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配当期待権に対する相続税と配当所得に対する所得税の二重課税該当性(大阪地裁令和3年11月26日判決:相続相談)

はじめに

株式を多く保有するオーナー株主や上場株式の保有者が亡くなった場合、その保有株式は相続財産として相続税の課税対象になります。しかし、「配当の基準日(ある時点での株主名簿に記載された株主に配当が支払われることが確定する日)」を過ぎてから相続が開始した場合、相続財産の中には「配当期待権」(配当金交付の基準日の翌日から配当金交付の効力が発生する日までの間に配当金を受けることができる権利)が含まれます。そして、相続後に実際に受け取った配当金については、配当所得として所得税も課税されます。

「相続税の課税対象となった配当期待権と、所得税の課税対象となった配当所得は、同じ経済的価値ではないか。そうであれば、二重課税として許されないのではないか」——このような疑問に正面から向き合い、判断を下したのが大阪地裁令和3年11月26日判決(令和2年(行ウ)第137号、所得税更正処分等取消請求事件、請求棄却)です。

本判決は、平成23年の所得税法改正で新設された同法67条の4(課税の繰延べ規定)の趣旨を詳細に分析した上で、配当期待権に相続税が課され、配当所得に所得税が課されることは「違法な二重課税」には当たらないと判断しました。相続と税務の交差点として、企業のオーナーや上場株式を保有する資産家にとって示唆に富む内容です。

今回のコラムでは、上記大阪地裁判決について、概要を紹介いたします。

事案の概要

原告Xは、父(亡C)の相続人です。事案の時系列は、以下のとおりです。

時点出来事
平成28年3月31日a株式会社の配当に係る基準日(この時点の株主に1株18円の配当が支払われることになる)
平成28年4月26日亡Cが死亡(本件相続の開始)。本件株式が相続財産となる
平成28年6月24日a株式会社の定時株主総会で配当決議(効力発生日を同月27日と定める)
平成28年6月27日配当金の支払い。配当金等の金額は約750万円、実際の受取金額は約598万円(源泉徴収後)

亡Cの死亡時点では配当決議はまだされていませんでしたが、基準日はすでに経過していました。そのため、相続財産の評価においては、財産評価基本通達193に基づいて「配当期待権」が相続財産に計上され(評価額597万9278円)、相続税の課税対象となりました。

その後、税務署は、原告がa株式会社から受け取った配当金(同額597万9278円)を配当所得として申告しなかったことを理由として更正処分を行いました。これに対して、原告は「相続税の課税対象となった配当期待権と同一の経済的価値である本件配当については、所得税法9条1項16号(相続等により取得するものについての非課税規定)により所得税を課されない」と主張し、更正処分等の取消しを求めて提訴しました。

なお、本件は上記の二重課税の問題のほかにも、①相続財産の譲渡に係る取得費加算(租税特別措置法39条)の計算方法、②更正処分の通知書における理由の提示(行政手続法14条1項)、③財産債務調書への未分割遺産の記載義務、という点も争われた複合的な事案です。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

番号争点の内容
争点①配当所得に所得税を課することは、所得税法9条1項16号で排除されている違法な二重課税に当たるか
争点②相続財産の譲渡に係る取得費加算(措置法39条8項)における「譲渡をした資産ごと」の計算単位はどのように解するか
争点③更正処分に係る通知書において、相続税取得費加算額の計算について、行政手続法14条1項本文所定の理由の提示があったといえるか
争点④遺産分割協議が成立していない相続財産を財産債務調書に記載していない場合に、国送法6条の3第2項を適用することができるか
争点⑤財産債務調書におけるa株式会社の株式の記載をもって、未分割の遺産である同株式会社の株式の記載とみることができるか

以下では、本判決の中核をなす争点①を中心に解説します。

裁判所の判断

裁判所は、原告の請求をすべて棄却しました。各争点に関する判断の概要は以下のとおりです。

争点①——配当期待権(相続税)と配当所得(所得税)の二重課税問題

裁判所の判断は、以下の三段階の論理で構成されています。

(1)所得税法9条1項16号の趣旨

裁判所は、まず二重課税排除規定(所得税法9条1項16号)の趣旨について、最高裁平成22年7月6日第三小法廷判決(民集64巻5号1277頁。以下「最高裁平成22年判決」という。)の考え方を引用しつつ、次のように述べています。

同号にいう相続等により取得するものとは、相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく、当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。そして、当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは、当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかならず、これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから、同号の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される。

