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SNS上の「いいね」を押す行為と不法行為責任の成否(東京高裁令和4年10月20日判決)

はじめに

SNSにおける「いいね」機能は、投稿への反応を示す手段として日常的に用いられています。しかし、「いいね」を押すという簡便な操作が、不法行為として損害賠償責任を生じさせ得るかが争われた裁判例があります。

今回のコラムでは、国会議員である被控訴人が、性被害を公表した控訴人を侮辱・揶揄する内容のツイート25件に対し「いいね」のボタンを押下した行為が、控訴人の名誉感情を侵害したかが争われた東京高裁令和4年10月20日判決を取り上げます。

本判決は、SNS上の「いいね」を押す行為について、その一般的な理解を整理した上で、個別事案における不法行為該当性の判断枠組みを示した裁判例です。SNSを業務で利用する企業や、役員・従業員のSNS利用を管理する立場の担当者にとって、「いいね」を押すという行為が法的リスクを生じさせる場面と、その判断要素を理解する上で参考となります。

事案の概要

本件で問題となったツイッター(現X)では、ユーザーが他のユーザーの投稿(ツイート)に対して、「いいね」のボタンを押すことができます。ツイッターの運営会社の公式ウェブサイトでは、「いいね」について、「ツイートに対する好意的な気持ちを示すために使われ」るものと説明されています。

「いいね」を押した事実は、押した者のフォロワーのタイムラインに、アルゴリズム次第で対象ツイートとともに表示される場合があるほか、当該ユーザーのプロフィールページの「いいね」欄をクリックすることで、原則として誰でも確認することができます。また、対象ツイート下部の「●件のいいね」の表示からも、誰が「いいね」を押したかを確認できる仕組みとなっています。

控訴人は、性被害を受けた旨を公表した女性です。被控訴人は、国会議員であり、ツイッターで約11万人のフォロワーを有していました。

被控訴人は、平成30年6月30日頃から同年7月17日頃にかけて、ツイッター上の25件のツイート(本件対象ツイート)について、「いいね」のボタンを押下しました(本件各押下行為)。

本件対象ツイートは、いずれも、控訴人が性被害を受けたと主張することに関して、控訴人や控訴人を擁護するツイートをした「B」を批判・揶揄・中傷するものでした。具体的には、「枕営業の失敗ですよね。」「彼女がハニートラップを仕掛けて、結果が伴わなかったから被害者として考え変えて」「お前は本当のキチガイか?・・この屑野郎!」といった、控訴人らを侮辱する内容のものでした。

被控訴人は、本件各押下行為に先立って、インターネット放送番組やBBC放送の番組、自身のブログ・ツイッターにおいて、控訴人を揶揄・批判する発言や投稿を繰り返していました。また、被控訴人は、本件対象ツイート以外にも、控訴人や「B」を批判・中傷する33件のツイートに「いいね」を押す一方で、被控訴人に批判的なツイートには「いいね」を押していませんでした。

控訴人は、本件各押下行為が控訴人の名誉感情を侵害したと主張し、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として220万円の支払を求めて提訴しました。

原審(東京地方裁判所令和4年3月25日判決)は、「いいね」は「非常に抽象的、多義的な表現行為」であって、原則として社会通念上許される限度を超える違法な行為とは評価できないとして、控訴人の請求を全部棄却しました。これに対し、控訴人が控訴したのが本件です。本判決は、原審を変更し、被控訴人に対し、55万円(慰謝料50万円、弁護士費用5万円)及び遅延損害金の支払を命じました。本判決と原審は、同一の事実関係を前提としながら、対照的な結論を示したものとなっています。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①本件各押下行為の不法行為該当性
争点②損害の有無及びその額

裁判所の判断

争点① 本件各押下行為の不法行為該当性

裁判所は、まず、名誉感情侵害による不法行為の成立に関する判断基準について、以下のとおり述べました。

人の名誉感情を侵害する行為は、それが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合には、その人の人格的利益を侵害するものとして不法行為が成立すると解するのが相当である。

その上で、裁判所は、「いいね」を押す行為の一般的理解について、以下のとおり整理しました。

「いいね」を押す行為は、その行為をした者の実際の意図ないし目的はともかく、その行為をした者が当該対象ツイートに関して好意的・肯定的な感情を示したものと一般的に理解されているということができる。

