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組織再編に伴う著作権の取得と職務著作の範囲、著作者人格権侵害(知財高裁平成27年5月28日判決)

はじめに

新聞社、出版社、放送事業者をはじめ、自社の従業員が業務として制作したコンテンツを保有する企業にとって、職務著作(著作権法15条1項)の成立や、組織再編・会社分割等に伴う著作権の包括承継は、実務上頻繁に問題となるテーマです。さらに、過去に発行された書籍を第三者が復刊する場合には、出版契約の有効性、著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)の取扱いが問題となります。

今回のコラムでは、新聞社の社会部記者が執筆した書籍の復刻版が無断で出版されたとして、新聞社が出版社に対し、著作権侵害及び著作者人格権侵害を理由に差止め及び損害賠償を求めた事案について判断を示した、知財高裁平成27年5月28日判決を取り上げます。本判決は、職務著作の成立、会社の包括承継による著作権の取得、出版契約締結における代理権の有無、著作者人格権侵害の成否等について、重ねて判断を示しています。

本判決は、職務著作が成立する範囲が「本文」のみならず、本文と一体不可分の関係にある「あとがき」にも及ぶことを示した点、組織再編に伴う著作権の包括承継を肯定した点、出版契約締結における代理権・表見代理の成否について丁寧な検討を行っている点で、コンテンツを保有する企業の担当者にとって参考になる事例といえます。

事案の概要

被控訴人(株式会社読売新聞東京本社)は、本件原審において原告であり、新聞事業を営む会社です。被控訴人は、読売新聞社が発行した書籍に係る著作者たる地位を包括承継したと主張しました。控訴人(株式会社七つ森書館)は、本件原審において被告であり、書籍の出版を業とする会社です。

被控訴人が著作権を有すると主張する原書籍1及び原書籍2は、平成10年代に新潮社から発行された、著作者表示を「読売新聞社会部」、書名を「会長はなぜ自殺したか-金融腐敗=呪縛の検証」とする単行本及び新潮文庫であり、被控訴人の編集局社会部に所属する複数の記者の取材に基づき執筆された書籍です。

控訴人は、原書籍1及び原書籍2の本文と同一の本文に、「本シリーズにあたってのあとがき」と題する文章(本件あとがき)を付記し、著作者名を「読売社会部C班」と表示した本件書籍を、原書籍の復刻版として発売等頒布しました。本件あとがきは、原書籍1及び原書籍2の執筆者の代表者であったCが執筆したものであり、その内容は、Cの読売巨人軍における役職解任に関する記載でした。

被控訴人は、控訴人に対し、本件書籍の発売等頒布の差止め、損害賠償請求等を求める訴訟(A事件)、及び、本件出版契約書において出版権の設定の対象とされた本件著作物に関する出版権が控訴人に存在しないことの確認を求める訴訟(B事件)を提起しました。原審(東京地裁)は、被控訴人の請求の一部を認容し、本件書籍の発売等頒布の差止め、損害賠償金171万円の支払を命じるとともに、本件著作物に関する出版権が控訴人に存在しないことを確認しました。控訴人は、これを不服として控訴しました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①被控訴人は原書籍1及び原書籍2につき著作権を有するか(職務著作の成立及び包括承継による著作権の取得)
争点②本件出版契約の有効性(代理権及び表見代理の成否)
争点③著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害の有無及び会社分割による著作者人格権の承継
争点④損害の額
争点⑤被控訴人による差止請求及び損害賠償請求が権利濫用に当たるか
争点⑥損害賠償請求権による相殺の肯否

裁判所の判断

知財高裁は、控訴を棄却し、原審の判断を維持しました。各争点に関する裁判所の判断は、以下のとおりです。

争点① 原書籍1及び原書籍2に関する著作権の帰属について

裁判所は、原書籍1及び原書籍2は職務著作であり、その著作者は読売新聞社であって、被控訴人がその地位を包括承継したことにより、原書籍1及び原書籍2の著作権を有するに至ったと判断しました。

