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親名義の銀行口座と預金者の認定(東京地裁令和5年7月18日判決:相続相談)

銀行口座の名義人と実際に口座を管理・利用している人が異なるいわゆる「名義預金」の問題は、実務上、相続や成年後見の手続が始まったタイミングで表面化することが少なくありません。

東京地裁令和5年7月18日判決は、父親(X)の名義で開設された銀行口座について、その「預金者」は名義人である父ではなく、口座を開設・管理してきた子(Y)であると認定した事案です。

上記東京地裁判決は、事例判決ではあるものの、預金者の認定に関し、実務上の参考となることから、本コラムで概要を紹介いたします。

 

事案の概要

本件の当事者は、父(X)と子(Y)の親子です。Xは、本件訴訟当時、成年後見が開始されており、成年後見人がXに代わって訴訟を行いました。

Yは平成7年頃、シティバンク銀行B支店(後にSMBC信託銀行B支店に移管)において、父Xの名義で2つの口座を開設しました。一つは円建ての普通預金口座(以下「本件普通預金口座」)、もう一つは外貨建て定期預金口座(以下「本件定期預金口座」。両口座を合わせて「本件各預金口座」)です。口座開設後、YはXの住む区とは別の区に所在するZ社(Yの勤務先)に対し、給与の一部として毎月5万円を本件普通預金口座に振り込むよう設定しました。

本件各預金口座には、通帳や届出印鑑が存在せず、取引はキャッシュカードまたはインターネットバンキングを通じて行われていました。キャッシュカードの現物・暗証番号、インターネットバンキングのIDおよびパスワードは、いずれもYが管理しており、Xは暗証番号を知らない状況でした。なお、取引明細書は名義人であるXの自宅住所に郵送されていました。

令和2年、Xが保有する株式の売却代金約814万円が本件普通預金口座に入金されましたが、その後、Yは同口座から合計750万円を出金しました。

これを受け、Xの成年後見人は、Yに対して不当利得返還請求権に基づき、同750万円からYがXのために立て替えていた費用444万6496円を差し引いた残額305万3504円の返還を求めました(本訴)。これに対しYは、本件各預金口座の真の預金者は名義人のXではなく自分(Y)であるとして、預金債権がYに帰属することの確認を求める反訴を提起しました。

 

争点

争点:本件各預金口座の「真の預金者」はYか

本件の争点は、父(X)の名義で開設された本件各預金口座の「預金者」は、父(X)か、それとも子(Y)であるか否かす。

Yは、以下のとおり、主張しました。

・将来、父XとともにZ社の給与を積み立てて海外旅行に行くための貯蓄を目的として、X名義で口座を開設した

・開設場所として自分名義の口座もある自分の勤務先に近いB支店を選んだ

・キャッシュカードや暗証番号・インターネットバンキングのID等は、すべて自分が設定・管理していた

・口座への入出金は自分だけが行ってきた

これに対し、Xは、以下のとおり、主張しました。

・取引明細書の送付先はXの自宅であり、口座開設の際にはXも立ち会ったはずであるから、Xが名義人として管理できる立場にある

・Z社からの毎月5万円の振込は、YからXへの生活費援助(仕送り)とみるのが自然である

・他人名義の口座(借名口座)の利用は違法な取引として禁止されており、Yがあえてそのような口座を作る理由はない

なお、Yが預金者でないと判断された場合に、口座に入金されていた原資(主にYの給与)がYに帰属するかどうかという仮定的な争点(争点②)もありましたが、裁判所が争点①でYの預金者性を認めたため、争点②については判断されませんでした。

 

裁判所の判断

裁判所は、本件各預金口座の真の預金者はYであると認定し、本訴・反訴のいずれも認容しました(Yの預金者性を前提としつつ、Xに帰属すべき株式売却代金を原資とする750万円の出金については不当利得にあたるとして、Xへの305万3504円の返還も命じました)。

まず、Yの本人尋問における供述の信用性について、裁判所は次のように判断しました。

上記の供述は,上記の認定できる事実,特に,原告は自宅近くの支店で複数の預金口座を保有しているところ,本件各預金口座は,原告の自宅近くではなく,被告の勤務先に近いシティバンク銀行B支店で開設されていること(前提事実,認定事実(1)ないし(3)),本件円建預金口座には被告の勤務先であるZ社から定期的な入金がある一方,他の入金は数回しかないこと(前提事実,認定事実(5)),被告はキャッシュカードの現物を保持していたことがうかがわれること(乙8,弁論の全趣旨)といった客観的な事実関係を概ね矛盾なく説明できており,その説明内容に不自然・不合理といえる部分は見当たらない。そうすると,上記被告本人の供述は信用できる。

