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事実を説明した文章・記述の「創作性」と著作権侵害の判断手法(知財高裁平成27年9月10日判決)

はじめに

企業は、日々の業務の中で、製品マニュアル、技術解説、商品・サービスの説明文、FAQ、データベース、カタログ、ウェブサイトのコラムなど、事実を整理して説明する文章を数多く作成しています。こうした文章を他社に模倣されたとき、著作権侵害として責任を追及できるのか。逆に、他社の説明文を参考にして自社の資料を作成したとき、著作権侵害になるのか。これらは、コンテンツを扱うすべての企業にとって身近な問題です。

今回のコラムでは、中学校用歴史教科書の記述をめぐって著作権侵害等が争われた知財高裁平成27年9月10日判決(いわゆる歴史教科書事件)を取り上げ、事実を説明した文章について著作権が認められるかどうかを、裁判所がどのような手法で判断したのかを、企業のご担当者向けにわかりやすく解説いたします。

本判決は、事実を説明する記述の「創作性」をどのように判断するか、その判断手法(いわゆる「ろ過テスト」)と「ありふれた表現」の考え方を、具体的な記述に即して示したものです。事実を説明する文章は企業の作成物の中心を占めるため、本判決の考え方は、自社コンテンツを保護できる範囲を見極める場面でも、他社コンテンツの利用に伴うリスクを評価する場面でも、実務上の指針として参考になります。

事案の概要

本件は、もともと同じ団体に所属していた関係者の間で生じた、歴史教科書をめぐる紛争です。原審(東京地方裁判所)が認定した事実によれば、控訴人は、ある中学校用歴史教科書(以下「控訴人書籍」といいます。)の代表執筆者であり、その本文の著作権者の一人でした。その後、団体内の路線対立により一部の関係者が団体を離れ、別途、中学校用歴史教科書(教科書とその市販本。以下「被控訴人書籍」といいます。)を制作しました。控訴人書籍をかつて出版していた出版社は、控訴人書籍の本文データを保有しており、控訴人は、被控訴人らがこのデータを利用して被控訴人書籍を制作したと主張しました。

控訴人は、被控訴人書籍中の個別の記述が、控訴人書籍中の記述に係る著作権(複製権及び翻案権)並びに著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害すると主張しました。

控訴人は、これを理由に、市販本の出版等の差止め、書籍の廃棄、及び損害賠償金合計6031万5750円(著作権侵害に係る損害賠償金5131万5750円、著作者人格権侵害に係る慰謝料300万円、弁護士費用600万円)等の支払を求め、予備的に、一般不法行為に基づく慰謝料300万円の支払を求めました。

原審は、控訴人書籍の記述と被控訴人書籍の記述とで内容が共通する部分について、控訴人書籍の記述には創作性が認められないとして、請求をいずれも棄却しました。控訴人は、これを不服として控訴し、控訴審では、翻案権等の侵害を主張する記述を21か所に限定する一方で、これらの記述に係る複製権侵害と、47か所の記述すべてに係る一般不法行為に基づく損害賠償請求を追加しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①被控訴人各記述が控訴人各記述を「翻案」したものか否か(記述の創作性の有無)
争点②被控訴人各記述が控訴人各記述を「複製」したものか否か
争点③被控訴人書籍の単元構成が控訴人書籍の単元構成を「翻案」又は「複製」したものか
争点④控訴人が有する著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)の侵害の有無
争点⑤一般不法行為の成否

なお、本件では、各被控訴人の責任原因(争点⑥)及び損害発生の有無とその額(争点⑦)も争点とされましたが、裁判所は、争点①から争点⑤までの判断により、これらについて判断する必要がないとしました。

裁判所の判断

知財高裁は、控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断し、本件各控訴をいずれも棄却しました。

争点① 各記述の「翻案」該当性(記述の創作性の有無)について

本判決が前提とした翻案の意義及び判断枠組みは、原審(東京地方裁判所)が示し、控訴審もこれを維持したものです。原審は、最高裁平成13年6月28日判決(民集55巻4号837頁、いわゆる江差追分事件)を引用し、翻案の意義を次のとおり示しました。

言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないというべきである(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。

