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他社記事の紹介・引用と著作権侵害・名誉毀損の成否(知財高裁平成29年1月24日判決)

はじめに

企業がウェブサイトやオウンドメディアで他社の記事や論考を紹介・引用する場面は、近年ますます増えています。しかし、紹介の方法を誤ると、著作権侵害(翻案権侵害)、著作者人格権侵害(同一性保持権侵害、名誉・声望権侵害)、名誉毀損といった複数の法的リスクを抱えることになります。

今回のコラムでは、雑誌記事をウェブメディアで紹介したことが問題となった、知財高裁平成29年1月24日判決(雑誌「プレジデント」記事翻案事件・控訴審)を取り上げ、企業の担当者の方が押さえておくべきポイントを解説いたします。

本判決及びその原審は、他社記事の紹介・引用をめぐって同時に問題となり得る、翻案権侵害、同一性保持権侵害、名誉・声望権侵害、名誉毀損の各論点について、判断枠組みと当てはめを一つの事案で示した裁判例であり、企業のメディア運営担当者の方が紹介・引用のリスクを整理する上で参考になる内容です。

事案の概要

本件は、雑誌「プレジデント」に掲載された東京国際映画祭の運営等を批判する記事(以下「控訴人記事」といいます。)の著者である控訴人が、株式会社朝日新聞社(以下「被控訴人」といいます。)が運営するウェブサイトに掲載された英語記事(以下「被控訴人記事」といいます。)について、①控訴人記事の翻案権及び著作者人格権(同一性保持権、名誉・声望権)を侵害した、②控訴人の名誉を毀損したと主張して、被控訴人に対して、損害賠償の支払い及びウェブサイトへの謝罪文の掲載を求めた事案です。

控訴人記事は、平成27年(2015年)10月10日発行の雑誌「プレジデント」に掲載された「なぜ東京国際映画祭は世界で無名なのか」と題する記事であり、映画プロデューサーである控訴人が、東京国際映画祭の事業費の使途や委託先の偏在等を指摘し、これを「映画村」と呼称される既得権益構造の問題として批判する内容のものでした。控訴人記事の主な指摘事項は、以下のとおりです。

項目内容
公益性・主催者予算の半分以上が税金で賄われる公益性の高いイベントであり、公益財団法人ユニジャパンが主催していること
事業費2014年度の東京国際映画祭事業費約10億9656万円のうち、66.6%(約7億3052万円)が「委託費」となっていること
委託先の偏在2010年から2014年の5年間において、KADOKAWA、クオラス、北の丸工房等が複数年連続で事業委託を受け、電通も多くの年で委託を受けていること、ユニジャパンの理事も東宝、松竹、森ビル等の特定の大企業幹部から構成されていること
「映画村」批判「映画村」(「原子力村」から派生した造語)と呼称される一定の社会的集団による既得権益構造への批判
クールジャパン政策政府のクールジャパン政策との連携の中で、特定の大企業が恩恵を享受しているとの指摘

被控訴人記事は、平成27年11月13日に被控訴人が運営するウェブサイトに掲載された英語記事であり、2015年の東京国際映画祭を紹介する内容の中で、控訴人記事の内容を紹介しつつ、控訴人記事を「映画祭に対する厳しい批判」と評する形で言及したものでした。

原審(東京地方裁判所)は、控訴人の請求をいずれも棄却し、控訴人がこれを不服として控訴したのが本件です。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点番号争点
争点①翻案権侵害の成否
争点②同一性保持権侵害の成否
争点③名誉・声望権侵害の成否
争点④名誉毀損の成否(社会的評価の低下の有無)
争点⑤名誉毀損における真実性の抗弁・公正な論評の抗弁の成否

裁判所の判断

知財高裁は、控訴人の控訴を棄却し、原判決を維持しました。

争点① 翻案権侵害について

知財高裁は、原審の判断を維持し、控訴人各表現を翻案したものではないと判断しました。

原審は、まず、いわゆる江差追分事件最高裁判決(最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁)を参照し、翻案の判断枠組みを次のとおり示しました。

