はじめに
少年保護事件では、家庭裁判所が少年に対する処遇を決定する際に、送致された非行事実以外の行為(いわゆる「余罪」)を考慮することがあります。もっとも、余罪をどこまで考慮することができるかは、少年の権利保護の観点からも難しい問題をはらんでいます。
大阪高裁令和元年9月12日決定は、ドラッグストアでの万引き2件を非行事実として少年院送致とした家庭裁判所の決定について、大阪高裁が、立件されていない大麻使用の事情を非行事実とほぼ並列的に扱って要保護性を検討した点に法令違反があると判断した事案です。
少年保護事件の実務において、余罪の取扱いの限界を具体的に示した裁判例として、注目されています。
今回のコラムでは、上記大阪高裁決定について、わかりやすく解説いたします。
事案の概要
少年(平成12年生まれ)は、共犯者と共謀の上、令和元年、ドラッグストアで高額な医薬品等28点および商品かご1点を万引きし(第1事実)、同日、別のドラッグストアで医薬品等15点を万引きしました(第2事実)。いずれも、換金目的で、医薬品等をかごごと店舗外に持ち出すという大胆な手口によるものでした。少年らは、自動車を用いて遠方地域まで移動した上で、連続してこれらの非行に及んでいます。
少年は、以前にも自身で消費する目的での万引きにより保護観察(短期処遇)に付されていましたが、その解除後10か月余りで本件各非行に及びました。
家庭裁判所(原審)は、これら2件の窃盗の非行事実を認定し、少年を第1種少年院に送致しました。原決定の「処遇の理由」では、各窃盗の非行事実およびこれに至る経緯に続けて、少年が小学生の頃から大麻を使用し始め、本件各非行に及んだ頃にはほぼ毎日大麻を使用していたという事情も取り上げ、この大麻使用に関する事情を窃盗の非行事実とほぼ並列的に掲げて要保護性を検討しました。
付添人(弁護士)は、原決定が立件されていない大麻使用を要保護性の判断資料として用いたことには違法があり、また、処分の選択においても合理的な裁量の範囲を著しく逸脱していると主張して抗告を申し立てました。
本件の争点
本件の争点は以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 送致された非行事実(窃盗2件)以外の事情(立件されていない大麻使用)を、要保護性の判断において非行事実とほぼ並列的に掲げることは許容されるか(法令違反の有無) |
| 争点② | 仮に原決定に法令違反があるとしても、その法令違反は決定に影響を及ぼすものといえるか |
裁判所の判断
争点①について――法令違反の有無
大阪高裁は、原決定には法令違反があると判断しました。
「本件において家庭裁判所に審判に付すべき事由として送致された事実は2件の窃盗のみであるところ、原決定は、処遇の理由の説示において、審判に付すべき事由として送致等がなされていない大麻の使用に関する事情を、2件の窃盗の事実とほぼ並列的に掲げて少年の要保護性を検討している。しかし、少年の大麻の使用に関する事情は、飽くまで審判に付すべき事由として送致等はなされておらず、立件されたことのないものである(立件される場合は、大麻の所持を具体的に認定できるだけの証拠がなければ、ぐ犯として構成した事実を少年法7条1項の家庭裁判所調査官の報告により立件することが考えられる。)。そして、少年の大麻の使用に関する事情は、窃盗の直接の動機になっているものでもなく、本件の非行事実である窃盗とは性質が大きく異なる上、仮に立件されるならば、本件の非行事実である窃盗に劣らない程度に重大なものと評価されると考えられる。そうすると、原決定の処遇の理由における説示は、非行事実でないが処分に実質的に大きな影響を与える可能性のある大麻の使用に関する事情を、本件の要保護性の判断として許容される限度を超えて、あたかも非行事実であったかのように扱って処分を導き出していると解されるものであり、法令違反があるといわざるを得ない。」
争点②について――法令違反の決定への影響
しかし、大阪高裁は、この法令違反は決定に影響を及ぼすとまではいえないと判断し、抗告を棄却しました。