もっとも、裁判所は、「いいね」のボタンは押すか押さないかの二者択一であり、ブックマークとして使用される場合もあること等から、「いいね」を押す行為が対象ツイートに対して好意的・肯定的な感情を示したものと認めることができるか、また、具体的にどの部分に好意的・肯定的な感情を示したものと認めることができるかを判断するためには、個別事案の事情を検討する必要があるとし、以下の考慮要素を挙げました。

番号考慮要素
対象ツイートの記載内容等から、「いいね」を押すことによって対象ツイートのどの部分に好意的・肯定的な評価をしていると理解することができるか
「いいね」を押した者と対象ツイートで取り上げられた者との関係
「いいね」が押されるまでの経緯

これを本件に当てはめ、裁判所は、本件対象ツイートの内容について、「総じて、さしたる根拠もなく控訴人が本件性被害を受けたとの事実を否定した上で、控訴人らを揶揄、中傷し、あるいは控訴人らの人格を貶めようとするもの」であり、控訴人らを侮辱するものであって、控訴人らの名誉感情を侵害するものであると認めました。

その上で、裁判所は、以下の認定事実を踏まえ、本件各押下行為は、控訴人や「B」を侮辱する内容の本件対象ツイートに好意的・肯定的な感情を示すために行われたものであり、控訴人の名誉感情を侵害するものと認められると判断しました。

番号認定された事実
被控訴人は、本件各押下行為に先立ち、インターネット放送番組やBBC放送の番組、自身のブログ等で控訴人を揶揄・批判する発言・投稿を繰り返していたこと
被控訴人は、被控訴人ツイート1及び2を契機として投稿された本件対象ツイートに「いいね」を押したこと
被控訴人は、本件対象ツイート以外にも、控訴人や「B」を批判・中傷する33件のツイートに「いいね」を押していたこと
被控訴人は、被控訴人に批判的なツイートには「いいね」を押していなかったこと

次に、裁判所は、本件各押下行為が社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるか否かについて、以下の事実を踏まえて判断しました。

番号考慮事実
本件各押下行為は、合計25回と多数回に及んでいること
被控訴人は、単なる故意にとどまらず、控訴人の名誉感情を害する意図をもって本件各押下行為を行ったと認められること
本件各押下行為は、約11万人ものフォロワーを擁する被控訴人のツイッターで行われたものであること
被控訴人が国会議員であり、その発言等には一般人とは容易に比較し得ない影響力があり、本件各押下行為についても同様であること

これらの事情を踏まえ、裁判所は、以下のとおり結論を述べました。

本件各押下行為は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認めることができるから、控訴人の名誉感情を違法に侵害するものとして、控訴人に対する不法行為を構成する。

争点② 損害の有無及びその額

裁判所は、本件対象ツイートが控訴人や「B」を揶揄・中傷し、あるいは人格を貶めようとするものであること、被控訴人が加害の意図をもって本件各押下行為を行ったこと、本件対象ツイートが被控訴人による控訴人を批判・揶揄するツイートを契機として投稿されたものであること、本件各押下行為が25回と多数回に及び、約11万人のフォロワーを擁するツイッターで行われたものであること、被控訴人が国会議員であって影響力が大きいことなどを考慮し、控訴人の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料を50万円、相当因果関係のある弁護士費用を5万円とし、合計55万円を損害として認めました。

コメント

(1)本判決の意義と先例的位置づけ

本判決は、SNS上の「いいね」を押す行為が他人に対する不法行為を構成し得ることを認めた裁判例として、実務上、参考となるものです。

これまでも、ツイートそのものが名誉毀損に当たるとして損害賠償請求訴訟が提起された事例はありましたが、ツイートに対する「いいね」を押す行為それ自体の不法行為該当性が正面から争われ、裁判所が判断を示した先例は、必ずしも多く見当たらないものと考えられます。本判決は、(ⅰ)「いいね」を押す行為が対象ツイートに対する好意的・肯定的な評価を示すものと認められるかをどのような事情を踏まえて判断するか、また、(ⅱ)侮辱的内容を含むツイートへの「いいね」を押す行為が対象ツイートの侮辱的内容への賛意を示すものと認められる場合に、どのような事情が認められれば違法性があるとして不法行為責任が生じるかについて、事例判断として今後の事案の参考となる枠組みを示したものといえます。