著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である

その上で、原審は、控訴人が同一性を主張する諸要素のうち、映画産業の利権構造批判、東京国際映画祭の事業費及び委託先、事業費と委託費の割合、企業名、東京国際映画祭とクールジャパン政策の連携等は、いずれも思想、アイデア又は事実など表現それ自体でない部分にすぎないと判断しました。

また、原審は、「独占」との表現は一般用語であって創作性がないとした上で、「映画村」との表現について、次のとおり判示しました。

ある特定の限られた分野又は共通の利害関係を有する一定の社会的集団を「○○村」と表現することは経験則上一般にみられるありふれた表現であって、これに、わずか3字からなる単語にすぎないことも併せると、この表現自体が著作権法上保護すべき創作的な表現であると認めることはできない

争点② 同一性保持権侵害について

知財高裁は、原審の判断を維持し、被控訴人記事は、控訴人記事を改変したものではないから、同一性保持権の侵害はないと判断しました。

原審は、争点①の判断を踏まえ、次のとおり判示しています。

被告各表現が原告各表現の表現上の本質的な特徴の同一性を維持したものとは認められない以上、被告記事は、原告記事の表現上の本質的特徴を直接感得することができない別個の著作物であって、原告記事を改変したものということはできない

このように、原審は、翻案権侵害が成立しない場合には改変もないという論理関係を明らかにした上で、同一性保持権侵害を否定しています。

争点③ 名誉・声望権侵害について

控訴人は、被控訴人記事の「映画祭に対する厳しい批判」を控訴人が行ったとの記載が、控訴人記事への意見表明ないし論評ではなく、恣意的に歪曲された虚偽の事実の摘示に該当する旨を主張しました。しかし、知財高裁は、次のとおり判示しました。

被控訴人記事は、控訴人が控訴人記事において「映画祭に対する厳しい批判」を行った旨記載するものであるが、控訴人記事が「映画祭に対する厳しい批判」であることは、証拠等をもってその存否を決することができる事項ではないから、事実の摘示ではなく、控訴人記事への意見ないし論評の表明に当たるというべきである。

その上で、知財高裁は、著作権法113条6項(現行法113条7項)に関し、次のとおり判示しました。

著作物に対する意見ないし論評などは、それが誹謗中傷にわたるものでない限り、著作権法113条6項の「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するとはいえないところ、被控訴人記事が控訴人又は控訴人記事を誹謗中傷するものとは認められない

なお、原審は、著作権法113条6項(現行法113条7項)にいう「名誉又は声望を害する方法」の意義について、次のとおり判示しています。

著作権法113条6項の「名誉又は声望を害する方法」とは、単なる主観的な名誉感情の低下ではなく、客観的な社会的、外部的評価の低下をもたらすような行為をいい、対象となる著作物に対する意見ないし論評などは、それが誹謗中傷にわたるものでない限り、「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」に該当するとはいえない

争点④ 名誉毀損の成否(社会的評価の低下の有無)について

名誉毀損における社会的評価の低下の判断基準について、原審は、最判昭和31年7月20日民集10巻8号1059頁を参照し、次のとおり判示しています。

新聞、雑誌等への記事の掲載が人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべき

知財高裁も、この判断枠組みを踏まえた上で、控訴人の主張する各点について個別に検討し、次のとおり判断しました。

ア 控訴人記事の重要な事実が紹介されていない点について

控訴人は、被控訴人記事が控訴人記事の重要な事実の記載を欠く紹介をしたことが、控訴人の社会的評価を低下させると主張しました。しかし、知財高裁は、次のとおり判示しました。

被控訴人記事の記載が控訴人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、被控訴人記事についての一般読者の普通の注意と読み方を基準として、被控訴人記事の記載自体に基づいて判断されるべきものであるから、被控訴人記事の記載自体ではなく、被控訴人記事において控訴人記事の記載の一部を紹介しなかったという点については、たとえ紹介していない部分が控訴人記事における重要な事実の記載であったとしても、原則として、控訴人の社会的評価を低下させるものとは認められない。

