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関連会社・グループ会社におけるプログラムの利用と著作権者の許諾(知財高裁平成27年11月26日判決)

はじめに

企業グループ内では、親会社・子会社・関連会社の間で、業務管理システム等のプログラム(ソフトウェア)を共有して利用するケースがあります。もっとも、利用許諾契約書を作成しないまま、現場の判断でインストールや共有を進めているケースもよく見られます。後日、グループ内の関係が悪化した際には、過去のソフトウェア利用について「無断利用ではないか」「著作権侵害ではないか」が問題化することがあります。

今回のコラムで取り上げる知財高裁平成27年11月26日判決は、関連会社間でのプログラムのインストール・バージョンアップ・使用について、著作権者の「許諾」があったと認められるか否かが争われた事案です。

グループ会社・関連会社との間でシステムを共有している企業の担当者の方にとって、実務上のリスク管理を考える上で参考になる裁判例です。

事案の概要

本件は、控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)に対し、控訴人が著作権を有する業務管理のプログラム等(以下「本件プログラム等」)について、被控訴人が無断でインストールして使用するなどして著作権を侵害したと主張し、著作権法112条に基づく差止め・廃棄請求並びに不法行為に基づく損害賠償請求(逸失利益及び弁護士費用合計約1億941万円)を求めた事案です。

本件プログラム等の内容

本件プログラム等は、控訴人の内部管理業務を効率的に遂行する社内システム(以下「控訴人システム」)を構成するもので、次の3つの要素から成り立っています。

要素内容
本件プログラムアプリケーションプログラム本体
本件ユーザーインターフェイス控訴人システムを使用する際のパソコン端末の表示画面のレイアウト
本件使用マニュアル控訴人システムの使用方法及び使用上の留意点を記述した使用マニュアル

本件プログラムは、次の9つのアプリケーションプログラムから構成されています。

システム名機能の概要
① JOB管理表システム受注案件ごとの受注・見積、プロジェクト進捗、原価等の一元管理、請求・入金等の経理情報の一元処理
② 勤怠管理システム従業員の遅刻・早退、休暇、時間外労働等の申請・承認の一元処理
③ 行動予定管理システム役員、従業員のスケジュール情報の一元管理
④ 出張精算システム従業員の出張申請・承認、出張費用の精算の一元処理
⑤ 人材管理システム従業員の教育訓練・資格取得情報、保有スキル等の一元管理
⑥ 備品予約システム車両、パソコン、通信機器等の使用予約等の一元管理
⑦ 備品管理システム備品・消耗品の購入申請・承認、保管場所、廃棄に関する情報の一元管理
⑧ 図書管理システム会社所有図書のタイトル等の情報の一元管理、貸出・返却の一元処理
⑨ 月報管理システム業務別作業実績時間及び週次・月次の作業概要の入力

控訴人と被控訴人の関係

控訴人と被控訴人は、いずれもソフトウェア開発等を業とする株式会社で、両社の関係は次のとおりでした。

項目内容
設立の経緯被控訴人は、控訴人の取締役であったA及びBが設立した会社であること
取引上の依存関係被控訴人の業務の80%以上が控訴人からの受注であったこと
経営運営上の関係控訴人の営業会議に被控訴人の担当者が常に同席していたこと
事業分野のすみ分け案件は、控訴人が大規模自治体向け、被控訴人が小規模自治体向けと得意分野のすみ分けができていたこと

主要な経緯

本件の主要な経緯は、以下のとおりです。

時期経緯
平成10年12月控訴人の取締役であったA及びBが被控訴人を設立
平成15年8月27日〜29日控訴人のシステム開発部マネージャーGが、被控訴人本社のサーバーへ本件プログラム等をインストール(本件インストール)。控訴人が被控訴人に対し、本件インストールに必要なハードウェア・ソフトウェア等を約87万円で売り渡し
平成21年8月10日まで控訴人の従業員の遠隔操作による本件プログラム等のバージョンアップ
平成18年9月以降控訴人代表者Cが、被控訴人との関係について制限的な指示を出し始める
平成19年8月控訴人の社内監査
平成25年1月〜3月控訴人が、被控訴人を相手方として証拠保全を申し立て、検証実施
平成25年10月9日控訴人が本件訴訟を提起
平成25年11月までには被控訴人が、本件プログラム等の使用を中止し、市販のソフトウェアに移行

