発注事業者)は、他の事業者に広告等による募集を委託した場合に、当該他の事業者が虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしていることを認識した場合には、情報の訂正を依頼するとともに、他の事業者が情報の訂正をしたかどうか確認を行わなければならないとされています(指針第2.2(3)及び3(3))。
情報の訂正を繰り返し依頼したにもかかわらず他の事業者が訂正しなかった場合には、特定業務委託事業者は募集情報の的確表示義務(フリーランス保護法12条)の違反にはならないとされています。
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(同法13条)
特定業務委託事業者(発注事業者)は、フリーランスからの申出に応じて、6か月以上の期間で行う業務委託については、フリーランスが妊娠、出産、育児または介護(育児介護等)と業務を両立できるよう、以下の①から③の必要な配慮をしなければならず、 6か月未満の期間で行う業務委託については、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をするよう努めなければなりません。
内閣官房ほか「ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等」20頁より引用
①申出の内容等の把握 | ・フリーランスから育児介護等に対する配慮の申出を受けた場合には、話合い等を通じ、当該者が求める配慮の具体的な内容及び育児介護等の状況を把握すること |
②取り得る選択肢の検討 | ・フリーランスの希望する配慮の内容又は希望する配慮の内容を踏まえたその他の取り得る対応について行うことが可能か十分に検討すること |
③配慮の内容の伝達・実施/ 配慮不実施の伝達・理由の説明 | ・具体的な配慮の内容が確定した際には速やかに申出を行った特定受託事業者に対してその内容を伝え、実施すること ・希望する配慮の内容やその他の取り得る対応を十分に検討した結果、業務の性質や実施体制等に照らして困難であること、当該配慮を行うことにより、業務のほとんどが行えない等、契約目的が達成できなくなること等、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、特定受託事業者に対して配慮を行うことができない旨を伝達し、その理由について、必要に応じ、書面の交付や電子メールの送付により行うことも含め、わかりやすく説明すること |
なお、育児介護等に対する配慮が円滑に行われるようにするためには、特定受託事業者が、速やかに配慮の申出を行い、具体的な調整を開始することができるようにすることが必要であり、そのためには、特定受託事業者が申出をしやすい環境を整備しておくことが重要です。このため、指針では、配慮の申出が可能であることや、配慮を申し出る際の窓口・担当者、配慮の申出を行う場合の手続等を周知すること、育児介護等に否定的な言動が頻繁に行われるといった配慮の申出を行いにくい状況がある場合にはそれを解消するための取組を行うこと等の育児介護等への理解促進に努めることが望ましいとされています。
また、指針では、法13条の趣旨に鑑み、①特定受託事業者(フリーランス)からの育児介護等に対する配慮の申出の阻害や②特定受託事業者(フリーランス)が申出をしたこと又は配慮を受けたことのみを理由に契約の解除その他の不利益な取扱いを行うことを、望ましくない取扱いとしています。
②の「契約の解除その他不利益な取扱い」には、契約の解除や報酬を支払わない、または減額を行うこと、給付の内容を変更させることや給付を受領した後に給付をやり直させること、取引数量の削減、取引停止、就業環境を害することなどが含まれます。
指針では、②に該当する例として、
①介護のため特定の曜日や時間の業務を行うことが難しくなったため、配慮の申出をした特定受託事業者について、別の曜日や時間は引き続き業務を行うことが可能であり、契約目的も達成できることが見込まれる中、配慮の申出をしたことを理由として、契約の解除を行うこと
②特定受託事業者が出産に関する配慮を受けたことを理由として、現に役務を提供しなかった業務量に相当する分を超えて報酬を減額すること
③特定受託事業者が育児や介護に関する配慮を受けたことにより、特定業務委託事業者の労働者が繰り返し又は継続的に嫌がらせ的な言動を行い、当該特定受託事業者の能力発揮や業務の継続に悪影響を生じさせること
などが挙げられています。
なお、不利益な取り扱いにあたるかについては、申出をした、または配慮を受けたこととの間に因果関係がある行為であるかが判断基準となるため、たとえば、
・育児のためこれまでよりも短い時間で業務を行うこととなったフリーランスについて、就業時間の短縮により減少した業務量に相当する報酬を減額すること
・配慮の申出を受けて話合いをした結果、フリーランスが従来の数量の納品ができないことがわかったため、その分の取引の数量を削減すること
などは、不利益な取り扱いに該当しないとされています。
⑥ハラスメント対策に係る体制整備義務(同法14条)
特定業務委託事業者は、業務委託におけるハラスメントによりフリーランスの就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じる必要があります(法14条1項。また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由として不利益な取扱いをすることも禁止されています(同条2項)。
「業務委託におけるハラスメント」とは、特定業務委託事業者(発注事業者)との間で、業務委託契約を締結した特定受託業務従事者に対して、当該業務委託に関して行われるセクシュアルハラスメント(同条1項1号)、妊娠、出産等に関するハラスメント(同項2号)、パワーハラスメント(同項3号)をいうとされています。
特定業務委託事業者は、業務委託におけるハラスメントを防止するため、次の①から④の措置を講じる必要があります。
①ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発 | ・発注事業者の方針等の明確化と社内(業務委託に係る契約担当者等)へ周知・啓発すること ・ハラスメント行為者に対しては厳正に対処する旨の方針を就業規則などに規定すること |
②相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 | ・相談窓口を設置し、フリーランスへ周知すること ・相談窓口担当者が相談に適切に対応できるようにすること |
