はじめに
役員に支払う給与(役員給与)は、法人税の計算上、原則として損金に算入することができます。しかし、法人税法第34条第2項は、役員給与のうち「不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額」については、損金への算入を認めないと規定しています。この「不相当に高額」かどうかの判断は、税務調査や税務訴訟で争われることがあり、とりわけオーナー系の中小企業では課税リスクとして顕在化する場面が少なくありません。
東京地裁令和5年3月23日判決は、味噌等の製造・販売等を営む有限会社がその取締役に対して支給した役員給与について「不相当に高額な部分」があるとして行われた法人税等の更正処分が適法であると判示しました。
本判決は、①法人税法34条2項の憲法適合性という論点から、②同業類似法人の業種区分や抽出基準の合理性、③役員ごとの職務内容や会社の収益状況を踏まえた適正給与額の算定まで、多岐にわたる点について判断を示したものです。企業の実務担当者として役員給与の設定・見直しを行う際に知っておくべき内容が多く含まれています。
今回のコラムでは、上記東京地裁判決の内容をわかりやすく解説し、企業が取るべき対応について整理します。
事案の概要
原告(以下「X社」)は、味噌等の製造・販売等を目的として平成14年に設立された有限会社です。X社の取締役には、きょうだい関係にある取締役A・取締役B・取締役Cの3名が就任しており、Aは商品開発・営業活動等の業務全般を、Bは経理事務等を、Cは関連会社の業務を主に担っていました。
X社は、本件で問題となった平成25年9月期から平成28年9月期までの4事業年度(以下「各対象事業年度」)において、A・B・Cに対する役員給与の額を大幅に増額しました。3名合計の役員給与額は、平成24年9月期の約8,300万円から、平成25年9月期には約2億3,900万円(約2.9倍)、平成28年9月期には約16億円(約19倍)にまで増加しています。
特に問題となったのは、取締役Cに対して支払われた給与です。X社は、ベトナムでの新規事業(以下「ベトナム新規事業」)にCを従事させる計画のもと、月額2億5,000万円の給与を決定し、平成27年12月から平成28年3月までの4か月間(合計10億円)にわたって支払いました。しかし、ベトナムにおける課税上の問題が浮上したことにより、Cはベトナムへの赴任を取りやめ、ベトナム新規事業は結局実現しませんでした。
一方で、X社の売上高及び売上総利益はこの間に大幅な減少傾向にあり、平成28年9月期の売上高は平成24年9月期比で約62%、売上総利益は約42%にまで低下していました。
税務署長は、各対象事業年度における役員給与には「不相当に高額な部分」があるとして、法人税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」)を行いました。税務署長が適正給与額を算定するにあたって用いた算式(以下「本件算式」)は、以下のとおりです。
原告の適正な役員給与額=(当該年度の同業類似法人の役員給与最高額の平均値)×{①(当該年度の原告の売上高)/(当該年度の同業類似法人における売上高の平均値)+②(当該年度の原告の改定営業利益)/(当該年度の同業類似法人における改定営業利益の平均値)+③(当該年度の原告の個人換算所得)/(当該年度の同業類似法人における個人換算所得の平均値)}×1/3
X社は、本件更正処分等を不服として再調査請求・審査請求を経た後、本件更正処分等の取消しを求めて訴訟を提起しました。
本件の争点
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 法人税法34条2項の憲法適合性(憲法84条・課税要件明確主義)及び法人税法施行令70条1号イの適法性 |
| 争点② | 更正処分時に認定された適正給与額と本訴における国(被告)の主張額との相違が、違法な「理由の差し替え」に当たるか否か |
| 争点③ | 各対象事業年度における役員給与に「不相当に高額な部分」があるか否か及びその金額 |
裁判所の判断
争点①について―法人税法34条2項は憲法84条に違反しない
裁判所は、まず法人税法34条2項の趣旨について、役員給与が法人の利益処分的な性質を持つ場合があることを踏まえ、職務執行の対価としての相当性を確保し、役員給与の決定における恣意性を排除して課税の公平を図ることにある、と説明しました。
その上で、憲法84条(課税要件明確主義)への違反の有無について、以下のとおり判示しました。