(2)所得税法67条の4の趣旨——立法的解決

次に、裁判所は、所得税法67条の4の趣旨を検討しました。同条は、最高裁平成22年判決後の平成23年法律第82号による所得税法改正で新設されたものです。

裁判所は、まず相続により取得した資産の取得費引継ぎを定めた所得税法60条1項1号(課税の繰延べ)の趣旨を分析した上で、次のように述べています。

相続した資産に係る被相続人の取得時から相続時までの増加益に対する譲渡所得課税は、被相続人の下で潜在的に存在した増加益に対する課税、すなわち本来的には被相続人固有の所得に対する譲渡所得課税を相続人に繰り延べたものである。当該所得の本来的な帰属主体が異なる以上、これをもって、同一の経済的価値に対する相続税と所得税との違法な二重課税と評価することはできない。

さらに裁判所は、定期預金の既経過利子や株式の配当期待権に対する課税実務を整理した上で、それらが課税の繰延べと同じ性質を有することを確認しました。裁判所が確認した課税実務の在り方は以下のとおりです。

相続財産の種類相続税の課税ベース(評価基準)所得税の課税
満期前の定期預金定期預金元本+既経過利子-既経過利子に係る源泉所得税相当額(評価通達203参照)定期預金の利子(預入から満期まで)の全額につき、満期日に相続人から源泉徴収
株式(基準日後・配当決議前に相続)株式本体の価額+配当期待権(課税時期後に受けると見込まれる予想配当の金額-当該金額に係る源泉所得税相当額)(評価通達168(7)・193参照)配当支払日に実際に受け取る配当の全額につき、相続人から源泉徴収

この課税実務について、裁判所は「いずれも相続された資産について被相続人の下で潜在的に存在した被相続人固有の所得に対する所得課税を相続人に繰り延べているだけ」と評価しつつ、「当該預金債権又は当該株式を相続した相続人からみた場合」には最高裁平成22年判決との関係で二重課税の疑義が生じかねなかったと指摘します。そして、そうした解釈上の疑義を立法的に解決したのが所得税法67条の4であるとして、次のように述べています。

所得税法67条の4は、これらの課税実務が所得税法60条1項1号による課税の繰延べと同じ性質の課税であることを法令上明らかにすることで、上記解釈上の疑義を立法的に解決したものと解するのが相当である。

(3)本件への当てはめ——結論

以上の分析を踏まえ、裁判所は次のように結論付けました。

本件配当は、被相続人である亡Cの下で生じていた未実現のものが、相続人である原告の下で実現したものであるといえるので、前記(2)の所得税法67条の4の趣旨からすれば、本件配当所得が原告が本件相続により取得した所得であって本件配当が本件相続税の課税対象となる本件配当期待権と経済的価値が同一のものであるといえるかどうかはともかく、本件配当所得に所得税を課すことは、課税の繰延べとして、所得税法が予定しているものといえる。したがって、本件配当所得に所得税を課することは、所得税法9条1項16号で排除されている違法な二重課税には当たらない。

なお、裁判所は「経済的価値が同一のものであるといえるかどうかはともかく」と述べています。これは、配当期待権と配当所得が最高裁平成22年判決にいう「同一の経済的価値」に当たるか否かについては、当たるという考え方と当たらないという考え方の両方があり得るが、いずれの立場を採っても、所得税法67条の4が適用されることにより、結論として違法な二重課税には当たらないという考え方に基づくものと解されます。

また、裁判所は付言として、原告の立場からは「課税のされすぎ」と感じる部分があり得ることを認めつつも、所得税の課税に問題はなく、また配当期待権を相続税の課税財産に含めたことも不当ではないと判断しました。

争点②——相続税取得費加算の計算単位

裁判所は、措置法39条8項の「譲渡をした資産ごとに計算するものとする」という文言の解釈について、まず各法令の規定を検討した上で、次のように述べています。

これらの規定からすれば、譲渡をした資産が複数ある場合において、譲渡をした資産ごとに、譲渡所得の計算上取得費に加算する相続税額を計算することとしており、また、具体的な適用に当たっては、取得費に加算する相続税額について、譲渡所得の計算上、譲渡益が生ずる場合には、譲渡益と譲渡した資産に対応する相続税額のいずれか小さい金額とし、譲渡損が生ずる場合には、取得費に加算する相続税額はないものとするとし、上記の計算した金額のうち取得費に加算されないものがあっても、他の資産の譲渡に係る取得費に加算するわけではなく、これを通算しないこととされている。以上によれば、措置法39条8項は、取得費に加算する金額(相続税取得費加算額)は、譲渡をした資産ごとに計算するものとする旨規定しているところ、これは、譲渡をした個々の資産ごとに計算することを意味するのであって、原告が主張するような「不動産」「株式」といった資産の単位ごとに計算することを意味するのではないと解される。

さらに、原告が譲渡した本件有価証券が上場株式等に当たることを踏まえ、有価証券の取得費計算に関する法令の規定を分析した上で、次のように結論付けています。

措置法39条8項は、「譲渡をした資産ごとに計算するものとする」と規定するところ、これは、譲渡をした個々の資産ごとに計算することをいい、譲渡をした資産が上場株式等である場合には、上場株式等の種類及び銘柄の異なるごとに計算することをいうと解するのが相当である。

