はじめに
工業製品のデザインは、著作権法で保護されるのでしょうか。実用品のデザインは、意匠法や不正競争防止法による保護の対象となり得ますが、著作権法上の「著作物」に該当するかについては、いわゆる「応用美術」の著作物性の問題として、従来から議論が続いています。
今回のコラムでは、ゴルフクラブのシャフトに施された縞模様のデザインの著作物性が争われた知財高裁平成28年12月21日判決を紹介いたします。
上記知財高裁判決は、応用美術の著作物性の判断枠組みについて、高い創作性の判断基準を一律に設定することは相当ではないとしつつも、実用目的・産業上の利用目的に伴う制約により、著作物性が認められる余地は限定されるという考え方を示しました。
工業製品のデザインに関わる企業にとって、著作権法と意匠法の保護の関係を理解する上で参考になる判決です。
事案の概要
控訴人(原告)は、デザイン事務所を営むデザイナーです。控訴人は、被控訴人(被告。ゴルフシャフトメーカー)からの依頼を受け、広告代理店を通じて、ゴルフクラブのシャフトの外装デザイン(以下「本件シャフトデザイン」といいます。)およびその制作過程で作成された原画(以下「本件原画」といいます。)を制作しました。また、控訴人は、本件シャフトデザインの縞模様を取り入れたカタログの表紙デザイン(以下「本件カタログデザイン」といいます。)も制作しました。
本件シャフトデザインの構成は、以下のとおりです。
| 構成要素 | 内容 |
|---|---|
| 地色 | グリップ側は赤、ヘッド側は黒 |
| 縞模様 | 等間隔に10本のグレーのリングを配置 |
| 色の変化 | リング間の赤と黒の幅を徐々に変化させ、グリップ側からヘッド側へ赤から黒へ遷移 |
| ぼかし | リングのグリップ側に赤と黒が馴染むぼかしを配置 |
| 縦方向の線 | 赤の地および縞模様部分を一直線に貫通する黒色線 |
| ブランドロゴ | 「Tour AD」を縞模様の上に白抜きで配置 |
控訴人は、このデザインにトルネード(竜巻)のイメージや、人間のパワーの源である血液(赤)がシャフトのカーボン(黒)に昇華していく表現を意図していました。
なお、本件シャフトデザインの制作にあたっては、被控訴人から、縞模様を基調とすること、会社マークに使用している黒・赤・グレーの3色を使用すること、ブランドロゴのデザインや配置等について、数回にわたり具体的な指示がなされていました。
被控訴人は、その後、本件シャフトデザインとは配色等を変更した83種類のゴルフシャフト(被告シャフト)および2種類のカタログ(被告カタログ)を製造・販売しました。
控訴人は、被告シャフトが本件シャフトデザイン等の翻案に当たり、著作権(翻案権・二次的著作物の譲渡権)および著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して、不当利得金5,400万円、慰謝料425万円等の支払、差止め、廃棄および謝罪広告の掲載を求めました。
原審(東京地裁)は、本件シャフトデザイン等はいずれも著作物に当たらないとして、控訴人の請求を全部棄却しました。控訴人がこれを不服として控訴しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点番号 | 争点の内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件シャフトデザインおよび本件原画の著作物性 |
| 争点② | 本件カタログデザインの著作物性 |
| 争点③ | 被告シャフトによる翻案権・二次的著作物の譲渡権および同一性保持権の侵害の有無 |
裁判所の判断
争点① 本件シャフトデザインおよび本件原画の著作物性について
(1)応用美術の著作物性の判断枠組み
裁判所は、まず、応用美術の著作物性の判断枠組みについて、以下のように判示しています。
「著作権法は、建築(同法10条1項5号)、地図、学術的な性質を有する図形(同項6号)、プログラム(同項9号)、データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから、実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって、専ら、応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。」
その上で、裁判所は、著作物性の判断基準について、以下のように述べています。
「応用美術は、『美術の著作物』(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上、著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず、著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべきである。」
一方で、裁判所は、応用美術に特有の制約についても、以下のように指摘しています。