知財高裁は、もっとも、控訴人記事の記載の一部を紹介しなかった場合に、被控訴人記事に接した一般読者の普通の注意と読み方を基準として、控訴人記事の趣旨や内容が誤解されるようなときには、当該誤解に基づいて著作者の社会的評価が低下することはあり得るとしつつ、本件の被控訴人記事については、控訴人記事の趣旨や内容を一般読者に誤解させるものではないと判断しました。

イ 控訴人記事が2015年東京国際映画祭を踏まえたものであるかのような記載について

知財高裁は、被控訴人記事の記載について、次のとおり、控訴人記事が2015年東京国際映画祭を踏まえて書かれたものであるかのような印象を与える「不適切な措辞」であることを認めました。

この記載は、控訴人記事が2015年東京国際映画祭を踏まえて書かれたものであるかのような印象を与える不適切な措辞であるというべきである。

しかし、知財高裁は、以下の事情を考慮し、控訴人の社会的評価を低下させるとまではいえないと判断しました。

番号考慮事実
被控訴人記事は、それ自体が2015年東京国際映画祭の終了から2週間足らずのうちに掲載されたものであること
被控訴人記事は、「Xは2014年度の映画祭事業費の3分の2は大手映画会社とその子会社、巨大広告代理店の電通、大手不動産会社の森ビルらが独占する委託費になっていることを指摘した。」と記載して、控訴人記事において指摘されているのが「2014年度の映画祭事業費」であることをも示していること
被控訴人記事には、2015年東京国際映画祭の事業費に関し改善が見られた旨は記載されていないこと
控訴人記事自体が、東京国際映画祭全般について批判的な評価を加えており、2015年東京国際映画祭についても特に除外していないばかりか、かえって、「今年も10月22日から10日間にわたって・・・開催されるが、その任務は映画芸術の祝福にはない。」と記載していること

争点⑤ 名誉毀損における真実性の抗弁・公正な論評の抗弁の成否について

知財高裁は、被控訴人記事が控訴人の社会的評価を低下させるものではなく、名誉毀損が成立しない以上、真実性の抗弁・公正な論評の抗弁の成否について判断する必要はないとして、この点に関する判断を示していません。

コメント

本判決及びその原審は、雑誌記事をウェブメディアで紹介・引用する際の翻案権侵害、同一性保持権侵害、名誉・声望権侵害、名誉毀損の各判断枠組みを示した一例として、参考になるものです。

本判決及び原審の判断から、以下の実務上のポイントが導き出されます。

1 翻案権侵害・同一性保持権侵害について ― 紹介・引用部分の創作性の検討

第一に、翻案権侵害及び同一性保持権侵害との関係では、紹介・引用部分が、表現それ自体でない部分(思想、アイデア、事実、事件等)や表現上の創作性のない部分にとどまる場合には、これらの侵害は成立しません。原審は、「○○村」のような短い造語的表現について、ある特定の社会的集団を「○○村」と表現することは経験則上一般にみられるありふれた表現であり、3字からなる単語にすぎないことも併せ、創作的な表現とはいえないと判断しています。

他方、より長く特徴的な表現を取り入れる場合には、創作性が認められる可能性があるため、企業が他社記事を紹介・引用する際には、紹介・引用部分の表現が紹介元記事の創作性のある部分に及ぶか否かを慎重に検討する必要があります。

2 名誉・声望権侵害について ― 誹謗中傷に至らないことの確認

第二に、名誉・声望権侵害との関係では、紹介元記事に対する意見・論評は、それが誹謗中傷にわたるものでない限り、著作権法113条7項(本判決当時の113条6項)にいう「名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為」には当たらないとされています。原審は、ここでいう「名誉又は声望を害する方法」とは、単なる主観的な名誉感情の低下ではなく、客観的な社会的、外部的評価の低下をもたらすような行為をいうと判示しています。

