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Twitterの動画と「時事の事件の報道」の注意点


こんにちは。
今日は、報道と著作権の話題です。
きっかけは、とある"炎上"事件です。

先日、ある報道機関が、洪水報道の際に一般視聴者がTwitter上にアップした動画を利用しようと打診したところ、"炎上"したケースがありました(以下、一部伏せ字で紹介します)。

 

ある炎上事件〜洪水の動画の報道利用


発端は、あるTwitterユーザーが、台風の日に、

「○○川氾濫してます! みなさん気をつけてください!! 」

という趣旨のツイートをして、夜の路上に大量の水が流れている短い動画を、午前1時頃にアップしたことでした。

この動画は報道価値があると判断されたようで、報道局各社から、午前1時から7時ころにかけて、以下の趣旨のツイートが次々と寄せられました。

突然申し訳ありません。○○報道局です。○○様が撮影された○○川の映像を弊社のニュース番組等で使用させていただけませんでしょうか。よろしければフォローしていただき、DM(ダイレクトメール)でやりとりさせていただければ幸いです。ご検討、何卒よろしくお願いいたします。

その中で、ある報道局は、上記の趣旨のツイートの後、数回ほどリマインドの趣旨のツイートをした上で、午前6時前に、次のようにツイートしました。

午前7時30分までにご連絡を取らせていただけないでしょうか?また、午前8時の放送までにご返答がない場合、上記の理由(筆者注:公共性が高いという理由)により使用させていただきたく存じます。放送させていただいた場合は、追って当方よりご連絡いたしますので何卒ご理解のほど、お願い申し上げます。

すると、この最後のツイートが、他のTwitterユーザーらから「高圧的だ」などと批判されて"炎上"
ネット上のニュースでも取り上げられる事態になりました。

 

本件については様々な議論がありますが、このコラムではツイートの是非には立ち入りません。

むしろ私(数藤)が気になったのは、この事件に関する議論のなかで見られた、著作権法の"誤解"です。

著作権法では、一定の場合に、「時事の事件の報道」のための利用として、権利者の許諾なく著作物を利用できますが、その要件について、ネットの一部に誤解があるように見受けられました。

そこで本コラムでは、著作権法が定める要件について整理した上で、SNS上の動画を報道で用いる際の注意点を解説します。

 

 


著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)の要件


まずは著作権法の条文から確認しましょう。

(時事の事件の報道のための利用)
第四十一条
写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。

ここで挙げられている条件を整理しますと、

(1) 写真、映画、放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合であること

(2) 利用する著作物が、当該事件を構成する著作物か、または当該事件の過程において見られ、もしくは聞かれる著作物であること

(3) 報道の目的上、正当な範囲内で利用すること

の3つを満たさなければなりません。さらに、

(4) 出所を明示する慣行があるときは、合理的な方法・程度による出所の明示

も必要です(著作権法48条1項3号)。

 

もっとも、実は、(1)から(4)の要件の具体的な内容については、立法担当者、裁判例、法学者や弁護士の見解に差がみられ、現状、法律家の間で確たるコンセンサスには至っていない部分もあります。

以下では、あくまで現時点の議論の整理ということで、それぞれの条件について解説します。

(今回、コラムを書くにあたって多くの文献を参照しましたが、特に上野達弘教授の近時の論文「時事の事件の報道」から多大な示唆を頂きました。)
 


(1) 「時事の事件の報道」か?

まずは、「時事の事件を報道する場合」であることが必要です。
「時事の」「事件」なので、近時の出来事で、現在の社会的関心事であることが必要と考えられます。
また、事件の「報道」なので、事件を公衆に伝達することが主目的であることも必要です(報道にかこつけた宣伝記事などは認められません)。

冒頭のケースのように、前日の台風で河川が氾濫したことを報道する場合であれば、「時事の事件を報道する場合」と言えるでしょう。

ちなみに、ここでいう「報道」の範囲について、条文上の制限はありません。
テレビ局や新聞社などのいわゆる報道機関にかぎらず、一般人によるブログ報道なども対象になり得ます。

 

(2) 「当該事件を構成する著作物」か?

次が問題になりやすい点です。

利用しようとする著作物が、「当該事件を構成する著作物」か、または「当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」であることが必要です。

典型的な例を挙げると、前者は、ピカソの絵画が盗まれたニュースを報道するときに、そのピカソの絵を報道で表示するような場合です。
後者は、オリンピックの開会式を報道するときに、式場で流れていた入場行進曲ごと報道で流すような場合です。

 

しかし、洪水のニュースで洪水の様子を撮った動画は、「当該事件を構成する著作物」なのでしょうか?(以下、この動画に創作性があり、著作権が発生する前提で書きます)。

ここは、法律家のあいだでも見解が分かれています。

著作権法の立法担当者は、いわゆる報道用の写真について、「当該事件を構成する著作物」ではないと述べています(加戸守行『著作権法逐条講義〔六訂新版〕』319頁)。
立法の過程でも、報道用写真を含まない趣旨で議論がなされていたようです(前期の上野教授の論文参照)。

これに対して、最近では、報道対象となる客体が写っていれば「当該事件を構成する著作物」としてよいとする見解もあります(元・知財高裁判事の三村量一弁護士の見解。「コピライト」誌2010年10月号参照)。

 

それでは、どう考えればよいのでしょうか?