裁判所は、次のとおり判示しています。

原書籍1及び2は職務著作であって、著作権法15条1項に基づき、原書籍1及び2の著作者は、読売新聞社であり、同社が原書籍1及び2の著作権を有し(同法17条)、その後、被控訴人が読売新聞社の著作者たる地位を包括承継するのに伴い、原書籍1及び2につき著作権を有するに至ったと認められるから、本件執筆者9名が原書籍1及び2の著作権を取得した事実はなく、そのため、被控訴人が、本件執筆者9名との間の信託契約上の受託者として本件執筆者9名の著作権を信託的に管理した事実も認められない。

これにより、控訴人が主張した「原書籍は非職務著作物であり、執筆者9名の著作権を被控訴人が信託的に管理していた」との主張は採用されませんでした。

なお、本件における職務著作(著作権法15条1項)の各要件の充足性については、原審判決(東京地裁平成26年9月12日判決)が以下のとおり認定しており、本判決もこれを前提として判断を示しています。

職務著作の要件(著作権法15条1項)本件における認定事実
① 法人等の発意原書籍は、報道機関である読売新聞社の社会部に所属する記者らが、社会部長の了解の下、その職務に含まれていた本件利益供与及び接待汚職事件の取材を行い、その結果をまとめたものであって、読売新聞社の従業者が職務を遂行するために著作物を作成することを想定し得たといえること
② 法人等の業務に従事する者本件執筆者9名は、原書籍の発行当時、いずれも読売新聞社と雇用関係にある従業員であったこと
③ 職務上作成本件執筆者9名は、業務時間中に社内のワープロを使用して原稿を執筆し、社の費用負担で出張を含めた追加取材を行うなど、社会部記者としての職務と密接に関連する内容の書籍として執筆したこと
④ 法人等が自己の著作の名義の下に公表著作者表示「読売新聞社会部」は、執筆者個々の総称ではなく、法人である読売新聞社の名義(その一部門の表示)として、原書籍以外にも多数の書籍において使用されていたこと
⑤ 別段の定めがないこと読売新聞社の社内規定その他に、本件執筆者9名を著作者とする旨の定め等の別段の定めは存在しないこと

争点② 本件出版契約の有効性について

裁判所は、本件出版契約について、被控訴人と控訴人との間で有効に成立したと認めることはできないと判断しました。

控訴人は、被控訴人の従業員であったDに、本件出版契約締結に関する代理権が授与されていた旨主張しました。しかし、裁判所は、被控訴人の知的財産部は、控訴人からの申入れの事実をDに伝え、控訴人から受信したメールをDに転送したにとどまり、Dに控訴人と折衝するよう指示したと認めることはできないと判断しました。

また、控訴人は、民法109条又は110条の表見代理が成立する旨主張しましたが、裁判所は、被控訴人がDに対して契約条件を交渉して合意するという法律行為の基本代理権を授与した事実が認められず、また、被控訴人が控訴人に対して代理権授与表示を行った事実も認められないとして、表見代理の成立を否定しました。

代理権授与の有無についての具体的な認定は、原審判決(東京地裁平成26年9月12日判決)が詳述しており、本判決もこれを維持しています。原審判決は、次のとおり判示しています(なお、原審判決においては、本判決における「D」と同一人物が「F」と表記されています)。

上記(2)の認定事実によれば、Fは、当初、被告に対し、正式に社印を押した契約書を作成する意向を伝えた際には、原告の実際の運用に従って社会部長等の了解を得ることを考えていたとみる余地があるとしても、その後、実際に、直属の上司である社会部長やその他の上司の了解をとったり、原告における法務部等の原書籍1及び2の著作権に関して所管する部門と協議を行ったりといった行動をとった具体的な形跡は何ら認められない。そうすると、本件出版契約書(乙2)や、Fの被告に宛てたメール(乙1)の存在をもって、原告がFに、本件出版契約の締結につき、原告を代理する権限を授与したとは認めるに足りず、本件全証拠を精査しても、原告がFに上記権限を授与したことを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。

したがって、本件出版契約が原告と被告との間で成立したことを認めることはできない。

争点③ 著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害の有無及び会社分割による著作者人格権の承継について

裁判所は、控訴人による本件書籍の製本及び発売等頒布行為は、原書籍1及び原書籍2について被控訴人が保有する同一性保持権及び氏名表示権を侵害するものであると判断しました。また、原審判決は、会社分割により被控訴人が読売新聞社の著作者人格権を包括承継したと判断しており、本判決もこれを維持しています。