(2)本判決の判断枠組みと二段階構造

本判決は、まず、「いいね」を押す行為について、行為者の実際の意図はともかく、一般的には対象ツイートに対する好意的・肯定的な感情を示したものと理解されていることを認定しました。その上で、本判決は、「いいね」のボタンが押すか押さないかの二者択一であり、ブックマーク目的での利用もあり得ることを踏まえ、当該「いいね」が対象ツイートのどの部分への賛意を示したものと理解できるかを判断するために、対象ツイートの内容、行為者と対象者の関係、「いいね」に至るまでの経緯等を考慮する枠組みを示しました。

本判決の判断構造として注目される点は、二段階の検討を行っている点にあります。第一段階では、「いいね」を押す行為が対象者の名誉感情を侵害するものかが判断されます。本判決は、対象ツイートの内容、「いいね」を押した者と対象ツイートで取り上げられた者との関係、「いいね」が押されるまでの経緯等を踏まえ、本件各押下行為が控訴人の名誉感情を侵害するものと認定しました。第二段階では、当該行為が社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるかが判断されます。本判決は、本件各押下行為が25回と多数回に及んでいること、被控訴人に控訴人の名誉感情を害する意図が認められること、被控訴人が約11万人のフォロワーを擁する国会議員という社会的影響力を有する立場にあることなどの事情を踏まえ、社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たると認定しました。

このような判断構造からは、「いいね」を押す行為が名誉感情を侵害するものと認められたとしても、そのことから直ちに不法行為が成立するわけではなく、別個に当該行為が社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるかどうかが検討されるという、二段階の評価が必要であることが明らかとなっています。

本判決の判断枠組みからは、「いいね」を押す行為が直ちに不法行為になるわけではないものの、以下のような事情が組み合わさる場合には、社会通念上許される限度を超える侮辱行為として不法行為に該当し得ることが示唆されています。

事情の類型本判決が考慮した事情
対象投稿の内容対象ツイートが特定の人物を揶揄・中傷・侮辱する内容であること
行為者と対象者の関係行為者がそれ以前から対象者を批判・揶揄する言動を繰り返していたこと
「いいね」の回数多数回の「いいね」を行ったこと
行為者の地位・影響力フォロワー数が多く、社会的影響力のある立場にあること

(3)原審判決と本判決の判断分岐点

本判決の意義をより明確に理解するためには、原審判決と本判決の判断枠組みの相違を整理することが有益です。原審も、「いいね」が一般的には対象ツイートに対する好意的・肯定的な感情を示すものと理解されていること自体は認めていました。しかし、原審は、「いいね」を「非常に抽象的、多義的な表現行為」と性質決定し、原則として違法評価不可とした上で、(ⅰ)「いいね」によって示される好意的・肯定的な感情の対象及び程度を特定でき、当該行為それ自体が特定の者に対する侮辱行為と評価できる場合、又は(ⅱ)特定の者への加害の意図をもって執拗に繰り返される場合という「特段の事情」がある場合に限り、違法評価が可能との枠組みを示していました。これに対し、本判決は、対象ツイートの内容、行為者と対象者の関係、「いいね」に至るまでの経緯等を考慮することによって、当該「いいね」が何に対する賛意を示したものかを判断する枠組みを採用し、本件における具体的事情の総合考慮により違法性を認めました。

両判決の判断の主な分岐点は、以下のとおりです。

観点原審(東京地裁令和4年3月25日判決)本判決(東京高裁令和4年10月20日判決)
「いいね」の性質決定「非常に抽象的、多義的な表現行為」として、感情の対象や程度を特定できないと評価対象ツイートの内容・行為者と対象者の関係・経緯から、何への賛意かを判断する枠組み
25回の押下行為の評価「執拗に繰り返された」とまではいえない「多数回に及んでいる」として違法性評価の要素
フォロワー数・国会議員という影響力の評価アルゴリズム依存で確実に拡散するわけではない等として、違法性評価に影響しないとした違法性を基礎づける事情として明示
事前の番組出演・ブログ等での批判言動本件各押下行為とは別の機会の言動として違法性評価から除外加害意図を基礎づける事情として考慮
結論不法行為に該当しない社会通念上許される限度を超える侮辱行為として不法行為に該当

