遺産の分配を相続人の1人に一任する遺言の可否
遺言書の作成に関するご相談を受けていると、時々、ご相談者様より「自分では決められないので、もしできるのであれば、長男あるいは長女に一任したい」そういったご相談をいただくことがあります。
民法908条では、
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる
と規定されおり、遺言で第三者に対し遺産分割方法を委ねることを認めています。
それでは、死後の財産の分配について、長男や長女といった相続人の1人に一任する旨の遺言は、法的に有効なのでしょうか?
今回のコラムでは、この問題について判断を示した東京地裁平成17年10月20日判決を取り上げてみたいと思います。
東京地裁平成17年10月20日判決
事案は、「私が死亡した後の財産の分配は長男に一任する。」との自筆証書遺言が存在し、遺言者の死後、一任された長男が遺産を分配しようとしたところ、納得のいかない他の相続人が遺言無効確認訴訟を提起したというものです。
裁判所が認定した事実は、以下のとおりです。
・亡Aは、平成16年11月1日、「私が死亡した後の財産の分配は長男に一任する。」との内容の自筆証書遺言(本件遺言)を作成。
・平成17年3月5日、A死亡。
・同年4月4日、東京家庭裁判所で本件遺言について検認手続実施。
・相続人は、別紙相続関係図のとおり、原告、被告(長男)、B、C及びDの5人。
上記の事実関係を前提に、裁判所は、遺産の分配を相続人の1人に一任する遺言の有効性について、以下のとおり無効と判断しました。
民法908条により、被相続人は遺言により遺産の分割方法を定めることができるが、被相続人自身が定めない場合において、遺産の分配方法を第三者に委託する場合には、委託を受けた第三者は、公正に共同相続人間に遺産を分配することが期待されている。
したがって、遺産の分配方法を共同相続人の1人に委ねた場合は、当該共同相続人自身も遺産の分配を受ける立場に立つため、他の共同相続人に対する公正な遺産の分配を期待できないから、同条の趣旨に反して無効と言うべきである。
とすると、本件遺言は、Aの遺産について、Aの相続人である被告にその分配を一任するものに他ならないから、同条の趣旨に反するものとして無効である。
民法908条が遺言で第三者に対し遺産分割方法を委ねることを認めたのは、当該第三者と遺産の分配を受ける相続人との間で利害が対立せず、委ねられた第三者をして公正な分配が期待できるからに他ならないところ、相続人は互いに利益が相反する立場にあるため、民法908条の趣旨が妥当しない、そのように判断されたものと考えられます。
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