(1) 同一性保持権侵害について

控訴人は、原書籍1及び原書籍2について職務著作が成立するとしても、職務著作が成立する範囲は本文に限定され、あとがきは本文とは別個の著作物であって職務著作は成立しない旨主張しました。

しかし、裁判所は、次のとおり判示しています。

元来、著作物は、著作者の思想又は感情の創作的表現であることに鑑みれば、著作者が自己の著作物に掲載すべく執筆したあとがきは、著作物と一体をなすものとして、上記創作的表現と不可分の関係にあるということができ、この理は職務著作物についても妥当するというべきである。そうすると、原書籍1及び2について職務著作が成立する範囲は、原書籍1及び2の本文のみならず、本文と一体不可分の関係にあるあとがきにも及ぶから、原書籍1の「あとがき」及び原書籍2の「文庫化にあたっての付記」についても職務著作が成立し、上記各部分の著作者は読売新聞社ひいては同社を包括承継した被控訴人であるというべきである。そうすると、原書籍1及び2に本件あとがきを被控訴人に無断で追加した本件書籍を製本した控訴人の行為は、原書籍1及び2について被控訴人が保有する同一性保持権を侵害するものである。

(2) 氏名表示権侵害について

控訴人は、宣伝パンフレットの配布等により、被控訴人は本件書籍の著作者表示を知り又は知り得たはずであり、また、「読売社会部C班」との表示は「読売新聞社会部」との表示の範囲内でこれを正確化したにすぎないなどと主張しました。

しかし、裁判所は、次のとおり判示しています。

被控訴人が本件書籍の著作者名を「読売社会部C班」とすることについて本件書籍の出版前から強く異議を述べていたことは、・・・認定のとおりである上、被控訴人は、本件書籍の出版前である平成24年4月11日、B事件を提起し、本件書籍の著作者名として「読売社会部C班」と表示されることは被控訴人にとって耐え難い旨主張していたことが認められる。そして、・・・被控訴人は、原書籍1及び2の出版に当たり、その著作者名を「読売新聞社会部」とすることに決定して表示したものであるところ、・・・本件あとがきには、Cが、読売巨人軍の専務取締役球団代表兼GMの職にあった平成23年11月、読売新聞グループ本社代表取締役・・・会長を記者会見で告発して解任されたことや、同告発は既に報告し確定していたコーチ人事を「鶴の一声」で覆す同会長の球団私物化の非を訴えたものであった旨が記述されているなど、当時、被控訴人とCとの間に確執があったことが認められる。上記各事情に照らせば、著作者名を「読売社会部C班」として本件書籍を発売等頒布した控訴人の行為は、著作者である被控訴人が決定した著作者名の表示を被控訴人の意に反して改変した上、これを公衆へ提供したものであると認められるから、原書籍1及び2について被控訴人が保有する氏名表示権を侵害するというべきである。

このように、裁判所は、原書籍の出版時に被控訴人自身が「読売新聞社会部」との著作者表示を決定していたこと、本件書籍の出版前から被控訴人が「読売社会部C班」とすることに強く異議を述べていたこと、被控訴人とCとの間に確執があったこと等の事情を踏まえ、控訴人による著作者表示の変更が氏名表示権侵害に該当すると判断しました。

(3) 会社分割による著作者人格権の承継について

控訴人は、会社分割により被控訴人が読売新聞社から原書籍に係る著作財産権を承継したとしても、著作者人格権までは承継することはあり得ない(著作権法59条)として、被控訴人について著作者人格権侵害が成立する余地はない旨主張しました。

これに対し、原審判決(東京地裁平成26年9月12日判決)は、次のとおり判示しており、本判決もこの判断を維持しています。

著作者人格権の一身専属性(著作権法59条)は、会社等の法人については、合併・分割を経ても同一性を失うことなく存続していると評価できる場合には、当該法人は著作者たる地位を失わないと解するのが相当である

そのうえで、原審判決は、平成14年7月1日、読売新聞グループの再編に伴い、旧商法373条の新設分割により読売新聞社が被控訴人と読売新聞グループ本社とに会社分割されたこと、土地の賃貸に関する事業を除く全ての事業及びほぼ全ての資産が被控訴人に承継されたこと、被控訴人は読売新聞社の権利義務を旧商法374条の10第1項により承継し、当該承継は権利に関する読売新聞社の地位を承継する包括承継に当たることを認定しました。