また原審は、創作性の意義について、厳密な独創性までは必要なく、筆者の何らかの個性が表現されていれば足りるとしつつ、文章が短い場合や表現上の制約がある場合、表現が平凡でありふれている場合には、創作的な表現とはいえないとしました。

「創作性」又は「創作的」というためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。

これらをふまえ、裁判所は、著作権侵害の有無を判断する手法(いわゆる「ろ過テスト」)を示しました。すなわち、二つの著作物が、表現それ自体ではない部分や、表現上の創作性がない部分でのみ共通している場合には、複製にも翻案にも当たらないため、侵害を主張する者は、侵害されたとする表現部分を特定したうえで、その部分が創作性を有することを明らかにしなければならないとしました。あわせて裁判所は、記述内容に関する著者のアイディアや制作意図、編集方針、歴史観又は歴史認識は、それ自体は表現とはいえないとしました。

特定の著作物と他の著作物との間で著作権又は著作者人格権(著作権等)の侵害の有無を判断しようとする場合、表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないときには、複製又は翻案には該当しないのであるから、著作権等を侵害されたと主張する者は、自らの著作権等が侵害されたとする表現部分を特定した上で、まず、その表現部分が創作性を有していることを明らかにしなければならない。

他方で裁判所は、歴史上の事実に関する記述であっても、創作性が認められる場合があることを示しました。

歴史上の事実又は歴史上の人物に関する事実(歴史的事項)の記述であっても、その事実の選択や配列、あるいは歴史上の位置付け等において創作性が発揮されているものや、歴史上の事実等又はそれについての見解や歴史観をその具体的記述において創作的に表現したものについては、著作権法の保護が及ぶことがある。

そのうえで裁判所は、中学校用歴史教科書は、検定基準や学習指導要領等により記述内容及び方法が相当程度に制約されており、記述事項も一般的に知られている歴史的事項の範囲内から選択されるとしました。しかし、市販もされていることなどから、歴史教科書は簡潔に歴史全般を説明する歴史書に属するものであり、創作性は他社の歴史教科書とだけ対比して判断すべきではなく、一般の簡潔な歴史書と対比しても創作性があることを要するとしました。

歴史教科書は、簡潔に歴史全般を説明する歴史書に属するものであって、一般の歴史書と同様に、その記述に前記した観点からみて創作性があるか否かを問題とすべきである。すなわち、他社の歴史教科書とのみ対比して創作性を判断すべきものではなく、一般の簡潔な歴史書と対比しても創作性があることを要するものと解される。

さらに裁判所は、他社の歴史教科書に同様の表現があることは、その表現がありふれたものであることの客観的な根拠になるとして、他社教科書との対比を創作性判断の中心に据えました。

以下、他社の歴史教科書に同様の表現があるか否かの点を中心に、控訴人各記述の創作性を検討するが、これは、他社の歴史教科書が同等の分量を有する歴史書として、もっとも適切な対比資料であり、他社の歴史教科書に同様の表現があることは、当該表現がありふれたものであることの客観的かつ明白な根拠だからである。

裁判所は、対象となった21か所の記述について、いずれも、「事項の選択」「事項の配列」「具体的表現形式」の三つの観点から創作性の有無を検討しました。たとえば、項目1(縄文時代)の控訴人記述と被控訴人記述に共通する事実は、判決において、次のとおり整理されています。

番号控訴人記述1と被控訴人記述1に共通する事項
日本列島は食料に恵まれていたため、大規模な農耕や牧畜が始められていなかったこと
日本列島で1万数千年前から土器が作られ始めていたこと
この土器は、世界で最古の土器の一つであること
この土器を縄文土器と呼ぶこと
縄文土器が作られていた1万数千年前から紀元前4世紀ごろまでを縄文時代と呼び、その文化を縄文文化と呼ぶこと
縄文時代には、人々は数十人程度の集団で生活していたこと
縄文時代の人々の住まいは、竪穴住居だったこと
貝塚から出土する土器や石器などから当時の生活の様子がうかがえること
三内丸山遺跡から約5千年前の大きな集落跡が見つかったこと