「一般に、個々の法人における役員に対する給与の額について、「不相当に高額な部分の金額」の上限を確定的に定めることは、その性質上、極めて困難であり、かえって課税の公平性を害するおそれが高いものである。他方、法人税法34条2項の委任を受けた法人税法施行令70条1号イの掲げる考慮すべき事項のうち、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況については納税者において把握している事項であり、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等については、一般に公表された統計等、入手可能な資料等から一定程度の予測は可能であるというべきであって、これらの各事項を法人税法34条2項の規定の趣旨に照らして考慮すれば、納税申告の時点において、「不相当に高額な部分の金額」について、必ずしも確定的な金額までは判明しないとしても、相応の予測は可能であるというべきである。したがって、…法人税法34条2項の委任を受けた法人税法施行令70条1号イの規定は、法律により委任された課税要件を規定したものとして一般的に是認し得る程度に具体的で客観的なものであるというべきであるから、法人税法34条2項は憲法84条の規定に違反するものということはできない。」
また、法人税法施行令70条1号イが法人税法34条2項の委任の範囲を超えているとのX社の主張についても、裁判所は、同条の文言及び法人税法の趣旨に照らして、委任の対象から「職務執行の対価としての相当性の基準」を排除したとは解されないとして、これを退けました。
なお、本判決と同様の判断は、従前の裁判例においても繰り返し示されており、憲法適合性については確立した解釈といえます(最三小判平9.3.25税資222号1226頁、東京高判平23.2.24税資261号順号11623、東京地判平28.4.22LLI、東京高判平29.2.23LLI等)。
争点②について―理由の差し替えには当たらない
本訴において国(被告)が主張した適正給与額は、更正処分時に認定された額を下回るものでした。X社は、これが違法な「理由の差し替え」に当たると主張しましたが、裁判所は、これを退け、以下のとおり判示しました。
「本件訴訟における被告の主張と本件各法人税更正処分とは、法人税法34条2項の適用により原告の損金の額に算入されない額である「不相当に高額な部分の金額」の適否につき、同一の事実関係の下での評価を異にするものにすぎないものといえる。また、本件訴訟における審判の対象は、本件各法人税更正処分において認定された各税額の適否であることからすると、被告の上記主張は、本件各法人税更正処分が適法であるとの攻撃防御方法を追加する趣旨のものにすぎず、本件各法人税更正処分を争うにつき原告に格別の不利益を与えるものではないというべきである。以上によれば、本件各法人税更正処分認定の適正給与額と本件訴訟における被告主張の適正給与額と相違をもって違法であるということはできない。」
争点③について―「不相当に高額な部分」の存在を認定
(1)同業類似法人の抽出基準の合理性
X社は、商品の企画・開発を主体とする「ファブレス事業(製造設備を持たない事業形態)」を営んでいるとして、業種を「卸売業」とすることは誤りであり、「学術研究・専門技術サービス業」または「製造業」とすべきと主張しました。しかし、裁判所は、X社の売上総利益の大部分が他社から仕入れた商品を別の会社に販売することによって生じていることを認定した上で、以下のとおり判示しました。
「原告の売上総利益の大部分は、b社が取り扱う商品を、原告が企画及び開発して製造委託先に製造させ、完成した製品を購入した上でa社に販売することによって生じており、a社はその後b社の小売店に当該製品を販売する卸売業者であったこと、a社以外の取引先との関係においても、反復継続的に仕入れ・販売することによって売上総利益が生じていることからすると、原告の主たる事業は、日本標準産業分類上、有体的商品を購入して販売する事業所、すなわち「卸売業」に該当すると認めるのが相当である。そして、日本標準産業分類は、統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定された統計基準であり、全ての経済活動を産業別に分類したものであるから、同業類似法人の抽出に当たって同基準を用いることは合理的であるといえる。」
対象地域を兵庫県内(X社の支店所在地と同一の税務署管轄区域)としたことについては、次のとおり判示しました。
