はじめに
雑誌、ウェブサイト、SNSなどに掲載される写真は、企業活動と切り離せないコンテンツです。とりわけ、モデルのヘアスタイル、衣装、メイク等を作り込んで撮影された写真については、被写体の作り込みに関与した複数の関係者と、撮影を担当したカメラマンとの間で、写真の著作権が誰に帰属するのかが問題となることがあります。
今回のコラムでは、美容専門誌に掲載されたヘアデザインコンテストのノミネート作品の写真を、別の出版社が無断で自社の雑誌に転載した事案について、東京地方裁判所が平成27年12月9日に下した判決をご紹介いたします。
本判決は、ヘアスタイル等を作り込んだモデルを撮影した写真の著作者は誰かという問題について、写真自体の創作性に着目してカメラマンを著作者と判断した裁判例です。出版業界に限らず、商品撮影やモデル撮影を外注する企業、自社サイト・SNSに写真を掲載する企業の担当者にとっても、写真の権利関係を整理する手がかりとして参考になります。
事案の概要
原告と被告は、いずれも美容専門雑誌の出版を主な事業とする会社であり、美容専門誌の業界団体であるJapan Hairdressing Awards Association(以下「JHA」といいます。)に共催会社として参加していました。
原告は、所属または依頼関係にあるカメラマン3名に依頼して、JHAのノミネート作品となるヘアスタイル写真12枚を撮影してもらい、各カメラマンから著作権の譲渡を受けた上で、自社が出版する雑誌に掲載しました。
被告は、平成26年10月1日に出版した自社雑誌「SNIP STYLE No.348」の「Japan Hairdressing Awards 速報!最終ノミネート作品全掲載」と題する記事に、原告各写真12枚を複製して掲載しました。なお、掲載された写真の下には「©TOKYO FASHION EDGE」とのクレジットが付されていました。
原告は、被告の行為が原告各写真の著作権(複製権)侵害に当たると主張し、写真掲載許諾料相当額18万円(1万5000円×12枚)及び弁護士費用3万6000円の合計21万6000円の損害賠償等を求めて、被告を提訴しました。
本件の争点
本件の争点は、以下のとおりです。
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 原告は原告各写真の著作権者か |
| 争点② | 被告の故意ないし過失の有無 |
| 争点③ | 原告の損害額 |
被告は、争点①について、原告各写真の著作者は各ヘアドレッサーであり、仮に単独の著作者となりえないとしても、少なくとも共同著作者の1人であるなどと主張して、原告が著作権者であることを争いました。
裁判所の判断
争点① 原告は原告各写真の著作権者か
裁判所は、まず、写真の著作物の創作性が表れる要素について、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現であるとした上で、結果として得られた写真の表現にこうした独自性が表れているのであれば、写真の著作物の創作性を肯定することができると判断しました。
「写真は、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等)、陰影の付け方、色彩の配合、部分の強調・省略、背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。」
「静物や風景を撮影した写真であっても、その構図、光線、背景等、上記諸要素の設定や取捨選択等に何らかの個性が表れることが多く、結果として得られた写真の表現にこうした独自性が表れているのであれば、そこに写真の著作物の創作性を肯定することができるというべきである。」
判決が掲げた、写真の著作物の創作性を判断する諸要素は、以下のとおりです。
| 番号 | 写真の創作性を判断する諸要素 |
|---|---|
| ① | 被写体の選択・組合せ・配置 |
| ② | 構図・カメラアングルの設定 |
| ③ | シャッターチャンスの捕捉 |
| ④ | 被写体と光線との関係(順光、逆光、斜光等) |
| ⑤ | 陰影の付け方 |
| ⑥ | 色彩の配合 |
| ⑦ | 部分の強調・省略 |
| ⑧ | 背景等 |
その上で、裁判所は、原告各写真について、女性モデルの配置、ポーズ、背景の色彩、影の投影、照明の位置等を子細に検討し、被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景の設定や選択等に独自性が表れていると認定して、これらは原告各写真を撮影したカメラマンによって創作されたものであるとしました。そして、原告は各カメラマンから原告各写真の著作権の譲渡を受けていることが認められるから、原告各写真の著作権者は原告であると判断しました。