原判決の概要

原判決(大阪地裁平成27年5月28日判決)は、①本件プログラム等の著作物性の有無、②被控訴人による複製・翻案等の有無、③現に被控訴人が本件プログラム等を使用し又は使用するおそれの有無、④故意又は過失の有無、⑤利用許諾の有無、⑥消滅時効の成否、⑦損害額の合計7つの争点について審理を行いましたが、利用許諾の有無(⑤)及び使用又は使用のおそれの有無(③)を中心に判断を行い、本件プログラム等の著作物性等については判断することなく、本件プログラム等のインストール、その後のバージョンアップ及び使用について控訴人から被控訴人に対する利用許諾があったと認められること、及び被控訴人は既に他のソフトウェアへの移行を完了し現に本件プログラム等を使用しておらず使用のおそれもないことを理由に、控訴人の請求(差止請求・廃棄請求・損害賠償請求)をいずれも棄却しました。控訴人は、原判決のうち損害賠償請求を棄却した部分についてのみ控訴しました。

なお、本コラムでは、控訴審において改めて争われた4つの争点に絞って解説します。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①控訴人と被控訴人の関係について
争点②本件インストールの指示主体について
争点③本件インストールに関する取締役会及び控訴人代表者Cの承認の要否について
争点④本件インストールの指示に控訴人の授権があるかについて

裁判所の判断

争点① 控訴人と被控訴人の関係について

裁判所は、控訴人と被控訴人とが相互の利益を図って共存していたとした原判決の認定に誤りはないと判断しました。

控訴人は、原判決が認定の基礎とした監査結果通知書(本件通知書)に係る監査について、社内監査に不慣れであった監査室所属の従業員によるもので、信用性に乏しいと主張しましたが、裁判所は次のとおり判示し、これを退けました。

「本件通知書に係る監査は、外部コンサルタントの指示を受け、その関与の下に行われ、本件通知書についても検証が行われたものである……。しかも、本件通知書の作成後に、監査のやり直し等が指示されたり、公正さに対する疑義が生じたりした形跡はなく、本件通知書に記載された数字の内容が適正であることを控訴人も認めていることなどに照らすと、監査の適正さや公正さに問題があったとは認められず、上記主張は採用できない。」

その上で、裁判所は次のとおり判示しています。

「本件通知書によると、被控訴人が控訴人の口座を借りて受注した案件が実質的には被控訴人が持ち込んだものであった旨や、平成17年度及び平成18年度において、被控訴人の受注平均利益率が5%台であるが、控訴人はシステム開発にほとんど関与していないため収益が手数料のみである旨、控訴人と被控訴人の得意分野が、それぞれ大規模自治体向けと小規模自治体向けにすみ分けできている旨が指摘されており、Cが控訴人と被控訴人との関係を認識した後であっても被控訴人との関係が特段問題視されていない。したがって、一方的に控訴人が負担を負い、被控訴人のみが利益を得る関係であったとは認められず、控訴人と被控訴人とが相互の利益を図って共存していたとした原判決の認定に誤りはない。」

争点② 本件インストールの指示主体について

裁判所は、本件インストールの指示者を控訴人の開発部部長Fであると認定した原判決に誤りはないと判断しました。

控訴人は、控訴人の社内では、出張の指示者と出張精算の承認者とが一致しないルールが慣行化していたから、出張精算書(本件精算書)にFの記載があることのみからFが指示者であるとはいえないと主張しました。しかし、裁判所は、原判決の認定が、本件精算書の記載のみを根拠とするものではなく、Fから指示を受けた旨証言する証人Gの証言も踏まえてのものであるとした上で、次のとおり判示しました。

「証人Gは、Fから本件インストールの指示を受けた旨証言しており、この証言と本件精算書の記載内容は整合するものであり、控訴人と被控訴人の関係を見れば、両者の発注、受注業務等の円滑化のために本件インストールをすることは自然であるといえ、また、Gが日常的にインストール業務を行っていたことからすると、Fに直接の本件インストールの決裁権限がなかったとしても、Dの指示あるいは承認の下に、Gへの直接の指示者として、直属の上司であるFが指示をすることも十分に合理性があるから、原判決の認定に誤りはない。」

また、裁判所は、証人Gの証言の信用性についても、本件インストールの指示者について一貫してFであると証言していることを踏まえ、具体的な状況の点に曖昧な部分があるとしても、その証言の信用性が損なわれるものではないと判断しました。