裁判所は、これらの共通事項について、次の三つの観点から創作性を否定しました。

観点裁判所の評価
事項の選択いずれも縄文時代について取り上げるべき事項としてごく普通のものであり、他社の歴史教科書にも同旨の記載があるから、ありふれたものである
事項の配列歴史的事項を単純に説明する文が羅列されているだけであるから、ありふれたものである
具体的表現形式いずれも歴史的事項を単純に説明するにすぎないものであるから、その具体的表現はありふれたものである

裁判所は、他の20か所の記述についても、同様の手法で「事項の選択」「事項の配列」「具体的表現形式」を検討し、いずれもありふれたものであるとして、創作性を否定しました。控訴人は、ある事項を記述しないという選択や、特定の用語を用いた点などに創作性があると主張しましたが、裁判所は、記述に当たって特定の用語を用いない等はアイディアにとどまり表現とはいえないこと、用いられた用語や言い回しは一般的なものであることなどを理由に、これらの主張を採用しませんでした。

その結論として裁判所は、次のとおり判示しました。

被控訴人記述1、2、9、10、15、17、19、20、24、26、27~29、33~36、43~45及び47は、創作性がないから、「著作物」(著作権法2条1項1号)には該当せず、その翻案も認められない。

争点② 各記述の「複製」該当性について

裁判所は、対象となった記述は創作性がなく「著作物」に該当しないから、その複製も認められないとして、複製権侵害に基づく請求も理由がないとしました。

争点③ 単元構成の「翻案」又は「複製」該当性について

裁判所は、控訴人が個性的であると主張した単元構成(単元62及び単元79)について、いずれも、時系列に沿って歴史的事項を分割・配置したものにすぎず、ありふれた構成であるとしました。また裁判所は、他社の歴史教科書と構成が異なることをもって、直ちに個性の発揮が根拠付けられるものではないとしました。

ありふれた表現は複数存在する場合もあるから、他社の歴史教科書と異なることをもって直ちに個性の発揮が根拠付けられるわけではなく、控訴人書籍の単元構成がありふれたものであることは、上記のとおりである。

争点④ 著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)侵害の有無について

裁判所は、対象となった記述は創作性がなく「著作物」に該当しないから、著作者人格権の侵害も認められないとしました。

争点⑤ 一般不法行為の成否について

控訴人は、仮に著作権侵害等が成立しないとしても、執筆者としての利益を害されたとして一般不法行為の成立を主張しました。しかし、裁判所は、記述が表現として法的保護に値するか否かは著作権法が規定するところであり、控訴人の記述が著作権法によって保護される表現に当たらない以上、控訴人がこれを独占的・排他的に使用し得るわけではないとしました。

控訴人各記述が表現として法的保護に値するか否かは、まさに著作権法が規定するところである。そして、控訴人各記述が……著作権法によって保護される表現に当たらない以上、これら表現を控訴人が独占的、排他的に使用し得るわけではないから、被控訴人各記述に控訴人各記述に似たところ又は共通するところがあったとしても、被控訴人の権利又は利益が害されたことにはならない。したがって、ただ単に、被控訴人各記述に控訴人各記述に似たところ又は共通するところがあるというだけでは、被控訴人各記述を用いることが公正な競争として社会的に許容する限度を超えるということはできない。

コメント

本判決は、事実を説明した文章の「創作性」について、実務に応用できる考え方を示しています。企業のご担当者の視点から、本判決の意義と、そこから導かれる実務上の対応を整理すると、以下の内容を挙げることができます。

(1)著作権侵害の判断は表現の特定と創作性の立証から始まる

本判決は、著作権侵害を判断する手順を明確にしています。すなわち、まず侵害を主張する側が、保護を求める表現部分を特定し、その部分に創作性があることを明らかにする必要があります。事実そのものや、アイディア、方針、ものの見方は表現ではなく、共通点がそれらの部分にとどまる場合には、侵害は成立しません。自社コンテンツの保護を主張する場面でも、他社からの主張に対応する場面でも、まず「どの表現部分の、どの創作性が問題なのか」を切り分けることが出発点になります。

(2)文書全体の著作物性と共通部分の創作性は別問題

本判決(原審)は、ある文書が全体として著作物であることと、その文書中の特定の記述に著作権法上保護される創作的な表現があることとは、別の問題であることを示しました。本件でも、書籍が著作物であること自体は争われていませんでしたが、裁判所は、侵害の有無は、あくまで問題となる共通部分に創作的な表現があるかどうかで判断されるとしました。

