医療法等の一部を改正する法律が平成29年6月7日の衆議院本会議において可決され、同年6月14日に交付されました。
具体的には、「医療法」、「臨床検査技師等に関する法律」、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」の各法について改正が行われました。
主な改正点は、以下のとおりです。
【医療法】
1)検体検査の精度の確保に関する事項
2)特定機能病院の管理及び運営(ガバナンス)に関する体制の強化に関する事項
3)医療に関する広告規制の見直しに関する事項
4)妊婦又は産婦の異常に対応する医療機関の確保等に関する事項
5)医療機関の開設者に対する監督に関する事項
【臨床検査技師等に関する法律】
1)医療機関、衛生検査所等の医療機関が検体検査業務を委託する者の精度管理の基準の明確化
2)検査の分類を厚生労働省令で定めることを規定
【良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律】
1)持分なし医療法人への移行計画認定制度の延長(平成32年9月30日まで延長)
2)移行計画の認定要件を見直し
今回の改正のうち、実務的に一番影響が大きいのは、広告規制の見直しといわゆる認定医療法人の改正と言われています。
認定医療法人制度については、別のコラムでの解説を予定していることから、本コラムでは、医療法改正における広告規制見直しについて、概要を解説いたします。
医療法改正による広告規制の経緯
それでは、中身に入る前に、今回の医療法改正による広告規制の経緯について確認しておきましょう。
改正前の医療法においても、医療が人の生命・身体に関わる専門性の高いサービスであることから、医療広告ガイドラインに基づき、限定的に認められた事項(いわゆる広告可能事項)以外は、原則として広告が禁止されていました。
もっとも、医療機関のウェブサイトについては、インターネットが普及している中、医療機関等について情報を得ようとする利用者等がURLを入力し、検索サイトで検索したうえで閲覧するものであるため、原則として規制対象とせず、「医療機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針(医療機関ホームページガイドライン)について」(平成24年9月28日付け医政発0928第1号構成労働省医政局長通知)により関係団体等による自主的な取り組みに委ねられていました。
しかしながら、近時、特に美容医療に関して、消費者被害・トラブルが増加しており、平成27年には、消費者委員会から、医療機関のウェブサイトに対する法的規制が必要である旨の建議がなされるに至りました。
そこで、今回の医療法改正により、医療機関のウェブサイト等についても、他の広告媒体と同様に規制の対象とし、虚偽又は誇大等の表示を禁止したうえで、是正命令や罰則等の対象とすることとされました。
なお、医療機関のウェブサイト等については、他の広告媒体と同様に、広告可能事項を限定した場合、患者が知りたいと思う詳細な診療内容などの情報が得られなくなるという懸念もあることから、一定の条件の下に広告可能事項の限定を解除することされました(具体的には、患者による医療に関する適切な選択が阻害されるおそれが少ない場合については、省令で限定列挙規制の例外とすることを可能とするとされています)。
医療法改正による広告規制の概要
それでは、医療法改正による広告規制の概要について、見ていくことにしましょう。
(1)規制対象となる「広告」の拡大
従前、医療法の広告規制の対象となる「広告」とは、
①患者の受診等を誘引する意図があること(誘因性)
②医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)
③一般人が認知できる状態にあること(認知性)
の①から③のいずれの要件も満たす場合にのみ、「広告」に該当するものと考えられていました(旧・医療広告ガイドライン「第2 広告規制の対象範囲」参照)。
これに対し、今回の医療法改正により、従来の広告3要件のうち、③認知性が問われないこととなりました。
【改正医療法第6条の5第1項】
何人も、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して、文書その他いかなる方法によるを問わず、広告その他の医療を受ける者を誘引するための手段としての表示(以下この節において単に「広告」という。)をする場合には、虚偽の広告をしてはならない。
このため、従来の広告に加え、特定の者が必要な情報を得るためにアクセスする特定の医療機関等に関する表示、すなわちウェブサイトやメルマガ等が新たに規制対象となります。
(2)広告禁止事項の拡大(法律事項化)
次に、これまで、医療法上は、広告禁止事項として、内容が虚偽にわたる広告(虚偽広告)のみが明記され、それ以外については、省令及びガイドラインにより規定されるにとどまっていました。
しかしながら、広告規制の実効性を確保する観点からは、ガイドラインにより規定されている広告禁止事項についても法令上の裏付けがあることが望ましいことから、今回の法改正により、以下の内容が医療法に明記されることになりました。
【改正医療法第6条の5第2項】
前項に規定する場合には、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を阻害することがないよう、広告の内容及び方法が次に掲げる基準に適合するものでなければならない。
一 他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告をしないこと。
二 誇大な広告をしないこと。
三 公の秩序又は善良な風俗に反する内容の広告をしないこと。
四 その他医療に関する適切な選択に関し必要な基準として厚生労働省令で定める基準
これにより、医療法上、広告禁止事項として、①虚偽広告、②比較優良広告、③誇大広告、④公序良俗に反する内容の広告が明記されたことになります。
なお、四号の「その他医療に関する適切な選択に関し必要な基準として厚生労働省令で定める基準」については、現在、公表されている省令案では、
【第1条の9】
一 患者その他の者(次号及び次条において「患者等」という。)の主観又は伝聞に基づく体験談の広告をしてはならないこと
二 治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告をしてはならないこと
とされる予定であり、省令で定める基準として、患者の体験談やいわゆるビフォーアフター写真等が禁止されることになります。
詳細は新しい「医療広告ガイドライン」により明らかに
このような広告規制に関する医療法の改正を受け、厚生労働省では、有識者による「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」を設置し、同会において、省令及び新しいガイドライン案の検討が進められてきました。
報道によると、平成30年1月24日第8回会議において、パブリックコメントを踏まえた最終的な省令案、告示案、新ガイドライン案(仮称「医療若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針」)が承認された旨報道がされており、本年6月1日より施行される予定とのことです。
今回の医療法改正により、これまで医療法の広告規制の対象とされていなかったウェブページ等が対象とされたことから、ウェブページ等を開設している病院やクリニック、診療所等においては、改正法はもちろん、今回、上記検討会で承認された、省令や告示、さらには新しい医療広告ガイドラインの内容を踏まえ、現在開設しているウェブサイト等の表示内容を慎重にチェック・確認する必要があります。
今回承認された新しい医療広告ガイドライン案では、かなり踏み込んだ記述も見られることから、次回以降のコラムでは、順次、審議会での議論の内容も踏まえながら、ポイントとなる点について解説をしていきます。