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ウェブサイト制作業務の委託と著作権の帰属・権利濫用(知財高裁令和2年10月28日判決)

自社のウェブサイトの制作を外部のクリエイターや制作会社に委託することは、多くの企業にとってごく一般的な業務です。しかし、いざトラブルが起きたときに、「制作したウェブサイトの著作権は誰に帰属するのか」、「制作者が掲載した写真を、その後も自由に使い続けてよいのか」といった点が問題になることは少なくありません。

今回のコラムでは、ウェブサイト制作業務の委託をめぐる著作権侵害が争われた知財高裁令和2年10月28日判決(令和元年(ネ)第10086号)を取り上げ、企業のウェブ担当者・法務担当者が押さえておくべきポイントを、わかりやすく解説いたします。

事案の概要

本件は、株式投資の会員制スクールを運営する有限会社(以下「委託者」といいます。)から委託を受け、スクールの広告・集客用ウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」といいます。)を制作した個人事業者(以下「制作者」といいます。)が、後に委託者およびその関係者に対して、ウェブサイトの複製等の差止めや、約6500万円の損害賠償を求めた事案です。

主な経緯は、以下のとおりです。

時期出来事
平成28年1月制作者と委託者は、ウェブサイトの制作・保守業務委託契約を締結。契約書および注文書には、成果物の著作権は「制作者に帰属する」旨の条項があった。
平成28年10月制作者は本件ウェブサイトを制作し、公開。データは制作者名義で契約していたレンタルサーバーに格納された。
平成29年12月サーバー更新費用の未払いにより、サーバーが凍結され、本件ウェブサイトが閲覧できなくなる。委託者からの復旧依頼に対し、制作者は復旧不可と回答し、新サイトを432万円余で制作することを提案したが、委託者は応じなかった。
平成29年12月13日頃委託者は、別の制作会社(マークス社)に本件ウェブサイトの復旧を依頼。同社は、制作過程で取得していた本件ウェブサイトのデータをコピーして、新たなウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」といいます。)を制作した。
平成30年1月被告ウェブサイトが公開される。
平成30年7月制作者は、ウェブサイトのプログラム、データベース、表示、および掲載写真の著作権・著作者人格権が侵害されたと主張して、委託者およびその関係者に対し訴訟を提起。

原審(一審)は、制作者の請求をすべて棄却しました。これに対して制作者が控訴した結果、知財高裁は、本件ウェブサイトに掲載された写真の一部について著作物性を認め、氏名表示権侵害に基づく慰謝料15万円の支払を命じるにとどまり、その余の請求はいずれも認められませんでした。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①ウェブサイトのプログラム・データベース・表示等の著作物性
争点②ウェブサイトに掲載された写真の著作物性
争点③写真の著作権の帰属(黙示の譲渡・利用許諾の有無)
争点④著作者人格権(氏名表示権)侵害の成否
争点⑤ウェブサイトに係る差止請求の必要性
争点⑥損害賠償請求権の行使が権利濫用にあたるか

裁判所の判断

争点① ウェブサイトのプログラム・データベース・表示等の著作物性について

裁判所は、本件ウェブサイトを構成するプログラム、データベース、ウェブページの表示等のいずれについても、著作物性を否定しました。

プログラムについて、裁判所は次のとおり判示しました。

プログラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するためには、プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され、その作成者の個性が表れていることが必要であると解される。すなわち、プログラムの具体的記述において、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れていることが必要であると解される。

そのうえで、制作者が主張した、CSSファイル等への著作者氏名の記述、パスワード、変数の命名方法、レスポンシブデザインの横幅設定、フォントの指定、クラスの定義付け、Bootstrapの採用といった事項は、いずれも「電子計算機に対する指令の組合せ」とはいえないか、または「プログラミングに関するアイデア」にすぎないとして、創作性を否定しました。

データベースの著作物性についても、テーブルの分け方、インデックスの設定、正規化等の措置は、情報の選択または体系的構成についての創意工夫とはいえないとして、否定しました。

ウェブページのタイトル、URL、メタ・ディスクリプションおよびメタ・キーワード等についても、「表現の選択の幅はほとんどなく」、ありふれた表現にすぎないとして、著作物性を否定しました。

