03-6550-9202 (受付時間 平日10:00〜17:00)

お問い合わせ

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」の概要(独禁法・下請法の適用関係を中心に)

令和3年3月26日、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁及び厚生労働省の連名で「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が公表されました。

このガイドラインは、発注事業者とフリーランスとの取引について、独占禁止法や下請法、さらには労働法の適用関係を明確化するとともに、問題となる行為類型について、考え方と問題となり得る想定例について具体的に説明をしています。

最近、企業に属さず個人として仕事を請け負う「フリーランス」としては働く人が増えており、ガイドラインは、フリーランスとして働く方はもちろん、フリーランスと契約をする企業(事業者)にとっても、しっかりと内容をフォローしておく必要がある重要なガイドラインと言えます。

今回のコラムでは、本ガイドラインのうち、フリーランスの定義、そして独占禁止法及び下請法の適用関係を中心に、実務上の注意点について、概要を解説したいと思います。

 

フリーランスの定義

最初に、フリーランスの定義から見ていくことにしましょう。

本ガイドラインでは、フリーランスを

実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者

と定義しています。

実店舗」については、専用の事務所・店舗を設けず、自宅の一部で小規模に事業を行う場合は「実店舗」に区分しない(すなわち、「実店舗がなく」に該当する)こととされています(本ガイドライン別紙1)。

また、コワーキングスペースやネット上の店舗についても「実店舗」とはしないとされています。

次に、「雇人もいない」については、文字通り、従業員を雇わず自分だけで行っている場合に加え、自分と同居の親族だけで個人経営の事業を営んでいる者についても「雇人もいない」に含むとされています(別紙1)。

また、過去において雇用したことがあっても、現に雇人もいない自営業主であれば、フリーランスに該当するとされています(パブコメ回答⑪)。

このように「実店舗」と「雇人なし」という概念については、緩やかに解釈がされているため、特にフリーランスと契約をする企業(事業者)の立場からは、相手方が本ガイドラインにおける「フリーランス」該当するか少しでも疑義が生じた場合には、実店舗の有無や雇人の有無について、丁寧にヒアリングをすることが大切です。

その一方で、本ガイドラインでは、耕地や漁船を有して耕作や漁業をする農林漁業従事者は「フリーランス」とはしないと整理されています。また、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」が他に雇用契約の元で働く場合に、当該雇用契約における業務を行うときの雇用主との関係では、本ガイドラインにおける「フリーランス」とはしないと整理されているので、注意してください。

 

独占禁止法、下請法、労働関係法の適用関係

次に、発注事業者と上記内容で定義されたフリーランスとの取引について、独占禁止法、下請法、労働関係法の適用関係を見ていくことにしましょう。

本ガイドラインでは、以下のとおり、事業者とフリーランス全般との取引には独占禁止法や下請法を広く適用することが可能であるとしています(本ガイドライン2頁)。

・独占禁止法は、取引の発注者が事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、事業者とフリーランス全般との取引に適用される

・下請法は、取引の発注者が資本金1000万円超の法人の事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、一定の事業者とフリーランス全般との取引に適用される

ここでの注意点は、下請法の規制対象となるのは、事業者とフリーランスとの取引が、下請法にいう親事業者と下請事業者との取引に該当する場合であって、下請法第2条第1項から第4項に規定する➀製造委託②修理委託③情報成果物作成委託④役務提供委託のいずれかに該当する場合である点です(本ガイドライン2頁・脚注2)。

下請法にいう親事業者と下請事業者に該当する場合であっても、すべての取引が下請法の規制対象となるわけではありません。この部分は実務的にご質問をいただくことが多いところですので、今一度、確認をしてみてください。

他方、本ガイドラインでは、これらの法律の適用に加え、フリーランスとして業務を行っていても、実質的に発注事業者の指揮命令を受けて仕事に従事していると判断される場合など、「雇用」に該当する場合には、労働関係法令が適用されるとしています。

この場合に、独占禁止法や下請法上問題となり得る事業者の行為が、労働関係法令で禁止又は義務とされ、あるいは適法なものとして認められている行為類型(たとえば、労働組合法に基づく労働協約を締結する労働組合の行為など)に該当する場合には、当該労働関係法令が適用され、当該行為については、独占禁止法や下請法は問題としないと整理しています。

 

フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項

そのうえで、本ガイドラインでは、事業者が遵守すべき事項として、大きく①フリーランスとの取引に係る優越的地位の濫用規制②発注時の取引条件を明確にする書面の交付の2つについて、基本的な考え方を示したうえで、独占禁止法(優越的地位の濫用)や下請法上問題となる行為類型について、具体的に説明をしています。

 