被告は、原告各写真の著作者は各ヘアドレッサーであり、仮に単独の著作者となりえないとしても、少なくとも共同著作者の1人であるなどと主張しました。しかし、裁判所は、以下のとおり、被告の主張をいずれも採用しませんでした。
第一に、ヘアドレッサーが単独の著作者であるとの主張について、裁判所は、原告各写真の被写体のうちの、独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して、別途何らかの著作物として成立する余地があるとしても、原告各写真の創作性は写真の表現自体に表れているとして、被告の主張を退けました。
「なるほど原告各写真においては、独特のヘアスタイル、化粧、衣装等を施して所定のポーズを取っているモデルの写真も含まれている。
しかし、原告各写真については、前記(1)で検討したとおり、被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景等に創作性があるというべきであり、原告各写真の被写体のうちの、独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して、別途何らかの著作物として成立する余地があるものとしても、前記(1)のとおりの原告各写真の内容によれば、原告各写真は、被写体を機械的に撮影し複製したものではなく、カメラマンにより創作されたものというべきである。
そうすると、原告各写真の著作者はカメラマンであって、ヘアドレッサーではないというべきである」
第二に、共同著作物との主張について、裁判所は、原告各写真の創作性が表れる被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景等について、ヘアドレッサーとカメラマンとの間に共同著作物となるための要件である共同創作の意思が存するものとは認められないとして、これを退けました。
「被告は、原告各写真の具体的な創作過程に基づいてヘアドレッサーとカメラマンとの共同制作意思等について主張立証をするわけではないが、原告各写真の創作性は、前記(1)で検討したとおり、被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景等に創作性があるところ、こうした点について、ヘアドレッサーとカメラマンとの間には原告各写真について共同著作物となるための要件である共同創作の意思が存するものとは認められないというべきである。」
第三に、撮影経費の負担を理由とする主張について、裁判所は、経費の負担が創作性に関連するものとは認められず、また経費の負担に伴い著作権に関する取り決めがされたとの証拠もないとして、ヘアドレッサーが撮影に要する経費を負担していたとしても、その事実をもってヘアドレッサーが本件各写真の著作者となるということはできないと判断しました。
「原告各写真の創作性については前記(1)のとおりであるところ、これについての経費の負担がその創作性に関連するものとは認められないし、また経費の負担に伴い著作権に関する取り決めがされたとの証拠もないから、ヘアドレッサーが撮影に要する経費を負担していたとしても、その事実をもって、ヘアドレッサーが本件各写真の著作者となるということはできない。」
第四に、原告各雑誌における氏名表示の態様を理由とする主張について、裁判所は、目次にヘアドレッサーの氏名のみを表示したものがあるが、これはそのヘアドレッサーの作品を紹介する趣旨であり、作品の写真に関してはヘアドレッサーのほかカメラマンの名前も表示されていることからしても、原告各雑誌の表示は、原告各写真の著作者がヘアドレッサーであることを示すものとは認められないと判断しました。
「なるほど原告各雑誌の目次にはヘアドレッサーの氏名のみを表示したものがあるが、これはそのヘアドレッサーの作品を紹介する趣旨であり、その作品の写真に関してはヘアドレッサーのほかカメラマンの名前も表示されていることからしても、原告各雑誌の表示は、原告各写真の著作者がヘアドレッサーであることを示すものとは認められない。」
争点② 被告の故意ないし過失の有無
裁判所は、被告には少なくとも過失があると判断しました。
