カスタマーハラスメント防止に向けた対応策
最近、カスタマーハラスメント対策に関するご相談・ご依頼を受けることが増えてきています。
先日も大手コンビニエンスストアが、カスタマーハラスメントに関する基本方針の策定や店内にカスハラ事例を説明するポスターの掲示等を開始した旨の報道がなされ、大きな話題となりました。
カスタマーハラスメントについては、令和4年2月に厚生労働省が「カスタマーハラスメント対応企業マニュアル」を公表するとともに、令和6年10月には東京都において全国初のカスタマ―ハラスメント防止条例が成立し、来年4月1日より施行されます。
今後、東京都以外の自治体においても、カスハラ防止条例の制定が進むことが予想されており、条例の施行や制定に先立ち、カスタマーハラスメント対策を導入する企業・事業者が増えてきています。
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が求められる背景
カスハラ対策が求められる背景としては、①安心して働ける職場環境づくりと②他の顧客に対する迷惑防止の2つを挙げることができます。
まず、カスハラ対策は、従業員に安心して働いてもらえる職場環境を整備する(使用者の安全配慮義務の)観点から必須のものとなりつつあります。
労働施策総合推進法30条の2に基づいて定められた「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(いわゆる「パワハラ指針」)においては、「事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容」が示されるとともに、令和5年9月1日に改正された厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(基発0901第2号)においては、心理的負荷の評価項目に、新たにカスハラに関連する項目(「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」こと)が追加されるなどしていました。
実際、令和6年7月には、住宅メーカーの男性社員が自殺したのはカスタマーハラスメントなどで精神疾患を発症したことが原因だとして、柏労働基準監督署が労災認定を行ったとの報道もなされています。
自社の従業員がカスタマーハラスメントを受けていることを知りながら、漫然と放置することは、安全配慮義務の観点から問題があるとともに、休職や離職につながったり、職場の士気を下げることにもなるため、企業には、カスタマーハラスメントに対し、毅然とした対応をとることが求められます。
また、カスハラ対策は、他の顧客に対する迷惑防止(他の顧客が感じる不快感の防止)の観点からも大切です。
特に対面型のビジネスにおいては、カスタマーハラスメントを放置することは、店舗や接客時の雰囲気の悪化を招き、顧客離れにつながることなどが指摘されています。
カスハラ防止条例とは?
東京都のカスタマーハラスメント防止条例は、令和6年7月に公表された「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方」を踏まえ制定されました。「考え方」は、以下の3点を柱として構成されています。
・「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」として、カスタマーハラスメントの禁止を規定
・「カスタマーハラスメント」の防止に関する基本理念を定め、各主体(都、顧客等、就業者、事業者)の責務を規定
・「カスタマーハラスメント」の防止に関する指針を定め、都が実施する施策の推進、事業者による措置等を規定
カスハラ防止条例では、第4条において、カスハラの禁止が規定されるとともに、第9条において、カスハラの防止に関する事業者の責務が規定されています。
現状、カスハラ防止条例には、違反した場合の罰則規定は設けられていませんが、今後、東京都が制定する「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」(以下、「カスハラ防止指針」)において、その実効性を高めることとされています(11条)。
このため、企業としては、カスハラ防止条例の内容と併せて、今後制定されるカスハラ防止指針の内容にも注意する必要があります。
カスハラ防止条例のポイント
カスハラ防止条例のポイントとしては、①カスハラの定義、②カスハラの禁止と顧客等の権利への配慮、③事業者の責務の3つを挙げることができます。
①カスハラの定義