「応用美術は、実用に供され、あるいは産業上の利用を目的とするものであるから、美的特性を備えるとともに、当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり、その表現については、同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については、このような制約が課されることから、作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され、したがって、応用美術は、通常、創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が、上記制約を課されない他の表現物に比して狭く、また、著作物性を認められても、その著作権保護の範囲は、比較的狭いものにとどまることが想定される。」
(2)本件シャフトデザインおよび本件原画の著作物性の判断
裁判所は、控訴人が主張する創作性の根拠を個別に検討し、いずれについても著作物性を否定しました。裁判所の判断は、以下のとおりです。
| 控訴人の主張 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| 縞模様をトルネードのイメージとし、赤から黒へ昇華していく表現である | 縞模様は様々な物のデザインとして頻繁に用いられ、縞の幅を徐々に変化させる表現も一般に見られる。赤・黒・グレーの3色をゴルフシャフトに用いた例も複数あり、ありふれている |
| ブランドロゴの横字画部を鋭角に伸ばしてエネルギーの伸びを表現した | 既存のフォントを利用し、文字の一字画を伸ばして先を鋭角とすることは、一般によく行われる表現であり、平凡である |
| ブランドロゴを縞模様の上に配置してパワーを表現した | シャフトのデザインに製品ロゴを目立つように配置することは頻繁に見られる表現であり、細長いシャフトにおける配置の選択の幅は狭い |
争点② 本件カタログデザインの著作物性について
裁判所は、本件カタログデザインについても、著作物性を否定しました。
裁判所は、以下のように判示しています。
「縞模様は、様々な物のデザインとして頻繁に用いられ、縞の幅を一定とせずに徐々に変化させていく表現も一般に見られる上、縞の色として、原色である赤と、無彩色である黒及び白を選択することも、特段の工夫が見られず、平凡であるから、本件カタログデザインには、本件シャフトデザイン等より更に創作的な表現はなく、著作物性は認められない。」
争点③ 翻案権・二次的著作物の譲渡権および同一性保持権の侵害の有無について
裁判所は、本件シャフトデザイン等の著作物性を否定した上で、仮に著作物性が認められるとした場合についても、念のため翻案権侵害の成否を検討しました。
(1)本件シャフトデザイン等の本質的特徴
裁判所は、仮に著作物性が認められる場合の本質的特徴について、以下のように認定しています。
「赤と黒を基調にし、グレーをリングに用い、グリップ側に血液を象徴する赤、ヘッド側にカーボンを象徴する黒を用いて、縞模様を構成する赤と黒の幅を徐々に変化させつつ、赤と黒とが馴染むぼかし部分を入れて、グリップ側からヘッド側へと人間の血液を象徴する赤色部分が減少しカーボンを象徴する黒が増加していくことを具体的に表現した点にある。」
控訴人は、配色を捨象し、「2色の色が遷移していく表現」自体が本質的特徴であると主張しましたが、裁判所は、この主張を退けています。
「具体的な配色を捨象した、幅を変えながら縞模様が変化していくという表現では、本件シャフトデザイン等において、人間の血液を象徴する赤とカーボンを象徴する黒をシャフトの地色として選択し、グリップ側からヘッド側にかけて徐々に赤色部分が減少し黒色部分が増加していくという特徴的な表現が感得できない。」
(2)被告シャフトとの対比
裁判所は、被告シャフト83種類のいずれについても、本件シャフトデザイン等の本質的特徴を直接感得させるものではないと判断しました。裁判所が指摘した相違点は、以下のとおりです。
| 相違点 | 内容 |
|---|---|
| 配色の相違 | 本件シャフトデザイン等と全く同じ配色の被告シャフトはない |
| 色Aの相違 | 被告シャフトの多くは、色Aが白系・シルバー系・グレー・黄色であり、血液をイメージしにくい色である |
| 色B・C・Dの相違 | 被告シャフトの多くは、色B・Dと色Cが同系色ですらない異なる色であり、グリップ側からヘッド側へ連続した印象を与えるものではない |
なお、唯一赤と黒の配色を用いた被告シャフト78についても、リングの色がはっきりした白であり、赤と黒の配色部分をくっきりと区切って連続性を阻害していることから、本件シャフトデザイン等の本質的特徴を直接感得できないと判断されました。
コメント
1 本判決の意義
(1)応用美術の著作物性の判断枠組み――原審との比較
本判決は、応用美術の著作物性の判断枠組みについて、原審(東京地裁平成28年4月21日判決)とは異なるアプローチを採用しました。両者の比較は、以下のとおりです。
| 原審(東京地裁) | 控訴審(知財高裁・本判決) | |
|---|---|---|
| 判断基準 | 実用的な機能を離れて見た場合に、美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えているかどうか(いわゆる「美的鑑賞対象性」基準) | 高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当ではなく、著作権法2条1項1号の一般的な著作物性の要件で判断する |
