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Googleマップへの画像無断転載と著作権法41条の「時事の事件の報道」(東京地裁令和5年2月28日判決)

はじめに

SNSに投稿した画像や動画が、第三者によって無断でGoogleマップなどの別のプラットフォームに転載されるケースが増えています。

こうした無断転載に対して、著作権に基づく法的手段はどこまで有効なのでしょうか。また、転載者が「時事の事件の報道」(著作権法41条)に該当すると主張した場合、裁判所はどのように判断するのでしょうか。

今回のコラムでは、Googleマップへの画像の無断投稿について著作権侵害を認め、発信者情報の開示を命じた東京地裁令和5年2月28日判決をご紹介します。

上記東京地裁判決は、SNS上のコンテンツの無断利用と著作権法41条の適用範囲について、実務上の指針を示しており、参考となります。

事案の概要

原告は、自身のインスタグラム(非公開アカウント・いわゆる鍵アカウント)のストーリーズに、夫が歯科医院付近の路上を走る様子を撮影した動画を投稿しました。この動画には、「麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎すぎて。笑」というテロップが付されていました。

その後、氏名不詳者(以下「投稿者」といいます。)が、この動画から静止画2枚を切り取り、Googleマップ上に夫が経営する歯科医院の写真としてアップロードしました。

原告は、投稿者による上記行為が自身の著作権(複製権・公衆送信権)を侵害するものであるとして、Googleマップを運営するグーグル・エルエルシーに対し、プロバイダ責任制限法(当時)5条1項に基づき、投稿者の発信者情報の開示を求めて提訴しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①原告が撮影・編集した動画及びその静止画に著作物性が認められるか
争点②原告が動画の利用について黙示の承諾をしていたか
争点③投稿者による画像の投稿が「時事の事件の報道」(著作権法41条)に該当するか
争点④原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか

裁判所の判断

争点① 動画及び静止画の著作物性 ― 認められる

裁判所は、本件動画について、約15秒間という短い時間の中で日常の風景を紹介するために、カメラの位置や構図・アングルに工夫を凝らし、テロップを加える編集を施した点に創作性があるとして、映画の著作物としての著作物性を認めました。

「本件動画2は、約15秒間という短い時間の中で、田舎で歯科医として勤務する原告の夫の日常の風景を分かりやすく紹介するために、原告の夫が走っている様子が画面の中央に映るようにカメラの位置を低めに設定した上で、道路や空、道路沿いの住居といった背景がバランス良く写り込む構図・アングルで撮影した動画に、その状況を端的に説明するために本件テロップを加えるという編集を施したものであることが認められる。」

また、裁判所は、この動画から切り取った静止画(投稿画像)についても、次のとおり著作物性を肯定しました。

「本件動画2の2か所をトリミングして静止画化した本件投稿画像についても、上記において説示した工夫を踏まえると、著作物性を認めるのが相当である。」

争点② 黙示の承諾の有無 ― 認められない

被告(グーグル)は、原告が転載禁止等の注記をしていなかったことから黙示の承諾があったと主張しました。しかし、裁判所は、以下の事情を考慮して、黙示の承諾を否定しました。

考慮事実
本件動画は、鍵アカウント設定で投稿されたものであり、原告のフォロワーのみが閲覧可能であったこと
ストーリーズに投稿されたものであり、24時間が経過すると視聴が不可能となること

裁判所は、これらの事情を踏まえ、次のとおり判示しました。

「インスタグラムに公開した動画につき、転載禁止であることを積極的に示していない事実をもって、直ちに、第三者による一切の利用を承諾したということはできず、その他に、被告は、黙示の承諾の存在を基礎付ける具体的事情を主張立証するものではない。」

争点③ 著作権法41条の適用の有無 ― 適用されない

被告は、投稿画像が医療現場の実態を収めたものであり、これを投稿することは「時事の事件の報道」(著作権法41条)に該当すると主張しました。しかし、裁判所は、以下の事実を認定した上で、著作権法41条の適用を否定しました。

考慮事実
投稿画像は、ある男性が住宅地の道路上を走っている画像にテロップが付されるにとどまり、いつの出来事であるか一切明らかではないこと
投稿画像は、Googleマップ上で歯科医院をクリックした場合に限り表示されるにすぎないこと

裁判所は、これらの事情を踏まえ、次のとおり判示しました。

「本件投稿画像の出来事は、著作権法41条にいう『時事の事件』とはいえず、その投稿も、上記認定に係る表示態様に照らし、同条にいう『報道』というに足りないものと認めるが相当である。」

さらに、裁判所は、被告が主張する「医療事故につながりかねない様子」というニュース性についても、次のとおり退けました。

「一般の利用者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、『麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎過ぎて。笑』というテロップの内容及び上記認定に係る本件投稿画像の内容を踏まえると、本件投稿画像は、医療現場の実態や、医療事故につながりかねない様子であると理解されるものと認めることはできず、上記各内容に照らしても、被告が主張するようなニュース性を認めることもできない。」