カスタマーハラスメントとは、「①顧客等から就業者に対し、②その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、③就業環境を害するもの」をいいます(カスハラ条例2条5号)。
条例で定義する「カスタマー・ハラスメント」とは、上記①から③までの要素を全て満たすものをいいます。なお、要素を全て満たさない場合であっても、「著しい迷惑行為」そのものは、刑法等に基づき処罰される可能性や民法に基づき損害賠償を請求される可能性があります。
②「その業務に関して」行われる著しい迷惑行為とは、労働時間内の就業者が受けた顧客等からの著しい迷惑行為 、または労働時間外の就業者又は定まった労働時間がない就業者が受けた、その業務遂行に影響を与える顧客等からの著しい迷惑行為に該当する行為をいいます。
「業務遂行に影響を与える」とは、当該行為を受けた就業者の円滑な業務遂行の妨げとなることをいうため、休憩時間や通勤時間など、使用者の指揮命令下に置かれていない時間に受けた行為であっても、「その業務に関して」行われる著しい迷惑行為に該当する可能性があります。
「著しい迷惑行為」とは、「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言など不当な行為」をいい、次のいずれかに該当する行為が考えらえるとされています。
(1)違法な行為
暴行、脅迫、傷害、強要、名誉毀損、侮辱、威力業務妨害、不退去等の刑法に規定する違法な行為のほか、ストーカー規制法や軽犯罪法等の特別刑法に規定する違法な行為
(2)正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為
客観的に合理的で社会通念上相当であると認められる理由がなく、要求内容の妥当性に照らして不相当であるものや、大きな声を上げて秩序を乱すなど、行為の手段・態様が不相当であるもの。
(2)の相当性の判断に当たっては、当該行為の目的、当該行為を受けた就業者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該行為が行われた経緯や状況、就業者の業種・業態、業務の内容・性質、当該行為の態様・頻度・継続性、就業者の属性や心身の状況、行為者との関係性など、様々な要素を総合的に考慮されます。
正当な理由に基づき、社会通念上相当であると認められる手段・態様による、顧客等から就業者への申出(苦情・意見・要望等)自体は、当然妨げられるものではありませんが、その後の交渉や話合いの過程において違法または不当な行為があった場合には、その時点で著しい迷惑行為に該当する可能性があります。
次に、③「就業環境を害する」とは、顧客等による著しい迷惑行為により、人格又は尊厳を侵害されるなど、就業者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、就業者が業務を遂行する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。
平均的な就業者が同様の状況で当該行為を受けた場合、社会一般の就業者が業務を遂行する上で看過できない程度の支障が生じたと感じる行為であるかどうかを基準に判断されます(平たくいうと「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断されます)。
カスハラの定義については、「著しい迷惑行為」に、違法な行為だけではなく不当な行為も含まれる点、「就業環境を害する」か否かは、平均的な労働者の感じ方を基準に判断する点に注意してください。
参考:カスハラ防止指針(ガイドライン)におけるカスタマー・ハラスメントの代表的な行為類型
現在策定中のカスハラ防止指針(ガイドライン)では、カスタマー・ハラスメントの代表的な行為類型として、
(1)顧客等の要求内容が妥当性を欠く
(2)顧客等の要求内容の妥当性にかかわらず、要求を実現するための手段・態様が違法又は社会通念上不相当である
(3)顧客等の要求内容の妥当性に照らして、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当である
の3つが挙げられています。
なお、就業者の業務内容によって顧客等との接し方が異なること、実際に発生した個別事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、行為類型は限定列挙ではないことなどに留意する必要があります。
(1)顧客等の要求内容が妥当性を欠く
行為類型 | 例 |
