著作物の公表は、著作者にとって、いつ、どのような形で自らの作品を世に送り出すかを決める重要な権利です。著作権法は、著作者に対し、まだ公表されていない著作物を公表するかどうかを決定する権利(公表権、著作権法18条1項)を保障しています。
今回のコラムでは、芸能リポーターが、著名なミュージシャンから個人的に提供を受けた未公表の楽曲を、テレビの生放送番組内で無断再生した行為について、著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)の侵害が認められた東京地裁平成30年12月11日判決を紹介いたします。
上記東京地裁判決は、未公表著作物の取扱いについて、報道機関や情報を受領する立場の者が負う注意義務の内容を具体的に示した裁判例として、実務上参考になるものです。
事案の概要
原告は、「ASKA」の芸名で作詞作曲及び歌手活動等を行う芸術家です。原告は、平成27年9月頃、「1964to2020東京Olympic」という題名の楽曲(演奏時間約6分間。以下「本件楽曲」といいます。)を創作しました。本件楽曲は、2020年東京オリンピックのテーマ曲として応募することを目的として創作されたものでした。
原告は、平成27年12月22日、芸能リポーターである被告Bに対し、本件楽曲を聴いた感想を聞くために、本件楽曲の録音データをメールで送信しました。
ところが、平成28年11月28日、被告読売テレビが放送する生放送番組「情報ライブ ミヤネ屋」において、警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕する方針であることが報じられた際、番組に出演していた被告Bが、原告の許諾なく本件楽曲の録音データの一部を約1分間にわたって再生しました。
原告は、被告B及び被告読売テレビに対し、著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)の侵害を理由に、約3307万円の損害賠償を請求しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点番号 | 争点の内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件楽曲は未公表の著作物であったか |
| 争点② | 公衆送信及び公表につき黙示の許諾があったか |
| 争点③ | 被告らによる公衆送信行為は著作権法41条所定の時事の事件の報道のための利用に当たるか |
| 争点④ | 被告らによる公衆送信行為は著作権法32条1項所定の引用に当たるか |
| 争点⑤ | 正当業務行為等により公表権侵害の違法性が阻却されるか |
| 争点⑥ | 被告Bは公衆送信権及び公表権の侵害主体となるか |
| 争点⑦ | 故意・過失の存否 |
| 争点⑧ | 損害の有無及びその額 |
裁判所の判断
争点① 本件楽曲は未公表の著作物であったかについて
裁判所は、本件楽曲は未公表の著作物であったと判断しました。
被告らは、原告が芸能リポーターである被告Bに録音データを提供したことは公衆に提示したものと同視でき、本件楽曲は既に公表されていたと主張しました。しかし、裁判所は、以下のとおり判示して、この主張を退けました。
法にいう「公衆」とは飽くまでも不特定多数の者又は特定かつ多数の者をいう(法2条5項参照)のであって、被告B個人が公衆に当たると解する余地はない。したがって、原告が被告Bに対して本件録音データを提供したことにより、本件楽曲が公表されたものとは認められない。
争点② 公衆送信及び公表につき黙示の許諾があったかについて
裁判所は、黙示の許諾はなかったと判断しました。
裁判所は、原告が被告Bに録音データを提供した経緯について、以下の事実を認定しました。
| 時期 | 事実 |
|---|---|
| 平成27年12月上旬頃 | 原告は、自らが執筆した自叙伝の原稿について被告Bの感想等を聞くため、知人を介して被告Bの連絡先を入手し、原稿データをメールで送付した |
| その後 | 原告は、被告Bと電話で連絡を取り、自らが音楽活動を行っていることを伝え、自らが創作した曲を聴いた感想等を聞かせてほしいと頼み、被告Bはこの依頼を承諾した |
| 平成27年12月22日 | 原告は、被告Bに対し、本件楽曲の録音データをメールで送信した |
以上の事実関係を踏まえ、裁判所は、以下のとおり判示しました。
原告は、本件楽曲を聴いた被告Bの感想等を聞くために、被告Bに対して本件録音データを提供したにすぎないから、原告が本件録音データを提供したことをもって、本件楽曲を公衆送信ないし公表することを黙示に許諾したとは認められない。被告Bが芸能リポーターであるからといって、それのみでは上記説示を左右しない。
争点③ 時事の事件の報道のための利用(著作権法41条)について
裁判所は、著作権法41条に基づく適法な利用には当たらないと判断しました。