③業務委託におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応 | ・事案についての事実関係を迅速かつ正確に把握すること ・事実関係の確認ができた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に実施すること ・事実関係の確認ができた場合、行為者に対する措置を適正に実施すること ・ハラスメントに関する方針の再周知や啓発などの再発防止に向けた措置を実施すること |
④併せて講ずべき措置 | ・上記①~③の対応に当たり、相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員およびフリーランスに対して周知すること ・フリーランスが相談をしたこと、事実関係の確認などに協力したこと、労働局などに対して申出をし、適当な措置を求めたことを理由に契約の解除などの不利益な取扱いをされない旨を定め、フリーランスに周知・啓発すること |
②については、外部機関(弁護士事務所等)への相談対応の委託、相談対応の担当者や相談対応制度を設置したうえで、業務委託に係る契約書やメール、あるいはフリーランスが定期的に閲覧するイントラネットなどに相談窓口の案内を記載するなどの対応が考えられます。また、相談窓口担当者向けのマニュアルを作成し、マニュアルに基づき対応することも大切です。
⑦中途解除等の事前予告・理由開示義務(同法16条)
特定業務委託事業者(発注事業者)は、①6か月以上の期間で行う業務委託について、②契約の解除または不更新をしようとする場合、③例外事由に該当する場合を除いて、解除日または契約満了日から30日前までにその旨を予告する必要があります。
予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を発注事業者に請求した場合、発注事業者は、例外事由に該当する場合を除いて、遅滞なく開示する必要があります。
①は、6か月以上の業務委託だけでなく、契約の更新により6か月以上継続して行うこととなる業務委託を指します。基本契約を締結している場合には、個別契約ではなく基本契約をもとに期間を判断します。基本契約が締結されている場合には、業務委託契約の一部をなしているものとして、基本契約に基づく個別契約だけでなく基本契約についても予告義務の対象となります。
②の「契約の解除」とは、発注事業者からの一方的な契約の解除をいい、フリーランスからの解除は含みません。発注事業者とフリーランスの間の合意に基づく解除の場合も「契約の解除」に該当しませんが、フリーランスの自由な意思に基づくものであることが必要とされている点に注意が必要です。
②の「契約の不更新」とは、発注事業者が不更新をしようとする意思を持って、契約満了日から起算して1か月以内に次の契約を締結しない場合を指します。業務委託契約の性質上一回限りであることが明らかである場合などは、「契約の不更新」には該当しません。
上記①及び②に該当する場合、原則として、解除日または契約満了日から30日前までに解除または更新しない旨の予告が必要となります。
その例外として、以下の③例外事由に該当する場合は、事前予告が不要となります。
・災害などのやむを得ない事由により予告が困難な場合
・フリーランスに再委託している場合で、上流の事業者の契約解除などにより直ちに解除せざるを得ない場合
・業務委託の期間が30日以下など短期間である場合
・フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合
・基本契約がある場合で、フリーランスの事情で相当な期間、個別契約が締結されていない場合
このうち、「フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合」にあたるか否かは、業務委託契約の内容などを考慮の上、総合的に判断し、30日前の事前予告の保護を与える必要のない程度に重大または悪質なものであるかで判断されます。たとえば、
・業務委託に関連して盗取、横領、傷害など刑法犯などに該当する行為のあった場合
・業務委託と関連ない場合でも、著しく発注者の名誉や信用を失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの、両者間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
・業務委託契約上協力して業務を遂行する者などに悪影響を及ぼす場合
・業務委託の条件の要素となるような経歴・能力を詐称した場合
・フリーランスが、業務委託契約に定められた給付および役務を、合理的な理由なく全くまたはほとんど提供しない場合
・フリーランスが、契約に定める業務内容から著しく逸脱した悪質な行為を故意に行い、改善を求めても全く改善しない場合
などは、「フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合」にあたると考えられます。これらの例に該当しないと例外事由として認められないものではなく、上記の考え方に沿って判断されます。
予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を特定業務委託事業者(発注事業者)に請求した場合、第三者の利益を害するおそれがある場合、または他の法令に違反することとなる場合を除いて、遅滞なく開示する必要があります。
事前予告や理由開示は、書面の交付、ファックス、電子メール等(※電子メールのほか、SMSやSNSのメッセージ機能などのうち、送信者が受信者を特定して送信することのできるもの)のいずれかの方法で行う必要があります。SNS などで事前予告をする場合、情報の保存期間が一定期間に限られている場合もあることから、特定業務委託事業者(発注事業者)は、フリーランスに対し、ファイルをダウンロードしておくなどして情報を保存するよう伝えることがトラブル防止のために有効です。
違反行為があった場合
フリーランスは、発注事業者にフリーランス保護法違反と思われる行為があった場合には、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に対して、その旨を申し出ることができます。
行政機関は、その申出の内容に応じて、報告徴収・立入検査といった調査を行い、発注事業者に対して指導・助言のほか、勧告を行い、勧告に従わない場合には命令・公表をすることができます。命令違反には50万円以下の罰金があります(法24条。なお、同法25条にいわゆる両罰規定があります)。
発注事業者は、フリーランスが行政機関の窓口に申出をしたことを理由に、契約解除や今後の取引を行わないようにするといった不利益な取扱いをすることが禁止されます。
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