納骨堂や納骨壇の利用をめぐっては、「一度支払った永代使用料や永代供養料は返還しない」という、いわゆる不返還特約が契約書や管理規約に定められていることが少なくありません。
しかし、契約後に事情が変わり、納骨壇を一度も使用しないまま解約を希望する場合、支払済みの費用は本当に一切返ってこないのでしょうか。
今回のコラムでは、納骨壇使用契約の中途解約と不返還特約の有効性が争われた大阪地方裁判所令和2年12月10日判決を取り上げ、裁判所の判断のポイントについて、概要を解説いたします。
事案の概要
原告(個人)は、宗教法人である被告が運営する集合納骨施設内の納骨壇について、代理店を通じて使用契約を締結し、永代使用料および永代供養料として合計140万円を一括で支払いました。
契約に適用される管理規約には、「納付した金額については一切返還しない」旨の不返還特約が定められていました。
その後、代理店の代表取締役が法人税法違反および背任(指定暴力団関係者への3500万円の支払い)の被疑事実で逮捕されるという事態が発生しました。
原告は、契約から約6年後に内容証明郵便で契約の解約を通知しました。原告は、契約締結から解約に至るまで、納骨壇の鍵すら受領しておらず、一度も納骨壇を使用したことがありませんでした。
原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき(選択的に債務不履行解除による原状回復請求権に基づき)、140万円の返還を求めて提訴しました。
本件の争点
| 争点 | 内容 |
|---|---|
| 争点① | 本件契約が解約告知により終了したか否か(契約の法的性質) |
| 争点② | 本件契約に基づく報酬請求権の発生を理由とする法律上の原因の有無 |
| 争点③ | 不返還特約を理由とする法律上の原因の有無(消費者契約法9条1号・10条による無効の可否) |
| 争点④ | 債務不履行解除に基づく原状回復請求の成否 |
裁判所の判断
争点①:契約の法的性質と解約告知による終了
裁判所は、本件契約の法的性質について、管理規約の条項を検討した上で、有償の諾成的寄託契約に準委任契約が付随した混合契約であると判断しました。
本件契約は、被告が原告から遺骨預り願いの提出を受けた場合に遺骨又は遺品を永代にわたって保管し、その報酬として原告が被告に対して永代使用料を支払うこと及び遺骨又は遺品の保管を前提に、被告が原告のためにその保管する遺骨又は遺品を永代にわたって供養するという役務を提供することをその本質的内容とする契約であると認められる。
その上で、原告は、民法662条(寄託契約の解約)および民法651条(準委任契約の解約)に基づき、いつでも契約を解約できるとし、内容証明郵便が被告に到達した日に契約は終了したと認定しました。
なお、被告は、契約の締結により納骨壇を使用できる地位が付与され、宗教的感情を満足させる効果が生じているとして解約を争いましたが、裁判所は、次のとおり述べて、この主張を退けました。
そのような地位の付与は、遺骨又は遺品の保管及び永代供養を受けることの前提にすぎず、このような地位の付与自体が本件契約の本質的内容であるとまでいうことはできない
争点②:報酬請求権の発生と法律上の原因
裁判所は、永代使用料および永代供養料として支払われた金員の内訳について、次のとおり認定しました。
| 区分 | 割合 | 金額 | 法律上の原因 |
|---|---|---|---|
| 遺骨等の保管・供養に対する報酬部分 | 7割 | 98万円 | なし(保管も供養も未実施のため、報酬請求権が発生しない) |
| 納骨壇を使用し供養を受けられる地位付与の対価部分 | 3割 | 42万円 | あり(契約締結により地位付与の効果は生じている) |
本件契約の解約告知により、本件契約に基づく報酬請求権は、当該解約告知までに既にした履行の割合に応じて発生するにとどまり、その余の報酬請求権は発生しないことになる(民法648条3項、665条)ところ、(中略)原告の遺骨又は遺品の保管も永代供養も行っていないことが認められるのであるから、(中略)その支払の根拠となる報酬請求権が発生しないことになり、報酬請求権の発生を理由として法律上の原因があるということはできない。
争点③:不返還特約の有効性(消費者契約法9条1号)
裁判所は、不返還特約について、消費者契約法9条1号の適用対象であると認めた上で、平均的な損害は存しないとして、不返還特約の全部を無効と判断しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 納骨壇の使用状況 | 原告は鍵すら受領しておらず、一度も使用していない |
| 積極的損害 | 使用開始前の解約では、通常、事業者に積極的な損害は発生しない |
| 逸失利益(機会喪失) | 同種の納骨壇全てについて使用契約が締結された後でなければ、契約機会の喪失による逸失利益は通常生じない |
| 立証の状況 | 解約時に同種の納骨壇が全て契約済みであったと認めるに足りる証拠はない |
