はじめに
SNS上で他者の写真を転載し、批判的なコメントを付けて投稿する行為は、日常的に行われています。しかし、このような投稿は、著作権侵害や名誉毀損に該当する可能性があります。
今回のコラムでは、写真家が撮影した写真をTwitter(現X)上で無断転載し、批判的な感想を付して投稿した行為が、著作権(複製権・公衆送信権)および著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)の侵害、ならびに名誉毀損に該当するとされた大阪地裁令和5年10月26日判決を紹介いたします。
上記大阪地裁判決は、SNS上での写真の「引用」や「時事の事件の報道」の成否、批判目的での著作物の改変の可否、さらには投稿による名誉毀損の成立など、SNSを利用する企業や個人にとって参考になる論点を含んでいます。
事案の概要
原告は、フリーランスの写真家(個人事業主)です。原告は、令和3年9月22日、公園内において彼岸花を背景にモデルを撮影した写真3点(以下「本件作品」といいます。)を制作しました。本件作品には、原告の著作者名を示すウォーターマークが付されていました。
モデルは、原告の許諾を受けて、令和3年9月26日に本件作品の画像をTwitter上に投稿しました。
被告は、令和3年10月10日、上記モデルの投稿をスクリーンショットし、本件作品の一部に手書き風の白線等を付した画像とともに、「彼岸花をとても潰してる...!」との短い文章を付してTwitterに投稿しました(以下「本件投稿」といいます。)。本件投稿においては、原告のウォーターマークは切り取られ、または縮小されて判読困難な状態となっていました。
本件投稿は約6か月間にわたりTwitter上に存在し、他の閲覧者による批判的な投稿(リツイート等)の契機となりました。原告は、本件作品を写真展や写真集への採用、宣伝活動への利用等に予定していましたが、本件投稿後、これらを断念して再撮影等を行うこととなりました。
原告は、被告の本件投稿が著作権(複製権・公衆送信権)および著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害し、原告の名誉を毀損するものであるとして、330万円の損害賠償を求めました。
なお、被告は、本件作品について原告が著作権を有すること、および本件投稿が複製権・公衆送信権の侵害に外形的に当たることについては争っていません。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点番号 | 争点の内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件投稿において、原告の氏名表示がされているか |
| 争点② | 本件投稿の氏名表示に関し、原告の承諾があったといえるか |
| 争点③ | 本件作品に白線等を付したことが「やむを得ない」改変かどうか |
| 争点④ | 本件投稿が著作権法32条1項の「引用」に当たるか |
| 争点⑤ | 本件投稿が著作権法41条の「時事の事件の報道のための利用」に当たるか |
| 争点⑥ | 本件投稿が、原告の名誉を毀損し、または業務を妨害するものかどうか |
| 争点⑦ | 本件投稿が原告の名誉を毀損する場合、違法性が阻却されるか |
| 争点⑧ | 原告の被った損害 |
裁判所の判断
争点① 氏名表示の有無について
裁判所は、本件投稿において原告の氏名表示がされていないと判断しました。
被告投稿画像には、原告の実名の表示はなく、原告の著作者名として本件作品に付されていたウォーターマークも切り取られ、または縮小されて判読不明となっていました。
被告投稿画像中のスクリーンショットには、原告のTwitterアカウント名の一部が表示されていましたが、裁判所は、この点について以下のように判示しています。
「氏名表示権とは『その著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利』(著作権法19条1項)をいい、『変名』とはその著作者が著作者名として用いる名称で実名以外のものと解されるところ、上記『(省略)』の表示は原告のツイッターアカウント名の一部であって原告が著作者名として用いたものではなく、この表示をもって原告の氏名表示がされたとはいえない。」
争点② 氏名表示に関する原告の承諾の有無について
被告は、モデルの投稿には原告の氏名が表示されていなかったことから、原告は氏名を表示しない形式での投稿に承諾していたと主張しました。
裁判所は、以下のように判示して、被告の主張を退けました。
「本件記録上、本件モデルの投稿において原告の氏名表示がされていなかった事実を認めるに足りる証拠はない上、原告の本件モデルに対する氏名表示に関する承諾は、原告の被告に対する承諾とは関係がない。」
争点③ 同一性保持権侵害の有無について
被告は、本件作品に付した白線等は、批評の対象部分を明確にするために必要な範囲で引いたものであり、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当すると主張しました。