原告書籍が、その書籍の本文部分又は各単元の記述において何らかの創作性を有し、それが著作物と認められるとしても……そのことと、本件で、原告各記述における被告各記述との共通部分に表現上の創作性が認められるか否かは別の問題である。

「自社の文書には著作権がある」ということと、「その文書中の、他社と共通する記述が保護される」ということは同じではありません。侵害の主張も、これに対する対応も、問題となる共通部分の単位で創作性を検討する必要があります。

(3)事実を説明する記述は創作性が認められにくい

本判決は、事実を単純に説明した記述は、「事項の選択」「事項の配列」「具体的表現形式」のいずれにおいてもありふれたものとなりやすく、創作性が認められにくいことを、具体的な記述に即して示しました。製品マニュアル、技術解説、商品説明、FAQなど、事実を正確に伝えることを目的とする文章は、その性質上、同種の他社資料と内容や表現が共通しやすく、本判決の考え方が当てはまる場面が多いといえます。

(4)同種の他社資料との対比による判断

本判決は、同種の他社資料に同様の表現があることを、その表現がありふれたものであることの客観的な根拠として扱いました。さらに本判決(原審)は、二つの文書が共通の見方に立つ場合、表現の幅が狭くなり似た表現にならざるを得ないことから、二つの文書が第三者の資料よりも互いに似ているということだけでは、翻案の根拠にはならないとしました。

原告各記述で選択された事項と被告各記述で選択された事項がいかに共通するものであるとしても、それだけでは、両者が創作的な表現部分において共通しているということはできない。それゆえ、原告書籍と被告書籍における選択された事項の類似性の程度が、他の歴史教科書と比較して高いものであったとしても、そのことを翻案の根拠とすることはできない。

模倣を主張する企業にとっては、同種資料との対比による反論を想定しておく必要があり、「他社の資料が、第三者の資料よりも自社のものに似ている」という主張だけでは侵害を基礎づけられないことに留意が必要です。逆に、模倣を主張された企業にとっては、同種の他社資料を収集・対比することが、有効な検討材料になり得ます。

(5)外部の制約による表現の選択の幅

本判決(原審)は、検定基準や学習指導要領といった外部の制約により、記述内容や方法が制約されている点に言及し、そのような制約の下では表現の選択の幅が狭くなり、創作性が認められない場合があり得るとしました。

これを具体的な記述として表現するについては、検定基準及び学習指導要領に基づく歴史教科書としての上記制限に従った表現にならざるを得ないのであるから、表現の選択の幅は極めて狭いというべきであり、客観的には、そこに著者の独自性や個性が表われないということもあり得るのであって、その場合には、表現上の創作性があるということはできない。

法令や業界標準、書式・様式の指定など、外部の制約が強い文書ほど、表現の選択の幅が狭く、創作性を主張しにくくなる傾向があると考えられます。

これらをふまえると、企業に求められる対応として、自社コンテンツについては、単なる事実の説明にとどめず、事項の選択・配列や具体的表現に工夫を加え、その工夫を記録しておくことが、保護を確保するうえで参考になります。

他社コンテンツを参照する際には、事実やアイディアと、創作的な表現とを区別して取り扱うことが、リスクの低減につながります。もっとも、創作性の有無は、対象となる表現を特定し、同種資料と対比して個別具体的に判断されるものであり、評価には専門的な検討を要します。自社の作成物が保護されるか、他社資料の利用が問題となり得るかについては、早い段階で弁護士に相談し、対応の方針を整理しておくことが有益です。

おわりに

本判決が示した考え方は、コンテンツの保護範囲や模倣への対応、契約・社内ルールの整備など、企業の実務に幅広く関わります。自社の作成物が著作権で保護されるかどうかの見極め、他社資料を参照する際のリスク評価、模倣を受けた場合や模倣を主張された場合の対応方針の検討は、いずれも個別の事情に応じた専門的な判断を要するため、弁護士に相談することが有益です。

当事務所は、著作権をはじめとする知的財産分野に関するご相談・ご依頼をお受けしています。コンテンツの保護や利用、紛争対応についてお悩みの企業のご担当者は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、ご連絡ください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。