争点② ウェブサイトに掲載された写真の著作物性について

裁判所は、写真の著作物性に関する一般論を、次のとおり示しました。

写真は、被写体の選択、組合せ、配置、陰影若しくは色彩の配合、構図若しくはトリミング、部分の強調若しくは省略、背景、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉又はシャッタースピード若しくは絞りの選択等の諸要素を結合してなる表現であり、写真を写真の著作物として保護するためには、これら諸要素に撮影者の思想又は感情が創作的に表現され、その撮影者の個性が表されていることが必要であると解される。

そのうえで、制作者が撮影した18枚の写真について、1枚ずつ著作物性の有無を判断し、結論として、研修会場やビル外観、街路樹の置物等を撮影した11枚(本件画像1~6、8、10、15、16および18)について、構図、アングル、被写体の捉え方等に撮影者の個性が表れているとして、著作物性を肯定しました。

他方、購入素材に文字情報を重ねた画像や、ありふれた手法で加工された画像については、新たな創作的部分が付加されたとはいえないとして、著作物性を否定しました。

争点③ 写真の著作権の帰属について

委託者は、①委託者が324万円という制作対価を支払っていること、②制作者がウェブサイトに係る著作権を保有する必要性および合理的理由がないこと、③ウェブサイトの内容変更や保守委託先の変更等が当然に予定されていること、④制作者自らが「Copyright Ⓒライズ株式スクール All Rights Reserved」と表示していること等から、本件写真の著作権は黙示に委託者へ譲渡された、または利用許諾されたと主張しました。

しかし、裁判所は、本件保守契約書14条3項に「本件成果物の著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む)その他の権利は、制作者に帰属するものとする。」との条項があり、注文書の備考欄にも同旨の記載があることを指摘し、次のとおり判示して、黙示の譲渡も利用許諾も認めませんでした。

控訴人と被控訴人ピー・エム・エーは、控訴人が制作した原告制作ウェブサイトに係る著作物の著作権は控訴人に帰属することを確認しており、控訴人において上記著作権を被控訴人ピー・エム・エーに譲渡する意思が有していたものとは到底認めることはできない。

そのうえで、裁判所は、ウェブサイトに付された「Copyright Ⓒ…」表示についても、当事者間の内部関係を規律する趣旨のものとはいえず、著作権の帰属の根拠にはならないと述べました。

争点④ 著作者人格権(氏名表示権)侵害の成否について

被告ウェブサイトおよび旧被告ウェブサイトに本件写真著作物が掲載される際、制作者の氏名は表示されていませんでした。委託者側は、「企業の宣伝広告サイトでは著作者を表示しないのが一般的であり、表示を省略してよい慣行がある」(著作権法19条3項)と主張しました。

これに対し、裁判所は次のとおり判示し、氏名表示権侵害を認めました。

著作権を侵害する態様で著作物が公衆へ提供又は提示された場合には、当該著作物の著作者が創作者であることを主張する利益を害するものであり、又は、このような態様で著作物を利用するときに著作者名の表示を省略してよい慣行があるとは認められない

争点⑤ ウェブサイトに係る差止請求の必要性について

裁判所は、被告ウェブサイト等のサーバーは、委託者ではなく、別の制作会社(マークス社)またはその代表者の名義で契約・管理されており、委託者がウェブサイトの閉鎖を求めても拒否された経緯があることを認定しました。そのうえで、「被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトを公衆送信している主体は、A又はマークス社というべきであり、被控訴人らではないものと認めるのが相当である」として、委託者らに対する差止請求の必要性を否定しました。

争点⑥ 損害賠償請求権の行使が権利濫用にあたるかについて

委託者側は、サーバー凍結の経緯や、制作者が新サイトを高額(432万円余)で提案した経緯等を指摘して、制作者による損害賠償請求権の行使は権利濫用にあたると主張しました。

裁判所は、権利濫用の判断にあたって、次の事実を考慮しました。

番号考慮事実
制作者は本件保守業務委託契約に基づき、ウェブサイトの不具合等の修補等の保守義務を負っていたこと
委託者は、制作代金の分割支払を遅滞し、サーバー更新料を制作者に交付していなかったこと
サーバー更新費用の未払いにより、サーバーが凍結され、ウェブサイトが閲覧できなくなったこと
委託者からの復旧依頼に対し、制作者は復旧不可と伝え、新サイトを432万円余で制作することを提案したが、委託者は応じなかったこと
サーバー規約上は1万2960円(12か月分)の更新費用を期限後30日以内に支払えば復旧可能であり、制作者の説明はサーバー規約と異なる内容であったこと
委託者は別会社にウェブサイトの復旧を依頼し、当該会社が本件ウェブサイトのデータをコピーして被告ウェブサイトを制作・公開したこと