裁判所は、この主張を退けました。裁判所は、以下のように判示しています。
「本件作品は写真であり、本件作品の批評対象を明確にする方法として本件作品に白線等を付す以外に別途文字で説明するなどの方法も容易に考えられる上、付された白線も少なくないことから、被告が白線等を付した行為を著作権法20条2項4号の『やむを得ないと認められる改変』に該当すると認めることはできない。」
裁判所は、批評対象を示すために写真に直接白線等を書き込む方法以外に、文字による説明等の代替手段が容易に考えられること、および改変の程度が小さくないことを理由に、「やむを得ない改変」には当たらないと判断しました。
争点④ 引用(著作権法32条1項)の成否について
被告は、本件投稿は本件作品に対する批評目的であり、著作権法32条1項の「引用」に該当すると主張しました。
裁判所は、引用の成立要件について、以下のように述べています。
「他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要である(著作権法32条1項後段)。」
その上で、裁判所は、以下の事実を考慮し、引用の成立を否定しました。
| 考慮事実 | 内容 |
|---|---|
| 投稿の構成 | 本件投稿は、本件作品を転載した被告投稿画像と、短い感想・批評の文から構成されている |
| 画像と文の割合 | 本件投稿の大部分は被告投稿画像が占め、文は短いものである |
| 閲覧者への影響 | 閲覧者は、本件投稿を見れば本件作品の全体を把握できるようになる |
裁判所は、以下のように判示しています。
「本件投稿は、本件作品に対する被告の感想ないし批評を述べる目的で本件作品を引用したこと自体は否定できないが、本件投稿の大部分は被告投稿画像が占め、上記文は極めて短い文である。そうすると、本件投稿の閲覧者において、本件投稿を見れば本件作品の全体を把握できるようになるものといえ、上記目的との関係において、本件投稿における本件作品の引用の方法ないし態様が社会通念上合理的な範囲内のものであるということはできない。」
争点⑤ 時事の事件の報道(著作権法41条)の成否について
被告は、本件作品の撮影時にモデルが公園内の彼岸花を踏み潰した事実は「時事の事件」に該当し、本件投稿はその「報道」に当たると主張しました。
裁判所は、この主張を退けました。裁判所は、以下のように判示しています。
「『時事の事件』(著作権法41条)とは、現時又は近時に起こった社会的な意義のある事件・出来事であると解されるところ、本件作品は写真家である原告が公園内において彼岸花を背景に本件モデルを撮影したというものであって、その際、公園内の植生に影響があったかどうかといったことについても、同条の『時事の事件』には該当しない。また、本件投稿は、(中略)被告の一方的な感想ないし批評であるから、同条の『報道』に該当するということもできない。」
争点⑥ 名誉毀損および業務妨害の成否について
(1)名誉毀損について
裁判所は、本件投稿が原告の名誉を毀損するものであると認めました。
裁判所は、以下の事実を考慮しています。
| 考慮事実 | 内容 |
|---|---|
| 事実の摘示 | 本件投稿は、モデルが彼岸花を踏んでいるとの事実を摘示するものである |
| 閲覧可能性 | 本件投稿は、不特定多数の者が閲覧可能なTwitter上の投稿である |
| 閲覧者の認識 | 閲覧者は、本件作品の撮影者が彼岸花を踏む態様の撮影手法を採用する者であると認識するのが自然である |
| 実際の影響 | 本件投稿をリツイートするなどして複数の閲覧者が原告の撮影手法を批判する内容を投稿した |
(2)業務妨害について
裁判所は、本件投稿が原告の業務の妨害と客観的な関係があるとまではいえないと判断しました。もっとも、原告が主観的には影響を受けていること自体は無理からぬところであるとし、損害額の検討にあたり考慮すべき事情として位置づけました。裁判所は、以下のように判示しています。
「本件投稿の内容は、(中略)原告の氏名を表示することなく被告投稿画像と共に短文の感想ないし批評を掲載したものであるから、本件投稿をもって直ちに原告が上記予定をいずれも断念せざるを得なくなる状況に至ったと評価することはできない。」
「よって、本件投稿が原告主張の業務の妨害と客観的な関係があるとまではいえないが、少なくとも主観的には影響を受けており、このこと自体は無理からぬところであって、(中略)損害額を検討するに当たり原告主張の事情も考慮すべきものと解される。」
争点⑦ 名誉毀損の違法性阻却の有無について
被告は、原告の撮影行為が社会の正当な関心事であること、本件投稿の目的が公益目的であること等を主張し、違法性が阻却されると主張しました。
裁判所は、この主張を退けました。裁判所が検討した事項は、以下のとおりです。
| 検討事項 | 裁判所の判断 |
|---|---|