被告は、被告代表者においてJHAの事務局を通して掲載許諾が得られたと思っていたものであり、複製権侵害についての故意ないし過失はなかったと主張しました。しかし、裁判所は、その主張によっても、原告各写真を掲載するに当たり適切な許諾を得る必要性の認識があったことは明らかであり、結果としてその許諾が得られていないのであるから、被告には過失が存すると判断しました。
争点③ 原告の損害額
裁判所は、被告各写真を掲載した被告雑誌における使用サイズと対応する条件で、原告各写真を使用するための許諾料は1枚あたり1万5000円であると認定し、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額として、12枚分の合計18万円を著作権法114条3項に基づく損害として認めました。
また、原告の著作権侵害の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用については、3万6000円と認めるのが相当と判断し、これらの合計21万6000円の支払を被告に命じました。
コメント
(1)本判決の意義
本判決は、被写体に作り込みのあるモデル写真について、写真の著作者を判断する視点として、写真の表現自体に表れている独自性に着目すべきとの考え方を示した裁判例です。被写体であるヘアスタイルや化粧等についてヘアドレッサーの創作性が認められうるとしても、写真の著作物としての創作性は、被写体の組み合わせや配置、構図、カメラアングル、光線、陰影、背景等といった写真表現を構成する要素に表れる独自性によって判断されることが明確にされています。
また、本判決は、撮影経費の負担者や、媒体上での氏名表示の態様といった事情は、写真の著作者性を直接左右するものではないとしました。著作者は、創作行為を行った者として法的に判断されるのであって、撮影費用を実質的に負担した者や、媒体での目立つ表示を受けた者が、当然に著作者となるわけではありません。これは、写真をはじめとする創作物の権利関係を社内で整理する際の出発点となる視点といえます。
(2)撮影を発注する際の権利処理
企業がカメラマンに撮影を発注する場合、撮影された写真の著作権は、原則として撮影者であるカメラマンに帰属します。発注者である企業が、自社の媒体やキャンペーン等で写真を継続的に利用することを想定しているのであれば、撮影業務の契約段階で、著作権の譲渡や利用許諾の範囲、二次利用の可否について、書面で明確にしておくことが重要となります。
(3)第三者の写真を利用する際の許諾取得
業界団体や共同事業の関係者の作品を自社媒体に掲載する場合、関係者の了解を得たと考えていても、写真の著作権者が別に存在するときは、その著作権者から個別に許諾を得る必要があります。本件でも、被告は、JHAの事務局を通して許諾が得られたと考えていたと主張しましたが、実際には著作権者である原告の許諾を得ていなかったため、過失が認められました。許諾の主体と権限を確認した上で、書面等で明確に取得することが望まれます。
(4)無断利用を受けた場合の対応
自社が著作権を有する写真について、第三者に無断で複製・転載された場合には、著作権法114条3項に基づき、許諾料相当額の損害賠償を請求する余地があります。請求に当たっては、利用態様(媒体、サイズ、掲載期間、部数等)に応じた許諾料の水準を裏付ける証拠の整備が、結論を左右することがあります。
このように、写真の権利関係は、契約段階での権利処理、無断利用への対応、損害賠償請求のいずれの場面でも、事案ごとの丁寧な検討が必要となります。社内で判断に迷う場面では、初期段階で弁護士にご相談いただくことが、紛争の予防や、適切な解決の道筋を見出す上で有益です。
おわりに
写真の著作権を巡る問題は、契約書のチェック、無断利用への対応、損害賠償請求の検討など、実務上の論点が幅広く存在します。とりわけ、被写体の作り込みに複数の関係者が関与する撮影や、業界団体・共同事業の関係者間での素材の利用については、個別の事情を踏まえた検討が必要となります。
このような問題については、弁護士に早期にご相談いただくことで、契約条項の見直し、許諾取得の整理、無断利用への適切な対応について、具体的な助言を得ることが可能です。
当事務所では、著作権法に関するご相談・ご依頼を継続的に承っております。写真をはじめとする著作物の権利関係に関するご相談、契約書のレビュー、無断利用への対応など、お困りの際は、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、ご相談ください。
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