| 著作物性の否定理由 | シャフトの外装デザインという用途を離れて、それ自体として美的鑑賞の対象とされるものとはうかがわれない | 縞模様、配色、ロゴの配置等の個々の表現要素がいずれもありふれている |
| 翻案権侵害の検討 | 著作物性を否定した段階で検討せず | 著作物性を否定した上で、仮に認められる場合についても念のため検討 |
原審は、応用美術について「美的鑑賞の対象となり得るような創作性」という高い基準を設定し、本件シャフトデザインが商業目的で制作された実用品のデザインであることを理由に、著作物性を否定しました。
これに対し、本判決は、このような高い基準を一律に設定することは相当ではないとして、一般的な著作物性の要件に基づき判断すべきとしました。その上で、個々の表現要素がありふれているかどうかを具体的に検討して著作物性を否定しています。
判断基準は異なるものの、結論としては著作物性が否定された点は共通しています。
(2)実用目的に伴う制約と著作物性の範囲
一方で、裁判所は、応用美術には実用目的・産業上の利用目的に伴う制約があるため、作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され、著作物性が認められる余地は狭く、保護の範囲も比較的狭いものにとどまると判示しています。
高い創作性の基準を一律に設定しないとしても、実用目的に伴う制約を通じて、結果として著作物性が認められる範囲が限定されることを示した判断です。本判決の判断枠組みをまとめると、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 判断基準 | 高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当ではなく、著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすかどうかで判断する |
| 応用美術に特有の制約 | 実用目的・産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり、作成者の個性が発揮される選択の幅が限定される |
| 著作物性が認められる余地 | 上記制約を課されない他の表現物に比して狭い |
| 著作権保護の範囲 | 著作物性が認められても、比較的狭いものにとどまることが想定される |
(3)ありふれた表現と著作物性の否定
本件では、縞模様、縞の幅の変化、赤・黒・グレーの配色、ロゴの配置など、控訴人が主張した個々の要素について、いずれもありふれた表現であるとして著作物性が否定されました。
工業製品のデザインにおいて著作物性を主張するためには、個々の要素が一般に用いられている表現にとどまらず、その具体的な表現に作成者の個性が発揮されていることが求められます。
(4)発注者の指示とデザインの創作性
裁判所は、本件シャフトデザインの制作過程において、被控訴人から縞模様の採用、配色、ロゴのデザイン・配置等について具体的な指示がなされていた事実を認定しています。発注者からの指示に基づいて制作されたデザインについては、作成者の個性が発揮された部分がどこにあるかという観点からの検討が必要となることを示唆するものです。
(5)仮定的判断としての翻案権侵害の検討
裁判所は、著作物性を否定した上で、仮に著作物性が認められるとした場合についても翻案権侵害の成否を検討しています。その中で、本質的特徴は具体的な配色を含めて認定すべきであり、配色を捨象した抽象的な構成(「2色が遷移していく表現」)のみをもって本質的特徴とすることはできないと判断しました。
2 企業等に求められる対応
本判決を踏まえると、工業製品のデザインに関わる企業は、以下の点に留意することが考えられます。
| 場面 | 留意点 |
|---|---|
| デザインの保護を検討する場合 | 工業製品のデザインは、著作権法上の著作物性が認められる範囲が限定されるため、意匠法による保護を併せて検討する必要がある |
| デザインを外注する場合 | 発注者からの具体的な指示に基づいて制作されたデザインは、作成者の個性が発揮された部分が限定される可能性がある。権利の帰属や利用条件について、契約で明確に定めておくことが望ましい |
| 他社のデザインとの類似性が問題となる場合 | 仮に先行デザインに著作物性が認められるとしても、翻案権侵害の成否は、具体的な配色等を含めた本質的特徴の対比によって判断される。抽象的な構成の共通性のみでは、翻案には当たらない場合がある |
おわりに
本判決は、応用美術の著作物性の判断枠組みおよび工業製品のデザインの著作権法上の保護について判断を示したものです。
工業製品のデザインの保護については、著作権法のほか、意匠法や不正競争防止法による保護も含めた総合的な検討が必要であり、個別の事案に応じた法的判断が求められます。
当事務所は、著作権をはじめとする知的財産法に関するご相談・ご依頼を幅広く承っております。工業製品のデザインの保護、著作権と意匠権の関係、デザインに関する契約の作成・レビューなど、これらの問題でお悩みの方は、画面右上の問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