| 公共の利害に関する事項への該当性 | 原告がフォロワー3,424名を有し、コンテストの入賞歴を有する写真家であるとしても、原告の撮影行為が「公共の利害に関する事項」に該当するとはいえない |
| 公益目的 | 被告の本件投稿の目的は、本件作品の感想または批評の被告なりの表明にあり、「その目的が専ら公益を図ることにあった」ともいえない |
| 真実性 | 真実を摘示したことについての的確な立証もない |
争点⑧ 損害額について
裁判所は、慰謝料として20万円を認めました。裁判所は、損害額の算定にあたり、以下の事情を考慮しています。
| 考慮事情 | 内容 |
|---|---|
| 投稿の態様 | 不特定多数が閲覧可能なTwitter上の投稿であり、正当な目的を欠いて本件作品を公衆送信しつつ、批判的な感想・批評および本件作品の改変を行ったものである |
| 改変の程度 | 改変の程度は小さいものとはいえない |
| 投稿の存続期間 | 約6か月間にわたりTwitter上に存在した |
| 波及的影響 | 他の閲覧者による批判的な投稿の契機となった |
| 原告の予定への影響 | 原告は、写真展や写真集への採用、宣伝活動への利用等を予定していたが、本件投稿後にこれらを断念した |
なお、原告が主張した発信者情報開示手続費用(30万円)については、これを認めるに足りる証拠がないとして、認められませんでした。
コメント
1 本判決の意義
(1)SNS上の批判投稿と著作権侵害
本判決は、SNS上で他者の写真を転載し、批判的なコメントを付して投稿する行為について、著作権法上の引用(32条1項)の成立が否定された事例です。
裁判所は、投稿の大部分が転載画像で占められ、批評の文が短いものにとどまる場合には、引用の方法・態様が社会通念上合理的な範囲内であるとはいえないと判断しました。
SNS上での投稿の構成や画像と文の割合が、引用の成否の判断において考慮される点は、実務上参考になります。
(2)著作者名の表示とウォーターマーク
裁判所は、著作者が著作物に付したウォーターマークが切り取られ、または判読困難な状態で転載された場合には、氏名表示権の侵害が成立すると判断しました。
また、転載元のSNSアカウント名の一部が画像に含まれていたとしても、それが著作者名として用いられたものでなければ、氏名表示には当たらないとしています。
(3)批評目的での写真への書き込みと同一性保持権
裁判所は、写真の批評対象を示すために写真に直接白線等を書き込む行為について、文字による説明等の代替手段が容易に考えられることを理由に、「やむを得ない改変」には当たらないと判断しました。
批評や論評を行う場合であっても、著作物への直接的な改変は慎重に行う必要があることを示す判断と評価することができます。
(4)「時事の事件の報道」の範囲
裁判所は、写真家がモデルを撮影した行為やその際の植生への影響は、著作権法41条の「時事の事件」には該当しないと判断しました。また、SNS上での個人の感想や批評は、同条の「報道」にも該当しないとしています。
2 企業や個人に求められる対応
本判決を踏まえると、SNSを利用する企業や個人は、以下の点に留意することが考えられます。
| 場面 | 留意点 |
|---|---|
| 他者の写真等をSNSに投稿する場合 | 著作権者の許諾なく写真等を転載する行為は、たとえ批評目的であっても、著作権侵害に該当する可能性がある |
| 引用として利用する場合 | 転載画像が投稿の大部分を占め、コメントが短文にとどまるような構成は、適法な引用と認められない可能性がある |
| 著作物に加工を行う場合 | 批評対象を示す目的であっても、文字による説明等の代替手段が考えられる場合には、著作物に直接書き込みを行う行為は「やむを得ない改変」と認められず、同一性保持権の侵害に該当する可能性がある |
| 著作者名の取扱い | ウォーターマーク等の著作者名表示を切り取ったり、判読困難にする行為は、氏名表示権の侵害に該当する可能性がある |
| 批判的な投稿を行う場合 | SNS上の批判的な投稿であっても、事実の摘示により他者の社会的評価を低下させる場合には、名誉毀損に該当する可能性がある |
なお、自らの著作物が無断で転載された場合や、SNS上の投稿により名誉を毀損された場合には、発信者情報開示手続を経て投稿者を特定し、損害賠償を請求することが一般的です。
本件でも、原告は裁判所に対する発信者情報開示請求の手続を経て被告を特定しています。このような手続には一定の時間と費用を要するため、早期に弁護士に相談することが望ましいといえます。
おわりに
本判決は、SNS上での他者の著作物の利用や批判的な投稿に関して、著作権法上の各権利制限規定の適用範囲や名誉毀損の成否について判断を示したものです。SNSの普及に伴い、写真の無断転載や批判的な投稿に関する紛争は増加しており、個別の事案に応じた法的検討が必要となります。
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