被告らは、本件楽曲の放送は、(1)覚せい剤使用の疑いでの逮捕という時事の事件を構成するもの、(2)原告が更生に向けて行っていた音楽活動の成果物であるという時事の事件を構成するもの、と主張しました。
裁判所は、まず(1)の主張について、以下のとおり判示しました。
本件楽曲は、警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であるという時事の事件の主題となるものではないし、かかる時事の事件と直接の関連性を有するものでもないから、時事の事件を構成する著作物に当たるとは認められない。
次に、(2)の主張について、裁判所は、番組の放送内容を詳細に認定したうえで、以下のとおり判示しました。
本件番組中における原告の音楽活動に関する部分は、警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕する予定であることを報道する中で、ごく短時間に、原告が2020年のオリンピックのテーマソングとして作曲した本件楽曲を被告Bに送付し、来月、YouTubeで新曲を発表するなど音楽活動に向けて動こうとしている、ということを断片的に紹介する程度にとどまっており、本件楽曲の紹介自体も、原告がそれまでに創作した楽曲とは異なる印象を受けることを指摘するにすぎないもので、これ以上に原告の音楽活動に係る具体的な事実の紹介はないものであるから、このような放送内容に照らせば、本件番組中における原告の音楽活動に関する部分が「原告が有罪判決後の執行猶予期間中に音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと」という「時事の事件の報道」に当たるとは、到底いうことができない。
争点④ 引用(著作権法32条1項)について
裁判所は、著作権法32条1項に基づく引用にも当たらないと判断しました。
原告が被告Bに対して本件録音データを提供したことにより、本件楽曲が公表されたものとは認められず、本件番組の放送時において本件楽曲は未公表の著作物であったと認められるから、被告らによる本件楽曲の公衆送信行為は法32条1項所定の引用には当たらない。
争点⑤ 正当業務行為等による違法性阻却について
裁判所は、正当業務行為等による違法性阻却も認めませんでした。
被告らの主張に対し、裁判所は、以下のとおり判示しました。
本件番組では原告の音楽活動にごく簡単に触れたに止まり、それに係る具体的な事実の紹介がないことは前記3で説示したとおりであるし、本件楽曲が原告による覚せい剤使用の事実の真偽を判断するための的確な材料であるとも認められないから、被告らの上記主張は、その前提を欠くものであり採用できない。
被告Bの正当業務行為の主張についても、裁判所は、以下のとおり判示しました。
原告の音楽活動に係る具体的な事実の紹介がないまま、本件録音データの一部を再生したからといって、原告が更生していることを具体的に示すことにはならないから、被告Bの上記主張も、その前提を欠くものであり採用できない。
争点⑥ 被告Bの侵害主体性について
裁判所は、被告Bも公衆送信権及び公表権の侵害主体となると判断しました。被告Bは被告読売テレビによる放送の履行補助者にすぎないと主張しましたが、裁判所は、被告Bが生放送中に出演者として録音データを再生した行為と、被告読売テレビが番組を放送した行為とをもって、被告らが共同して原告の権利を侵害したと認定しました。
争点⑦ 故意・過失の存否について
裁判所は、故意は認めませんでしたが、少なくとも過失があったと認定しました。
被告Bはいわゆる芸能リポーターを業とし、被告読売テレビは基幹放送事業を業とするものであるから、被告らは、放送番組中において楽曲を再生し放送する場合には著作権や著作者人格権の侵害がないように十分注意すべき高度の注意義務を負っているというべきところ、原告が本件楽曲を公衆送信及び公表することを黙示に許諾したとは認められないにもかかわらず、その認識を欠いて本件楽曲を公衆送信及び公表することが許されると誤信した点などにおいて、少なくとも過失があったと認められる。
争点⑧ 損害の有無及びその額について
裁判所は、以下のとおり損害額を認定しました。
| 損害項目 | 認容額 | 裁判所の判断の概要 |
|---|---|---|
| 著作権法114条3項に基づく損害金(使用料相当額) | 6万4000円 | JASRAC使用料規程に基づき、全国放送1曲1回(5分以内)の使用料を認定 |
| 公表権侵害による慰謝料 | 100万円 | 後記の考慮事情を踏まえて認定 |
| 弁護士費用 | 11万円 | 著作権侵害及び著作者人格権侵害と相当因果関係のある額として認定 |
| 合計 | 117万4000円 |
慰謝料の算定に当たって、裁判所が考慮した事情は、以下のとおりです。
| 考慮事情 |
|---|