両判決の違いを整理すると、「いいね」を押す行為の意味を認定する際に、どこまでの範囲の事情を評価対象に含めるか、すなわち評価範囲の広狭の違いに由来するものといえます。原審は、主に対象ツイートの記載内容及び被控訴人のツイッターアカウントにおける記載(「いいね」の用い方に関する説明等)に着目して「いいね」の意味を判断しました。これに対し、本判決は、これらに加えて、被控訴人と控訴人との関係や、被控訴人がそれまでに行ってきた控訴人に対する批判・揶揄の言動、本件対象ツイート以外のツイートへの「いいね」の状況など、SNS外の事情を含む行為者の言動全体を評価範囲に含めて判断しました。

このように評価範囲を広く捉えて判断したことは、加害意図の認定方法にも反映されています。原審は、被控訴人が「いいね」を押したのみで、控訴人に対して直接通知するなどの直接的な行為に及んでいないことを理由に、加害意図を否定しました。これに対し、本判決は、被控訴人が本件各押下行為に先立つ番組出演・ブログ・ツイッター等で控訴人を揶揄・批判する言動を繰り返していたこと、本件対象ツイート以外の控訴人らを批判するツイートにも「いいね」を押す一方で、被控訴人に批判的なツイートには「いいね」を押していなかったことなど、行為者の言動全体を考慮して加害意図を認定しました。

本判決は、SNS上の単発の行為について、その行為単独ではなく、行為者の言動全体やSNS上の行動パターンも踏まえた総合的な判断を行ったものです。企業の役員・従業員のSNS利用管理においても、SNS上の特定の行為だけでなく、行為者の他の言動との関連性に留意する必要があることを示唆しています。

(4)企業のSNS運用への示唆

本判決は、SNS上での個人の「いいね」行為に関する判断ですが、その判断枠組みは、企業のSNS運用や、役員・従業員のSNS利用の管理にも示唆を与えるものといえます。

具体的には、企業の公式SNSアカウントや、役員・従業員が業務上又は所属を明らかにしてSNSを利用する場面では、特定の人物を侮辱・中傷する投稿への「いいね」が、当該人物の名誉感情を侵害する不法行為と評価される可能性があります。特に、フォロワー数が多いアカウントや、社会的影響力を有する立場の者による「いいね」については、本判決の判断枠組みが妥当する場面があり得るため、慎重な対応が求められます。

また、企業のSNS利用に関する社内ガイドラインを整備する際には、投稿そのものだけでなく、「いいね」「リポスト(リツイート)」等のリアクション全般についても、第三者の権利を侵害する可能性のある投稿への反応に注意を喚起することが望まれます。

(5)本判決の射程

もっとも、本判決は、行為者が国会議員であり、約11万人のフォロワーを擁すること、対象ツイートの内容が侮辱的なものであること、行為者が事前に対象者への揶揄・批判を繰り返していたこと、25回もの「いいね」を行ったこと等の具体的事情の下での判断です。「いいね」を押す行為が直ちに不法行為となるわけではない点には留意が必要です。具体的な事案における判断は、対象投稿の内容、行為者と対象者の関係、行為に至る経緯、行為の回数、行為者の影響力等を踏まえた個別具体的な検討が必要となるため、事前に弁護士に相談することが有益です。

おわりに

SNSにおける「いいね」その他のリアクションは、簡便な操作で行えるものですが、本判決のとおり、その内容や背景事情によっては、名誉感情侵害として不法行為を構成し得ます。企業のSNS運用、役員・従業員のSNS利用管理、SNS上のトラブル発生時の対応など、実務上の問題は多岐にわたります。

当事務所は、企業のSNS運用支援、SNS利用に関する社内ガイドラインの策定、インターネット上の権利侵害への対応に関するご相談・ご依頼を承っております。SNS上のリスク評価や、トラブル発生時の対応について、お気軽にご相談ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。