そのうえで、裁判所は次のとおり判示しました。

上記認定事実に鑑みると、控訴人の一連の行為は、本件保守業務委託契約に反するものであり、社会的相当性を逸脱する行為であるとの評価もあり得ないではない。
しかしながら、他方で、本件画像著作物はウェブサイトの視覚的効果を高めるデザインとして配置された画像にすぎないから、被控訴人ピー・エム・エーの業務継続のため暫定的・臨時的に原告制作ウェブサイトを稼働させるためであれば、それら画像を掲載することは必須のことではない。

裁判所は、制作者の権利行使が委託者らの権利または利益に重大な影響を及ぼすものではないとして、権利濫用には当たらないと判断し、写真11枚に係る氏名表示権侵害について、1サイト1枚当たり1万円、合計15万円の慰謝料請求を認めました。

コメント

本判決の意義 ― 原審との結論の違い

本判決の意義を理解するうえでは、原審である大阪地裁令和元年10月3日判決との結論の違いに着目することが有益です。本判決は、原審の判断枠組みを以下の点で実質的に修正しており、ウェブサイト制作業務の委託をめぐる著作権処理のあり方について、示唆に富む内容を示しました。

⑴ 著作権の帰属に関する判断の違い

原審と本判決は、契約書および注文書の同じ「著作権は制作者に帰属する」旨の条項について、実質的に逆方向の評価を行いました。両判決の判断を整理すると、以下のとおりです。

比較項目原審(大阪地裁令和元年10月3日判決)本判決(知財高裁令和2年10月28日判決)
契約条項の評価条項の存在を認定しつつも、契約全体の趣旨から効力を限定的に解釈契約条項を正面から重視し、制作者帰属の根拠とした
重視した事情対価(324万円)の性質、ウェブサイトの内容が委託者の企業活動そのものであること、制作者が保守委託料を受領していたこと契約書14条3項および注文書備考欄に明文の帰属条項があること
著作権の帰属ウェブサイト全体について、委託者に帰属制作者に帰属
判示の核心「あえてそのように合意するとすれば、その合意は明確なものでなければならない」「著作権は控訴人に帰属することを確認しており…譲渡する意思を有していたものとは到底認めることはできない」

実務的には、契約書に著作権の帰属に関する条項を置いておけば常に安心であるとは限らず、対価の性質、業務範囲、保守関係等の周辺事情との整合性を欠くと、条項の効力が事実上覆されるリスクがあるという点に注意が必要です。

条項を設けるだけでなく、契約書全体を整合性のある形でデザイン・設計することが求められます。

⑵ 権利濫用の判断枠組みの違い

原審と本判決は、サーバー凍結時における制作者の対応等、権利濫用に関する事実関係についてはほぼ同じ認定をしながら、対象とする著作物の捉え方を変えた結果、結論が分かれました。両判決の対比は、以下のとおりです。

比較項目原審本判決
権利行使の対象ウェブサイト全体写真11枚に限定
制作者の対応に対する評価「保守受託者として不十分」、「窮地を利用した法外な請求」「社会的相当性を逸脱する行為であるとの評価もあり得ないではない」
対象著作物の位置付けウェブサイトは委託者の企業活動そのものを構成写真は「ウェブサイトの視覚的効果を高めるデザインとして配置された画像にすぎない」
賠償負担の評価委託者の事業継続を損なう過大な負担「想定外に重い負担を負わせるものではない」
結論権利濫用に当たる(請求棄却)権利濫用に当たらない(慰謝料15万円認容)

両判決の対比からは、権利濫用の評価は、対象とする著作物の性質や、賠償負担の重さによって結論が変わり得るという点がわかります。包括的・全面的な権利行使はリスクが高い一方で、対象を絞った請求は通り得るという、訴訟戦略上の示唆を含んでいます。

⑶ 写真を独立の著作物として個別に主張したことの意義

原審では、写真は「ウェブサイトに係る著作物の一部」として一括的に扱われ、個々の写真の著作物性は独立に判断されませんでした。これに対し、本判決では、控訴人が当審において写真を独立の著作物として明示的に追加主張し、裁判所が18枚について1枚ずつ個別に著作物性を判断しました。両判決の主張・判断構造の対比は、以下のとおりです。

比較項目原審本判決
写真の主張上の位置付けウェブサイト全体の構成要素として一括主張当審で独立の著作物として追加主張
著作物性の判断方法個別判断はなし(ウェブサイト全体の判断に吸収)18枚の写真について1枚ずつ個別に判断
結論写真の著作物性は独立には認められず11枚について著作物性を肯定
権利侵害の認定なし11枚に係る氏名表示権侵害を認定