フリーランスとの取引に係る優越的地位の濫用規制についての基本的な考え方

まず、本ガイドラインでは、「フリーランスとの取引に係る優越的地位の濫用規制についての基本的な考え方」として、

・フリーランスが受注事業者として行う取引については、通常、企業組織である事業者が発注事業者となることが多く、発注事業者とフリーランスとの間には、役務等の提供に係る取引条件について情報量や交渉力の面で格差があるため、フリーランスが自由かつ自主的に判断し得ない場合があり、発注事業者との取引において取引条件が一方的に不利になりやすい

・自己の取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、フリーランスに対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、当該フリーランスの自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに、当該フリーランスはその競争者との関係において競争上不利となる一方で、発注事業者はその競争者との関係において競争上有利となるおそれがあるものであり、このような行為は、公正な競争を阻害するおそれがあることから、不公正な取引方法の一つである優越的地位の濫用として、独占禁止法により規制される

・下請法と独占禁止法のいずれも適用可能な行為については、通常、下請法を適用する

としています。

どのような場合に「公正な競争を阻害するおそれがある」と認められるのかについては、問題となる不利益の程度、行為の広がり等を考慮して、個別の事案ごとに判断することになります。

本ガイドラインでは、具体例として、たとえば、①発注事業者が多数のフリーランスに対して組織的に不利益を与える場合や、②特定のフリーランスに対してしか不利益を与えていないときであっても、その不利益の程度が強い、又はその行為を放置すれば他に波及するおそれがある場合には、公正な競争を阻害するおそれがあると認められやすとの指摘がされています。

 

発注時の取引条件を明確にする書面の交付に係る基本的な考え方

次に、「発注時の取引条件を明確にする書面の交付に係る基本的な考え方」について、本ガイドラインでは、

・発注事業者が役務等を委託するに当たって、発注時の取引条件を明確にする書面を交付しない又はフリーランスに交付する書面に発注時の取引条件を明確に記載しない場合には、発注事業者は発注後に取引条件を一方的に変更等しやすくなり、後に、当該変更等が行われたことを明らかにすることが困難な場合も生じ得るため、優越的地位の濫用となる行為を誘発する原因とも考えられる

・優越的地位の濫用となる行為の誘発を未然に防止するという意味において、発注時に取引条件を明確にすることが困難な事情があるなどの正当な理由がない限り、発注事業者が当該書面を交付しないことは独占禁止法上不適切である

・下請法の規制の対象となる場合で、発注事業者がフリーランスに対して、下請事業者の役務等の提供内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しない場合は、下請法第3条で定める親事業者の書面の交付義務違反となる

としています。

まず、「発注時の取引条件を明確にする書面」とは、取引の対象となる役務等の具体的内容や品質に係る評価の基準、納期、報酬の額、⽀払期⽇、⽀払⽅法等について、取引当事者間であらかじめ取り決めた取引条件を明確に記載したものをいいます。

ガイドラインでは、電子メール等の電磁的記録を用いる場合を含み、また、書⾯を他の情報と照合することで、発注時の取引条件が、取引当事者間であらかじめ明確となっている場合も、「発注時の取引条件を明確にする書⾯」と認められるとされています(本ガイドライン3頁・脚注5)。

また、「発注時の取引条件を明確にすることが困難な事情がある」などの正当な理由がある場合は、上記書面を交付せずとも独占禁止法不適切とされるわけではありません。

しかしながら、正当な理由がある場合であっても、明確にすることが困難な事項を除き取引条件を記載した書⾯を交付した上で、記載しなかった事項の内容が定められた後、速やかに当該事項を記載した書⾯を交付することが望ましいとされている点には注意が必要です。

次に、下請法について、まず、どのような取引が下請法の規制対象となるかについては、前述した議論がそのまま当てはまります。親事業者と下請事業者間のあらゆる取引が対象とされるわけではない点に注意してください。

そのうえで、下請法の規制対象となる場合については、下請法の書面の交付に当たっては、フリーランスが事前に承諾し保存する前提であれば、電磁的方法による交付も認められるとしています。その際、親事業者が、クラウドメールサービスやオンラインストレージサービス、ソーシャルネットワークサービスといったオンラインサービスを用いて書面を交付することも可能であるとされていますが、この場合、ダウンロード機能を持ったサービスを用いるなどして、フリーランスが記録できるようにする必要があるとされていますので注意してください。

また、本ガイドラインでは、今後、仲介事業者等の第三者を介した取引が増加していくと考えられることを踏まえ、親事業者は、下請法の書面の交付や書類の作成・保存について、自身の代理として、第三者に行わせることも認められるとしています(本ガイドライン4頁)。ただし、第三者に行わせた場合でも、フリーランスとの間で下請法上の問題が生じた場合は、当該第三者ではなく、親事業者がその責めを負うこととなることには注意が必要です。

 