争点③ 本件インストールに関する取締役会及び控訴人代表者Cの承認の要否について

裁判所は、本件インストールが取締役会の承認を必要とする利益相反取引には当たらず、また、Cの承認も要しないとする原判決の判断に誤りはないと判断しました。

裁判所は、本件インストールが被控訴人を不当に利するものとはいえず、利益相反取引に当たらないとの判断に当たって、以下の事情を考慮しています。

観点考慮事実
取引上の相互依存控訴人と被控訴人との関係において、売上額が互いに約8割以上と高率を占めており、システム開発に関する発受注の連携をとる便益が相互に存していたこと
対価の支払本件インストールに必要なハードウェア、リモートコントロールソフトなどについては、控訴人が被控訴人に対し約87万円で売り渡しており、被控訴人はこの点において支払を余儀なくされていたこと
控訴人側の便益本件インストールにより、控訴人の被控訴人への管理負担が減少するという面も否定できないこと
本件システムの有用性・価値本件システムの利用許諾が無償であることが、被控訴人を一方的に利することを窺わせるような本件システムの有用性、価値を認定できる事情も見当たらないこと

また、裁判所は、Cの承認の要否について、控訴人の代表者Cが、被控訴人との関係を認識し得ないはずはないと指摘した上で、次のとおり判示しました。

「控訴人において、被控訴人との一体的な事業運営が全社的に公然と行われてきたことは、原判決が第4、2(1)において認定したとおりであり、その売上額も、前記のとおり、互いに高率を占めており、控訴人の決算書にも被控訴人の名前が筆頭の取引先として挙がっていたことからすると、Cが控訴人の業務全般に関心を払っていたのであれば、平成12年以降継続してきた控訴人と被控訴人との関係を認識し得ないはずはなく、Cは、外注先との具体的な取引や協力関係等の常務については、AやBの差配に委ねていたものと推認されるから、上記主張は採用できない。」

争点④ 本件インストールの指示に控訴人の授権があるかについて

裁判所は、本件インストールについて、控訴人から被控訴人に対する許諾があったと認め、原判決の判断に誤りはないと判断しました。

控訴人は、Fに本件インストールの許諾権限が全くない場合、AやB、Dの承諾又は指示に基づいて、本件インストールが控訴人の授権によってなされたと判断することはできないと主張しました。しかし、裁判所は次のとおり判示し、これを退けました。

「原判決は、本件インストールについてのF独自の決裁権限がないとしても、社内情報システム管理責任者であったDの了解があり、Fの本件インストールの指示がこれを前提にしたものであったことを認定しているところ、控訴人もDに当該権限があることについて争っていないから、控訴人の許諾について欠けるところはなく、上記主張は失当である。」

以上を踏まえ、裁判所は、控訴人は、被控訴人に対し、本件インストール(複製)及びその後のバージョンアップ(翻案)及び使用を許諾したと認められるから、被控訴人による本件プログラム等(又は旧プログラム等)の利用が控訴人の著作権を侵害したとはいえないと結論付け、控訴を棄却しました。

補足——利用許諾の範囲についての原判決の判示

原判決は、控訴人による本件インストールの利用許諾の範囲についても判示しています。控訴審判決は、原判決「第4 判断」1項及び2項に示す理由を引用して原判決を維持していますので、以下の判断は控訴審においても維持されているといえます。

(1) バージョンアップ後の本件プログラム等の使用についての許諾

原判決は、本件インストールが、被控訴人が控訴人の一部門のような地位にある状況下において、両社で共通のシステムを使うことにより発注業務等を効率化する目的でされたことから、控訴人の許諾は、バージョンアップ後の本件プログラム等の使用についての許諾も包含するものと判断しました。

(2) 利用許諾の撤回後の相当期間内の使用についての許諾

被控訴人は、控訴人が本件プログラム等の使用を問題視する態度を示した平成25年1月以降も、平成25年11月頃までその使用を継続しましたが、原判決は、無償の利用許諾の撤回後の使用について、次のとおり判示し、システムの移行等のための相当期間内の使用は、なお使用許諾の範囲内と判断しました。

「企業で使用される業務管理システムを他のソフトウェアに移行するには相応の準備期間を要すること、本件インストールの許諾が、原被告間のそれまでの友好的関係を前提としたものであって、一定の継続的使用についての期待が生じていたことなどからすると、無償の許諾といえども、許諾者の撤回により直ちにその使用の継続が著作権侵害等を構成する違法なものとなるとみるべきではなく、上記のようなシステムの移行等のための相当期間内の本件プログラム等の使用は、なお使用許諾の範囲内のものというべきである。」