すなわち、上場株式等については銘柄ごとに計算し、譲渡損が生じた銘柄の損失を、他の銘柄の譲渡益と通算した上で相続税取得費加算額を計算することは認められません。

争点③——理由の提示

裁判所は、更正処分の通知書の記載内容と根拠条文の文言を合わせれば、税務署長がどのような計算をしたかを原告が了知し得たとして、行政手続法14条1項本文所定の理由の提示に欠けるところはないと判断しました。

争点④——未分割遺産と財産債務調書への記載義務

原告は、遺産分割協議が成立しておらず確定的に取得していない相続財産は、国送法6条の2第1項にいう「有する財産」に該当しないとして、財産債務調書への記載は不要であると主張しました。しかし、裁判所は、この主張を退け、次のように判示しています。

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し、相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属することとなる(民法896条、898条)。そして、国送令12条の2第4項、10条6項は、相続により取得した財産等について財産債務調書を提出する場合において、当該相続により取得した財産の全部又は一部が共同相続人によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人が民法(904条の2を除く。)の規定による相続分に従って当該財産を取得したものとしてその価額を計算するものとする旨規定する。

その上で、本件の事実関係(相続開始後・遺産分割前の平成28年12月31日においては、本件株式・本件有価証券は共同相続人との共有財産であった)を認定し、次のように述べています。

したがって、原告は、本件株式や本件有価証券について、法定相続分(民法900条)に従ってこれを取得したものとしてその価額を計算した上で、本件財産債務調書に記載する必要があったといえる。

これらを記載しなかった以上、国送法6条の3第2項の適用があるとして、過少申告加算税の加算措置が認められました。

争点⑤——自己保有株式の記載と未分割遺産の記載の同一性

原告は、財産債務調書にはa株式会社の株式が記載されており、同株式は不特定物であるから、その記載が未分割の遺産である本件株式の記載とみることもできると主張しました。しかし、裁判所は、次のように述べてこの主張を退けました。

本件財産債務調書に記載されていたa株式会社の株式は、原告が、亡Cが死亡する前(本件相続が開始する前)から単独で所有していたa株式会社の株式であって、本件相続により亡Cから取得した本件株式ではない。…亡Cが死亡する前から原告が所有していたa株式会社の株式の記載をもって、亡Cから相続により原告が取得した本件株式の記載とみることはできない。

すなわち、相続前から自己が単独保有していた同一銘柄の株式の記載は、相続後に共有状態で保有する未分割の遺産としての株式の記載を兼ねるものではないとしました。

コメント

1 本判決の位置付け

平成22年の生命保険年金二重課税事件(最高裁平成22年7月6日第三小法廷判決・民集64巻5号1277頁)は、相続税の課税対象となった財産と「同一の経済的価値」に対して所得税を課すことは、二重課税として許されないという原則を確立しました。しかし、この原則が、定期預金の既経過利子や株式の配当期待権といった「被相続人の下で未実現だった所得」に無限定に適用されるかは、その後も議論が続いていました。

こうした状況を踏まえ、政府の税制調査会は、最高裁平成22年判決の約3か月半後、租税法の専門家8名による「最高裁判決研究会」を設置し、判決の射程や関連論点の整理を行い、「『最高裁判決研究会』報告書~『生保年金』最高裁判決の射程及び関連する論点について~」(平成22年10月22日付。内閣府税制調査会ウェブサイト参照:https://www.cao.go.jp/zei-cho/history/2009-2012/gijiroku/zeicho/2010/22zen8kai.html)をまとめました。同報告書は、配当期待権への課税について定期預金の既経過利子への課税と同様に所得税法9条1項16号に抵触しないと説明し、「確認的な意味で立法的手当てを講じておくことが望ましい」と提言しました。この提言を受けて、平成23年の所得税法改正により67条の4が新設されました。

本判決は、この所得税法67条の4の立法趣旨を中心的な根拠として、最高裁平成22年判決の射程が本件には及ばないことを明確にした判断として、実務上参考になります。

2 実務上の留意点——財産債務調書への未分割遺産の記載

本判決の争点④・⑤から導き出される実務上の留意点として、特に注意が必要なのは、財産債務調書への記載義務の範囲です。

一定の所得・資産を有する方は、毎年「財産債務調書」を税務署に提出する義務があります(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律6条の2)。本判決に示されたとおり、遺産分割協議が成立していない相続財産であっても、法定相続分に従って取得したものとしてその価額を計算した上で、財産債務調書に記載する必要があります。記載を怠った場合には、過少申告加算税の額が加算されるという不利益措置が適用されるリスクがある点に注意が必要です。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。