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ウェブサイト文章の著作物性とテレビ番組ナレーションでの無断使用による著作権侵害(知財高裁令和5年3月16日判決)

はじめに

ウェブサイトに掲載した解説文や説明文が、テレビ番組や他社のウェブサイト等で無断で使われてしまった場合、著作権侵害として法的責任を追及することはできるのでしょうか。逆に、自社が制作する映像コンテンツやウェブ記事の中で、他者のウェブサイトの説明文を参考にしてナレーションや本文を作成した場合、どのような点に注意すべきでしょうか。

今回のコラムでは、公共放送が制作したテレビ番組のナレーションおよび字幕において、将棋に関する解説ウェブサイトに掲載されていた文章(以下「原告文章」といいます。)の一部が無断で利用されたことが争われた、知財高裁令和5年3月16日判決(令和4年(ネ)第10073号、いわゆる将棋テレビ番組ナレーション無断使用事件)を取り上げます。

本判決は、ウェブサイト上に掲載された短い説明文について、どこまでが「ありふれた表現」として著作権法上の保護が及ばず、どこからが「創作的な表現」として保護されるのか、その線引きを具体的に示した事例です。コンテンツ制作に携わる企業の担当者にとって、参考資料の取扱いや権利処理を検討する上で参考となる判断が示されており、有益な裁判例といえます。

事案の概要

控訴人(原告)は、将棋に関する情報を発信するウェブサイト(以下「原告ウェブサイト」といいます。)を管理運営する者です。被控訴人(被告)である日本放送協会は、令和3年5月30日に放送したテレビ番組「将棋フォーカス」内の「初心者必見!対局マナー」というコーナー(以下「本件コーナー」といいます。)において、原告ウェブサイトに掲載されていた将棋の対局マナーに関する5つの文章(原告文章1から5)と類似するナレーションおよび字幕(以下「本件ナレーション等」といいます。)を放送しました。

被控訴人は、本件ナレーション等の制作に当たり、控訴人の許諾を得ておらず、また、原告ウェブサイトに依拠したことを示す表記もしていませんでした。

控訴人は、原審(東京地裁令和4年9月28日判決)では、著作権および著作者人格権の侵害を主張せず、人格権侵害(平穏な日常の阻害や名誉棄損に係るもの)のみを理由として損害賠償を求めましたが、原審はこれを棄却しました。なお、原審判決は、その「なお書き」において、本件は本来、原告文章に著作物性が認められ、それに係る原告の著作権または著作者人格権が侵害されたと認められるかという観点から検討すべき事案であると示唆していました。

控訴人は、控訴審において、訴えを著作者人格権(氏名表示権)侵害に基づく請求に交換的に変更するとともに、著作権(公衆送信権)侵害に基づく請求を追加しました。

なお、本件番組放送後、被控訴人は、本件番組のウェブサイトにおいて、原告ウェブサイトを特定する形で謝罪文(以下「本件謝罪文」といいます。)を掲載し、その中で、本件ナレーション等が原告ウェブサイトの説明文を「ほぼそのままの形で、複数箇所にわたり使用」したものであり、「一般の方にも分かりやすい説明文であったことから、担当者が表現の参考にしようとしたところ、安易に、元の説明文の表現をほとんど変えることなく、そのまま使用してしまった」旨を述べていました。また、本件番組放送後の報道においては、被控訴人が、弁護士に確認した上で違法性はないが公共放送の番組としては不適切であったと判断していた旨が示されていました。

本件の争点

本件の争点は、以下のとおりです。

争点内容
争点①原告文章の著作物性並びに控訴人の著作権(公衆送信権)および著作者人格権(氏名表示権)の侵害の有無
争点②損害の発生の有無およびその数額

裁判所の判断

争点① 原告文章の著作物性並びに著作権(公衆送信権)および著作者人格権(氏名表示権)の侵害の有無について

裁判所は、まず、著作物性に関する一般論として、次のとおり判示しました。

著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号)、思想、感情若しくはアイデア、事実など表現それ自体ではないものや、表現ではあっても表現上の創作性がないものについて、著作権法による保護は及ばない。そして、表現上の創作性があるというためには、作成者の何らかの個性が表現として現れていることを要し、表現が平凡かつありふれたものである場合は、これに当たらないというべきである。