例えば、火山噴火の被害者がSNSにアップロードした噴火映像を報道するケースを考えると、報道する事件が噴火である以上、噴火を間近で撮った映像を報道できないのは違和感があります。

また、立法担当者がいう「41条の著作物に報道用の写真を含めない」という点については、ある報道機関が苦労して撮った報道用素材を、著作権法41条にかこつけて他の報道機関がフリーライドして使うことを防ぐ趣旨であれば理解できます。

そのため、冒頭の洪水の動画についても、「当該事件を構成する著作物」に含まれるとする考え方もあり得るように思われます。とはいえ、報道機関の現場においては、この法的論点について現状確たるコンセンサスがないということを認識した上で、ケースバイケースでの権利処理に臨んでください。
 

 


(3) 報道の目的上、正当な範囲内か?

「正当な範囲」内か否かを判断するにあたって、「何分以上ならOK」とか、「どのくらいの大きさならOK」といった定量的な基準はありません

著作物の利用の手段や、質、量、期間などを考慮しつつ、著作権者の利益を害しないかという観点をふまてケースバイケースに判断することになります。

先例となる裁判例は多くありませんが、例えば、

暴力団の組長の継承式の様子を撮影したビデオを報道番組で放送した事件で、関連放送時間約7分間のうち4分10数秒間にわたって当該ビデオを放送した場合であっても、その放送中に出演者が感想や解説を述べている点や、ビデオ全体の長さ(1時間27分)の5%弱にとどまる点をふまえ、適法と判断されたケース(大阪地判平成5年3月23日〔山口組五代目継承式事件〕

や、

展覧会の開催を紹介する新聞記事においてパブロ・ピカソの絵画をカラー掲載した事件で、新聞記事が四段であるのに対してピカソの絵画のサイズが98mm×57mmの程度である点、カラー印刷とはいえ紙質が通常の新聞紙である点をふまえて、適法とされたケース(東京地判平成10年2月20日〔バーンズ・コレクション事件〕

などがあり、実務上の参考になります。

 

(4) 出所の明示

放送業界の実務文献には、出所を明示する慣行がないとする見解もみられますが、報道機関が自ら撮影した映像ではない以上、報道の支障にならない範囲で可能な限りクレジットを表示することが望ましいと思われます。

なお、Twitterに関しては、「放送メディア内のツイート」ページで、表示方法が推奨されています。

 

結論

以上に見てきたように、著作権法第41条の「時事の事件の報道」の要件については、現時点では法律家のあいだで画一的なコンセンサスがない部分もあり、現場の担当者がケースバイケースで判断する他ありません。

もちろん実務上は、権利者からの許諾を得て利用するのがベストではありますが、許諾が得られない状況下において、どのような基準で利用すべきかについては、法律の専門家と十分に相談の上で判断してください(下請の映像制作会社向けに、運用ガイドラインを作成することも一案です)。

(なお、本コラムでは解説を省略しますが、著作権法41条の「時事の事件の報道」利用以外にも、32条の「引用」の規定を用いて著作物を適法に利用できるケースもあります。)

 

 


SNSのユーザーコンテンツを利用する場合の注意点


さて、以上は著作権法の話でした。
TwitterのようなSNS上に一般人がアップロードした画像や動画(UGC、ユーザーコンテンツ)を利用する場合には、法律の話に限らず、さらに以下の3点にも注意する必要があります。

 

(1) SNSの報道利用ガイドラインでどのような制限があるか?

例えば、Twitterの場合は、前述のとおり「放送メディア内のツイート」ページで、表示方法が推奨されています。
 

(2) アップロード主が本当に著作権者なのか?

デジタルコンテンツは、複製が容易なため、「パクツイ(パクリツイート)」のリスクもあります。
ユーザーが他人のコンテンツを勝手にアップロードした場合には、仮にそのアップロード主から許諾を受けたとしても、その人は著作権者ではない以上、適法な利用にはなりません。
 

(3) そのコンテンツの情報は「正しい」のか?

例えば洪水の動画で言いますと、ひょっとしたら、去年の洪水のときに撮った動画を使いまわしているのかもしれません。
言うまでもなく、「裏取り」のない情報は報道機関の信用にとって命取りです。
 

 


終わりに〜著作権以外の権利について


最後に念のため確認しておきますと、「著作権」だけが問題になるわけではありません

SNSにアップロードされた画像や動画の内容、その利用方法次第では、著作権の他にも、著作者人格権、肖像権、パブリシティ権、プライバシー権などの様々な権利が問題になることもあり得ます。

ネット上の法律論の中には、本来複雑なはずの話を過度に単純化して、性急に断言してしまうものも散見されますが、Twitterの動画1つの利用にしても、リーガルイシューとしてそれほど単純なものはないということを、最後に強調しておきます。

弁護士 数藤 雅彦

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