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芸能プロダクションのウェブサイトへのタレントの写真等の掲載とパブリシティ権・肖像権侵害(東京地判令和5年12月11日)

今回のコラムでは、芸能プロダクションがウェブサイトへタレントの写真等を掲載した行為がタレントのパブリシティ権や肖像権等を侵害するかが争われた東京地裁令和5年12月11日判決を紹介いたします。

 

事案の概要

本件は、タレントである原告が、元所属事務所(芸能プロダクション)である被告に対し、専属契約解除後も被告が原告の肖像写真や氏名をウェブサイトに掲載し続けた行為について、肖像権、パブリシティ権及び不正競争防止法違反を主張し、損害賠償と掲載情報の削除を求めた事案です。

主な事実経過は以下のとおりです。

・平成30年12月5日頃、原告と被告は専属契約を締結。

・令和2年7月4日、原告は被告の従業員に対し、事務所を辞めたい旨を伝える。同年8月7日、原告は被告に対し、本件契約を解除する旨の解除通知書を送付。

・契約解除後、被告は原告に対し、契約の存続確認を求める訴訟を提起。原告は未払報酬等を求める反訴を提起。令和4年11月29日、本訴・反訴ともに棄却判決。令和5年4月18日、原告の控訴取り下げにより、上記判決が確定し、契約解除が有効であったことが確定。

・被告は、契約解除通知受領後(令和2年9月7日以降)も、自社ホームページに原告の肖像写真及び氏名を掲載し続けたが、別件訴訟の判決確定日である令和5年4月18日には、当該掲載情報を削除した。

 

争点

本件の主な争点は、以下のとおりです。

①パブリシティ権侵害の有無(争点①)

②肖像権侵害の有無(争点②)

③不正競争防止法2条1項1号該当性(争点③)

 

裁判所の判断

争点①(パブリシティ権侵害の有無)について

まず、パブリシティ権侵害の有無について、裁判所は、以下のとおり、いわゆるピンクレディ判決(最高裁平成21年(受)第2056号同24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁)が提示した判断基準を示したうえで、パブリシティ権侵害を否定しました。

・肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。

・芸能プロダクションである被告は、被告に所属するタレントを紹介するために、そのホームページにおいて、他の所属タレントと併せて原告の氏名及び肖像写真をトップページに掲載するとともに、原告のプロフィール及び肖像写真を所属タレントのページに掲載した。

・被告は、所属タレントを紹介する被告のホームページにおいて、原告が被告に所属する事実を示すとともに、原告に関する人物情報を補足するために、本件写真等を使用したことが認められ、そうすると、本件写真等は、商品等として使用されるものではなく、商品等の差別化を図るものでもなく、商品等の広告として使用されるものともいえない。

・したがって、被告が本件写真等を使用する行為は、専ら原告の肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、パブリシティ権を侵害するものと認めることはできない。

 

争点②(肖像権侵害の有無)について

次に、肖像権侵害の有無(争点②)についても、裁判所は、以下のとおり、否定しました。

・容ぼう等を無断で撮影、公表等する行為は、①被撮影者の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき、②公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき、③公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。

・被告は、所属タレントを紹介する被告のホームページにおいて、原告が被告に所属する事実を示すとともに、原告に関する人物情報を補足するために、本件写真を使用したものであり、本件写真の内容は、白色無地の背景において、原告の容ぼうを中心として正面から美しく原告を撮影したものであることが認められる。

・本件写真は、私的領域において撮影されたものではなく、原告を侮辱するものでもなく、平穏に日常生活を送る原告の利益を害するものともいえず、被告が本件写真を使用する行為は、原告の肖像権を侵害するものと認めることはできない。

 

争点③(不正競争防止法2条1項1号該当性)について

なお、裁判所は、不競法2条1項1号該当性(争点③)についても、

・「商品等表示」とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。

・原告の氏名又は肖像は、原告を示す人物識別情報であり、本来的に商品又は営業の出所表示機能を有するものではない。

・原告は、芸能プロダクションである被告に所属する一タレントであったにすぎず、原告自身がプロダクション業務等を行っていた事実を認めるに足りない。原告の氏名又は肖像が、その人物識別情報を超えて、原告自身の営業等を表示する二次的意味を有するものと認めることはできず、まして、原告の氏名及び肖像が、タレントとしての原告自身の知名度とは別に、原告自身の営業等を表示するものとして周知であるものとは、明らかに認めるに足りない。

・したがって、原告の氏名又は肖像が周知な商品等表示に該当するものと認めることはできない。

否定しています。

 

コメント

パブリシティ権侵害については、ピンク・レディ判決によって、総合考慮ではなく、行為態様に着目した受忍限度論によって判断する考え方が示されていました。本判決は、肖像権侵害についても、総合考慮による判断ではなく、前述した①から③の類型に整理したうえで、違法性の判断手法を示した点が特徴といえます。

また、パブリシティ権侵害について、原告からは、本件写真等の掲載は原告の肖像写真等を写真集等に利用する行為と同視し得る、また、被告が取引先を介して原告の肖像写真等を広告等に利用する行為と同視し得る旨が主張されていたところ、裁判所が、所属タレントを紹介するために肖像写真を使用する行為と、写真集等や広告等に利用する行為とは異なると判示した点も、実務上参考になります。

 

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