独占禁止法(優越的地位の濫用)・下請法上問題となる行為類型

以上の考え方を前提に、本ガイドラインでは、発注事業者とフリーランスの取引について、独占禁止法や下請法上、問題となる以下の12の行為類型について、考え方と想定例を示しています。

 

➀報酬の支払遅延

②報酬の減額

③著しく低い報酬の一方的な決定

④やり直しの要請

⑤一方的な発注取消し

⑥役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い

⑦役務の成果物の受領拒否

⑧役務の成果物の返品

⑨不要な商品又は役務の購入・利用強制

⑩不当な経済上の利益の提供要請

⑪合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の一方的な設定

⑫その他取引条件の一方的な設定・変更・実施

 

各類型の考え方と想定例についてはガイドラインをご確認いただくとして、ここで注意をしていただきたいのは、ガイドラインでは、上記いずれかの行為類型に該当しない場合であっても、取引上の地位が優越している発注事業者が、一方的に、取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施する場合に、当該フリーランスに正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることになるときは、優越的地位の濫用として問題となるとされている点です。

優越的地位の濫用が問題となるのは、上記類型に限られるわけではない点に注意してください。

以下、事業者・フリーランスいずれの立場からもご相談を受けることが多い、⑥役務の成果物に係る権利の一方的な取扱いについて、見ていくことにしましょう。

 

⑥役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い

ガイドラインでは、役務の成果物に係る権利の一方的な取扱いについて、以下の「考え方」を示しています。

・フリーランスが発注事業者に提供する役務の成果物によっては、フリーランスに当該役務の成果物に係る著作権等の一定の権利が発生する場合がある。

・この場合において、取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、自己との取引の過程で発生したこと又は役務の成果物に対して報酬を支払ったこと等を理由に、当該役務の成果物に係る権利の取扱いを一方的に決定する場合に、当該フリーランスに正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなるときは、優越的地位の濫用として問題となる(独占禁止法第2条第9項第5号ロ・ハ)

・なお、下請法の規制の対象となる場合で、発注事業者がフリーランスに対して、自己のために役務の成果物に係る権利を提供させることによって、フリーランスの利益を不当に害する場合には、下請法第4条第2項第3号で禁止されている不当な経済上の利益の提供要請として問題となる

このうち、どのような場合に「不当に不利益を与えることとなる」かについては、発注事業者が対価の⽀払を⾏っているか、その対価は発⽣する不利益に相当しているか、成果物の作成に係る報酬に権利に係る対価が含まれる形で交渉が⾏われているか、当該権利の発⽣に対する発注事業者による寄与はあるかなどを勘案して総合的に判断するとされています(本ガイドライン9頁脚注14)。

そのうえで、ガイドラインでは、優越的地位の濫用として問題となり得る「想定例」として、

・役務の成果物の二次利用について、フリーランスが著作権等を有するにもかかわらず、対価を配分しなかったり、その配分割合を一方的に定めたり、利用を制限すること

・ フリーランスが著作権等の権利の譲渡を伴う契約を拒んでいるにもかかわらず、今後の取引を行わないことを示唆するなどして、当該権利の譲渡を余儀なくさせること

・ 取引に伴い、フリーランスに著作権等の権利が発生・帰属する場合に、これらの権利が自己との取引の過程で得られたことを理由に、一方的に、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該権利を自己に譲渡させること

を挙げています。

なお、「役務の成果物の二次利用」については、例えばとして、①フリーランスが発注事業者の⾃⼰使⽤のために制作したコンピュータープログラムを、他の事業者のために使⽤する場合、②フリーランスが特定商品のために制作したキャラクターについて、他の商品に使⽤する場合が紹介されています。

上記例は、一例に過ぎず、実務上、二次利用には様々な類型があり得ます。

このため、役務の成果物に関する権利を巡っては、発注者側とフリーランス側でトラブルになることが多いのが実情です。

いずれの立場においても、交渉段階から、本ガイドラインで示された考え方を踏まえ、認識に齟齬が生じないように、対応をすることが大切です。

 

契約書のリーガルチェック・作成に関するご相談

当事務所では、フリーランスとして働かれている方はもちろん、フリーランスと契約をする企業のお客様からのご相談についても対応をしております。

事業者とフリーランスとの間で締結する契約書については、本ガイドラインの内容を踏まえ、独占禁止法や下請法上問題の無いように作成する必要があります。。

このため、いずれの立場においても、弁護士のリーガルチェックを受け、内容を十分理解したうえで、必要に応じて修正交渉を行うことが重要です。

・契約書を作成したいがどのように作れば良いか分からない

・相手方から契約書を提示されたがガイドラインに照らし、問題のある条項はないか確認して欲しい

上記の例に限らず、フリーランスと独占禁止法・下請法・労働法に関する問題でお困りごとがございましたら、下記の問い合わせフォームよりご連絡ください。

経験のある弁護士が親身に対応をいたします。

 

お問い合わせ