コメント

本判決は、関連会社間でのプログラムの利用について、書面による利用許諾契約が存在しなくとも、両社の取引関係の実態、社内における指示・承認の経緯、当該プログラムの利用が両社にとって持つ意義など、諸般の事情を総合的に考慮して、著作権者の許諾があったと認める余地があることを示した事例として参考になります。

裁判所は、本件において、次の点を踏まえて、控訴人から被控訴人への利用許諾があったと認めました。

観点内容
両社の取引関係控訴人と被控訴人とが、相互の利益を図って共存する密接な取引関係にあったこと
本件インストールの目的・両社の便益本件インストールが、両社の発注・受注業務等の円滑化のために行われたものであり、両社にとって便益のあるものであったこと
社内における指示・承認の経緯控訴人の開発部部長Fが、社内情報システム管理責任者であるDの了解を前提として、部下Gに対し本件インストールの指示を行ったと認められること
代表者による包括的な委任控訴人と被控訴人との一体的な事業運営が全社的に公然と行われていたことから、控訴人代表者Cも、外注先である被控訴人との具体的な取引については、取締役AやBの差配に委ねていたと推認できること

本判決から、企業グループ内における実務対応として、次のような示唆を得ることができます。

(1)関連会社間における黙示の利用許諾の可能性

関連会社間でのソフトウェア利用については、現場のマネージャー層の判断で進められ、改めて代表者の決裁を経ていないことも珍しくありませんが、そのような場合であっても、事実関係によっては、黙示の利用許諾が認められる可能性があるということです。

(2)結論は個別の事実関係に依存すること

もっとも、本判決は、あくまで個別の事実関係を前提として利用許諾を認めた事例判決であり、関係性が薄い場合や、一方の会社のみが利益を得る関係であった場合など、事実関係が異なれば、結論が異なる可能性は十分にあります。

(3)利用許諾契約の書面化による紛争予防

紛争予防の観点からは、関連会社にプログラムを提供・共有するに当たり、書面による利用許諾契約を締結し、利用範囲(インストール・複製・改変・使用等)、対価の有無、期間、終了事由などを明確化しておくことが望ましいといえます。

本件は、両社が共存していた段階では問題が顕在化しなかったものの、両社の関係が悪化した時点で、過去にさかのぼって過去の利用が紛争化した事案です。グループ内の人事や経営陣が変動した際に、過去のソフトウェア利用の適法性が問題となるリスクを踏まえると、早期に利用関係を書面化しておく対応に合理性があるといえます。

(4)社内規程・職務分掌・決裁ルールによる権限分担の明確化

グループ内の社内規程・職務分掌・決裁ルールの整備という観点からも、本判決には参考となる点があります。本件では、控訴人の社内LANシステム運用規定や個人情報保護基本マニュアルにおいて、社内システムの管理責任者が誰であるかが規定されていたことが、本件インストールの許諾権限を有する者を特定するに当たって参照されています。とりわけ、本判決及び原判決は、Dが社内情報システム管理責任者として、本件のような社内システムのインストールを許諾する権限を有していたとの認定について、控訴人自身が争わなかったことが、結論を左右する要素となりました。

社内規程上、誰がどの範囲のソフトウェアの利用許諾を行う権限を有するかを明確化しておくことは、グループ内・社外を問わず、後日の紛争において、許諾の有無を判断する上での重要な事実となり得ます。

(5)紛争発生後の早期対応(使用中止・代替ソフトへの移行)

本件において、原判決は、損害賠償請求のみならず、差止請求及び廃棄請求もいずれも棄却しています。差止請求・廃棄請求が棄却された理由は、被控訴人が、訴訟提起前後に本件プログラム等の使用を中止し、市販のソフトウェアへの移行を完了して被控訴人サーバー内の本件プログラム等を削除していたことから、現に被控訴人が本件プログラム等を使用しておらず、今後使用するおそれもないと認められた点にあります。著作権侵害が問題となった際の対応として、争点を絞り込み、紛争の早期収束を図るための一つの選択肢として、参考になる対応です。

おわりに

本コラムで取り上げた知財高裁平成27年11月26日判決は、関連会社間でのプログラムの利用許諾の有無が争われた事例判決であり、企業グループ内におけるソフトウェアの共有・利用の実務において、参考になる内容を含んでいます。

関連会社・グループ会社との間でのソフトウェア・システムの共有、利用許諾契約の整備、過去の利用関係の適法性の検討、社内規程・決裁ルールの整備などは、いずれも個別の事実関係を踏まえた丁寧な法的検討を要する問題です。

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本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。