権利者側の視点からは、ウェブサイトを一体としてとらえる主張ではなく、構成要素ごとに独立した著作物として権利を立てることが有効な場合があるという示唆が得られます。逆に、委託者側の視点からは、素材レベル(写真・イラスト・文章等)での権利処理を契約段階で個別に整理しておくことが重要であるという示唆が得られます。

本判決から導かれる実務上のポイント

以上の対比を踏まえ、本判決から導かれる、企業のウェブ担当者・法務担当者にとって押さえておくべきポイントとしては、例えば、以下の点が挙げられます。

⑴ ウェブサイトのプログラム等は当然には著作物として保護されない

ウェブサイトのプログラムやデータベース、ウェブページの表示等それ自体は、必ずしも著作物として保護されるわけではないということです。本判決は、CSSの記述、変数の命名方法、レスポンシブ設定、フォント指定といった事項について、いずれも著作物性を否定しました。委託者としては、ウェブサイトの「外形」自体については著作権を理由とした制約を受けにくい一方、制作者としては、これらの要素を理由に著作権を主張することは容易ではないという認識を持っておく必要があります。

⑵ ウェブサイト掲載写真は著作物として保護され得る

ウェブサイトに掲載される写真は、構図やアングル等に撮影者の個性が表れていれば、著作物として保護される可能性が十分にあるということです。研修風景やビル外観といった、一見ありふれた被写体であっても、本判決は11枚の写真について著作物性を肯定しました。委託者が写真を転用するときには、その写真に著作物性が認められ、かつ著作権の帰属が制作者に残っているリスクを意識する必要があります。

⑶ 契約条項の文言を整え、契約全体の整合性を確保する

本判決から実務的な示唆を得られるのは、契約条項の文言の重要性です。本件では、保守契約書および注文書に「成果物の著作権は制作者に帰属する」旨の条項があったことが、黙示の譲渡・許諾を否定する決め手になりました。委託者の側からみれば、ウェブサイトの自由な改修・移管・別業者への切替え等を行うためには、契約段階で、①著作権(27条・28条の権利を含む)の譲渡、②譲渡が困難であれば包括的な利用許諾と著作者人格権の不行使特約、③素材として用いる写真等の権利処理について、明確に合意しておくことが求められます。ウェブサイトの「Copyright」表示があっても、それだけでは権利の帰属の根拠にはなりません。

⑷ 企業サイトでも氏名表示を当然には省略できない

本判決は、企業の宣伝広告サイトであっても、著作者の氏名表示を当然に省略できるわけではないと述べました。したがって、外部のクリエイターから素材の提供を受けるときには、氏名表示の方法(クレジット表記の要否や表示位置)についても、契約上明確にしておくことが望まれます。

⑸ サーバー・ドメインの管理権限を自社で確保する

差止請求との関係では、本判決は、ウェブサイトの「公衆送信の主体」を、ドメインおよびサーバーの管理者に着目して判断しました。委託者側からみれば、自社サイトを誰が「管理」しているのかを把握しておかないと、いざというときにサイトの停止や差替えが困難になるリスクがあるということです。サーバー契約・ドメイン契約は、必ず自社名義で行うか、少なくとも自社が管理権限を確実に確保できる形で締結することが重要です。

⑹ 紛争時の対応が「権利濫用」評価を左右する

制作者と委託者の間で紛争が生じた場合、契約上の保守義務や、サーバー管理上のトラブル対応のあり方が、後の権利行使の場面で「権利濫用」の判断材料として持ち出されることがあります。本判決は、結論として権利濫用を否定しましたが、保守受託者の側にも、契約上の義務を誠実に履行することが求められるという教訓を含んでいます。

おわりに

ウェブサイトの制作を発注するとき、また、すでに公開されているウェブサイトの著作権処理に不安があるときには、契約書の文言、素材の権利処理、サーバー・ドメインの管理権限、紛争発生時の対応等、検討すべき論点が多岐にわたります。当事務所では、ウェブサイト制作・運用に関する契約書の作成・レビュー、紛争発生時の対応について、企業の皆様のご相談に応じております。「自社の契約書がこのままで大丈夫か不安だ」、「外部委託したウェブサイトの権利関係を整理しておきたい」とお考えの企業のご担当者様は、ぜひ一度、当事務所までご相談ください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。