はじめに
ニュースや裁判例を紹介するウェブ記事やSNS投稿において、関連する画像を掲載することは日常的に行われています。しかし、他者が著作権を有する写真を無断で使用すれば、著作権侵害のリスクが生じます。
今回のコラムでは、写真家が著作権を有する写真をウェブサイトに無断投稿した2者の発信者情報の開示を、Google LLCに求めた事件について紹介します(知財高裁令和6年1月18日判決、原審:東京地裁令和5年3月30日判決)。
本件では、著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)が適用されるかが争点となりました。
東京地裁・知財高裁ともに、当該写真の投稿は同条により適法と判断し、原告(写真家)の請求をいずれも棄却しています。
事案の概要
原告(写真家X)は、自身が著作権を有する写真(以下「本件写真」)について、2名のウェブサイト運営者(以下「発信者1」「発信者2」)がそれぞれのウェブサイトに本件写真を無断投稿したことで、複製権・送信可能化権・自動公衆送信権が侵害されたと主張しました。そこで、各ウェブサイトを管理するGoogle LLC(被告)に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づいて発信者情報の開示を求めました。
本件写真は、原告がかつて提起した別件訴訟(「まとめサイト」でのインラインリンクが著作権侵害幇助にあたるとされた訴訟)において、著作権侵害の成否がまさに争われた写真そのものです。
各発信者の投稿内容は以下のとおりです。
投稿1(発信者1):Google+に、「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたるという判決が出たそうです。」とのコメントとともに本件写真を投稿。
投稿2(発信者2):Bloggerに、「まとめサイト発信者情報裁判Line上告棄却 敗訴確定ニュース プロ写真家A公式ブログ 北海道に恋して」との記載とともに本件写真を投稿。
なお、争点整理の結果、権利侵害の明白性に関する争点は著作権法41条の適用の可否のみとされました。
争点
本件の争点は以下の2つです。
争点① 投稿1(発信者1による投稿)に、著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)が適用されるか
争点② 投稿2(発信者2による投稿)に、著作権法41条が適用されるか
【参考】著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)
写真の撮影、録音、録画その他の方法によって時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴って利用することができる。
裁判所の判断
原審(東京地裁 令和5年3月30日判決)
争点①について(投稿1)
裁判所は、本件投稿1につき以下のとおり判断しました。
「本件投稿1は、別件訴訟判決の要旨を伝える目的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。
そして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題性等を踏まえると、本件投稿1において、本件写真は、同条にいう報道の目的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。」
原告は、「インラインリンクは著作権の幇助侵害にあたるという判決が出たそうです。」という記載は抽象的な規範の問題を伝えるにすぎず「報道」に当たらないと主張しましたが、裁判所は、「著作物の利用に関して社会に影響を与える別件訴訟判決の要旨を伝えるものであって、社会的な意義のある時事の事件を客観的かつ正確に伝えるもの」として、この主張を退けました。
争点②について(投稿2)
裁判所は、本件投稿2についても同様の判断を示しました。
「本件投稿2は、別件最高裁判決の要旨を伝える目的で本件写真を掲載しているところ、本件写真は、別件最高裁判決という時事の事件において正に侵害の有無が争われた写真そのものであり、当該事件の主題となった著作物であることが認められる。そうすると、本件写真は、著作権法41条にいう事件を構成する著作物に該当するものといえる。
そして、上記認定に係る本件写真の利用目的、利用態様、上記事件の主題性等を踏まえると、本件投稿2において、本件写真は、同条にいう報道の目的上正当な範囲内において利用されたものと認めるのが相当である。」
原告は、投稿2について「悪質なスパムブログへの誘導を目的としたものであり報道にあたらない」と主張しましたが、裁判所は、スパムブログであることを具体的に裏付ける証拠が不十分であるとして、この主張も退けました。
控訴審(知財高裁 令和6年1月18日判決)
知財高裁は、原判決の判断を維持し、控訴を棄却しました。
投稿1について、裁判所は以下のとおり判断しました。