これらの事情を踏まえ、原審判決は、被控訴人は新設分割において、原書籍に関して読売新聞社との同一性を失うことなく存続しているとして、原書籍に関する著作者人格権をも承継したものと認められると判断しました。

争点④ 損害の額について

裁判所は、損害賠償の額について、以下のとおり認定しました(本判決はいずれも原審判決の判断を維持しています)。

損害項目算定の根拠損害額
著作権(複製権・譲渡権・翻案権)侵害による逸失利益本件書籍の販売価格2,100円(税込み)×販売部数2,000部×利益率30%(著作権法114条2項)126万円
著作者人格権(同一性保持権・氏名表示権)侵害による慰謝料控訴人による侵害行為の態様、本件あとがきの内容と本文との関係等を総合考慮30万円
弁護士費用本件事案の内容、難易、認容額等を総合考慮15万円
合計 171万円

争点⑤ 権利濫用の成否について

控訴人は、被控訴人の従業員であるDが無効な本件出版契約をあえて締結させたにもかかわらず、被控訴人がこれを漫然と放置したのであるから、被控訴人による差止請求及び損害賠償請求は権利の濫用に当たる旨主張しました。

裁判所は、被控訴人の知的財産部はDに控訴人と折衝するよう指示しておらず、被控訴人がDと控訴人との間の本件出版契約に関する交渉について何らの報告も受けていなかったため、Dが復刊に関する折衝を独断専行していることを知り、又は知り得たのに漫然と放置したとの事実を認めることはできないとしました。他方で、控訴人は、被控訴人の法務部長から本件出版契約の有効性に疑義があると指摘され、合意解除の申入れを受けていたにもかかわらず、被控訴人からDへの代理権授与の有無について何らの調査確認もせずに、本件書籍の発売等頒布に踏み切ったことが指摘されています。これらの事情を踏まえ、裁判所は、被控訴人による差止請求及び損害賠償請求が権利の濫用に当たるとは認められないと判断しました。

争点⑥ 損害賠償請求権による相殺の肯否について

控訴人は、Dの偽計業務妨害行為によって被った損害について、Dの使用者である被控訴人に対し民法715条に基づく損害賠償請求権を有するとして、これを自働債権とする相殺を主張しました。

裁判所は、次のとおり判示しています。

債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができず(民法509条)、この理は双方の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害による損害賠償債権相互間においても妥当するものである(最高裁昭和49年6月28日第三小法廷判決・民集28巻5号666頁参照)から、控訴人の主張する民法715条に基づく損害賠償請求権を自働債権として、被控訴人の著作権及び著作者人格権侵害による損害賠償請求権を受働債権とする相殺を被控訴人に対抗することはできない。

これにより、相殺の主張は、不法行為責任の有無を検討するまでもなく、主張自体失当であると判断されました。

コメント

本判決は、コンテンツを保有する企業の担当者にとって、いくつかの参考となる判断を含んでいます。以下では、本判決の意義及びこれを踏まえて企業の担当者に求められる対応について、項目ごとに整理します。

(1) 会社の包括承継による著作権・著作者人格権の取得について

本判決は、組織再編等に伴って著作者たる地位が包括承継される場合に、これに伴って職務著作物の著作権も承継されることを示しました。新聞社、出版社、放送事業者、ソフトウェア開発会社等、職務著作物を多数保有する企業においては、合併、会社分割、事業譲渡等の組織再編に伴って著作権が適切に承継されるかが実務上問題となります。事業譲渡等の特定承継の場合と異なり、合併・会社分割等の包括承継の場合には、原則として個別の権利移転手続を要することなく承継されるとされています。

本判決を踏まえると、企業の担当者としては、組織再編の際に、保有する職務著作物・著作権が想定どおりに承継される枠組みとなっているかを、契約書・分割計画書等で具体的に確認しておくことが望ましいといえます。なお、著作者人格権は譲渡できない権利ですが(著作権法59条)、職務著作の場合には法人が著作者となるため、会社の包括承継に伴って法人としての著作者の地位が承継されることになります。