①就業者が提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない | ・全く欠陥がない商品を新しい商品に交換するよう就業者に要求すること。 ・あらかじめ提示していたサービスが提供されたにもかかわらず、再度、同じサービスを提供し直すよう就業者に要求すること。 |
②要求内容が、就業者の提供する商品・サービスの内容とは関係がない | ・就業者が販売した商品とは全く関係のない私物の故障等について就業者に賠償を要求すること。 ・就業者が販売する商品とは全く関係のない商品を販売するよう要求すること。 |
就業者が提供した商品やサービスに瑕疵・過失がない場合、あるいは全く関係のない主張や要求の場合は、正当な理由がないと考えられます。 なお、妥当性を欠く主張や要求は、就業者が拒否するなどの対応が可能であることから、カスタマー・ハラスメントに該当するか否かは、次の(2)または(3)に該当する顧客等の行為の有無と併せて判断することが必要となります。
(2)顧客等の要求内容の妥当性にかかわらず、要求を実現するための手段・態様が違法又は社会通念上不相当である
行為類型 | 例 |
①就業者へ身体的な攻撃を加える | ・就業者に物を投げつける、唾を吐くなどの行為を行うこと。 ・就業者を殴打する、足蹴りを行うなどの行為を行うこと。 ※これらの行為は、暴行罪(刑法第208条)、傷害罪(刑法第204条)等にも該当する可能性があります。 |
②就業者へ精神的な攻撃を加える | ・就業者や就業者の親族に危害を加えるような言動を行うこと。 ・就業者を大声で執拗に責め立て、金銭等を要求するなどの行為を行うこと。 ・就業者の人格を否定するような言動を行うこと。 ・多数の人がいる前で就業者の名誉を傷つける言動を行うこと。 ※これらの行為は、脅迫罪(刑法第222条)、恐喝罪(刑法第249条)、名誉棄損罪(刑法第230条)、侮辱罪(刑法第231条)等にも該当する可能性があります。 |
③就業者へ威圧的な言動を取る | ・就業者に声を荒らげる、にらむ、話しながら物を叩くなどの言動を行うこと。 ・就業者の話を遮るなど高圧的に自らの要求を主張すること。 ・就業者の話の揚げ足を取って責め立てること ※これらの行為は、脅迫罪(刑法第222条)、威力業務妨害罪(刑法第234条)等にも該当する可能性があります。 |
④就業者へ土下座を要求する | ・就業者に謝罪の手段として土下座をするよう強要すること。 ※これらの行為は、強要罪(刑法第223条)等にも該当する可能性があります。 |
⑤就業者へ執拗な(継続的な)言動を取る | ・就業者に対して必要以上に長時間にわたって厳しい叱責を繰り返すこと。 ・就業者に対して何度も電話をして自らの要求を繰り返すこと。 ※これらの行為は、威力業務妨害罪(刑法第234条)、偽計業務妨害罪(刑法第233条)等にも該当する可能性があります。 |
⑥就業者を拘束する行動を取る | ・長時間の居座りや電話等で就業者を拘束すること。 ・就業者から店舗等から退去するように言われたにもかかわらず、正当な理由なく長時間にわたって居座り続けること。 ・就業者を個室等で拘束し、長時間にわたって執拗に自らの要求を繰り返すこと。 ※これらの行為は、監禁罪(刑法第220条)、不退去罪(刑法第130条)、威力業務妨害罪(刑法第234条)、偽計業務妨害罪(刑法第233条)等にも該当する可能性があります。 |
⑦就業者へ差別的な言動を取る | ・就業者の人種、職業、性的指向等に関する侮辱的な言動を行うこと ※これらの行為は、名誉棄損罪(刑法第230条)、侮辱罪(刑法第231条)等にも該当する可能性があります。 |
⑧就業者へ性的な言動を取る | ・就業者へわいせつな言動や行為を行うこと。 ・就業者へのつきまとい行為を行うこと。 ※これらの行為は、不同意わいせつ罪(刑法第176条)のほか、ストーカー規制法等にも該当する可能性があります。 |
⑨就業者個人への攻撃や嫌がらせを行う | ・就業者の服装や容姿等に関する中傷を行うこと。 ・就業者を名指しした中傷をSNS等において行うこと。 ・就業者の顔や名札等を撮影した画像を本人の許諾なくSNS等で公開すること。 ※これらの行為は、名誉棄損罪(刑法第230条)、侮辱罪(刑法第231条)等にも該当する可能性があります。 |
顧客等の主張に関して、事実関係や因果関係を踏まえ、根拠のある要求がなされていた場合でも、その要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲かを確認する必要があります。例えば、殴る、蹴るなどの違法な暴力行為は直ちにカスタマー・ハラスメントに該当し、その言動が威圧的である場合などは、社会通念上不相当としてカスタマー・ハラスメントに該当する可能性があります。