| 本件楽曲は2020年東京オリンピックのテーマ曲として応募することを目的として創作されたものであったこと |
| 原告は、本件楽曲を聴いた感想を聞くために被告Bに録音データを提供したにすぎなかったこと |
| 本件番組(日本テレビ系列28社により放送)において本件楽曲が放送されたことにより、原告は本件楽曲を創作した目的に即した時期に本件楽曲を公表する機会を失ったこと |
| 本件楽曲が、覚せい剤使用の疑いでの逮捕に関連する一つの事情として紹介されたことにより、番組の司会者及び被告Bの発言と相まって、視聴者に対して原告が本件楽曲を創作した目的とは相容れない印象を与えることとなったこと |
なお、原告は慰謝料として3000万円を請求していましたが、裁判所は100万円と認定しました。また、請求額約3307万円に対し、認容額は約117万円にとどまりました。
コメント
1. 本判決の意義
本判決は、未公表著作物の保護に関し、以下の点を明確にした裁判例として意義があります。
第一に、著作物を特定の個人に提供したことが「公表」に当たるかについて、相手方の職業(芸能リポーター)や属性にかかわらず、個人への提供は著作権法上の「公衆」(不特定多数又は特定かつ多数)への提供には当たらず、公表とは認められないことが示されました。
第二に、著作物を芸能リポーターに提供したという事実のみから、公衆送信や公表の黙示の許諾があったとは認められないことが示されました。提供の目的が感想を聞くためであったという具体的な経緯を踏まえた判断であり、提供先の職業特性から直ちに黙示の許諾を推認することはできないという判断が示されています。
第三に、時事の事件の報道のための利用(著作権法41条)について、報道対象である覚せい剤使用の疑いでの逮捕と、未公表の楽曲との間に直接の関連性がない場合には、当該楽曲が時事の事件を構成する著作物に当たらないことが示されました。
第四に、著作権法32条1項の「引用」について、同条項は「公表された著作物」であることを要件としています。本判決は、未公表の著作物についてはそもそも同条項の適用がないことを確認しました。すなわち、未公表著作物については、引用の目的や態様がいかに正当であったとしても、引用の抗弁が成り立たないことになります。この点は、未公表の著作物を取り扱う場面において留意すべき重要なポイントです。
2. 企業等に求められる対応
本判決の判断を踏まえ、第三者から著作物の提供を受ける企業や放送事業者等においては、以下の対応が求められます。
(1)未公表著作物の公表に関する明示的な許諾の取得
本判決では、著作物の提供先が芸能リポーターであったとしても、黙示の許諾は認められませんでした。著作物を二次利用する場合には、著作者から明示的な許諾を書面で取得しておくことが重要です。
(2)放送番組における権利確認体制の整備
裁判所は、放送事業者及び芸能リポーターに対し、放送番組中において楽曲を再生し放送する場合には著作権や著作者人格権の侵害がないように十分注意すべき「高度の注意義務」を課しています。生放送であっても、使用するコンテンツの権利関係を事前に確認する体制を整備する必要があります。
(3)提供を受けた情報・著作物の取扱いに関する社内ルールの策定
本件では、個人的な目的で提供された著作物が番組内で無断使用されました。取材活動やビジネス上の関係で第三者から提供を受けた著作物について、その利用範囲を確認し、提供の目的を超えた利用を行わないための社内ルールを策定・運用することが望まれます。
(4)未公表著作物に関するリスクの認識
未公表著作物を無断で公表する行為は、著作権侵害に加えて著作者人格権(公表権)の侵害にもなり得ます。著作者人格権の侵害が認められた場合には、財産的損害(使用料相当額)に加えて慰謝料が発生するため、リスクが大きくなります。本件でも、使用料相当額は6万4000円でしたが、慰謝料として100万円が認容されています。
著作物の利用に関して少しでも判断に迷う場面があれば、事前に弁護士に相談し、適切な権利処理を行うことをお勧めします。
3. 権利者の注意点
本判決では、原告が被告Bに対し事前に公表しないよう求めていたとの主張がされましたが、裁判所は、この主張が訴訟の途中で初めてされたものであること等を理由に採用しませんでした。このことは、著作物を第三者に提供する際に、利用範囲や公表の可否を口頭のみで伝えることのリスクを示しています。提供先が報道関係者など情報発信を業とする者である場合には、黙示の許諾があったとの主張を受けるおそれもあるため、利用条件をメール等の書面で明確に残しておくことが重要です。
権利侵害が生じた後の損害賠償請求には、立証の負担や認容額の不確実性が伴います。権利者にとっては、事後的な救済に頼るよりも、提供時の条件明示という事前の予防措置を講じることが、自らの著作物を守るうえでより実効的な手段といえます。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