その上で、裁判所は、原告文章1から5について個別に著作物性を検討し、結論として、原告文章2および5の一部について創作性を認め、被控訴人による公衆送信権および氏名表示権の侵害を認めました。各文章についての判断は、次のとおりです。

対象著作物性の判断理由の要旨
原告文章1(座る場所)否定場合分けをして説明することはアイデアにすぎず、表現もありふれている
原告文章2(駒の準備・片付け)一部肯定「『雑用は喜んで!』とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう」の部分に創作性あり
原告文章3(王将と玉将の使用者)否定内容はルール・マナーで、表現もありふれている
原告文章4(持ち駒の並べ方)否定内容はルール・マナーで、表現もありふれている
原告文章5(「待った」)一部肯定「『あっ、間違えた!』『ちょっと待てよ・・・』などと思っても、勝手に駒を戻してはいけません」の部分に創作性あり

原告文章2について

原告文章2のうち「『雑用は喜んで!』とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう。」という部分について、裁判所は次のとおり判示し、創作性を認めました。

控訴人自身の経験に基づき、初心者等が陥りがちな誤りを指摘するため、広く一般に目下の者が「雑用」を率先して行うに当たっての心構えを示したものといい得る表現を選択し、これを簡潔な形で用いた上で、しかし、逆に、将棋の駒の準備や片付けに関してはこれが当てはまらないことを述べることで、将棋の初心者にも分かりやすく、かつ、印象に残りやすい形で伝えるものといえる。

その上で、本件ナレーション等の対応部分が、創作性のある部分と「感嘆符の有無と『下位者が』を『下位の者は』と変更する点を除くと一言一句そのままの形で使用されている」と認定し、公衆送信権および氏名表示権の侵害を認めました。

原告文章5について

原告文章5のうち「着手した後に『あっ、間違えた!』『ちょっと待てよ・・・』などと思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」という部分について、裁判所は次のとおり判示し、創作性を認めました。

控訴人自身の経験に基づき、感嘆符等の記号を用いるほか、「あっ、間違えた!」という語と「ちょっと待てよ・・・」という語を続けてたたみかけることで、将棋を指す者が抱き得る感情とルール又はマナーとしての将棋の「待った」をより生き生きと分かりやすく、かつ、印象深く表現するものといえる。

そして、本件ナレーション等の対応部分が、創作性のある部分とほぼそのままの形で使用されているとして、公衆送信権および氏名表示権の侵害を認めました。

裁判所は、被控訴人が「一般人に分かりやすい説明文であるとして、原告ウェブサイトに掲載されていた原告文章2及び5の上記部分を含め、特に選択して使用したものと認められる」として、少なくとも過失があったと判断しました。

争点② 損害の発生の有無およびその数額について

裁判所は、損害について、次のとおり判断しました。

損害項目認容額主な考慮要素
著作者人格権(氏名表示権)侵害による慰謝料相当額5万円全国放送であること、公共放送事業者でありながら創作性のある部分をほぼそのまま使用したこと、放送後の対応により一定の回復が図られたこと等
公衆送信権侵害に係る財産的損害500円創作性のある部分の文字数、放送後の交渉経過等
その他の積極損害(弁護士相談費用等)5000円法的な専門的知識が必要とされる程度が相応に高かったこと等
合計5万5500円

その結果、裁判所は、被控訴人に対し、合計5万5500円の支払いを命じました。

コメント

本判決は、ウェブサイト上の短い説明文について、その大半は「将棋のルール又はマナー」というアイデアや事実を平易に伝えるためのありふれた表現にすぎないとしつつも、特定の言い回しの部分については、執筆者の経験に基づく特徴的な表現として創作性を認めた事例です。

本判決から、企業の担当者の方々が参考にできる視点として、以下のような点が挙げられます。

(1)短い説明文でも一部に創作性が認められる場合があること

ウェブサイト上の文章は、たとえ一見すると一般的なルールやマナーの説明であっても、執筆者独自の言い回しや工夫が現れている部分については、著作権法上の保護が及び得ます。本判決では、ナレーションが、原告文章のうち創作性が認められた部分について「一言一句そのままの形」あるいは「ほぼそのままの形」で使用したことが、侵害を基礎づける事実として認定されています。