大阪高裁は、原決定に至るまでの手続と調査内容を踏まえて、次のように述べています。
「原決定には、要保護性判断に当たり、非行事実でない大麻の使用に関する事情をあたかも非行事実であるかのように扱い処分を導き出した法令違反があるといわざるを得ないが、原決定に至るまでの家庭裁判所における手続は、窃盗のみが審判に付すべき事由であることを前提として行われていたものであり、特に違法な点はない。家庭裁判所調査官による調査や少年鑑別所による鑑別においても、大麻の使用に関する事情を除いた場合における要保護性に係る調査等が不足しているような事情はなく、事件を家庭裁判所に差し戻して更に調査等を実施する必要性は認められない。……大麻の使用に関する事情の部分を除いても、少年を少年院に送致する必要がある理由を一応示しているといえる上、原決定が判断の理由として掲げている少年の問題性等に照らせば、原決定は大麻の使用に関する事情を除いても結論は変わらない趣旨であることがうかがわれる。もとより、仮に原決定を取り消して家庭裁判所に差し戻し、家庭裁判所調査官による報告により大麻に関するぐ犯などが立件されて併合されて審判された場合は、その内容に照らしても原決定と同じ結論になる蓋然性が高く、そのようなことになれば、既に始まっている少年院での矯正教育を一時中断させる結果を招くだけとなって、少年の更生のために好ましくないともいえる。」
そして、大阪高裁は、大麻使用に関する事情を除いた場合でも少年院送致の結論を支える根拠として、次の3点を具体的に検討しました。
(ア)非行の悪質性と非行性の深化
「本件各非行は、共犯者と共に、換金目的で、高額な医薬品を大量にかごの中に入れ、それらをかごごと店舗外に持ち去って窃取するという非常に大胆かつ悪質な非行である……。そうすると、本件窃盗の非行が悪質で重大であるとの原決定の指摘は相当であり、また、少年は、以前に万引きにより保護観察に付され、指導を受けたにもかかわらず、より悪質な非行に及んでいるから、少年の非行性は深化しているといわざるを得ず、この点の原決定の指摘も相当である。」
(イ)問題性の根深さ
「確かに少年にはそのような問題性が認められる。これらの問題性は、少年の資質面での特性の影響や、不安定な家庭環境の影響によるところが大きいと考えられること、前記保護観察決定による指導を経ても、本件の共犯者と共に自動車を運転中に警察に追われるなどして、自損事故を起こしたほか、本件前日にも万引きを行うなど改善が見られなかったことなどからすると、根深いものと認められ、これらの改善のためには、少年の資質も踏まえた専門家による十分な教育が必要であるといえるのであり、この点の原決定の指摘も相当である。」
(ウ)保護者の監護力の限界
「原決定は、少年の母及び父のいずれも、これまで少年の交友関係や問題行動等について把握できていなかった上、少年の母自身の心身の状態が不安定であることも踏まえると、父母の監護に多くを期待することはできないとしている。記録を調査すると、原決定のこの指摘は相当と認められる。」
以上の3点を踏まえて、大阪高裁は次のように結論づけました。
「以上の考察によれば、大麻の使用に関する事情を除いた場合でも第1種少年院送致(処遇勧告なし)との結論が相当である限りは、原決定の違法は決定に影響を及ぼすとまではいえないと解するのが相当である。」
コメント
1 少年保護事件における余罪考慮の法的枠組み
少年保護事件における審判の対象は、非行事実と要保護性の双方であるというのが、現在の実務の考え方です。要保護性は、犯罪的危険性、矯正可能性、保護相当性の3つの要素で構成されるといわれており、その中核をなすのが犯罪的危険性です。
少年保護手続は再非行の危険性の解消を目的とするものであるため、再非行の可能性に関係する事情は、可能な限り広く考慮の対象とすることが望ましいといえます。そして、余罪も、非行事実の動機や常習性などと関連し、再非行の予測に影響することがあるため、要保護性判断において考慮すべき必要性はあります。