(3)顧客等の要求内容の妥当性に照らして、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当である
行為類型 | 例 |
①過度な商品交換の要求 | ・就業者が提供した商品と比較して、社会通念上、著しく高額な商品や入手困難な商品と交換するよう要求すること。 |
②過度な金銭補償の要求 | ・就業者が提供した商品・サービスと比較して、社会通念上、著しく高額な金銭による補償を要求すること。 |
③過度な謝罪の要求 | ・就業者に正当な理由なく、上司や事業者の名前で謝罪文を書くよう要求すること。 ・就業者に正当な理由なく、自宅に来て謝罪するよう要求すること。 |
④その他不可能な行為や抽象的な行為の要求 | ・就業者に不可能な行為(法律を変えろ、子供を泣き止ませろ等)を要求すること。 ・就業者に抽象的な行為(誠意を見せろ、納得させろ等)を要求すること。 |
顧客等の主張に関して、事実関係や因果関係を踏まえ、根拠のある要求がなされ、違法又は社会通念上不相当な行為がない場合であっても、顧客等の要求内容の妥当性に照らして、その手段・態様が不相当となることがあり得ます。
例えば、商品やサービスの瑕疵を根拠に、顧客等から就業者に対して金銭による賠償や謝罪等を丁寧な口調で要求した場合であっても、その金額が社会通念上著しく高額であったり、正当な理由がない過度な謝罪を要求したりするものであれば、カスタマー・ハラスメントに該当する可能性があります。
また、顧客等の要求内容が、就業者にとっては不可能な行為であったり、どのように対応すれば良いか分からない抽象的な行為であったりする場合も、カスタマー・ハラスメントに該当する可能性があります。
②カスハラの禁止と顧客等の権利への配慮
次に、カスハラ条例では、第4条において「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」とカスハラの禁止が規定されていますが、その一方で、以下のとおり、顧客等への配慮についても規定されています(第5条。「考え方」11頁)。
この条例の適用に当たっては、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。
「顧客等の権利」には、消費者基本法、消費者教育推進法、障害者差別解消法、表現の自由などが含まれます。
顧客等の正当なクレームは、業務改善やサービス向上につながることがあるとともに、顧客等の中には、たとえば障害のある人など、合理的配慮が必要な人も存在します。
そこで、このような顧客等の権利についても十分に配慮する必要があるため、カスハラの禁止に加え、上記の規定が設けられました。
顧客等からのクレームの全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的にみて、社会通念上相当な範囲で行われたものは、いわば「正当なクレーム・申し入れ」であり、カスタマーハラスメントに当たりません。
このため、企業としては、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しつつ、悪質な顧客に対し、出入り禁止等の措置を含めた対応を検討することになります。
③事業者の責務
カスハラ防止条例では、事業者の責務として、以下の内容が規定されています(9条)。
・事業者は、基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力するよう努めなければならない。
・事業者は、その事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
・事業者は、その事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
そして、事業者は、東京都が定めるカスハラ防止指針(ガイドライン)に基づき、以下の措置を講じ、就業者もこれを遵守するよう努めるものとされています(14条)。
・事業者は、顧客等からのカスタマー・ハラスメントを防止するための措置として、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない。
・就業者は、事業者が前項に規定するカスタマー・ハラスメント防止のための手引を作成したときは、当該手引を遵守するよう努めなければならない。
「措置」の具体的な内容は、カスハラ防止指針(ガイドライン)に記載される予定ですが、「考え方」では、その内容として、以下の点が挙げられています(「考え方」16頁)。