(2)参考資料を「そのままの形」で利用することのリスク

コンテンツ制作の現場では、参考にした既存の文章をそのまま、あるいはほぼそのままの形で利用することはリスクを伴います。本判決では、被控訴人が「一般人に分かりやすい説明文であるとして」原告文章を選択して使用したと認定されており、参考にした文章が分かりやすく印象的であったことが、かえって創作性を肯定する事情として作用し得ることが示されています。

(3)参考資料の取扱いに関する社内体制の整備

放送・出版・ウェブ配信等の番組制作・コンテンツ制作の社内体制という観点からも、参考資料の取扱いに関するルール整備や、複眼的なチェック体制の構築が重要となります。本判決でも、放送後の被控訴人の対応として、複眼的チェックの強化、ナレーションの情報ソースの確認、研修業務の強化といった再発防止策が取り上げられています。

(4)事後対応の意義と限界

権利侵害が発生した後の対応として、放送・公開後の謝罪文掲載、出典表記の追加といった事後対応は、慰謝料額の算定上、一定の範囲で考慮される事情となります。もっとも、本判決においては、これらの対応が損害賠償責任そのものを免れさせるものではないことが示されています。

(5)法律構成の選択が結論に影響し得ること

同じ事実関係であっても、選択する法律構成によって結論が変わり得るという点も、本件の訴訟経過から読み取れる視点です。本件では、控訴人は、原審では人格権侵害(平穏な日常の阻害や名誉棄損の可能性)のみを主張し、原審はこれを棄却しましたが、控訴審で著作者人格権(氏名表示権)侵害および著作権(公衆送信権)侵害を主張するに至り、その一部が認容されています。コンテンツの無断利用への対応を検討する場合には、人格権侵害、著作権・著作者人格権侵害、不正競争防止法上の請求、契約上の請求など、事案に応じた法律構成の選択が、結論に影響を及ぼし得ます。

(6)「不適切」と「違法」とは必ずしも同義ではないこと

「不適切」と評価される行為と「違法」と認定される行為とは、必ずしも同義ではないという点も、本件の経緯から示唆される視点です。本件では、被控訴人自身が、放送後の見解として、弁護士に確認した上で違法性はないが公共放送の番組としては不適切であったと判断していた旨が報道されていました。原審においても、被控訴人の行為は「公共の放送事業者として不適切なものであったといわざるを得ない」と評価されつつ、人格権侵害としては権利侵害が認められませんでした。しかし、控訴審では、原告文章2および5の一部について創作性が認められ、公衆送信権および氏名表示権の侵害が認定されました。コンテンツ制作の現場における社内基準やコンプライアンス上の「適切か否か」の判断と、著作権法上の「適法性」の判断とは別の観点であり、両面からの検討が有益です。

ご自身が運営するウェブサイトやコンテンツが他者によって無断で利用された場合、あるいは、自社のコンテンツが第三者の著作権を侵害していないかをご確認になりたい場合には、表現の細部に踏み込んだ著作物性の判断や、侵害の成否、法律構成の選択、損害額の算定に関する具体的な検討が必要となります。これらは、判決例や実務の動向を踏まえた専門的な検討を要する領域です。

おわりに

ウェブサイトの文章や映像コンテンツのナレーション・字幕に関する著作権・著作者人格権の問題は、表現の創作性をどのように評価するか、参考資料との関係をどのように整理するかなど、実務上、慎重な判断を要する論点を多く含みます。社内対応のみでは判断に迷う場面も少なくないため、こうした問題については、早い段階で弁護士にご相談いただくことが有益です。

当事務所では、著作権法を含む知的財産分野の相談・ご依頼を継続的にお受けしており、コンテンツ制作に伴う権利処理、第三者からの権利侵害への対応、自社コンテンツの権利保護といった場面において、企業の皆様のご相談に対応しています。本判決のような事例に関連するご相談やご懸念がございましたら、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。


本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。