そのうえで、裁判所は各事実を総合し、次のように結論づけました。

上記認定事実に,上記(1)の信用できる被告本人の供述を踏まえると,本件各預金口座は,被告が自身名義の預金口座を保有する,被告の当時の勤務先近くに所在するシティバンク銀行(現在のSMBC信託銀行)のB支店に開設されたものであり,その入金頻度,入金数としては,被告に帰属すべき,Z社からの定期的な給与の支払が多く,全体の入金数の大半を占めているといえ,原告に帰属すべき金員の入金は,前提事実(3)記載の株式の売買代金のほか,認定事実(5)記載の配当金と税務還付金の3度しかない。また,本件各預金口座の取引に要するキャッシュカードは被告が管理していたものと認められる。

これらの事実を総合すると,本件各預金口座は,被告による取引に便宜な箇所で開設され,その取引内容も被告のためのものが大半を占めるといえるのであり,他の入金は預金口座が原告名義であるゆえ,単発的・便宜的に入金されたものとみても説明できないものとはいえない。また,取引明細書(認定事実(4))については,原告名義での預金口座である以上,原告住所に送付されることから当然に原告の預金であるとまではいえない。そうすると,本件各預金口座の預金者は,その名義に関わらず,被告であるものと認められる。

 

コメント

「預金者」は誰か?

口座の名義人と実際の預金者が食い違うケースで「預金者」を誰とみるかについては、学説上、①入金した者が自己の預金でないことを明示しない限りその者が預金者とみる主観説、②自己の資金で自己の預金とする意思をもって預金契約を締結した者を預金者とする客観説、③基本的に客観説に立ちながらも、入金行為者が自己を預金者であると明示的または黙示的に示した場合はその者が預金者とみる折衷説といった考え方が存在します(幾代通=広中俊雄編『新版注釈民法(16)』424頁〔打田畯一=中馬義直〕)。

普通預金については、口座の開設者、口座の名義、通帳・印鑑の管理状況、入出金を実際に行っていた者、預金の原資といった複数の事実を総合して預金者を認定する手法が採られています(最二小判平15.2.21民集57巻2号95頁,判タ1117号211頁,最一小判平15.6.12民集57巻6号563頁,判タ1127号95頁)。

本判決の意義

本判決は、同一支店で開設された普通預金口座・外貨建定期預金口座の双方について、両口座は密接に関連するもの(普通預金の積立額を定期的に外貨定期預金に振り替えていた)として一体的に検討しました。そのうえで、以下の各事実を総合的に評価し、名義人(父・X)ではなく子(Y)が預金者であると認定しました。

考慮事情本件における事実
口座開設支店の所在地開設支店(B支店)はYの勤務先に近く、XやXの他の預金口座の支店からは遠い場所にあった
入金の実態Yの勤務先Z社から定期的に給与名目の入金があり、これが全体の入金の大半を占めていた
Xへの帰属入金の少なさXに帰属すべき入金(株式売却代金・配当金・税還付金)はわずか3回にすぎず、いずれもX名義の口座に便宜上入金されたと説明できる
キャッシュカードの管理キャッシュカードの現物はYが保管し、暗証番号もYのみが知っていた
Yの供述の信用性口座開設の動機・経緯(父Xとの海外旅行のための積立)に関するYの説明は、客観的事実と矛盾なく整合していた

本判決は、これまでの最高裁判例の枠組みを踏まえながら、普通預金・定期預金の双方にわたる「預金者」を、口座の開設経緯・目的、管理実態、入出金の原資・頻度という複数の観点から丁寧に積み上げて認定した事例として、実務上の参考となります。

預金者はYと認定されながら本訴も認容された理由

裁判所が「預金者はY」と認定して反訴を認容しながら、同時にYに対してXへの305万3504円の返還を命じる本訴も認容した点です。「預金者がYなら、口座内の資金もすべてYのもの」ではないのかと疑問に思われるかもしれませんが、ここに重要な法的区別があります。「預金者の認定」と「口座内の資金の帰属」は別の問題です。

本件の口座には、Yの給与(Yに帰属すべき資金)が長年にわたって入金されてきた一方で、令和2年にはXの株式売却代金約814万円(Xに帰属すべき資金)も入金されていました。Yはこの株式売却代金を原資として750万円を出金しています。

Yは、「本件各預金口座が自己に帰属するとしても、Xの株式売却代金を原資とする750万円の出金についてはXへの返還義務を負う」と認めた上で、ただし、YがXのために立て替えてきた費用444万6496円との相殺を主張しました。

このため、裁判所は、本訴・反訴ともに一部を認容する判決となっています。

実務への示唆

相続手続や成年後見の開始に際して、被相続人・被後見人名義の口座について「預金者は誰か」という問題が顕在化することがあります。本判決が示すように、裁判所は口座の「名義」だけでなく、開設の経緯、資金の出所、口座管理の実態を総合的に検討します。名義預金の存在が疑われる場合には、早期に弁護士に相談し、リスクを整理したうえで対応することが重要です。

本件のX側は「取引明細書がXの自宅に届いていた」「口座開設にXが立ち会ったはずだ」という事情を根拠の一つとして主張しましたが、裁判所はこれらを決め手とは認めませんでした。

名義や書類の送付先という形式的な事情のみでは預金者性の根拠として不十分であることを、本判決は改めしたと評価することができます。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。