「本件写真は、別件訴訟判決という時事の事件の主題となった、事件を構成する著作物であり、本件投稿1に係る本件写真の掲載は、社会的な意義のある事件を客観的かつ正確に伝えるものとして、著作権法41条にいう時事の事件の報道に係る著作物の掲載として適法であるものと認められる。」
投稿2についても、原告が当審で新たに提出したスパムブログであることに係る証拠(フェイクアラートの表示等)を検討したものの、「本件投稿2に係るブログがスパムブログであると直ちに認めることはできない」として、原告の主張を退け、著作権法41条の適用を肯定しました。
コメント
著作権法41条の基本的な考え方
著作権法41条は、時事の事件を報道する際に、その事件を構成する著作物や事件の過程で見られ・聞かれる著作物を、報道の目的上正当な範囲内で利用することを認める規定です。
同条の解釈指針を示す文献(加戸守行『著作権法逐条講義〔六訂新版〕』など)では、「事件を構成する著作物」の典型例として、美術館から美術品が盗まれた場合にテレビ放送された当該美術品の映像、あるいは有名人が遺言を残して自殺した場合に報道された遺書の内容が挙げられています。
これまでの主な裁判例
著作権法41条の適用をめぐる代表的な裁判例としては以下のものを挙げることができます。
| 裁判例 | 事案の概要 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 大阪地判平5.3.23(判時1464号139頁)〔山口組五代目事件〕 | 山口組五代目継承式の様子を伝えるため、継承式を収録したビデオをテレビ放送で利用した | 適用を肯定 | 継承式ビデオは当該事件を構成する著作物にあたり、事件の報道に伴う利用といえる |
| 東京地判平10.2.20(知的裁集30巻1号33頁,判タ974号204頁)〔バーンズ・コレクション事件〕 | バーンズ・コレクション展の主な出品作品を新聞報道するにあたり、展示絵画を掲載した | 適用を肯定(一部) | 当該絵画は展覧会開催という時事の事件を構成する著作物にあたる |
| 札幌地判平22.11.10〔風車写真事件〕 | 日本初の大規模な風力発電ファンド設立を報道するにあたり、ファンドとは無関係の風車写真を利用した | 適用を否定 | 風車写真はファンド設立という事件を構成する著作物でも、事件の過程で見られる著作物でもない |
| 東京地判平30.12.11(判時2426号57頁)〔ASKA事件〕 | 著名歌手の逮捕状請求を報道するにあたり、当該歌手の楽曲を放送した | 適用を否定 | 楽曲は逮捕状請求という事件の主題ではなく、事件と直接の関連性もない |
否定例に共通するのは、利用された著作物が「報道する事件の主題」とはいえない点です。これらの事案では、事件と著作物の間に直接的な関連性が認められませんでした。
本判決の位置付けと意義
本判決は、「裁判の判決という出来事を報道する際、その判決で著作権侵害が争われた写真を掲載する行為」について著作権法41条の適用を正面から論じた、数少ない事例です。
裁判所は、本件写真が「別件訴訟・別件最高裁判決という時事の事件の主題となった著作物」、すなわち「事件を構成する著作物」にあたると認定し、同条の適用を肯定しました。この判断は、従来の裁判例の流れと整合するものであり、著作権法41条に関する実務的な理解を深める先例として参考になります。
企業が押さえておくべきポイント
「報道目的」と「事件の主題性」が鍵
著作権法41条が適用されるには、(a)時事の事件を報道する目的であること、(b)利用する著作物が当該事件を構成するものであること、(c)利用が報道の目的上正当な範囲内であることが必要です。本件では、投稿した写真が「判決においてまさに著作権侵害が争われた写真そのもの」であったことが適用を認める決め手となりました。
事件と無関係な著作物の流用は禁物
風車写真事件やASKA事件が示すように、報道する事件と直接関係のない著作物(写真・楽曲等)を用いる場合には、著作権法41条の適用は認められません。
「ニュースに関連した内容だから問題ない」という安易な判断は禁物です。
スパムや自動生成コンテンツを主張する場合は証拠が重要
本件の原告は、投稿2についてスパムブログであることを主張しましたが、具体的な証拠が不十分として認められませんでした。
相手方のウェブサイトやコンテンツの違法性・悪質性を立証するには、客観的かつ具体的な証拠を確保・保全しておくことが不可欠です。
プロバイダ責任制限法による情報開示請求には「権利侵害の明白性」が必要
プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求には、権利侵害が「明白」であることが要件の一つです。本件では著作権法41条の適用が認められ、権利侵害の明白性が否定されたため、原告の請求はすべて棄却されました。自社コンテンツが無断利用された場合に情報開示を求めるには、権利制限規定(報道・引用等)が適用される余地がないかを、事前に慎重に検討することが重要です。
本コラムは、一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の法律上のアドバイスではありません。具体的な事案については、本ウェブサイト右上の問い合わせフォームよりご連絡ください。