(2) 職務著作の範囲及び成立要件の整理について

本判決は、職務著作が成立する範囲が「本文」のみならず、「本文と一体不可分の関係にある」あとがき等にも及ぶことを示しました。職務著作物に附属するあとがき、序文、解説、注釈等が職務著作として法人に帰属するか、それとも執筆者個人の著作物となるかは、その内容と本文との関係によって判断されるものといえます。

本判決を踏まえると、企業の担当者としては、自社が制作するコンテンツについて、著作権法15条1項の職務著作の要件(法人等の発意、業務に従事する者が職務上作成、法人等の名義で公表、契約・勤務規則等に別段の定めがないこと)を充足する制作・公表の体制を整えておくことが考えられます。職務著作物に附属する文章(あとがき、序文、解説等)についても、本文と一体的なものとして職務著作を成立させる運用を意識することが望ましいといえます。複数の執筆者による共同著作物を編集して刊行する企業や、シリーズ書籍を企画する企業においては、附属部分の著作者・著作権者の整理を、執筆者との契約段階から明確にしておくことも有益です。

(3) 出版契約等の重要な契約締結における代理権の確認について

本判決は、出版社(控訴人)が、相手方企業の従業員であったDに代理権が授与されていたと主張したことに対し、被控訴人の知的財産部がDに交渉を指示した事実が認められない等として、代理権及び表見代理の成立を否定しました。

原審判決の認定によれば、被控訴人の社内では、従業員が職務上執筆した記事等を外部の出版社から発行する際に、所属部課長を経て会社の了解を得ること(本件就業規則7条)、実際の運用としては、所属する部の部長職以上の了解を得て出版することが定められていたとされています。また、過去に著者名を「読売新聞社会部」として出版された約50冊の書籍については、いずれもこの社内手続が経られていたとされ、本件においては、Dがこの社内手続を経ずに本件出版契約書に個人名印を押捺して相手方に送付したことが、代理権の不存在を裏付ける一事情とされています。本判決は、相手方の法務部長から契約の有効性に疑義があると指摘され、合意解除の申入れを受けていたにもかかわらず、契約締結に係る代理権の有無について調査確認をせずに出版に踏み切った点も指摘しています。

本判決を踏まえると、企業の担当者としては、出版契約をはじめとする重要な契約を締結するに当たり、相手方担当者の代理権の有無、社内決裁の状況等について、契約書面の確認に加え、必要に応じて相手方の権限ある者に書面で確認をとることが、後日の紛争を防止する観点から有益です。また、自社内においても、契約締結権限の所在を社内規程で明確化し、運用を徹底するとともに、過去の契約締結に関する記録を保管しておくことが、将来の紛争において自社の主張を裏付ける証拠となり得ます。

(4) 著作物の改変・著作者表示の変更と著作者人格権の取扱いについて

本判決は、原著作物にあとがきを無断で追加することが同一性保持権侵害に当たり、著作者表示を「読売新聞社会部」から「読売社会部C班」に変更することが氏名表示権侵害に当たると判断しました。

本判決を踏まえると、書籍の復刊、コンテンツの再利用、二次的著作物の制作等を行う企業の担当者としては、著作権者の許諾のみならず、著作者人格権に関する取扱いについても、書面による合意を得ておくことが望ましいといえます。原著作物の改変、追加、著作者表示の変更等が予定される場合には、著作者人格権の不行使に関する条項の有無、その範囲を、契約書段階で具体的に確認することが望ましいといえます。

おわりに

本判決が示した論点は、職務著作、組織再編に伴う著作権の包括承継、出版契約・ライセンス契約における代理権の確認、著作者人格権侵害といった、コンテンツを取り扱う企業の実務において頻繁に問題となる事項です。これらの問題は、契約書のレビュー、紛争発生時の対応方針の検討、組織再編に伴う知的財産の整理等の場面で、事実関係の評価や法的枠組みの選択が必要となるため、早期に弁護士に相談することが有益です。

当事務所は、著作権法をはじめとする知的財産関連の契約・紛争対応、組織再編に伴う知的財産の整理について、ご相談・ご依頼を多数受けています。本コラムで取り上げた論点についてご検討中の事案がある場合や、コンテンツの制作・利用全般についてのご相談がある場合には、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。