争点④:債務不履行解除に基づく原状回復請求
裁判所は、原告が主張する納骨堂の経営における永続性・健全性の欠如は、契約の原始的不能を基礎づける事情とみる余地があるとしても、債務不履行に当たる事情とみるべき余地はないとして、この請求を退けました。
結論
以上から、裁判所は、原告の不当利得返還請求を98万円の限度で認容し、その余の請求を棄却しました。
コメント
1. 本判決の意義
本判決は、納骨壇使用契約の法的性質を有償の諾成的寄託契約と準委任契約の混合契約と解した上で、消費者である利用者がいつでも解約できることを認めた裁判例です。
また、管理規約に定められた不返還特約について、消費者契約法9条1号に基づき、納骨壇の使用開始前の解約では平均的な損害が存しないとして全部無効と判断した点は、同種の契約における不返還特約の有効性を検討する上で参考になります。
その一方で、本判決は、契約締結による地位付与の対価(3割)については法律上の原因があるとして返還を否定しており、解約の場合であっても全額の返還が認められるわけではない点に留意が必要です。
2. 他の裁判例との比較――契約の性質決定によって結論が異なり得る
故人を弔うための場所を半永久的に確保することなどを目的とする契約については、利用者にとっての契約の意味合いが多様であり、その法的性質についても統一的な見解は確立されておらず、個別の事案ごとに具体的な事実関係を踏まえ判断されます。
本判決は「諾成的寄託契約+準委任契約」という性質決定を行いましたが、他の裁判例では異なる性質決定がなされ、返還の可否について異なる結論に至っています。
| 本判決(大阪地判令2.12.10) | 裁判例(1)(京都地判平19.6.29) | 裁判例(2)(東京地判平26.5.27) | |
|---|---|---|---|
| 対象 | 集合納骨施設内の納骨壇 | 墓地 | 納骨壇 |
| 契約の性質決定 | 有償の諾成的寄託契約+準委任契約の混合契約 | 永続的・永代的使用権の設定 | 建物賃貸借契約を中心とし準委任契約の性質を併せ持つ混合契約 |
| 支払金の性質 | 7割が保管・供養の報酬、3割が地位付与の対価 | 使用権設定そのものの対価(使用期間に対応した対価ではない) | 納骨壇の半永久的な使用の対価 |
| 管理規約等の有無 | あり(遺骨預り願いの提出手続、管理者の供養義務等を規定) | あり(墓地使用に関する規則) | 納骨壇の使用関係に関する細則・利用規約なし |
| 返還の可否 | 一部認容(7割の98万円を返還) | 棄却(返還を否定) | 申込金を使用の対価と認定 |
| 性質決定に影響した要素 | 管理規約に保管・供養に関する具体的手続が定められていたこと | 規則の内容から契約の本質を使用権の設定自体に求めたこと | 使用関係の細則がなく、典型契約の組み合わせとして判断されたこと |
このように、納骨壇や墓地の使用契約の法的性質は、個々の契約内容や管理規約の定めによって異なり得るものであり、その性質決定が解約の可否や返還の範囲を左右します。同種の契約であっても、契約条項や規約の内容次第では本判決と異なる結論となる可能性がある点に注意が必要です。
3. 不返還特約の見直しの必要性
本判決は、納骨壇の使用開始前に解約された場合の不返還特約の有効性を否定しました。全国消費生活相談員協会(適格消費者団体)も、納骨堂の使用規定における不返還条項について消費者契約法上の問題を指摘し、事業者に対して是正を申し入れた事例があります。この事例では、事業者が申入れを受け入れ、墓石が建立されていない場合には使用権料を全額返還する旨の条項に改められています。
納骨堂や納骨壇の使用契約において不返還特約を設けている事業者は、使用開始前の解約の場合を含め、消費者契約法9条1号および10条に照らして条項の内容を見直す必要があります。
4. 契約書・管理規約の設計が結論を左右する
上記2で述べたとおり、納骨壇使用契約の法的性質は、個々の契約書や管理規約の条項の内容によって判断されます。本判決では、管理規約において遺骨預り願いの提出手続(4条9項)や管理者による永代供養の義務(4条5項)が定められていたことが、契約の本質的内容を遺骨等の保管と供養にあると認定する根拠となり、寄託契約+準委任契約という性質決定につながりました。
事業者側の視点からは、契約書や管理規約の条項の設計が、解約時の法律関係を左右することになります。不返還特約を設けるだけでは解約時の紛争を防止できるとは限らず、契約の性質決定を踏まえた条項の設計を行うことが求められます。
他方、利用者側の視点からは、契約書や管理規約にどのような条項が定められているかによって、解約時に返還を求められる範囲が変わり得ることを意味します。契約前に管理規約の内容を十分に確認し、解約に関する条項がどのように定められているかを把握しておくことが重要です。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