企業が他社記事に対して意見・論評を表明する際には、論評の枠を超えて誹謗中傷に至らないよう留意することが求められます。

3 名誉毀損(社会的評価の低下)について ― 紹介元記事の趣旨・内容の誤解の防止

第三に、名誉毀損(社会的評価の低下)との関係では、社会的評価を低下させるかどうかは、当該記事についての一般読者の普通の注意と読み方を基準として、当該記事の記載自体に基づいて判断されます。

本判決は、他社記事の紹介・引用において紹介していない部分が紹介元記事における重要な事実の記載であったとしても、紹介自体は、原則として紹介元記事の著者の社会的評価を低下させるものではないとしています。

もっとも、本判決は、紹介の方法によって紹介元記事の趣旨や内容が一般読者に誤解されるようなときには、当該誤解に基づき社会的評価の低下があり得る旨を述べています。企業が他社記事を紹介する際には、紹介元記事の趣旨や内容が誤解されないよう、紹介の表現に留意することが求められます。

4 「不適切な措辞」と評価された記載について ― 紹介元記事の発行時期との整合性

第四に、本判決は、被控訴人記事の一部の表現について「不適切な措辞」と評価しています。本件では、控訴人記事の発行時期や引用元の年度の明示等の事情を考慮して社会的評価の低下までは認められませんでした。

しかし、紹介元記事の発行時期と紹介する事実関係の時期が異なる場合に、両者の関係が誤解を招くような紹介がされたときには、社会的評価の低下が認められる可能性も否定できません。他社記事を紹介する際には、紹介元記事の発行時期と紹介する事実関係の時期との関係に注意することが望ましいといえます。

5 名誉毀損が成立する場合の違法性阻却 ― 公益性・引用紹介の正確性・論評の相当性

第五に、仮に紹介・引用が社会的評価を低下させると評価される場合であっても、当該紹介・引用が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、意見・論評の前提となっている事実の主要な点について真実であることの証明があるときは、人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱するものでない限り、名誉毀損としての違法性は阻却されると解されています(最判平成元年12月21日民集43巻12号2252頁、最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁参照)。

特に、意見・論評が他人の著作物に関するものである場合については、最判平成10年7月17日集民189号267頁が次のとおり判示しています。

意見ないし論評が他人の著作物に関するものである場合には、上記著作物の内容自体が意見ないし論評の前提となっている事実に当たるから、当該意見ないし論評における他人の著作物の引用紹介が全体として正確性を欠くものでなければ、前提となっている事実が真実でないとの理由で当該意見ないし論評が違法となることはない

本判決の原審も、この判断枠組みに従い、「事案に鑑み」念のために検討するとして、被控訴人記事のうち控訴人に関する部分について、東京国際映画祭と日本の映画産業についての控訴人の意見を紹介するものであって公共の利害に関する事項について専ら公益を図る目的で掲載されたことが明らかであり、控訴人記事の引用紹介が全体として正確性を欠くとまではいえず、控訴人への人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱するものともうかがわれないことから、名誉毀損としての違法性はないと判断しています(控訴審はこの点について判断していません)。

他社記事を紹介する際には、引用紹介の正確性と論評としての相当性の確保が、名誉毀損のリスクを低減する要素となります。

おわりに

ウェブメディアにおける他社記事の紹介・引用は、企業のメディア運営の中で日常的に行われていますが、その方法を誤ると、著作権侵害、名誉毀損、著作者人格権侵害といった複数の法的リスクを同時に抱えることになります。実務上の判断は個別具体的な事情に応じて慎重に行う必要があり、社内で判断に迷うケースや外部から指摘を受けたケースについては、早期に弁護士に相談することが有益です。

当事務所は、著作権法・著作者人格権・名誉毀損に関する分野について、相談・ご依頼を継続して受けております。ウェブメディアにおける他社記事の紹介・引用に関し、ご不明な点がございましたら、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。

本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。