「上記アで判示したとおり、原告の主たる事業は卸売業であり、証拠によれば、原告は上記事業を支店所在地である明石市で行っていたことが認められるから、本件各法人税更正処分において対象地域を兵庫県内としたことは合理的である。」
さらに、売上高倍半基準の採用についても、以下のとおり判示しました。
「「事業規模」(法人税法施行令70条1号イ)を測るに当たっては、売上金額が一つの指標となると考えられ、また、売上金額が原告の売上金額の2分の1から2倍までの範囲にある法人を抽出の対象とすることは、対象の中から近似性を有するものを抽出する基準として合理的である。」
従業員数・自己資本比率を抽出基準に採用しなかったことについても合理性があるとした上で、裁判所は、同業類似法人の抽出基準全体について次のとおり総括しています。
「以上のとおり、本件各法人税更正処分が本件類似法人を抽出するに当たり用いた基準は、原告の同業類似法人を抽出するものとして合理的である。また、その抽出過程において、上記抽出基準への当てはめを誤ったり、何らかの恣意が介在したりしたと認めるに足りる証拠ないし事情は見当たらないから、本件類似法人は、上記基準に基づいて適正に抽出されたものと認められる。」
(2)不相当に高額な部分の有無
裁判所は、X社の売上高及び売上総利益が大幅に減少傾向にある中での役員給与の増額について、以下のとおり判示しました。
「本件各役員給与は、本件各対象事業年度において各売上総利益の額を上回っており、また、原告の各改定営業利益の大部分を占めて原告の営業利益を大きく圧迫するに至っていることからすると、本件各役員給与の額の高さ及び増加率は著しく不自然である。」
同業類似法人の役員給与最高額との比較では、Aの役員給与額は平成25年9月期から平成27年9月期にかけて同業類似法人の最高額の12.5倍から18倍(金額にして1億7,000万円以上高額)に、平成28年9月期には約64倍にのぼり、Cに至っては約107倍となっていました。これについて裁判所は、以下のとおり述べています。
「このような役員給与の支給状況の格差は、認定事実ア(ウ)aのようなAの職務内容や職責等を踏まえても、合理的な範囲を超えるものといわざるを得ない。」
「以上によれば、本件各役員給与に「不相当に高額な部分」があるといえる。」
(3)不相当に高額な部分の金額の算定
適正給与額の算定については、A・Bについては本件算式による加重計算が相当であると判断し、税務署長の算定方法を合理的と認めました。
一方、Cについては、実際に給与が支給された期間(平成27年12月〜平成28年3月)における職務内容等に照らし、加重計算は相当ではないとしました。裁判所は、次のとおり判示しています。
「Dは、平成27年11月までは原告の業務を担っておらず、原告から給与の支給がされていた平成27年12月から平成28年3月までの4か月間に果たした職務の内容等に鑑みても、本件類似法人の役員給与最高額の平均額に一定の加重をすることが相当とは認められない。」
「Dのベトナム赴任が具体化せず、ベトナム新規事業再開のめどが立っていない状況において月額2億5000万円もの給与の支給を決定し、それを見直しもしないまま4か月間にわたって続けるということは、企業の意思決定としておよそ合理的なものとはいい難い。」
その結果、Cの適正給与額は「同業類似法人の役員給与最高額の平均額(約844万6,000円)の4か月分」(約281万5,000円)と認定されました。
裁判所の認定した「不相当に高額な部分の金額」は、いずれも更正処分時の認定額以上となり、本件更正処分等は適法であるとして、X社の請求は棄却されました。
コメント
(1)本判決の意義
本判決は、法人税法34条2項が憲法84条(課税要件明確主義)に反しないことを改めて確認したものであり、従前の判例の流れを踏まえた内容です。
もっとも、実務上注目すべきは、「不相当に高額な部分」の算定場面において、同一法人内の役員であっても、職務内容・実績・業績貢献度の違いに応じて異なる判断基準を適用した点です。
取締役Cについて、ベトナム新規事業が実現しないにもかかわらず月額2億5,000万円の給与を4か月にわたって支給し続けたことは「企業の意思決定としておよそ合理的なものとはいい難い」と明確に述べた点は、役員給与の決定プロセスにおける合理性・妥当性が税務上も厳しく問われることを示すものと評価できます。
(2)企業が留意すべき実務上のポイント
① 業績と役員給与水準の整合性の確保
本件では、売上高・売上総利益が継続的に減少する中で役員給与を大幅に増額したことが問題視されました。会社の業績が低迷している時期に役員給与を増額する場合は、「不相当に高額な部分」として否認されるリスクが高まります。給与増額の際には、会社の収益状況との整合性を確認し、その根拠を取締役会議事録等に明確に記録しておくことが求められます。