もっとも、非行事実も要保護性と並ぶ審判の対象であることからすると、余罪を非行事実と同様に実質的に処断する目的で考慮したり、手続保障や証拠法則等を潜脱する方法で認定したりすることは許されないと考えられます。
2 本決定の位置づけ――従来の裁判例との関係
余罪の考慮が問題となった従来の抗告審決定としては、例えば、以下の決定などがあります。
| 裁判例 | 判断内容 |
|---|---|
| 東京高決平成4年8月17日家月45巻1号146頁 | 余罪の考慮に違法なし |
| 大阪高決平成6年3月18日家月46巻5号81頁 | 余罪の考慮に違法なし |
| 東京高決平成29年12月19日判タ1461号149頁 | 余罪の考慮に違法なし |
| 大阪高決昭和59年4月25日家月36巻10号113頁 | 余罪の考慮が相当でない(法令違反あり) |
| 大阪高決昭和61年8月21日家月39巻3号66頁・判タ625号256頁 | 余罪の考慮が相当でない(法令違反あり) |
従来、余罪の考慮を違法と明示した裁判例は多くありませんでした。本決定は、余罪の考慮が許容される範囲を逸脱したと明示的に判断した事案として評価することができます。
本件において法令違反と判断された背景には、以下のような複数の事情が重なっていたことがあると考えられます。
- ・大麻使用は、審判に付すべき事由として送致されていなかった
- ・大麻使用は、窃盗の直接の動機とはなっておらず、非行事実である窃盗と性質が大きく異なる
- ・仮に立件されれば、窃盗に劣らない重大性があると評価されるほどのものであった
これらの事情が重なった結果、原決定の大麻使用に関する取扱いは「要保護性の判断として許容される限度を超えた」と評価されたものと考えられます。
実際の事案においては、余罪と非行事実との関係、余罪が処分に与え得る影響の程度、追送致等をする場合の手続的な制約など、様々な要素を踏まえて検討する必要があり、余罪の考慮が許容されるかどうかの判断は、事案ごとに判断する必要があります。
3 「決定に影響を及ぼす」という要件について
少年法32条の法令違反について求められる「決定に影響を及ぼす」とは、どのような場合か、争いがありますが、法令違反がなかったならば原決定は異なった主文になっていたであろうという意味で、法令違反と原決定の主文との間に具体的な因果関係が認められることが必要であり、理由に影響するだけでは足りないと解するのが実務の考え方です。
本決定は、原決定の理由付けを丁寧に分析し、大麻使用に関する事情を除いても少年院送致の結論を支える理由が示されているとして、法令違反が決定に影響を及ぼすとまではいえないと判断しました。少年がすでに収容されている状況で差し戻しを行えば矯正教育を一時中断させることになるという点も理由中で指摘されており、少年の利益への配慮がうかがえます。
4 おわりに
本決定は、少年保護事件に関わる弁護士(付添人)、保護者にとって、以下の点で参考となります。
余罪の考慮態様が問われ得ること
余罪が要保護性判断において考慮されること自体は一般に認められていますが、その態様が非行事実と実質的に同列に扱われるものであれば、違法となり得ます。
余罪が非行事実の直接の動機と無関係であること、余罪自体が単独で立件されれば重大と評価される場合などは、家庭裁判所の判断の在り方について慎重な検討が求められます。
付添人活動の重要性
本件では、付添人が抗告を申し立て、原決定の処遇の理由における問題点を主張したことにより、大阪高裁が法令違反を認定しました。
結論として少年院送致が維持されたとはいえ、手続上の違法が明示されたことは、今後の実務にも一定の影響を与えるものと評価することができます。
少年保護事件は、刑事事件とは異なる固有の手続と法的枠組みをもっており、特に余罪の取扱い、要保護性の判断、処遇の選択といった問題は、専門的な知識と経験を要します。
ご家族が少年保護事件に関わることになった場合、あるいは少年の処遇に疑問をお感じの場合は、早期に弁護士へご相談ください。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