①相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 | ・相談先(上司、職場内の担当者)をあらかじめ定め、これを就業者に周知する ・相談を受けた者が、あらかじめ定めた留意点などを記載したマニュアルに基づき対応する等 |
②カスタマーハラスメントを受けた就業者への配慮のための取組 | ・事案に応じ、カスタマーハラスメント行為者に複数人で対応することやメンタルヘルス不調への相談対応等 |
③カスタマーハラスメントを防止するための取組 | ・カスタマーハラスメント行為への対応に関するマニュアルの作成や研修を行う等 ※業界団体が作成したマニュアル(都も共通マニュアルを作成)を参考とすることを推奨 |
④取引先と接するに当たっての対応 | ・立場の弱い取引先等に無理な要求をしない、取引先の就業者への言動にも注意を払う ・自社の社員が取引先でカスタマーハラスメント行為を疑われ、事実確認等を求められた場合は協力する等 |
「考え方」で示されている内容は、厚労省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に準拠した内容であることから、同マニュアルを前提にカスハラ対策を進めることで、条例施行後も大きな変更をすることなくスムーズに対応できると考えられます。
B to Bビジネスの場合の注意点
カスタマーハラスメントに関しては、一般消費者を対象としたB to Cのビジネスだけではなく、B to Bのビジネスにおいても問題となり得る点に注意する必要があります。
一例として、令和4年8月30日長野地裁飯田支部判決では、取引先である病院側が行った医療機器販売会社の営業担当者に対する暴行・脅迫行為等について、「カスタマーハラスメントとも言うべき」ものであるとして、病院側の担当者の不法行為責任を認めるとともに、雇用主たる病院の使用者責任も認められています。
東京都のカスハラ防止条例第4条では、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と規定されています。「何人も」とは、カスタマー・ハラスメントの行為主体となり得る全ての人を指し、企業間取引を背景としたカスタマー・ハラスメントも禁止されます。また、「あらゆる場において」とあるとおり、店舗や事業所の窓口等における行為だけでなく、電話やインターネット等における行為も含まれます。
自社の従業員が、顧客企業(取引先)の経営者や担当者から、人格を否定するような暴言を浴びたり、あるいは過度な要求を受けたりするなどのハラスメントの被害を受けた場合には、毅然とした対応が必要になると考えられます。
同時に、自社の役員や従業員が取引先に対しハラスメント行為をしないように(ハラスメントの加害者とならないように)注意することも求められます。
自社の従業員がカスタマー・ハラスメントを行った場合、具体的にどのように対処されるかをルールとして明確化し、自社の従業員に周知すること、具体的には、カスタマー・ハラスメントに該当する言動と処分内容を対応させた懲戒処分規定を定め、その判断要素を明らかにする方法等が考えられます。
安心して働ける職場環境づくりに向けて
現状、カスハラ防止条例は罰則を伴うものではありませんが、働きやすい職場環境づくりや他の顧客への迷惑等の防止、さらには、企業のレピュテーション保護の観点からは、企業にはカスハラ防止に向けた早急な対応が望まれます。
カスハラ対策のポイントは、対応を現場に押し付け、場当たり的に対応をするのではなく、必要に応じて外部の専門家とも連携を取りつつ、組織として迅速かつ適切に対応をできる体制やルールを整備する点にあります。
その際は、業種・業態によりカスタマーハラスメントの態様も異なるため、現場の声を踏まえた実態に即した内容とすることが大切です。
当事務所では、企業のカスタマーハラスメント対応に関し、平時における基本方針の策定や体制整備、マニュアルの作成等に関する支援はもちろん、実際に顧客等からカスタマーハラスメントを受けた場合の対応や従業員に向けた研修等についてもお引き受けをしております。
企業に求められるハラスメント防止に向けた対応策・取り組み等に関するご相談・ご依頼については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供目的で作成されており、個別具体的なケースに関する法的助言を想定したものではありません。個別具体的なケースに関する対応等については別途弁護士のアドバイスをお受け頂ければと存じます。