法人税法は事業年度ごとの所得計算を基本としており、本件でも「中長期的な業績を考慮すべき」とのX社の主張は退けられました。役員給与の水準は、あくまでその事業年度の業績・収益状況を踏まえて設定することが基本であることを認識しておく必要があります。
② 同業類似法人との給与水準の比較
法人税法施行令70条1号イ(いわゆる実質基準)では、同種・同規模の他社(同業類似法人)の役員給与水準との比較が判断の中心となります。国税庁は、役員給与の損金算入に関する考え方を「役員給与に関するQ&A」として公表しており(国税庁ウェブサイトにて「役員給与」で検索)、また、法人税基本通達9-2-21では不相当に高額な役員給与の判定に際して考慮すべき事項が定められています。自社の役員給与が同業他社と比較して著しく高額でないかを定期的に把握しておくことが有益です。
なお、同業類似法人の役員給与をどのように考慮するかについては、裁判例において統一的な基準が確立しているわけではなく、同業類似法人の最高額を基準とした事例(東京地判平28.4.22、東京高判平29.2.23等)のほか、平均額を基準としたもの(東京地判平22.9.10等)もあり、個別の事案に応じた判断がなされています。自社の状況に照らしてどの基準が適用され得るかについては、あらかじめ税務の専門家に確認することが望ましいといえます。
③ 業種区分の正確な把握
本件では、X社がいわゆるファブレス事業を営んでいることを理由に「学術研究・専門技術サービス業」や「製造業」への分類を主張しましたが、裁判所は、申告書や会計処理の実態に基づいて「卸売業」と認定しました。税務上の同業類似法人の選定は業種区分を基礎として行われるため、自社の事業内容が日本標準産業分類上どの業種に該当するかを正確に把握しておくことが大切です。
④ 役員の実際の職務内容と給与水準の対応関係
本件でCへの給与が特に問題視されたのは、ベトナム新規事業が実現していないにもかかわらず多額の給与を支給し、かつその見直しをしなかった点です。役員の実際の職務内容・貢献度と給与水準との対応関係を定期的に確認し、職務内容が変化した場合には速やかに給与水準も見直すことが求められます。また、新規事業への従事を名目とした給与増額を行う場合には、当該事業の具体性・実現可能性について特に慎重な検討が必要です。
⑤ 予算計画値は収益の状況の判断基準にならない
X社は、役員給与の適正額を判断する際の「収益の状況」として、実績値ではなく役員給与決定時の予算計画値を用いるべきと主張しましたが、裁判所は、法人が任意に作成する予算計画値は恣意性の排除ができないとして、これを採用しませんでした。税務上は実績ベースの収益数値が基準となることを認識しておく必要があります。
(3)参考となる公的資料
役員給与に関する税務上の考え方については、以下の公的資料が公表されています。
- ・国税庁「役員給与に関するQ&A」(国税庁ウェブサイトにて「役員給与」で検索)
- ・法人税基本通達9-2-21(役員給与の「不相当に高額な部分」の判定基準を定める通達)
これらの資料を参照しながら、自社の役員給与水準が適切かどうかを確認することが有益です。
(4)本判決が示す実務上の留意点
本件で否認された役員給与の水準(最大で同業類似法人の最高額の107倍)は、一般的な企業では到底考えられない極端な事例であるようにも見えます。
もっとも、同族会社やオーナー経営の会社では、オーナーや親族への役員給与について恣意的な決定が行われやすく、課税当局の厳しい目が向けられやすいという点は普遍的な課題でもあります。
本件の判決理由に照らすと、税務当局が「不相当に高額な部分」と認定するか否かの判断においては、①会社の業績(特に売上高・売上総利益の傾向)との乖離、②同業他社の役員給与水準との比較、③当該役員の実際の職務内容・貢献度の3点が特に重視されているといえます。これらの点について客観的な説明ができる状態を整えておくことが、税務リスクの管理の観点からは有益です。
役員給与の適正水準の設定や税務調査対応については、事前の準備が重要です。お悩みの場合は、お気軽に当事務所にお問い合わせください。
本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的判断や助言を提供するものではありません。具体的な問題については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりお問い合わせください。

