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募集時の労働条件の明示

労働者を募集する際のルール

労働者を募集する際には、職業安定法や職業安定法施行規則に加え、

募集・求人業務取扱要領」(厚生労働省職業安定局、令和6年10月)

職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号)

に留意する必要があります。

以下、募集の際の労働条件の明示について、実務上ポイントとなる点を解説いたします。

 

募集の際の労働条件の明示

使用者は、労働者の募集に際して、募集に応じて労働者になろうとする者に対し、当該募集に関する「従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件」を明示しなければなりません(職業安定法5条の3第1項)。

このため、たとえば、ハローワーク等に求人の申し込みをする際や、ホームページ等で労働者の募集を行う場合、従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示する必要があります。

 

明示すべき内容

具体的に明示すべき条件は、以下のとおりです(職業安定法施行規則4条の2第3項)。

①労働者が従事すべき業務の内容に関する事項(従事すべき業務の内容の変更の範囲を含む)
②労働契約の期間に関する事項
③試用期間に関する事項
④有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む)
⑤就業場所に関する事項(就業場所の変更の範囲を含む)
⑥始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
⑦賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則第8条各号に掲げる賃金を除く)の額に関する事項
⑧健康保険法による健康保険、厚生年金保険法による厚生年金、労働者災害補償保険法による労働者災害補償保険及び雇用保険法による雇用保険の適用に関する事項
⑨労働者を雇用しようとする者の氏名又は名称に関する事項
⑩労働者を派遣労働者として雇用しようとする旨
⑪就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項

このうち、①の従事すべき業務の変更の範囲、⑤就業場所の変更の範囲、④有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間又は更新回数の上限を含む)については、令和6年4月1日より明示すべき事項として追加されました。

「変更の範囲」とは、雇入れ直後にとどまらず、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、締結する労働契約の期間中における変更の範囲のことをいいます(ただし、労働者の募集等を行う時点で想定され得る事業の方針変更等を踏まえたもので足り、募集等の時点で具体的に想定されていないものを含める必要はありません)。

たとえば、雇入れ直後は、東京本社において経理業務に従事するものの、将来的には、全国の支社において、人事や法務を含めた管理業務全般に従事することが見込まれる場合には、「変更の範囲」として「全国の支社」や「人事・法務の業務」などと記載する必要があります。

また、テレワークを雇入れ直後から行うことが通常想定されている場合は、「雇入れ直後」の就業場所として、その労働契約期間中にテレワークを行うことが通常想定される場合は、「変更の範囲」として明示する必要があります。具体的には、労働者の自宅やサテライトオフィスなど、テレワークが可能な場所を明示することになります。

 

明示の方法

明示の方法は、原則として書面の交付によるものとされていますが、応募者からの希望があれば、FAXまたは電子メール等により明示することもできます(職業安定法施行規則4条の2第4項)。

「電子メール等」には、電子メールのほかLINEやFacebook等のSNS上のメッセージ機能等を利用した電気通信が該当するとされています。

ただし、電子メール等により行う募集に応じて労働者になろうとする者への労働条件等の明示については、当該明示事項を当該労働者になろうとする者がいつでも確認することができるよう、当該者が保管することのできる方法により明示する必要があります。

このため、電子メール等については、当該者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成できるものに限るとされており、「出力することにより書面を作成することができる」とは、当該電子メール等の本文又は当該電子メール等に添付されたファイルについて、紙による出力が可能であることをいいます(「募集・求人業務取扱要」(令和6年10月) 11~ 12頁)。

 

明示の時期

労働条件の明示については、原則として募集主または募集受託者が応募者と最初に接触する時点までに明示が必要であるとされています。

最初に接触する時点」とは、面接、メール、電話などにより、募集主及び募集受託者と募集に応じて労働者になろうとする者との間で意思疎通(面接の日程調整に関する連絡等を除く)が発生する時点をいいます(上記「募集・求人業務取扱要領」13頁)。

ハローワーク等への求人の申込みや自社ホームページでの募集、求人広告の掲載を行う場合は、求人票や募集要項において労働条件を明示する必要があります。求人広告のスペースが足りないなど、やむを得ない場合には「詳細は面談時にお伝えします」などと付した上で、労働条件の一部を別途のタイミングで明示することも可能ですが、面接などで求職者と最初に接触する時点までに、全ての労働条件を明示する必要があります。