争点④ 正当な理由の有無 ― 認められる

被告は、本件動画が私的な動画であるため損害を観念できないと主張しましたが、裁判所は、著作権侵害が明白である以上、具体的な損害額の多寡は著作権侵害の成否を左右しないとして、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を認めました。

結論

裁判所は、原告の請求を全部認容し、グーグルに対して発信者情報の開示を命じました。

コメント

1. 本判決の意義

本判決は、SNS上の短い動画であっても、撮影の構図やアングル、テロップの付加といった工夫が認められれば著作物性が肯定されることを示しました。また、著作権法41条(時事の事件の報道)の適用について、「時事の事件」該当性と「報道」該当性の双方を具体的に検討し、Googleマップへの画像投稿がこれに該当しないと判断した裁判例としても意義があります。

2. 鍵アカウントと黙示の承諾

本判決は、鍵アカウントかつストーリーズ(24時間で消滅)という限定的な公開方法で投稿されたコンテンツについて、転載禁止の注記がなくても黙示の承諾は認められないと判断しました。この判断は、SNS上のコンテンツの無断利用に対する著作権保護を検討する上で参考になります。

3. 著作権法41条の適用範囲と裁判例の動向

本判決において注目されるのは、著作権法41条の適用に関する判断です。裁判所は、「一般の利用者の普通の注意と読み方」を基準として、投稿画像の内容やテロップの記載から「時事の事件」や「報道」に該当するかを判断しました。

著作権法41条の「時事の事件」該当性が争われた裁判例は多くありませんが、これまでの裁判例を概観すると、裁判所は、出来事が生じた時期の近接性よりも、当該コンテンツの内容や利用目的の実質に着目して判断する傾向があるように思われます。

たとえば、暴力団の継承式を撮影したビデオの一部がニュース番組で放送された事案(大阪地判平5.3.23判時1464号139頁〔山口組五代目事件〕)では、継承式自体は数か月前の出来事でしたが、裁判所は、放送時点で行われた組事務所の一斉捜索という時事の事件と関連するものとして、著作権法41条の適用を認めました。

他方、映画の映像写真が週刊誌に掲載された事案(東京地判平13.11.8裁判所HP)では、裁判所は、記事の実質が読者の性的好奇心を刺激して購買意欲をかきたてようとする意図によるものであるとして、「時事の事件」該当性を否定しました。また、オークションの出品カタログに美術品の画像が掲載された事案(東京地判平21.11.26裁判所HP)でも、裁判所は、パンフレットの実質がオークションの宣伝広告にほかならないとして、同様に「時事の事件」該当性を否定しています。

本判決も、投稿画像の内容そのものにニュース性が認められるかどうかを正面から検討し、被告の主張を排斥しました。本判決は、コンテンツの内容や利用態様の実質に即して「時事の事件」該当性を判断するという裁判例の流れに沿うものと位置づけることができます。

この裁判例の傾向は、口コミサイトやレビューサイトにおいて他者のコンテンツを転載する行為に対し、著作権法41条の抗弁が認められるかを検討する際にも参考になると考えられます。すなわち、形式的に「報道」や「情報提供」と称していても、その実質が著作物の利用そのものを目的とするような場合には、著作権法41条の適用は認められにくいといえます。

4. 企業に求められる対応

本判決を踏まえると、企業においては、以下の点に留意することが有益です。

第一に、口コミ・レビューの管理体制の整備です。Googleマップをはじめとする口コミサイトやレビューサイトに、自社の店舗情報として第三者の著作物が無断で投稿されるリスクがあります。こうした投稿を放置した場合、企業の信用にも影響を及ぼしかねません。定期的に口コミやレビューを確認し、問題のある投稿を発見した場合にはプラットフォームへの削除申請を行うなど、適切な管理体制を構築することが望ましいといえます。

第二に、自社コンテンツの保護です。自社がSNS等に投稿した写真や動画が無断転載された場合に備え、投稿日時や投稿先を記録しておくことで、著作権侵害の立証が容易になります。

第三に、他者のコンテンツの利用に関する社内リテラシーの向上です。SNS上で公開されているコンテンツであっても、著作権者の許諾なく複製・公衆送信することは原則として著作権侵害となります。「転載禁止と書かれていないから使ってよい」という認識は誤りです。社内の広報担当者やマーケティング担当者に対して、著作権に関する基本的な知識を共有しておくことが、リスク回避の観点から有用です。

本判決が示した判断は、SNS上のコンテンツの保護に関する実務上の指針となるものです。自社のコンテンツが無断で利用された場合の対応や、他者のコンテンツを利用する際の注意点について、ご不明な点がありましたら、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。