なお、募集時に示された労働条件どおりに労働契約が締結されるとは限らず、変更されたり、特定したりすることもあり得るため、明示後に、その内容を変更、特定、削除、または追加する場合には、労働契約締結前に改めて明示する必要があります(職業安定法5条の3第3項、同施行規則4条の2第1項及び第2項)。

 

募集等に関する情報の的確な表示等

募集主及び募集受託者が、労働者の募集等に関する情報を広告等により提供する場合には、労働者の募集等に関する情報の的確な表示義務が課されます(職業安定法5条の4第1項及び第2項)。

具体的には、①虚偽の表示または誤解を生じさせる表示の禁止義務と、②正確かつ最新の内容に保つ義務が課されます。

(1)虚偽の表示または誤解を生じさせる表示の禁止義務

虚偽の表示」とは、事実と異ならせた表示のことをいい、募集の内容と実際の労働条件を意図的に異ならせた場合や、全く根拠なく採用実績が高い旨を表示する場合等には、虚偽の表示に該当します。

また、虚偽の表示でなくとも、一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示は、「誤解を生じさせる表示」に該当します。

指針では、誤解を生じさせる表示をしないように、たとえば、以下のような点に留意する必要があるとされています(指針第4の2)。

①関係会社・グループ企業が存在している企業が募集を行う場合に、実際に雇用する予定の企業を明確にし、関係会社・グループ企業が混同されることのないように表示しなければならないこと

②雇用契約を前提とした労働者の募集と、フリーランス等の請負契約の受注者の募集 が混同されることのないよう表示しなければならないこと

③月給・時間給等の賃金形態、基本給、定額の手当、通勤手当、昇給、固定残業代等の賃金等について、実際よりも高額であるかのように表示してはならないこと

④職種や業種について、実際の業務の内容と著しく乖離する名称を用いてはならない

(2)正確かつ最新の内容に保つ義務

次に、募集主及び募集受託者は、広告等により労働者の募集等に関する情報を提供するに当たっては、次に掲げる措置を講じる等適切に対応し、②正確かつ最新の内容に保たなければならないとされています。

①労働者の募集を終了した場合や労働者の募集に関する情報の内容を変更した場合には、速やかに労働者の募集に関する情報の提供の終了や内容の変更をすること

②求人メディア等の募集情報等提供事業を行う者を活用して労働者の募集を行っている場合は、労働者の募集の終了や内容の変更を当該募集情報等提供事業を行う者において提供する労働者の募集に関する情報にも反映するよう依頼すること

③労働者の募集に関する情報の時点を明らかにすること

④求人メディア等の募集情報等提供事業を行う者から、労働者の募集に関する情報の訂正や内容の変更を依頼された場合等には、速やかに対応すること

 

明示した労働条件に誤っていた場合

労働条件の明示について、必要事項が明示されていないなど、法律に違反した場合には、労働局からの助言・指導や改善命令を受ける場合があるとともに、ハローワークから求人の申し込みを拒否されたりすることもあります。

また、虚偽の条件を提示して募集を行った場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

加えて、裁判実務においては、募集時に明示された条件が当該労働契約の内容とされることもあります。

たとえば、実際には退職金制度はなかったにもかかわらず、求人票に「退職金有り」と記載したことを根拠として退職金請求権を認めた丸ー商店事件(大阪地裁平成10年10月30判決)や、「求人票の記載内容は、労働契約締結時にこれと異なる合意をするなどの特段の事情がない限り、当事者の合意により労働契約の内容となると解するのが相当である」として、求人票の「常用」との記載の存在等を根拠に無期労働契約の成立を認めた千代田工業事件(大阪高裁平成2年3月8日判決)などの裁判例があります。

このため、人事担当者としては、「募集・求人業務取扱要」や指針の内容に留意しつつ、明示すべき事項に漏れ等がないように労働者の募集を行う必要があります。

募集時の労働条件の明示等に関するご相談・ご依頼については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

※本コラムの内容は、一般的な情報提供に止まるものであり、個別具体的なケースに関する法的アドバイスを想定したものではありません。個別具体的なケースに関する対応等については別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。